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日本に移民が必要かどうかは微妙 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

最近日本で高まっている移民受け入れの議論は、
積極的な経済成長を目指すというよりは
将来の労働力不足を補わなければいけないという側面が強い。
例えば、松本孝行さんのブログの最新記事では、これを根拠に
「移民受け入れは不可避」との主張がなされている。

しかし、いつになったら労働力不足になるのだろう?
直近の日本の完全失業率は5.2%程度と高水準のままで、
職を探すのを諦めている人や
社内で余剰となっている人たちを含めれば実質的には
7~10%程度はあると考えられ、
まだかなりのバッファがある。

長期の経済予測で一番信頼性が高いのは人口構造の変化を探ることだ。

移民を除けば、人口構造の変化はかなり先まで予測できる(下図)。
人口ピラミッド

労働人口の比率という意味では
日本の人口構造に比較的大きな変化が起こるのは、
団塊世代がほぼ完全に引退する2012年前後と
団塊ジュニア世代が引退する2040年前後の二つだ。

この二つの時期以外の変化は比較的緩やかで
問題が起こってからでもある程度対処可能であると思う。
ちなみに、この2つの人口構造ショックでは
後者の方がかなり大きいことが想定される。
団塊世代の引退後も現役世代はそれなりのボリュームがあるが、
第三次ベビーブームがとても地味に終わったことを考慮すると
「団塊"孫"世代」のボリュームはかなり小さくなると
想定されるからだ。

10年前には既に
この一つ目のショックをきっかけに労働力不足が起こったり
財・サービスの需給が引き締まってインフレになったりする
だろうと考えている人は結構いたように思う。
実際、家計部門だけを見れば貯蓄率は大きく低下して
高齢化の影響が見られるようになってきた。
しかし、企業部門が投資を減らしたことなどが原因で
いまだにインフレも労働力不足も起こっていない。
確かに、2004~2007年頃の世界経済の拡大期には
世代交代によって、大企業の採用が活発化するなどの
兆候は見られたが、そこまで大きなインパクトを
持っているようには感じられなかった(*1)。

これは、現時点での私の雑把な感覚だが、
外的な要因を無視した場合、
団塊世代引退によって2010年代に起こる経済的ショックは
日本社会を大きく需要超過にするほど大きなものにならなそうだ。


その根拠の一つは、労働供給が生産のボトルネックになる
産業が今ではそれほどないことだ。


ご存知の通り日本は一次産品は主に輸入に頼っているし、
国内の生産は非効率なものを政府が保護しているという側面が大きい。

工業品の生産では、豊富な資本や技術革新を背景に
供給側の労働者の減少はあまり大きなインパクトが
なくなっているのではないだろうか。
例えば2005年前後には、自動車業界で多くの
外国人労働者が働いていたが、むしろこれは外需の
急拡大によるもので、国内の需給逼迫でどの程度、
そうした受け入れが必要になるかは未知数だ。

一番影響が大きく出るのは、労働集約的なサービス業だろうが
この分野も日本は非効率で改善の余地が非常に大きい。

アメリカから日本に立ち寄ってまず驚くのは
小売店に店員がやたら多いことであるし、
ガソリンスタンドやスーパーのレジなど
まだまだセルフサービス化できるところも多い。
居酒屋や飲食店だってバフェ・スタイルを増やして
人件費を減らすこともできるだろう。

介護には人手が必要なように思う向きもあるかも知れないが、
介護は実はスケール・メリットがそれなりに大きい分野だ。
特別な信条があるお金持ちは自腹で在宅介護を受ければいいが
あとは大規模にリタイヤメント・コミュニティーを整備して、
そこでまとめて面倒を見れば、移民受け入れが不可避なほど
人手が必要なようには思えない。

育児や教育は労働集約的だが、これだけ少子化が進めば
それほど大きな労働供給不足は生じないだろう。

労働力が不足すれば、
比較的貧しい高齢者も働き出すと思われるので
その部分もかなり大きな調整弁になるに違いない。

移民の受け入れを進めない場合、

― 社会保障制度のマイルドな改悪
― 介護の大規模化
― 比較的貧しい高齢者の就労期間の延長
― サービス価格の財価格に対する相対的な上昇
― セルフサービスの増加

といった影響はある程度避けられないが、
移民受け入れに関して世論の合意が得られなければ
おそらく団塊ジュニア世代が引退する2040年頃までは
移民の受け入れについて積極的な政策を取ることなしに
日本社会をそれなりに維持することは不可能ではない

