ある数学者がアメリカに来た理由 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

先日、うちの数学科のRafail Khasminskii 教授(Distinguished Professor)
の引退記念パーティがあった。

彼は、Moscow State University の出身でKolmogorov と Dynkin の弟子であり、
確率解析における(パラメータ推定の)漸近理論などで大きな業績を残した。
MathSciNet という数学の論文データベースによると、
彼の論文が引用された数は1000回を超えているそうだ。

そんな優れた業績の数学者が
1991年頃にWS大に移りたいと言ってきた時は
WS大でも驚きを持って迎えられたらしい。

どんな理由があったのだろう、と興味深かったのだが、
本人がスピーチの中でその理由を述べていた。
その理由はなんと、娘がアメリカに移住すると決めたことだと言う。
もちろん、ソビエト崩壊直後にアメリカへの移住を決心することは
現在の日本の女性が「アメリカで働いてみよう」と決めるよりも
ずっと大きな決断だったかも知れないが、それにしても
そうしたビッグネームがそれをきっかけに
アメリカに来ることを決断したのは驚きである。
(もちろん彼の発言をありのまま受け取るかどうかは考え方次第だ。)

彼は当時既に60歳で、自分の生まれ育った土地が好きだったし、
友達もおらず言葉も違う異国の地にくるのはあまり乗り気では
なかったそうだ。
渡米後もきちんと研究が続けられるかどうかは分からない、
と思ってWS大にきたそうだが、
実際には案外その後も充実した研究が続けられて良かった、
とスピーチを結んでいた。



あくまで私の印象だが、日本から海外に行く人というのは
割と積極的で社交的なタイプが多いような気がしている。
しかし、積極的で社交的なタイプというのは得てして
世の中との繋がりを元に生きているので、
海外に出る時にそうした事を再構築するのに必要なエネルギーは案外大きいはずだ。
逆に、ニート、ひきこもり、オタク、数学者みたいなタイプは
もともと世の中との繋がりが希薄なので、
海外に行くための敷居が実はあまり高くないのではないかと思う。

例えばニートの海外就職日記などを見てもそのことはよく分かる。

私が見てきた限り海外で生活することが苦にならないタイプには2種類いると思う。
一つは、言葉や文化の壁など物ともしないバイタリティのあるタイプで
もう一つはもともとあまり積極的でなくマイペースなタイプだ。

海外なんてイケイケのギャル(超死語)が行くところ、などと思わず、
引きこもりがちの人もネットで海外の事を調べると良いかも知れない。

ブログ内の関連記事:
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No title

>しかし、積極的で社交的なタイプというのは得てして
>世の中との繋がりを元に生きているので、
>海外に出る時にそうした事を再構築するのに必要なエネルギーは案外大きいはずだ

言えてますね。海外に転勤したことはないですが、国内で転勤するたびに「再構築」してましたね。
居心地がよくなるのは3年目ぐらいからなんですが、また転勤でした。
20代、30代は人生経験が豊富になって面白いと思ってましたけど、40代では疲れますね。
ま、地元が一番過ごしやすいことに気付いてもう「再構築」する必要はなくなりましたけど。

No title

バンコクで住んでいたニートの人が、その日々を「外こもりのススメ~海外のほほん生活」と言うタイトルで本を出版しました。

結局は、その後、同じ日本人に殺害されると言う不幸な結末が待っていたのですが、海外に行くための敷居が実はあまり高くないと言う考え方には、賛同します。

なんてったって、ここバンコクには沈没組みといわれる、この手の日本人が有象無象にいますので、、、、

それで、言葉や文化の壁など物ともしないバイタリティのあるタイプは、これは中国の人だと思います。ですが、地域住民と軋轢を起こして、暴動につながったりしています。最近では、イタリア、パプアニューギニア、インドネシアなどで事件が発生しました。

結局、良かれ悪しかれで、そこそこにバイタリティーのある生き方が無難だと思っております。(バンコクにて)

海外

野田一丁目さん:

確かに年を取ってくると違いますね。私が留学したのは20代後半ですがこれが40代だったら、きっともっと大変なのだろうなあと思います。まして60歳では私には無理です。

ぐりぐりももんがさん:

