海外在住者の里帰り出産は泥棒と同じなのか? -- このエントリーを含むはてなブックマーク

投稿者の釣りに全国の保守派が全力でマジレスしてくれる人気サイト、発狂小町じゃなくて発言小町で海外在住者の里帰り出産が叩かれている。


投稿内容は以下の通りだ。(私の投稿ではない。)

海外からの里帰り出産。健康保険に加入するなと言われました

現在40歳、海外在住中です。今秋里帰り出産を予定しています。(諸事情により現地での出産は考えておりません)

先日、実家から「里帰り出産はいいけど、国民健康保険に加入しないでね。日本に迷惑だから自費でがんばってね」と言われました。里帰りは半年程度を予定しており、期間が長いため国民健康保険に加入するつもりでした。正直なところ想定外の出費です。

皆様にお伺いしたいのは
1健康保険無しで妊娠出産した場合、入院前の検診や検査の費用はいくらぐらい見積もっておけばいいのでしょうか

2出産後の検診や予防接種も自費負担になると思います。いくらぐらいかかるのでしょうか。

3日本の迷惑になるとは分かっていながらも、実はできれば健康保険に加入したいのですが、何か実家を説得できる方法はないでしょうか。同じような経験をされた方がいらっしゃっいましたら、お話をお聞かせください。

よろしくお願いします。


回答の中には肯定的なものも多くあるが、案の定、多くの回答が海外からの里帰り出産を激しく叩いている。「ふだん保険料を払っていない者が治療や出産目的で国保に加入するのはずるい」というのがその主な理由だ(注1)。

まずはトップバッターから。

海外在住で税金すら払ってない人が国民保険に入れるんですか????
海外在住で国民年金も払ってないのに???
戸籍があれば、住んでなくて税金払ってなくても国民なの???


いきなりカウンターパンチ。国外に住んで日本に税金も年金も払ってないと国民とは言えないらしい。国外に住んでると税金の恩恵も年金の受給もないからプラスマイナスゼロのはずだが、「国から出たら非国民!」

次の意見。

今、日本政府は借金で首が回らない状態です。
トピ主さんが保険に加入し、保険から出してもらうお金は、将来への借金なんですよ。
そして、それを返していくのが、今、日本にいる子供達です。(中略)
つまり、トピ主さんは恩恵だけ受け、その被害を被るのは、
現在、日本にいる人たちなんですよ。


日本人の次世代が生まれないと国の借金返せないんだけど。
そもそも、次世代が生まれないとあなたの年金もないよ?

はい、次。

国保は市役所で加入を断られましたよ。
「あなたのように、帰国時だけ都合よく使われるのは迷惑です。
これは日本在住の人のためのものですから、加入は認めません」と
はっきり言われましたし、私もその時反省しましたね。


出た!「お上が言ってるから正しい」という意見。この人は市役所で
「あなたみたいに低所得だと納税額が少なくて自治体に迷惑なので死んでくれませんか?」
って言われたらその場で切腹するのだろうか?

次は、すごく日本っぽいやつ。

問題は、親御さんが、それを潔しとしていない。
もし後ろ指を指されたら、立場が辛いものになると考えているのでしょう。


子供が里帰りして出産したら
「あのお宅、娘さんが海外から里帰り出産したのよ!私たちの税金でいやぁねえ!」
なんて立ち話なんかされちゃうのかね。ほんと嫌な国になっちゃったね、日本。そもそも被保険者期間がどのくらいかなんて他人には分からないと思うけど。それに税負担って昼間に立ち話してるおまいらじゃなくて、一部のお金持ちが主に負担してるんじゃないの?

最後は、専門家もどきの意見。

国保関係の仕事をしていたものです。
そもそも国保の制度はみんなが普段から
保険料を払っているから成り立っている制度です。
一時帰国の時だけ恩恵を受けるというのは制度の趣旨とは反しますし、
不公平だと思います。


里帰り出産する人って今まで一度も日本に保険料納めてないんですかね?将来もずっと納めない?
仮に日本に20年以上保険料納めないと出産費用がペイしない計算だったら、40年しか住まない人が3人子供産んだ時も不公平ですよね?そんなに公平にしたいなら国保の制度自体やめた方がいいんじゃないの?