ように思う。

個人的には、日本への移民を希望する人がいれば
積極的に受け入れた方が望ましいと思っている。

高度な人材を受け入れることができれば成長力は高まるし、
低賃金の労働力をうまく受け入れれば国民の購買力は高まる。
そして、社会への混乱を最小化するためには、外国人受け入れ
のためのインフラ整備など、政府の積極的な関与が必要だろう。
治安が悪くなると心配する向きもあるが、
私は多様性の高い社会の方が究極的には
ストレスが小さいと思っている(*2)。

しかし「移民受け入れが必要か」とまで言われると
「必要」とまでは言えないし、実際には
大規模な受け入れは行われないのではないかと思う。

(もちろん、政府によるキャンペーンのような
ものは何度か企画されるだろうが。)

今思えば90年初頭に日本経済が好調だった時は確かに
移民受け入れのチャンスだったと思うが、
その後の超円高、90年代後半の金融危機、
00年代初頭の景気後退と失業の増加によって
日本は既にタイミングを逃してしまったのではないか。

日本は「緩やかに衰退する心地よい社会」を今後
20~30年の間、維持することになる可能性が高いと思う。
そして、20~30年後も大半の日本人は
日本を一番住みやすい国だと思い続けるだろう。



(*1) 団塊世代が引退するのは2010年代でも、大企業は
出向や転籍、55-60歳での定年などの慣行があることから
影響は早めに出ていると考えられる。

(*2) もっともこれは単なる私の好みなので、
世論の総意にするのは難しそうだ。

ブログ内の関連記事:
沖縄から日本を復活させよう
2010年に日本の若者がしておくべきこと
人材受け入れ戦略の見えない日本(教育制度比較3)

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テーマ : これからの日本
ジャンル : 政治・経済

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移民受け入れの理由

はじめまして。
私は移民受入が必要な(大きな)理由は労働力不足ではないと思います。
日本はすでに巨大な債務(公債や年金純債務等)を抱えており、その債務返済の負担は若い世代ほど大きくなっていくと予想されています。
そのため、債務の一人当たりの負担を軽減するため、人口増(少なくとも緩やかな減少)が必要であると考えます。
移民受入に対するNETでの政府収支は(少なくともアメリカでは)その子ども世代まで考慮に入れれば黒字になると想定されているようです。
以下のURLの40ページをご覧ください。
(Long Term Fiscal Impact of One MigrantSourceのところ)
http://www.rieti.go.jp/en/events/bbl/07040901.pdf
よって、この先の若い世代に対する(一人当たりの)債務負担を軽減するためには、移民受入が不可避であるものと考えています。
少子化対策が効果を発揮しても、その子が大学を卒業すると考えると労働力になるのは少なくとも22年後なので。。。

年金問題

>platinumさん

コメントとリンクありがとうございます。労働力の問題と社会保障問題は、同じではありませんが、同じコインの裏表だと思います。

年金問題は名目ベースで語られることが多いですが、労働供給が不足するとインフレになり、その分で世代間分配が調整される効果もあるので、実質ベースでどの世代にどのくらいの影響が出るのかを考えるのはかなり難しいですね。

世代間格差

Willyさん
返信ありがとうございます。

>実質ベースでどの世代にどのくらいの影響が出るのか

私は世代会計に詳しいわけではないので細かく説明できずにすみませんが、世代ごとの負担格差を端的に表した図としては以下がわかりやすいです。
http://www.mof.go.jp/zaisei/con_05_g04.html
(もっと新しいデータがあったと思いますが、すぐ見つけられませんでした。。。)

想定

>platinumさん

通常、リンクにあるようなこの手の想定は、過去10年~数十年程度の実績値を元に、インフレ率や長期金利などを手で置いて計算しています。ダイナミックな経済予測を元に計算したものでありません。

財源不足

すみません、私が前のコメントで世代間格差の問題を強調しすぎたためインフレによる格差縮小の可能性に言及されたのかと思います。
根本的には格差があってもどの世代も十分な社会福祉が得られればたいした問題ではないと思っています。
問題は格差よりも財源不足であり、財源不足のために将来の社会福祉が削られると想定されるため、その緩和のために移民が必要ではないかと思いました。
インフレについてはどちらかというと国債の信認低下によって起きる急激なインフレを心配しているので、移民導入で税収が増えれば抑制効果があるのではないかと期待しています。

No title

>platinumさん

分かります。確かに、私のエントリーは主に「社会が維持可能か」という最低線について述べたもので、世代間の不平等の問題については考慮していません。その点を考えた時、移民受け入れが望ましいということには同意です。

ただ、あくまで私の予想は、社会が維持可能である以上、現実には世代間不平等が存在してもそのまま突っ走ってしまうのではないか、ということです。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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