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イールド・カーブからイールド・サーフェスへ -- このエントリーを含むはてなブックマーク

このところ、キャリア関連のポストばっかりだったので、今日は、
経済関係の記事を敢えて理系の視点から書いてみたい。

日本国内では、リフレ派の勝間さんという人が菅直人さんに直談判したことが
きっかけでリフレ派と反リフレ派の論争が起こっているようだ。
リフレ派には当然ながら手段が必要となるので、
ゼロ金利実施後の金融政策というのが一つの焦点となってくるが
どうも、論点がきちんと整理されているとは言い難い。

私が一番頭が悪いと思う説明は「お金を刷る」というものだ。
これは百歩譲っても単なる比喩であって、何も説明していない。
そもそも現在主な先進国の中央銀行は現金の流通量をコントロールしていない。
もう少し分かりやすい例えを使うなら、そんなことが簡単にできるならば、
二千円札を普及させることも簡単だっただろう。
「金融緩和の方法は?」という問に対して「お金を刷る」という答えは、
「次の値を求めよ:1+1」という問に対して
「答えを書く」と答えるのに似ている。

次に意味不明なのが「量的緩和をする」という説明だ。
この単語が使われだしたのは、2001年に日銀が当座預金残高を
過剰になるように誘導したことに由来するが、この政策自体は
「もしかしたら効果があるかも」
「何もしないと文句言われるからやってみようぜ」
という半ばジョークのようなものだと言って良い。
未だに真に受けている人がいるのはネタにマジレスという奴だ。
その後、この言葉は一人歩きして、
伝統的でない金融政策を総称する言葉になってしまった。
「非伝統的金融緩和の方法は?」という問に対して
「量的緩和」という答えは、
「次の値を求めよ:1+1」という問に対して
「1+1」と答えるのに似ている。


もう少し、定量的でシンプルな切り口はないのだろうか。
とりあえず、通貨を円だけに固定しよう。
それでも金利には無限に種類がある。
金利は借り手の信用状態にもよるし、満期までの期間にもよるからだ。
その他、流動性とか、付帯条件があるかといった点にもよるが簡単のため捨象しよう。
まず契約の満期までの期間をTとし、
信用をC(信用度が最も高いときC=0とし、低くなるにつれCが増加すると定義する)とすると、
少なくとも、金利iはTとCの関数になる。

(1) … i(T, C)

現金を保有した場合の金利はゼロなのでこの裁定が働く限り
i(T,C)の下限は0となり、上限は市場によっては法律で制限されている。
通常、Tが大きいほど、そして、Cが大きいほど金利は高くなる。
そして、ゼロ金利というのは通常、単に

(2) … i(Δ,0) = 0

であることを指しているにすぎない。
ここでΔは最も短い契約期間。基本的には一日間の金利と考えて良い。
ただし主成分分析などをかけて調べると
i(T,C)はパラレルに上下する動きが最も顕著なので、
i(0,0)はi(T,C)という曲面を集約する統計量としては確かに妥当であることが多い。
しかし、究極の金融緩和というのは、

(3) … i(T,C) = 0 for any T and C


という状態だろう。簡単に言えば、誰もが市役所か銀行窓口に行くと
金利ゼロで任意の期間の借金ができるという状態である。

ゼロ金利には段階に応じて3種類のモラルハザードがあると思う。

一つ目は、金融機関にとってのモラルハザードだ。
いわゆるゼロ金利政策 "i(Δ,0) = 0" の状態を達成するためには、
実務的には無担保コール金利の平均をゼロにする必要が有り、

(2') … i(Δ,C) = 0 for any C


が全ての金融機関について成立する必要がある。
統計的に表現するなら、非負の変数の平均がゼロなら分散もゼロとも言える。
つまり、金融機関が信用力に関係なく短期資金が調達出来てしまう
ことによるモラルハザードが発生する恐れがある。

二つ目は三つ目と順不同だが、政府にとってのモラルハザードだ。
(2)を達成した後に目指す状態の一つとして、

(4) … i(T,0) = 0 for any T


があるが、"C=0"は通常、政府の資金調達を表すから
政府が任意の期間の金利をゼロで調達出来ると
政府が財政規律を失い青天井にお金をばらまく恐れがある。
それは最終的にはインフレという形で解消することになる。
「中央銀行の国債引き受け」のような政策はここに含まれる。

