虎の尾を踏む覚悟 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

アメリカ社会で1~2年生活すると気付くことだが、
アメリカ社会というのは移民を見事に活用して
足りない人材の穴を埋めている。
この事実を把握する事は、
アメリカで生きていく上では極めて重要だ。

アメリカが自国で育てている人材の質は、
統計用語を使って表現するならfat tails (両裾の厚い分布)だ。
昼間からぶらぶらしているような
どうしようもない人間がたくさんいる一方、
社会を主導するエリート層も恐ろしく厚い。

しかしそのボリュームのあるエリート層の大半が、
法曹界、金融業界、医療業界といった特定の産業(A)に進む傾向にある。
大学で言えば、プロフェッショナル・スクールが設置されている分野だ。
こうした産業にはどこかに、言語と人脈の壁があるのが普通だ。

一方で、同じ知識階層が就く職業であっても
自国民に人気のないエンジニアリング分野や、
自然科学、社会科学などの学問分野(B)
を外国人で賄っている。

外国人としてアメリカに来る際に、
Aを目指すのか、Bを目指すのかというのは決定的な違いだ。

自国民の優秀な求職者が大量にいるAの分野で、
わざわざ外国人を受け入れるメリットはほとんどない。
唯一可能性があるのは、圧倒的な能力を持っている場合だけだ。
これらの分野を目指す人は、極論すれば
虎を見つけたら敢えて尾を踏んで起きたところを棒でやっつける、
くらいの気概が必要だと思う。逆に、
尾を踏んでも虎が起きない程度の小者ならあまり不自由を感じない
だろうが、その状態では人々の目に留まらないので
生きていくのは難しいだろう。

一方でBの分野では政府が安全な通路を用意してくれている
ようなものなので、Aに比べれば圧倒的に楽だ。
しかし、安全な通路でも躓いて転べば、
後ろから来た人たちに踏み潰される可能性がある。

話を分かりやすくするために
知識階層についてAとBを極端に分けて考えたが、
知識階層からブルーカラーに至るまで
自国民を優先したいAの職種と
外国人で埋め合わせたいBの職種は
アメリカ社会のあらゆるところに存在するように思う。

例えば、郵便局の職員はほぼ単純な肉体労働者だが
待遇が比較的よく政府部門の雇用には米国市民が優遇されるから、
明確にAに分類されるだろう。
労働環境のわずかな違いがAとBを分けることも結構ある。
スタバの店員はAでマクドナルドの調理担当がBかも知れない。
両方とも賃金は最低水準に近いが、不思議とスタバでは
ネイティブでない店員を見ない。

基本的には米国市民は、英語力、人脈、市民権という
3つの優位性があるので相対的に有利なのだが、
教育・訓練制度の問題や、労働市場のミスマッチによって、
外国人が入り込みやすい場所は結構ある。


もちろん、AとBが明確に分かれているわけではないし、
AとBのいいとこ取りをできるニッチも
存在しているかも知れない。
AとBのどちらを目指すのも、諸条件が揃えば
それなりの価値があるだろう。
しかし、AかBかを考える習慣をつけておくことは
外国人がアメリカで生活することを計画する上で有益な視点だと思う。


そういった事が広く理解されれば、
日本の医学部は入学が難しいからアメリカで医者になりたいとか、
アメリカに興味があるから英文学を専攻しようなどという
不幸な日本人の若者の数は減少するだろう。



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テーマ : アメリカ生活
ジャンル : 海外情報

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医療業界は外国人には厳しいか?

ご指摘のとおり、日本人が米国メディカルスクールに入学&卒業することは、日本国内で医大卒業することよりはるかに困難だと思います。しかし、日本の医師免許を持った医師がアメリカの病院に就職することは比較的簡単です。

大病院とは軍隊のようなもので、1つの診療科を24時間維持するためには大量の研修医が必要ですし、産科・僻地・軍病院には米国市民医師は就職したがらず、必然的に外国人医師で穴埋することになります。

よって、J1やH1Bビザの範疇ならば、アメリカの病院で働くことは比較的簡単なのですが、ある程度以上の競争的ポジション(assitant prof以上?)に進む頃からは、「英語力、人脈、市民権」の壁がじわじわ効いてくる印象があります。

医療業界は外国人には厳しいか?2

ただし、私が留学した03-04頃は「アメリカ市民権を持った男性医師が大学付属病院に来ない」ことが問題になっていました。

「試験も難しく、修行年限も長い割には、0.5Mがせいぜい、出世しても所詮は医療界内部」ということで、優秀な若い男は(メディカルスクールより簡単な)MBAやらロースクールに行ってミリオネアを目指す・・・メディカルスクールを卒業したのにウォール街に行く男性医師卵も少なくありませんでした。

医大生の6~7割は女性なので、拘束時間が少ない放射線科や麻酔科、体力のいらない皮膚科が米国市民女性医師に大人気・・・かつて花形だった心臓外科研修医のポジションはインド人&中国人医師だらけ・・・

ここのところの不況で、少しは病院に米国市民医師も増えたのでしょうか?