以上の様に批判派の人達はいまいち理屈が通っていないものの、とても狭量であることだけはよく分かる。


さて、ネトウヨの意見に突っ込むのはこのくらいにして
「実際のところ、海外から里帰り出産の保険ってどうなってるの?」
と疑問に思う方もいると思うので、少し実情を書いて行きたい。
一口に海外からの里帰り出産と言っても、いくつかのケースに分けられる。

まず、駐在員の奥様方などが里帰り出産するような場合は、日本の会社の健康保険に入っていることがほとんどなので海外に住んでいることは国や自治体の負担と関係がない。

次に、留学や現地での仕事など自らの意思で海外に出ている人の中にも、日本に住民票を置いて国民年金や国保に加入したままにしている人もいる。国内所得がないので保険料は安めだが、正式にずっと加入している以上、文句を言われる筋合いはないだろう。

問題は、日本の非居住者だが出産のために一時帰国したというケースだ。国保に加入するには住民票を入れなければならないが、1年未満の滞在予定の場合には自治体が住民登録を断ることができる。これは自治体が保険金負担を防ぐためだ。従って里帰り出産が1年未満なら自費で出産しろということになる。しかし、実際には健康保険がなければ出産する病院を探すのも難しいし、難産になった場合に費用が青天井に膨らむ可能性もある。したがって実態としては、海外で加入している保険を使う人を除き、多くの人が再出国の予定を告げずに住民登録をして国保に入っていると考えられる。

要するに、実態は本人が入りたければ入れるという状態である。自治体が住民登録を断るとは言っても、単に正直が馬鹿をみる状態を作って何となく仕事をした気分になっているだけなのだ。本当に断りたいなら国保加入から1年経ってから出産一時金や保険金を支給する制度にすればよいのに、要するに誰も真面目に考えていないのである。

日本人であれば誰でも国保に加入できることは分かったが、それではこのパターンの里帰り出産は、経済的、倫理的に問題があるのだろうか。結論から書けば、問題はほぼ見当たらない。経済面、倫理面に分けて見てみよう。

まず経済面を見ていくと、里帰り出産が「日本生まれ日本育ち」に比べて国の財政にとって負担が大きいのかどうかは疑わしい。

例えば、出産半年で海外に引っ越し3年経って帰国した場合、日本にいれば支給されるその間の児童手当だけで51万円となり、出産費用に匹敵する。更には保育園の公的助成、また学齢期になれば公教育に少なくとも数百万円の公費が使われている計算になる。ちなみに、在外子女に国から支給されるのは教科書だけだ。海外で育った子のうち3人に1人でも大きくなってから帰国すれば日本にとってはかなり良い人的投資になる。

グローバル人材とやらも、TOEIC800点超の一流大卒が採れるような大手企業を除けば使い物になるのは帰国子女くらいであることも付け加えておこう。

次に倫理面だが、そもそも里帰り出産が制度の悪用目的と考えるには無理がある。

日本非居住者として海外で生活している人は現地で税金を納め各種保険や年金に加入している。出産も大抵の場合はその保険でカバーされる。それを使わずにわざわざ日本で国保に加入して出産しても、個人としては別に得しない。

出産は一人で全部完結させることはできない。わざわざ日本に帰って出産するのは、親族のサポートとか、言語環境とか、医療水準とかの問題であって、国保の良いところ取りをしたいから、というのは単なる言いがかりだろう。


このように真面目に考えていくと、海外在住者の里帰り出産を叩くのは単なるネトウヨの妄想であることが分かった。日本へ一時帰国しての出産を考えている人は、堂々と2人でも3人でも、日本の公的負担で元気な子供を産んでいただきたい。


