アメリカの不動産エージェント -- このエントリーを含むはてなブックマーク

最近、家を買おうかと思って不動産を見ているのだが、
アメリカの不可思議な制度に惑わされている。

1990年頃までアメリカで家を買う時は、
売主から事務を任された不動産業者(sellers' agent)に
問い合わせて家を見せてもらって買うというのが普通だったようだ。
しかし「それでは買い手側の利益を代表する者がおらず不公平だ」
とどこかの消費者団体が主張したらしく
買い手側のエージェント(buyers' agent)という制度が導入された。

しかし、不動産エージェントの取る手数料は今も売り手側が払っている。
具体的には、売主が支払う売買代金の6%の手数料を双方の
エージェントが3%づつ取るという決まりになっているようだ。
従って、どちらのエージェントも
売り手側に立ったインセンティブを持っていることになる。
裁判に例えるなら、AとBの間の民事訴訟があり、
双方に弁護人がいるがいずれもAに雇われている状態ということだ。

つまり、買い手の利益を守るのは、
買い手がbuyers' agent と結ぶ誓約書のようなものだけになる。
(そこには、buyers' agent が買い手の利益を最大化する義務が
課されている。)
しかし、売買の判断は総合的なもので主観を含むので、
buyers' agent が買い手の利益を最大化しようと努めていなかった
としても、それを立証することは極めて困難だろう。

なお、買い手は、buyers' agentを必ず使う義務はない。
したがって、sellers' agent のもとには、
buyers' agent を通した顧客Bと
buyers' agent を通していない顧客Cが現れることがあるが、
この時、sellers' agent にとっては
buyers' agent を通していない顧客Cに物件を
買ってもらえば2倍の手数料を受け取ることができる。
したがって、顧客Cに対して法律の許容範囲内で有利な情報を流したり、
キックバックを払うインセンティブが生じることになる。
(こうしたことを禁ずる法律は州によって異なるようだ。)

また、条件の良い物件は、非常に短時間で売買が成立するので、
その際には、buyers' agent を通すことによる時間的なロスが
不利益になることもあり得る。

このように、buyers' agent という制度は
必ずしも buyer にとって利益のあるものとは言えないが、
それでも買い手にとっていくつかのメリットを提供している。

1. 独占的な物件情報を入手可能

アメリカでは、National Association of Realtors (NAR, 全米不動産業協会)
が、Multiple Listing System と呼ばれる不動産のデータベースを
独占しており、会員のみに情報を提供している。
Buyers' agent を通すことで、買い手はこれらのデータにアクセスできる。
逆に言えば、どのbuyers' agent に連絡しても
得られる情報は全く同じということになる。
なお、NAR は、インターネット上で業務を行う業者に対する情報提供を
拒んだために、2005年に米国司法省に反トラスト法で訴えられ、
2008年5月にようやく情報提供を認めた経緯があるようだ (wikipedia より)。
社会的には、こうした情報は全ての人に公開されていた方が
買い手・売り手双方にとって望ましいのは間違いない。

2. 複数物件の見学が容易

買い手が sellers' agent に直接物件の見学を希望する場合
一件一件、個別にアポイントを取る必要があるが、
buyer's agent に頼めばまとめて手配をすることができる。
つまり、buyers' agentは鍵を管理するというロジスティクスを
担当していると言うこともできる。


本来であれば、買い手と売り手がそれぞれ自分のエージェントに
適正な契約に基づいて手数料を払うというのが望ましい姿だが、
エージェントの協会から見れば、売り手の利益を最大化した方が
売買が成立しやすく不動産価格も上がりやすいので
手数料収入も増加しやすいと考えられる。
そうした事情でこうした不可思議な制度が維持されているのだろう。

