政策目標にできるインフレ指標とは -- このエントリーを含むはてなブックマーク

最近いろんなブログを見て思ったのだが
デフレ対策論争がずいぶん人気らしい。

門外漢の私がいくらデフレについて論じても
ロゴフとかに勝てるわけもないので
あまり首を突っ込んでも意味が無いと思うのだが、
統計屋さんの視点から言えることがないか、考えてみたい。

日本のように中央銀行の政策の透明性も信頼性も不十分な国では
「インフレ・ターゲティングの政策を採るべき」
という議論がよく出る。

例えば、先日のエコノミストの飯田さんの記事
インフレ・ターゲティングの可能性について詳しく触れている。

それに対する根本的な反論の一つは、
「消費者物価だけみていても適切な政策が行えない」
というもの。極端な話、
「消費税を上げれば、消費者物価は上がるじゃん。」
ということになる。実際、日本の物価変動債市場は
ほとんど将来の消費税を予想するマーケットになっている模様だ。
政策運営のベンチマークとして使うには、
消費者物価のような指標を
それに適したものに作り変える必要がある(*1)


それでは具体的にはどうすれば良いだろうか。
税以外にも、生鮮食品は変動が多いから除くべき、
エネルギー価格は供給ショックで大きく動くから除くべき、
海外パック旅行も大半が燃料費だから除くべき、
公共料金もほとんど燃料費だろう、
銭湯だって燃料費じゃないのか、
といろいろやりだすときりがない。

結局のところ、金融政策に使うなら
物価を供給要因と需要要因に分けて
主に需要要因に注目する必要がある
のではないかと思う。

パンの値段が上昇したにしても、
悪天候のせいで原料価格上昇に起因する場合と
機械受注が好調なためにパン製造機の価格上昇した場合では
今後のインフレ期待に及ぼす影響には違いがある。

もちろん、全ての財・サービスは需給両面のバランスに
よって決まるわけで、これを分解するのは容易ではない。
しかし、試行錯誤して信頼性の高い指標を作っていく
ことには意味がある。

実際、サブプライム危機があそこまで深刻な問題を
引き起こしたのは、資源価格の上昇で各国中央銀行が
躊躇して利下げのタイミングが遅れたことが一つの原因だろう。
インフレ率に対する理解をもう少し深めておけば
需要要因のインフレが起こっていないという認識を共有でき
こうした問題を軽減できた可能性がある。

経済統計というのは地味だが、
政府や企業の意思決定を左右するという意味で
社会にとって重要なものである。
華々しい経済論争は面白いが、
こうした論争は政治的なレトリックの中に埋もれがちになる。
長い歴史の中で人間社会を豊かにしてきたのは
政治ではなく科学やテクノロジーだ。
統計の改良のような取り組みは
経済政策に使われるテクノロジーの進歩として
ゆっくりとだが確実に経済の発展に寄与するだろう。



(*1)
テイラー・ルールのように
需給ギャップや失業率などの他の指標を使うこともできるが、
パラメーターの設定はある程度主観的にならざるを得ず
インフレ・ターゲティングのメリットの一つである透明性は損なわれる。
例えば、政治家が政策運営に失敗した中央銀行総裁を糾弾するとして
テイラー・ルールのパラメーター設定の妥当性について
国会で建設的な議論ができるとは思えない。
物価指標そのものをターゲットすることには
透明性の観点からそれなりに意味がある。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
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2.Matematical Statistics and Data Analysis
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