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社会人の大学院留学の機会費用とリスク1(機会費用) -- このエントリーを含むはてなブックマーク

ブログを付けていると大学院留学を目指す社会人というのは結構いるものだと思う。

今回は、その機会費用とリスクについて考えてみたい。
主に、サラリーマンを辞めてMS/MA/PhDといった学問的なプログラムに留学する場合を想定しているが、
日本の大学から直接留学する場合や、職業系大学院(法律/ビジネス/医薬系等)についても、
共通して論じられる点は考慮していきたい。

機会費用とは何か?
辞書的には機会費用とは、「選択されなかった選択肢のうちで最善の価値」
であり、法律用語では「逸失利益」のことである(wikipedia)。

つまり、年収600万円の人が仕事を辞め
年間400万円の費用をかけて2年間大学院に留学した場合(*1)、
直接的にかかる費用は:
400(万円/年)×2(年)=800(万円)
であるが、機会費用を含めると
400(万円/年)×2(年)+600(万円/年)×2(年)=2000(万円)
となる。

(*1) 財政援助のない有名大の修士課程に留学した場合を想定した。

しかし、これは機会費用のうちのほんの一部分だ。
意思決定をする際には、将来発生する全ての機会費用の
期待値の割引現在価値を考えるべきだ。

こうした機会費用の計算書があまり出まわっていないのは、
その人のキャリアの考え方次第で、機会費用は大幅に変動するからだ。

例えば、大企業のサラリーマンを辞めて、アカデミックを目指したり
経済的にメリットのある転職を目指さない場合、機会費用は非常に大雑把に
見積もって1億円くらいになると思う。信頼区間で示すなら0~2億円くらいだ
通常、大企業のサラリーマンを続ければ、将来的に高い賃金を毎年受け取り、
更にいくらかの退職金を受け取ることができるからである。
ちなみに日本企業の退職金額は、最終賃金に勤務年数を掛けるという算式に
よって、おおよそ退職年数の2次関数になるようになっている。

アカデミックに行って、満足の行く論文が一生に10本書けたとしても、
極端な話、一本1000万円払って論文を書くことになると言っても良い。
あるいは、自分探しに留学する場合は、
「じぶんさがし」一文字当たり1667万円払っていることになる。

私の率直な意見を書かせてもらうと、大学院に留学してくる人の多くは
こうしたコスト計算をきちんとしておらず、お金に関して投げやりな気持ちで
「留学したいから」という漠然とした感覚で来てしまっていると思う。

しかし本来はこうした数字を冷静に捉え、
日本で働き続けた場合に得られるであろう
「都内の新築マンション+高級外車」などを想像しからどちらが良いかを
選択するのが賢い選択だ。


ちなみに、機会費用がこんなに高いのは恐らく日本からくる学生だけだ。
発展途上国ではそのまま現地で働いて将来得られるであろう賃金は低いし、
米国の学位に対するプレミアムも大きい。
ほとんどのケースで収支は最終的に大きくプラスになる。

ブログ内の関連記事:
― 社会人の大学院留学の機会費用とリスク2(日本での雇用リスク)
― 社会人の大学院留学の機会費用とリスク3(適応リスク)
― 社会人の大学院留学の機会費用とリスク4(希望的観測バイアス)
― 社会人の大学院留学の機会費用とリスク5(セーフティネット)
― 社会人の大学院留学の機会費用とリスク6(複線的なキャリアパス)



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テーマ : アメリカ留学
ジャンル : 海外情報

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大学院に行く間違った理由

株主云々の話が続いて飽き飽きという人も多いと思うので教育ネタを。 アメリカの大学教授が書いた、人文系(Humanities)の大学院にいくべきではないというエッセイのご紹介。大抵の分野は人文系よりマシだが、キャリアをよく考えて決断すべきというのは変わらない。博士

コメントの投稿

非公開コメント

No title

大学院留学をする前に、機会費用をしっかり考慮した上で、留学の意思決定を行うべきであるというwillyさんのご意見に賛成です。

しかしながら、大学院に留学してくる多くの人々が、こういった初歩的な機会費用を考慮せずに、留学の意思決定を行うにはそれなりの理由があるのではないでしょうか?そのことを以下で説明したいと思います。