(注1)正確に言えば通常の出産であれば国保に加入していても保険適用はないのだが、出産一時金という形で実質的に費用の大半が支払われるし、帝王切開などで多額の医療費が生じた場合は保険が適用される。


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モーレツに働くとカッコワルイのか? -- このエントリーを含むはてなブックマーク

安倍晋三首相が「働き方改革実現推進室」の開所式で「モーレツ社員の考え方が否定される日本にしていきたい」と述べたそうだ。

やりたいことはなんとなく分からないではない。日本では、労働時間の長さと労働生産性の低さが積年の課題になっている。一人当たりの年間労働時間(2013年、OECD)を見ると、日本の1735時間に対し、米国1788時間、ドイツ1388時間となっており、一時間当たりの労働生産性(2013年、日本生産性本部)では、日本41.3ドル、米国65.7ドル、ドイツ60.2ドルとなっている。日本にサービス残業が多いことを踏まえると、統計の数字以上に実際の労働時間は長く、労働生産性格差は低い可能性すらある。

経済規模や軍事力を背景とした交渉上の優位やIT分野でのイノベーションを活かす米国は別としても、余計な仕事を減らせばドイツ程度の生産性は達成できないだろうかと考えるのはおかしなことではない。一人当たりの所得水準を高くするには新しい需要を作り出さなければいけないので大変だが、短い労働時間で同じ量のものを生産するのはやらなければならないことが見えている分、実現しやすそうに見える。

そんな訳で着眼点は悪くないが、私は「モーレツ社員の考え方が否定される日本」と聞いた時に、違和感や非常に残念な感じがした。それがどこから来るのかといえば、相変わらず「皆で同じ価値観を持って働きましょう。価値観に合わない人はみんなで後ろ指さしましょう。」という村社会のルールで人を動かそうとしているところが古いからだ。

「モーレツ社員がかっこいい社会」の次に来るべきものは、「各自が周囲を気にせず思うように働く社会」であって、「モーレツ社員がかっこ悪い社会」でもなければ「ゆったり働く社員がかっこいい社会」でもない。

いつの時代もモーレツに働く一部の社員が会社や社会を豊かにしてきた。それは、管理の難しい部下をたくさん抱える管理職であったり、イノベーションを生み出す技術者であったり、未開の地に物を売りに行くセールスマンであったりした。そういうモーレツ社員を、会社はそれに見合う報酬を払うことによって報いるべきだし、他の社員は尊重する社会にしなければならない。一方、モーレツに働きたくない社員は、モーレツ社員がすぐ隣りにいても「自分はモーレツ社員ではないのでそこまで働かない代わりに安い給料でも良い」と我が道を行けば良い。

政治がそのためにすべきことは、現代の労働実態に即した法律を作ることや、その法律がきちんと遵守されるように運用することであって、相互監視によって価値観を強制することではない。

現政権になってからの日本の政治は、同調圧力によって国民を動かそうとすることが増えた。「イクメン」、「女性が輝く社会」、「一億総活躍社会」、「ブラック企業の社名公表」などがその代表例だろう。村社会を強化することによって、「育児負担の増加を強制される父親」、「家事育児と就労の両立を強制される女性」、「社会貢献を強制される高齢者」、「評判リスクに怯える企業」を増やそうとする政策だ。暮らしやすい社会とは法律を守っている限り個人が自由に活動を選択できる社会であって、国のために個人の行動が制約されるのでは本末転倒だ

90年代以降日本経済が衰退する中で、それでも日本が昔より良くなった面も確かにあると5年ほど前まで私は感じていた。プライベートを会社に縛られることは減り、転職は昔より容易になり、働き方は多様化し、結婚に関する価値観も多様化した。

その流れがいまの政権では逆転してしまったように思える。「日本を取り戻す」というのが「村社会を取り戻す」ということなのであれば、非常に残念なスローガンと言わざるをえない。


プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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