数学少年の実らぬ恋 -- このエントリーを含むはてなブックマーク



確か、高校3年生の頃のことだったと思う。

片道1時間40分もかかる遠くの高校に通うために
僕は毎朝、眠い目を擦りながら午前7時前にバス停に向かって歩いた。
そこには、いつも列の先頭で同じバスを待っている女の子がいた。
その子は前のドアからバスに乗ると、
バス中程の前向きの座席に座るので
いつも一瞬だけ目が合ったような気がする。
男子校に通っていた私は、
毎日のそんな些細な出来事から
その子のことを好きになってしまった。

その子とは帰りのバスが偶然同じになることも時々あった。

ある天気のよい日。
帰りも同じバスになったので、
バスを下りたら後ろから話かけようと決心した。

不思議な事にその子はその日だけ、
少し遠回りのはずなのに、
いつもの道ではなく、
私の帰り道をずっと歩いていく。

まさか私の気持ちに気付いているのか。

高まる鼓動。

縮められない距離。

その子は少し幼く見えたので、私はその子の年齢が気になっていた。
もしかすると中学生だろうか?
しかし、当時、数オタ(※注:数学オタクの略)だった私も
初対面の女の子にいきなり年齢を聞くほどの野暮ではない。
私はとっておきの質問を用意していた。

「ベクトルって知ってますか?」

さりげなく、
当時全員に必修だった「代数・幾何」を履修済みかどうか確認する事で、
学年がほぼ分かってしまう。
完璧な計画だった。

縮まらない距離。

「ベクトルって知ってますか?」

縮まらない距離。

「ベクトルって知ってますか?」

縮まらない距離…。












あの時、勇気が出ずに結局その子に話しかけられなかったことを、
本当に良かったと思っている。


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プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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