「日本人に殺害されると言う不幸な結末」←これ、すごいですね!
話を聞いていると東南アジアや中国は本当にいろんな日本人がいそうです。。。
中国人は壁を物ともしないというより、各地に「小さな中国」を作ってしまいますからね。
あれはちょっと頂けません。

なんだかんだ言って、日本人が住みやすいのはアジアだと思います。
今、海外移住先で一番人気があるのはマレーシアだそうですね。
香港なんてあまり英語が通じなくてびっくりしましたが、
それでもアメリカより住みやすそうな感じがします。

これは

>一つは、言葉や文化の壁など物ともしないバイタリティのあるタイプで
もう一つはもともとあまり積極的でなくマイペースなタイプだ。

非常に同意です。前者が田舎(=いくつかの大都市以外)に住むパターンが一番大変だと思います。

No title

>前者が田舎(=いくつかの大都市以外)に住むパターンが一番大変だと思います。

確かにそれはそうかも。実は僕もウィスコンシンに来る前は
「東京圏から出るなんてありえない!」
と思っていないのですが、来てみたら案外大丈夫な性格でしたw

二つの人格

Willyさん
私の自己分析はややバイタリティ側であるが、田舎者特有の引っ込み思案系です。但し、アメリカ文化に付いては、私の年代はすっと入ってきておりますので、元々壁を感じませんでした。大学時代が80年前半というのは、学生運動も無いし(安保やベトナム戦争でのアメリカへ憎悪が無い)、アメリカ音楽は黄金期だし、バブル前夜で気分も浮かれていたし、ラッキーでした。

英語が出来ず20代後半にアメリカに来たのですが、1-2ヶ月で、コミュニケーションについては余り苦労しませんでした。但し、特別な英語の勉強をせずに働きながら覚える英語だったので、MBAに行けるレベルになるのに5-6年掛かりました。そのレベルになって10年程自分の中で苦労したのが、日本語の自分と英語の自分の乖離でした。(横メシの話とも関係ありますが)

先日、Lilacさんの所で MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)の話が出てましたが、英語で診断を受けると語彙力不足もあり変な結果が出たりして、悩んだ事もありました。数年前から、これ以上英語は伸びないと言う開き直りもあり、それ以来日本語と英語の自分がほぼ一致してきております。

野田一丁目さんのコメントで、40代になると再構築に疲れるというのがありますが、転勤ではなく転職だとまだまだ行ける様な気がします、特にアメリカでは。日本人だとある程度社会経験のある若い人でも(アメリカでの経験になりますが)、異質な人が現われると壁が高いのを感じますし、これは疲れます。日本だとこのようなケースばかりなのだろう思います。

話がどんどんそれてしまいましたが、類型やパターンはあると思いますが、海外へ出て行く事は悪くないし、いろんな形があると言う一つの例としてコメントさせてもらいました。

日本→米国

もちろんアメリカ国内で40代で転職というのは十分いけると思います。しかし、日本の企業や大学を辞めて40代でいきなり転職してアメリカに来るというのは人によってはちょっと大変なのではという気がします。日本企業の社内異動で来るなら日本にいるのとあまり変わらないと思いますが。

あと「〇〇株式会社に勤めている(た)のが自慢」というタイプは海外では厳しいでしょうね。東大卒で三井物産に勤めていても、アメリカ人から見れば「学部卒で問屋で働いてた人」ですからね。

80年代半ばまでに価値観が固まった人は、逆にアメリカに対する憧れの方が大きくて抵抗がないのかも知れませんね。80年代末以降に大学に入った世代は、日本→クオリティの高い国、アメリカ→クオリティが低いのに何故かうまくいってる国、というイメージなのではないでしょうか。そういう意味で憧れ自体がないので、内向きになりやすいのだと思います。私もアメリカは凄いなあ、と思ったのはこちらに来て何年も経ってからでしたし。

アメリカへの憧れ

Willyさん
私の世代(61年生まれ)のアメリカへの憧れについては、個人的な事情も入り乱れて、真剣に考えた事があります。親の世代にさかのぼっての考察です。(詳細はそのうち人のブログにでも書きます)ご指摘の通り、結構素直に憧れていたのです。そして、それは幸せな事でした。