私は、効用が人間の人生設計において最も影響を与える重要な要素であると考えます。また、金銭的なインセンティブの一部である機会費用は、人の行動・意思決定を助長あるいは促進するなど当人の行動に間接的に影響を及ぼすものの、それ自体が人間の行動を決める決定的な意思決定の要素であるとは考えていません。これには理由があります。例えば、この効用の定義を「何か自分がしたいと思うことがあるにも関わらず、どうしても一歩踏み出せないもどかしさ、またはそれに付随して発生する不効用(後悔)」と「その不効用を甘受し、いやな仕事を続けるもしくはその仕事を行うことによって得られる金銭的な利得・収入から得られる効用」と考えた場合、この効用と不効用に伴うトレードオフの関係こそが、機会費用という概念を超えた、人間の意思決定に大きな影響を及ぼす真の要素であると考えます。同時に、人間は、生きている間にさまざまな経験をします。恋愛・就職・結婚・育児そして引退。これら一連の経験は、自身が享受できる効用の可能領域を決定・制限し、ヒトはこの制約条件の中から最適な人生(経路)を歩むべく努力とその意思決定をします。そういった意味で、機会費用の観点だけを誇張し、キャリアパスを考えることには、賛成できません。
また、ヒトは安定を求めるというよりも不確実性・リスクに対して惹かれるといった側面を持つ不合理な存在であり、現代社会の発展は、このリスクを好む人々の存在を抜きに語ることはできないのではないでしょうか?

効用関数

>匿名さん

お金というツールで全ての効用を測定することはできないという意見に賛成です。私が機会費用をここまで強調せざるを得なかったのは、他に効用を論理的に考えることができるツールが見つからないからです。この辺りは経済学者に、もうちょっと頑張ってもらわなければなりませんね。後半部分ですが、私は risk lovers を否定しているわけではありません。人類の発展にそういう人は貴重な役割を果すでしょう。しかし、あくまで自分の効用関数を前提として行動を最適化する必要があります。

No title

金のために留学するのか?

留学とお金

>金のために留学するのか?

そうではありませんが、上記の通りです。

No title

以上のコストは社会人にならないケースでも発生しますよね。海外の大学院に行けるような人であれば、それなりの会社に勤めることができるはずなわけですから、phDプログラムに行く期間、収入が得られないわけです。しかも、一流企業への道はおそらくかなり限定的になるため、そもそも学者になること自体、日本人にとっては高コストということになりましょう。

そもそも、phDプログラムに行こうとする人はあまり金銭的な執着がないということですね。僕のように金融機関で働いているケースであれば、すでに私大の助教授以上の給与をもらっているわけで、なにかが悲しくて学者になるんだという話になるわけです。

こういう金銭的思考実験が特に有益なケースはおそらく家族を持っている場合でしょう。家族がいたら、子供の養育費云々で留学など現実的な選択肢にはならないでしょうね。第一、一流企業を退職した男性に日本の女性が価値を見出すとも思えないため、家庭が存続するのかも疑問ですが。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

機会費用と結婚

>蓮見さん

機会費用は留学以外のalternativeをどこまで考えるかによって変わってきますね。この点については、次あたりに書きます。

確かに私は結婚してから留学していますので、機会費用が非常に重要だったという面があります。結婚する前から仕事を辞める可能性があることは、妻の両親も含め全員に伝えていました。それがフェアだからということもありますが、結局は自分に跳ね返ってくる問題ですからね。先日の「数学と結婚」のエントリーを見て頂きたいのですが「BMWが好きな女性ばかりではない」と思います。

No title

アメリカでPhDを取って現地で就職すると最終的な賃金は日本でいるよりも高額になりうると思っていたのですが
この認識は間違いですか?

⇒のリンクにあるLilacさんのブログではMITのPhDが民間にいった場合の初年度年俸が10万ドル超えと記載されていますし、Willyさんご自身も過去の記事で統計から製薬会社から高待遇でオファーが来ると書かれていたように思います。
社会保障費等の差は当然あるでしょうが・・・。

以下は医学部で有名な自虐ネタです。
『勤務医?ああ儲かるよ。新築マンションは買えるし、郊外にだけど。ベンツも買えるよ、Eクラスだけど。』

理系が努力で到達できる上限の一つでもこれで
私たちのように数学科から金融へいってアクチュアリー等になっても比較的高給とはいえ30代半ばで年収1000万程度、ここから先は1500万までは伸びても以降は本人次第だと思います。
文系なら早慶といえど出世しなければ生涯年収1000万の給与明細を拝むことはないでしょう。

例えば2009年に1000億稼いだことで有名なシモンズ率いるルネッサンス・テクノロジーというヘッジファンドの従業員の半数以上は主に数学、統計、計算機のPhDを持っているそうですが、こういう道は日本では考えられませんよね。

私はアメリカの雇用状況については全くの無知なので
『お金に関して投げやりな気持ち』ではなく、『お金に関してシビアな気持ち』で留学した場合について、ぜひWillyさんのご意見を聞きたいところです。