三つ目は、民間企業や個人に対するモラルハザードだ。
(2)を達成した後に目指す状態のもう一つの案として、

(5) … i(Δ,C) = 0 for any C

というものがあるが、これは個人や企業が信用力に関係なく
無制限に短期資金を調達できることになるので、
デフォルトする恐れの高い借金をどんどんしてしまうという
モラルハザードを引き起こす。
中銀がコマーシャル・ペーパーや社債を買取ったり、
政府系機関が中小企業に低利で融資したりするのがこの政策の例だ。
この政策は、今回の金融危機で各国の中銀がとった政策に近い。
金融危機では、モラルハザードよりもシステムの安定化の方が
優先されるからだ。
これが更に進んで(3)の状態になれば
モラルハザードは更に深刻になる。
明日に破産することが分かっていたら、誰もお金を借りないが
それが10年後なら借りて色々やろうとするからだ。

その他のほとんどの政策も、i(T,C)を使って表現できる。
例えば、時間軸効果のような期待に働きかける政策も
短期金利の将来パスを通じてi(T,0)の形状に変化を与えるので、
(4)に近い政策と言うことになる。
ただし、半永久的に短期金利がゼロであると宣言しても
完全に(4)が達成されることはないだろう。
その意味で、期待に働きかけるのは間違った方向ではないが
あまり強い手段とはならないと思われる。

i(Δ,0)がゼロに近づいたとき、
これ以上i(Δ,0)を下げられないリスクを考えて、
予めゼロ近辺まで下げておいた方が良い

というのがバブル崩壊後の日本の金融政策から世界が学んだことだが、
換言すれば、これは(3)(4)(5)のデメリットを防ぐために
早めに(2)で対応するということになる。

しかし(2)が達成されてしまった以上、
次は (3)という"曲面(surface)"のゼロ制約を意識して、
デメリットを勘案しながらも果敢にこの曲面 i(T,C)をゼロに
近づけていく必要があるだろう。


よく考えると、ゼロ金利下でなくとも
金利の本来実体経済への波及は、i(Δ,0)という一点ではなく
i(T,C)という曲面によって決まっている。

i(Δ,0)だけを見ていると、判断を誤る可能性が高い。
例えば、アメリカの住宅バブルでは、
i(Δ,0) を上げたのに、i(T,C)が大きなTについて
あまり上がらなかったことが一つの問題だし、
金融危機後の金融緩和が遅れたのは、
i(Δ,0) を下げたのに、i(T,C)が大きなCについて
むしろ上がってしまったことが問題だった。

金利は短期物だけでなく長期物を含めた
イールド・カーブ(yield curve)を見ることが重要なのは言うまでもないが、
今後は、TとCを変数としたイールド・サーフェス(yield surface, *1)と
呼べるような概念で捉える必要性が増して来ると思う。


(*1) いま、考えついた言葉です(笑)。



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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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非公開コメント

??

yield curveとは、本来リスクフリーの金利(国債)なので、C:信用リスクを考える事は、根本的に間違っています。又、リスクフリーの金利には既にインフレーションが織り込まれております。
数学的考察は、当たっている様な気がしますが(数学が弱いので自信無し)、議論としては成立してないと思います。
国債金利上昇は、本来ソルベンシーではなく、量的拡大のインフレ懸念として語られるべきものです。
デフレは、日本全体での効率化及び国際競争の激化で出て来たもので、自然解消される日は近いと思います。

金利

>YSJournalさん

ご指摘はモデルの定式化に関する誤解に基づくものだと思われますので、もう一度お読み直し下さい。

物価の先行きに関しては、様々な仮説に基づく予測が可能ですので難しいところです。

余り自身が無いけど反論

ファイナンシャル的な定義的では、 i(T,0)が、yield curveと呼ばれています。(http://en.wikipedia.org/wiki/Yield_curve

時間を細切れにしても、金利は変わりません。与えられた満期の金利は、いつも固定されます。よって、時間は変数にはなりません。
金利=リスクフリーの金利(通常,国債)+信用リスクプレミアム+インフレリスクプレミアムです。(単一通貨では)

よって、金利は、時間と信用の関数にはなりません。モデルの定式化ではなく、定義が間違っていると思います。

確信が無いのですが、どうでしょうか?

No title

>ファイナンシャル的な定義的では、 i(T,0)が、yield curveと呼ばれています。

おっしゃる通りです。その上で、"i(T,C) - i(T, 0)" がmaturityがT, 信用リスクがC の時のリスクプレミアムと言えばご理解頂けるでしょうか?

理解しました

解説ありがとうございました。

どうも

>YSJournalさん

良かったです。文章の交換だけでこの手の内容を伝えるのは難しいですね。。。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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