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はじめまして

この不動産制度をぶち壊すために、Redfinというスタートアップが、がんばってるみたいですね。昨年11月にシリーズDの調達まで終えたので、そろそろIPOするかもしれません。
http://jp.techcrunch.com/archives/redfin-takes-12-million-series-c-financing-amid-rea/
http://jp.techcrunch.com/archives/redfin-can-rewrite-real-estate-rules/
http://jp.techcrunch.com/archives/20090211redfin-forced-to-partner-with-former-foes-amidst-real-estate-crisis/

No title

a_golden_bear さん:

興味深いリンクありがとうございます。最後の記事を読むと結局は現行制度を前提とした
ディスカウンターに終わってしまいそうですね。

最終的にはFSBO(for sale by owners)のようにagentを全く通さず、
必要に応じて専門家(インスペクターや契約書のチェックをするひと)だけに
手数料が落ちる仕組みになるといいのですが、
NARの圧倒的な情報収集とロジスティックスの能力の前には
なかなか難しそうです。

価格交渉

Willyさん
デトロイト近郊で家購入をお考えの事なので、コメントする義務を感じて書いております。

最近のニュースだとデトロイト市だけではなく、郊外、例えばトロイ(でしたよね?)辺りでも市の財政が結構きつくなっているようです。(ご存知だと思いますが)
予算が分からないのですが、私の勝った頃に比べると随分安くなっているようですので、買う時はお得だと思います。でも、維持費、光熱費、税金等々結構掛かりますので注意。但し、ローン金利分の税金控除があります。(ローンですよね?)

で、エージェントを使うと良いところは、価格交渉の時でしょう。6%分のご利益があるかどうかは分かりませんが、売り主に直接言い難い事も、言いたい放題です。値引き、手直し、その他諸々、今は買い手市場なので結構いろいろと出来るかもしれません。

賃貸料、ローン額、どのくらい住む予定など総合的に考えられた上での購入でしょうが、不透明な経済状態なので身が重くなるマイナスは考慮しすぎる事は無いと思います。その上、デトロイト、ミシガンですし。

何を書いても当たり前の事しか出てこないので、自分の事が只の気の利かない世話焼きみたいで情けないのですが、デトロイト近郊の経験者としてのコメントでした。(情けない)

No title

YSJournalさん:

コメントありがとうございます。コストはディスカウント・キャッシュフローに近い方式で計算しています。個人的には、ミシガンの不動産市況は今後は人口の減少などから日本と似てくると思っています。日米のインフレ率と減価償却率の違いを考えると名目価格の見通しでは日本よりましだろうと思いますが、実質で長期的に値上がりする可能性は低そうですね。実際、今の不動産価格と賃貸の損得を計算すると、5年後や10年後に同じ価格で売れれば買った方がかなり得なので、裏を返せば名目ベースでも今後しばらくは値下がりするというのがコンセンサスなのでしょう。また、立地の悪い物件はこのまま人口が減少し続けると相対的に厳しそうですね。

ディスカウント・キャッシュフロー

Willyさん
ディスカウント・キャッシュフローですか、さすがです。私の心配はもう少し文学的なとことにあり、多少の得になるより、身軽な方が良いのではと思う訳です。(身重なものとしては)

私のブログリンクでo-yaという方が賃貸ビジネスをしていらっしゃいます。どこかのエントリーに "If you need a calculator, it ain't a good deal."というセリフがあって、ビジネスのみならず家の購入にも当てはまるのではないかと思った次第です。

デトロイト在住の私が、デトロイトで家を買う人へマイナスばかり言って変な感じなのですが、まあ慎重にという老婆心からですので悪くなさらないで下さい。

5年、10年はいらっしゃる様なコメントですので、それはそれで嬉しい事です。

>私の心配はもう少し文学的なとことにあり、多少の得になるより、
>身軽な方が良いのではと思う訳です。

おっしゃることは非常によく分かります。基本的に、人間は本能的に定住するということに執着する傾向があるので、現代社会の枠組みでは賃貸でも持ち家でも実質的に変わらないにも関わらず持ち家を嗜好するバイアスがあると思います。従って、直感よりも慎重に判断しようと思います。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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