少し細かい比較

>axeさん

もちろん、「高額になりうる」のは事実ですが、日本にいるよりも賃金の期待値が高くなるのはマネージャーなどになって出世していった場合に限られるでしょう。新卒で10万ドルといっても、、今の為替でいけば、例えば20代後半で留学したとして30代半ばの新卒PhDで900万円台ですよね。そのまま出世せずに60歳とかまで働いたら、最終的な年収は15万ドルに届くか届かないか程度でしょう。そして税率も日本より高い。PhDのポテンシャルがある人なら、日本で賃金の高い業界で標準的に出世した方場合との比較では極めて微妙です。つまり、賃金の高いオファーを選択した場合、期待値的には日本で働いた場合と同じくらい、アカデミックなどなら低くなると思います。将来的にマネジメントを伴なうポジションにつけば確かに日本より高くなると思います。

私は1億円払って留学したようなものです(笑)。それ分かっててやる人は稀だと思いますね。

No title

レスありがとうございました。
極めて微妙というのは私の感覚と合致してました。

まあでも博打的な要素がある分、留学しとけばよかったかなあ・・・と少しばかり後悔してますね。

Willyさんは私から見ると1億円払っても、得たQOLは1億円以上ありそうで、正直羨ましいです。

ウンコ味のカレー

>axe さん

1億円払っても留学しようと思うのは悪くないです。でも、私なんか10ドルのペン立て買うのにも悩むわけで、1億円払うのは相当に悩みますよ。汚い話で恐縮ですが「カレー味のウンコ、と、ウンコ味のカレー、どっちを食べる?」なんて大して究極の選択じゃない、と当時の私は思いました。

企業の機会費用について

初めまして質問させてください。


企業の機会費用ってどうやって量るんですか?

たとえば利潤最大化

max px-(wL+rK) subject to X=F(L,K)

だと会計上の利潤を最大化してるだけじゃないですか?

まあ単純化したモデルだとすればそれまでですが。

企業の利潤は長期ではゼロになる。それは機会費用を考えるからだ。

とか教科書には書いてますよね?

よくわかりません。

No title

江頭道草さん:

すみませんが、元記事とあまり関係ないご質問なので回答できません。その手のご質問は、会計とかミクロ経済学とかを専門にされている方の方が適切な回答ができるのではないでしょうか。

No title

どうもすいません。機会費用でググったら出てきたもので専門の方かと誤解しました。
どうも失礼いたしました。

考えさせられました

機会費用は面白いですね。退社・留学との関連でいえば、私も金融機関を辞めて、経済学で学位を取り、留学先国のアカデミアのあまりにも悪い待遇(欧州です)にびっくりして、海外の団体に職を得ました。アカデミアに戻る可能性がでてきて、英語の講義が不安なので、関連ブログをサーフしてたどりつきました。

経済学の考えで、いけば、機会費用はリソースコスト(シャドープライス)で計ることになります。これは、最大化(ラグランジアン)の計算で隠喩が出てきますが、有限の資源(生産要素)について、それを使えば使うほど、リソースコスト(シャドープライス)が上昇する、という資源の希少性に反比例するものです。

ですから、希少性に反比例するリソースコストで「自分の価値」であるシャドープライスが認識されていれば、留学の意思決定はその時点でのアービトラージだと思うのです。

それがマネタリーな費用と乖離している点はおっしゃられる通りですし、割引率も希少性(将来という有限資源)を反映しているシャドープライスの一つでもあるわけですから、それが個人で異なっているという点は鋭い指摘だと思います。

なんか書いてしまいましたが、今後ともよろしくお願いします。

No title

Foleyさん:

コメントありがとうございます。いわゆるマネタリーな費用に換算できない部分を把握するのが難しく、そこをどのようにして把握するかが意思決定を行ううえで大事なのかなーと思います。

はじめまして

このようにカッチリと留学にかかる機会費用損失が計算されてると、現実的で良いですよね。
私はMBA留学中ですが、海外留学=>海外就職を目指す一つの動機に、日本よりプライベートの充実した生活、外国人女性(特にヨーロッパ女性)が大好きなこと、旅行が大好き(プライベートとも関連してますが)ということがあります。
これらの動機はたとえ日本で働いてても本人や環境によっては可能でしょうが、やはり海外、特に今いる西ヨーロッパに住むのは自分にとってベストチョイスかなと思ってます。
とは言え今いくつかJob Offerありますけど、収入も今までにかけた経費と機械損失を鑑みれば気になってしまうのは仕方ないですね(苦笑)。

No title

ゆうやさん:

私は別にアメリカに住むのが好きなわけじゃないのですが、労働環境は日本よりいいよなあと思います。研究しなきゃいけないとはいえ、休みが年間で19~20週間もありますし(そのうち13週は給料出ないですが)。

No title

機会費用なんて考えて留学しませんよ。キャリア(笑)

あと50-60年もしたら人間、土にかえってるわけでしょ?
ならば、それまで珍しい体験したほうが面白いじゃないですか。。

マンションは実家にすめば良いし、高級外車に至っては中古なら誰でも買えますよ
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程にてPhD取得。現在、米国の某州立大准教授。

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1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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