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学力偏差値の功罪 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

 以前から日本の受験産業では学力偏差値の弊害が叫ばれており、一部の原理主義者は、詰め込み教育の元凶として偏差値を目の敵にしている。しかし、この問題は一見議論しつくされたようで、実際には統計学的な立場からのきちんとした考察はほとんどないように思う。

 まず数学的(確率論的)な立場から見れば、偏差値とは単に、各人の得点を平均点とその標準偏差を用いて加工した統計量なので、別に良いも悪いもない、ということになる。確かに、テストの点数そのままではテストの難しさによって点数が上下するし、パーセンタイルのような指標ではばらつきの度合いが分からなくなってしまうので、そういった指標に比べて偏差値が便利であることは間違いない。

 一方で、統計学的な視点からみると、偏差値にしろランキングにしろ合計点にしろ、総合的な学力が、主観的に決められた配点によって一つの数値で表現できるという発想には根拠がない。

 学力偏差値は主に入試の合否判定のために使われているが、そもそも入試を実施する大学にとって、試験問題を所与としたとき、統計学的に最適な選抜方法とはどのようなものであろうか。よくよく考えると、大学にとって入試の点数自体はいわばどうでもよく、「より良い学生」が取れれば良いということになる。「より良い学生」というのは大学での成績が良い学生のことかも知れないし、理系ならば、博士課程への進学率が高い学生かも知れない。あるいは、法学部であれば、投資銀行に行くか司法試験に合格するかというように成功のパターンが複数あることも考えられる。いずれにしても追跡調査をすれば、大学にとって、こうした入学後の学生のパフォーマンスを事後的に評価することはそれほど難しくない。

 つまり入学者の選抜とは、試験の結果から将来の成功を予測する作業である。したがって、望ましい選抜方法はこうだ。まず、過去の学生の入学試験結果と入学後のパフォーマンスを用いて、統計学的なパターン認識の手法を用いて標準的な予測モデルを構築しておく。新しい入試を行い、試験結果を得る。例えば試験問題が100問あったとしたら、各受験者に対して各問題に正答したかどうかで100個の情報が得られる。しかしこのままでは過去のデータとの対応がつかないので、問題の難易度、設問の仕方、分野別のスコアに標準化する。このスコアと標準化されたモデルを用いて、もっとも高い入学後のパフォーマンスを期待できる受験者から合格させる。

 なんだか複雑に見えるが、簡単に例を挙げるとこういうことになる。例えば試験科目が、外国語、世界史、数学、物理の4科目だったとする。いままでは、「世界史と物理が90点で他が50点」の生徒Aと「数学と物理が90点で他が50点」の生徒Bは、いずれも合計280点で偏差値も同じだった。しかし、恐らく生徒Bの方が将来成功する可能性はずっと高いだろう。大学で物理を専攻するには数学が必要だし、世界史をやるには外国語が必要だ。生徒Bのような成功の可能性の高い生徒をより入学させなければならない。生徒Aに対しての進学アドバイスは、「将来歴史をやりたいなら英語を勉強しなければならないし、物理をやりたいなら数学の基礎を固めましょう」となるし、生徒Bに対するアドバイスは、従来なら「点数の低い世界史を伸ばしましょう」であったが、いまや「数学と物理をもっと頑張りましょう」となる可能性が高い。従来の入試の方法では、まんべんなく出来る生徒になることが重要だったが、統計モデルに基づいて選抜を行えば状況は一変し、適度に個性を伸ばす教育が勧められるようになる。

いままでのAO入試などでは、個性を重視した選考ができる一方で、選抜は非常に主観的であり、客観的な裏づけを欠いていた。上のように、より進んだ統計手法を用いることで、こうした問題は解決できる。

 人々は固定観念として、統計を導入すると何か人間味のない近視眼的な世の中になると考えがちだ。それは、統計を中途半端に社会に導入した統計屋の責任でもある。しかし本当は、よりよい統計モデルを探求することによって、より客観的で説得力のある、人間的な世の中の仕組みを作ることができるのだ。
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Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程にてPhD取得。現在、米国の某州立大准教授。

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