アメリカの医療制度の失敗に思うこと -- このエントリーを含むはてなブックマーク



アメリカの医療制度は完全に崩壊していて、
逆に、それでも国が成り立っているのだから
豊かな国なんだなあと思ったりもする。

民主党政権になって、
医療制度の改革が多少話題になっているが
政府がやろうとしていることは
医療システムの改革からは程遠いように思える。

大統領や多くの人々の関心事は「国民皆保険」だ。
アメリカでは、全人口の15%強にあたる4700万人が無保険である。
政府のプランは、大半の人は保険を持っているのだから、
持っていない人だけに最低限の保険や税制上の優遇を
与えましょう、というもの。

この案には人道的な立場からは一定の価値があると思うが、
経済的にはGDP比で16%にも迫る米国の医療費(*1)
を更に押し上げる要因となり、しかもその大半が政府負担となる。
これは経済にとっては更なる足かせとなる。

(*1) 他の先進諸国は概ね8-11%程度。
高齢者比率を考えると差は更に大きい。

アメリカの医療改革が可能であるとしたら、その鍵は、
「事務コストの削減」、
「訴訟リスクの制限」、
「サプライサイドの強化」
であると思う。

1.事務コストの削減

そもそも、諸外国はなぜ、より安い費用で国民皆保険を
維持できているのか?
日本を例にとれば、診療や給付の基準を統一することで
事務コストを低く抑えることができ、また、
専門医に掛かる前にかかりつけ医(PCP)に会わなけ
ればならないとか、保険がないからER(救急外来)に患者が
殺到するというような非効率を避けることができる。

国民皆保険は、人道的なシステムとしてではなく、経済的
なシステムとしての側面を重視すべきで、そのためには
政府主導で、ベネフィット、制度、システムの面で
統一を進めるべきだ。

2.訴訟リスクの制限


製品やサービスミスに対しては常に訴訟リスクがつきまとうが、
全てが手作業の医療では確率的なミスは避けられない。
これを、過剰な体制とか高い賃金で埋め合わせようとすれば、
莫大な費用がかかる。訴訟リスクを制限したり、
コストを政府が保証したりすることで削減できるコストは
大きい。

3.サプライサイドの強化

米国の医師養成システムは非効率である。
医師に全人格的な質を求めることをやめ、
看護学部のように早期に専門教育を施すことで
養成にかかる時間を短縮して、最終的な賃金を抑えるべきだ。
費用負担の点でも、政府がより関与することで
学生側のリスクを減らして、最終的な賃金を抑えることが出来る。

治療の非効率の改善も大事だ。
救急外来の非効率さと治療の貧弱さはひどい。
また、一般の外来の予約システムに問題がある。
時間を指定して予約できるのは患者にとっては便利だが
社会政策としては医師の賃金の方が高いのだから
日本式の「患者が列を作って待つ状態」が正しいだろう。

ここで述べたようなことは、
アメリカ人の知識階層なら当然知ってることなんだけど、
色々なしがらみで出来ないんだろうなぁ。

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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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コストの源泉

こんにちは、遊びに来てみました。
へえ、米国の病院の治療って非効率なんですね。
かかり付け医制度の事務コストもそんなにかかってるんだ。

日本にいたときは、「アメリカの医療は、かかりつけ医制度のため、医師免許を持たない(つまり人件費が安い)身近なクリニックで、患者のスクリーニングをすることができる。つまり、たいしたこと無い病気で、貴重な医者の時間を無駄に使わずに済んでいる」
「意思・技術者間の分業化が進んでいるため、より効率的」
というようなことを聞いていたので、その部分では効率的なのかと思っていました。

確かに訴訟コストは高いかもしれません。実際病院の収益の25%が訴訟コストに持っていかれるとかいうデータを聞いたことがあります。

それにしても、何が本当の一番のコスト要因になっているのか、一度ちゃんとデータで検証してみたいところです。
これについては、いろんなことを書く人がいて、何が本当の問題なのか、よく見えないんですよね。

アメリカの医療費

Lilacさん、いらっしゃいませ。

PCPがどうなのかは確かに分からないですね。治療の値段を決めるコストは相当に高いようです。アメリカの医療事務コストの推計はどっかで見た気がしますが、出典なしですみません。

訴訟については、南部のどっかの州(ジョージアあたり?)で制限してみたら、医者がたくさん集まってウハウハ状態だ、って1~2年前のWSJかなんかの記事で読みました。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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