「私もアメリカは凄いなあ、」と言える人は、おべんちゃら抜きで信用出来ます。(ここまで抽象的だと数学的ですね)国の事は一言で言い表せないし、良い点も悪い点もありますが、この結論は大事だと思います。

Re: アメリカへの憧れ

アメリカが一番豊かだったのは、1960年頃から第一次石油ショックまでだと思っています。例えば、私の親世代(1940年代生まれ)は世間的には学生運動の時代ですが、学生時代にアメリカの豊かさを見ているので強烈な憧れを抱いていた人は多いと思います。なんだかんだ言っても1930年代半ば以降に生まれた人というのは冷戦体制下の洗脳教育を受けてますしね。

私の母は若い時にアメリカに来たかったそうですが、当時の保守的な家庭はそういうことを許さなかったし、情報が十分でなかったということもあったのだと思います。

渡米

私の友人にロシア人が何人かいるのですが、どの人もソ連崩壊やロシア危機を機に日本やアメリカに移住した人たちです。
それこそ高学歴でも本当に職がなく、国に未来も感じられないので、意を決して渡ったと言っております。
人間、どのような性格であっても、いざと言うときにはそういうやる気が出るものなのかなと思いました。

私はアメリカの技術史を勉強してますが、やはりこの国はすごいと思いますね。
確かに日本の方が要素技術的に優れているところもありますが、全体のシステムを作り出す力にかけては、車などを除く多くの分野では、アメリカの方が勝っていると思うときがあります。

ロシア、アメリカ

90年代のアメリカの数学界は、旧共産圏から優秀な数学者が大量流入して、job market は危機的な供給超過(=就職難)に陥ったようです。今は当時よりは良いのでしょうが、アジアからの人材流入もありますし、子供も爆発的には増えていないですから、60年代のような楽勝な就職環境は夢のまた夢という感じです。

>私はアメリカの技術史を勉強してますが、やはりこの国はすごいと思いますね。確かに日本の方が要素技術的に優れているところもありますが、全体のシステムを作り出す力にかけては、車などを除く多くの分野では、アメリカの方が勝っていると思うときがあります。

そうですね。要素技術的にはかなり多くの分野で日本の方が優れているように思います。例えば、消費者が使うような製品の9割以上は日本メーカーの製品の方が質が高いのではないでしょうか。車みたいな目に見えるものを作るのはマネジメントが割とやりやすいというのが大きいのでしょうね。しかも自動車メーカーは主に自動車しか作っていませんし。これがもっと無形のものだったり、研究開発から最終消費財までのシステムがもっと複雑だったりすると、日本の会社はとたんにうまくいかなくなる傾向にあるような気がします。あとは、やっぱり全く新しい分野では日本は弱いですね。雇用の仕組みや金融の仕組みに問題があるのだと思いますが。

詳しくは知りませんが、アメリカもベンチャー企業の資金調達方法は近年ずいぶん変わってきているようで、金融面がイノベーションの足枷にならないか、少し心配しております。

No title

大御所だけでなく、歳の割に地位が高くないロシア人の研究者には、90年代にロシアではどうにもならなくなってアメリカに来たという人が本当に多いですね。実験屋さんで、液体窒素さえ買えなくなったときに決断したとか仰っておりました。激ドメの若手アメリカ人には迷惑だったのかもしれませんが(笑)。

No title

毒の助さん:

アメリカの雇用市場は本当に世界的な趨勢の影響を大きく受けますね。中国人が豊かになってみんな数学をやらなくなったら、数学関係の就職需給は相当に緩和するかも知れません。

中国人って基本的にゲンキンなので豊かになると、数学みたいな分野は比較的早く人気が落ちるような気がしています。(例えば、香港の学生の気質などから類推して。)

マイペースなタイプ

>私が見てきた限り海外で生活することが苦にならないタイプには2種類いると思う。
>一つは、言葉や文化の壁など物ともしないバイタリティのあるタイプで
>もう一つはもともとあまり積極的でなくマイペースなタイプだ。

数学科の助教の人を思い出しました.
その先生は,人とコミニケーションをとるのがとても苦手なのですが,
数年間留学して,研究成果をあげて帰って来ました.

この先生にも,実は社交的な側面があって,
海外では活発に活動していたのだなと勝手に想像していましたが,
おそらくそれは間違いだったのですね.

勉強になります.
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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