医学部

いろいろと参考になるお話、ありがとうございます。医師を養成するにはかなりの費用がかかりますから、免許を持った方が外国から来るのは基本的には歓迎なのでしょうね。もっとも、アメリカで医師免許を取るには語学力がネックになると聞きました。インド人なら問題ないでしょうが。そういえば、イギリスの医療制度が荒廃して、イギリスからの流入もかなりあるように聞きます。

日本でもそうですが、学生の進路には地域性があるので、アメリカ全体の雰囲気を知るのは難しいところです。シリコンバレーもウォールストリートも魅力的なところですが、私のいるデトロイトは自動車産業と医療が二大産業で、自動車はあの有様ですから、優秀なアメリカ人はこぞって医学部志望です。分野までは分かりませんが。私はW大M校にいたとき、放射線科でアルバイトをしていたのですが、確かにあそこはアメリカ人ばっかりでした。

No title

若いころは興味だけで進路を決め、Aの業界を選んでしまいました。もっと早くこの記事を読んでいれば・・・留学を決意したときはこういう考えはまったくありませんでした。臨床では職が得られないという現実を理解して研究に方向転換しました。これは今考えても、とてもよい決断だったと思います。

それでも臨床に未練があり、現在は医療と言っても研究職ですが、臨床能力もある程度問われるポジションについています。今の私のポジションは、国防省がスポンサーのプロジェクトで、仕事内容から言って、外国人が得るべきものではありません。だけどたまたま研究分野が一致したのと、地方都市のために、幸いにほかに競争相手がいなかったことで、とんとん拍子で決まったという印象を受けました。永住権を持っていたことは幸いでした。運とか出会いのタイミングもけっこう大きい気がします。

まあ、そのあとも、人員増加ということで、同じポジションで求人出したのですが、基準を満たす候補者はほとんどいませんでしたのでアメリカ人でもなかなか満たせない分野という意味では実はBだったのかもしれません。

軍の病院は市民権が無いと働けないので外国人でも難しいと思います。確かになり手はいないですねえ。近所のVAはいつも求人があります。

当ブログの目的w

あれ?Toyojiroさんはお医者さんだったんですか?ブログに疫学をやってるって書かれていたので、つい統計畑の方かと(笑)。W大M校では、日本人の知り合いの方の半分くらいはお医者さんでした。個人情報の関係もあるので詳細は略。

このブログの目的の一つはアメリカ留学を夢見る女の子に、「将来のことを考えたら専攻はヤッパリ統計学ね♪」と思わせることですw

No title

我が家は一家そろって変わり者なので、参考になりませんが、私の娘もAからBに転向(回り道?)したケースですね。
13歳の時に突然アメリカの高校に行きたいと言い出し、14歳で誰一人知り合いのいないM州の高校に留学。高校の先生にVetになりたいと相談し、「international studentは絶対無理」といわれるも、聞く耳持たずにPre-Vetに進学。Vet-shcoolチャレンジするも、GPA3.5ではどうにもならず。とにかく帰国したくないので、(親にも相談なく)研究者の道に転向して現在農学系のph.D在籍中。GC取得出来ることになったので、一旦就職してからお金を貯めてもう一度Vet-schoolを狙うらしい。(もやは親は学費出せないし。)

米大の日本人学部生

立派な娘さんですね。M校にいたときに何人かの日本人学部生と話をしましたが、皆したたかにキャリアを考えている印象を持ちました。米大卒→日本の医学部を狙っている人も結構いると思います。

GCがあっても市民権がないと不利になりそうですが、その点はどうなのでしょう。市民権まで取ってしまう手もありそうですね。

東大vs地方医大

そこそこ勉強できる理系高校生なら一度は「東大非医学部vs地方医大」で悩みます。概して、東京出身者&好況時は東大、地方出身&不況時には医大、が好まれるものですが、この図式は米国にも通用しそうですね。

職業選択

>「東大非医学部vs地方医大」。

そうみたいですね。私は、自称数学少年だったので悩みませんでした。血を見るのが嫌いだったのが最大の原因という説も濃厚ですが(笑)。

医師というのは全ての人に身近な職業ですし、社会への貢献の仕方も分かりやすい。それが人気に拍車をかけているのでしょうね。理論物理学者の待遇が医師と同じでも成りたい人はあまり増えない気がします。

日本の地方は疲弊していて、医師以外に良い職業があまりないということが問題だと思います。アメリカも地域差はありますが、日本よりは大手企業なども分散しています。

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No Title

匿名希望さん、補足説明ありがとうございました。

米大の日本人学部生

>市民権まで取ってしまう手もありそうですね。
聞いてないですが、そうするつもりなんでしょうね。本人には日本にいた時の記憶は全くないようなので、今更日本の国籍には拘らないでしょう。ちと寂しいですが、老後は呼び寄せてもらおうかな。

日本国籍

米国籍をとるのは結構ハードルが高いですが、元日本人がもう一度日本国籍をとるのはあまり難しくないとも聞きます。あまり気にすることもないのではないでしょうか。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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