博論のディフェンス -- このエントリーを含むはてなブックマーク

先週のWS大は、春休みだった。
少なくとも中西部の大学には大抵3月に1週間の春休みがあり、
一息ついたり、フロリダなどの暖かい地域に旅行に行ったりする。
実際には、3月は12月~2月に比べると暖かいのだが、
長い冬を過ごしていると、3月頃には体力的、精神的に
辛くなってくるので、休むにはちょうど良い時期なのかも知れない。

私は、延ばし延ばしにしていた博論のディフェンスをやるために
水曜日から土曜日にかけてウィスコンシンに行ってきた。

日本のT大にいた時には博論には締切日があったと思うのだが、
アメリカの大学にはそういったものは特になく、
論文が書けた段階で、審査をする教授の予定を聞いてまわり
口頭試問(defense, final oral)のスケジュールを決め、
口頭試問の2~3週間前に学科や大学院に申請する。

W大M校の場合は、学科内の教授4名と学科外の教授1名の
合計5名の委員からなるcommittee を学生自身が選ぶことになっている。
もちろん、そのうち1名は指導教官である。
WS大もおおよそ似たような仕組みになっているので、
アメリカでは標準的なシステムなのだろう。

分野によっては、学科外の適当な教授を見つけることが
難しいことがあるが、私がやっている分野は統計学と計量経済学の
中間的な分野なので、特に迷うことなく経済学科の教授を招いた。

教授は忙しい人が多いので5人の予定を合わせるのは至難の技だ。
今回のケースも3月中旬から下旬まで候補日を9日ほど挙げて予定を
聞いて回ったところ、全員の予定が合ったのは3月19日の午前中のみであった。
それでも結局、メンバーの一人は重要なミーティングを
リスケして参加してくれたようだ。
人選は重要だが、なるべく時間のある人を選ぶというのも大事だろう。

口頭試問自体は全部で2時間程度で、
事前審査10分+プレゼン35分+質問60分+事後審査15分
という感じである。

事前審査と事後審査は、学生は部屋の外に出され、
5名の教授陣だけで行われる。

事前審査は、指導教官が研究の経緯などを説明した上で、
誰が chair になるかを決める。Chair は、審査の最終判断を
する上で重要な役割を果す。
実際は大抵、指導教官が chair になるが、
二人以上の指導教官がいる場合にはその場で相談して決めることになるのだろう。
また私の学科の場合には、最終の口頭試問の1~2年前に
Preliminary Exam と呼ばれる中間発表があり、
この Prelim と Final Oral は異なる人がChairにならなければならない。
したがって Prelim では通常、指導教官以外がChair になるので
不合格が出る可能性は少し高くなる。
ただし、不合格の場合は時間を置いてやり直すことができる。

35分のプレゼンは、研究内容について話す。
大きな間違いがあれば問題だが、内容を分かりやすく説明しさえすれば
それほど大きな問題はないのが普通である。
私は前日までプレゼンが60分だと思っていたので、
大幅に超過して50分間のプレゼンになってしまい少し文句が出た。
ただ、質問の時間が圧迫された方が受ける方としては楽になるので、
わざと引き伸ばしたと思われた可能性もある。

60分の質問は、最も重要な時間だ。
それぞれのメンバーが詳細な質問をする。
例えば、使用した定理の説明や証明のガイドライン、それぞれの部分に対する
先行研究の結果、論文中で不十分な点に対する突っ込みなどが入る。

統計の中では全く異なる分野をやっていて今回初めてCommitee に加わった教授
からも相当に詳細な質問が飛んできたので、こちらが感心してしまった。
彼女はフランスで教育を受けた人なのだが、欧州人らしい細かくて数学的に
面白い部分を集中的に質問してきた。やはり、受けてきた教育環境は
その後の学問的興味に色濃く反映されるのだろう。

アメリカの教育を受けた二人の教授からは、やはり実証分析が少ないことに
関する不満が表明された。ここは、Prelimでも指摘された点で、今回最も懸念して
いた点なのだが、
1) この分野はかなり細分化が進んでおり、実証研究と理論研究が独立して進んでいること、
2) この分野の理論研究に実証を入れるとreferee から文句が出ることが多いこと、
3) 今後はこの二つを並行して研究していくつもりであること
の3点を説明し、何とか納得してもらえたようだ。

指導教官および経済学科の教授は、研究内容を既にかなり抑えていることもあり、
比較的ゆるい質問に終始した。

その後、20分ほどの事後審査を経て無事に合格。
主なコメントはやはり、
理論だけでpublishするのは難しいChapter もあるので
将来的にそこに実証を入れるように、
という想定していたものだった。

これから論文の校正をして、
大学院事務所に論文を提出することになる。
これが終われば、無事に博士課程修了になる。

ブログ内の関連記事:
― 米国の大学のポストにつく経路を考える
― 統計学科の大学院博士課程へのアプライ
大学院統計学科の選考基準について

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Congrats

いつも読ませていただいています。
Defense突破おめでとうございます。働きながら論文を完成させるのおは、非常に大変だと思いますが、頑張ってください。

No title

ディフェンス済ませてなかったんですか。僕の院にはprelimとdefenseをほぼ同時にやっていた学生もいましたけど(笑)。

でもWillyさんまだラスボスは倒してませんよ。これから文字通り「一ミリを巡る攻防」が始まるはずですよね。さすがにまさか日本でサラリーマンやっていた方が敗北するとは思いませんが(笑)。

No title

>「一ミリを巡る攻防」

(笑)。Precheck というのがありまして、基本的には通ったんですが、
章初めのページ番号の位置が違うので直せと言われました。Latexだと
そんなヘンテコな位置にページ番号を出す機能はないので、結構
カスタマイズしないといけないかも知れません。最悪の場合、
ページ番号を紙で張ろうとおもいます。マージンなんかはモニターで
PDFを原寸大に表示して図ったので大丈夫でした。

また、10-12ポイントとか書いてあるのでポイントの定義とかも調べた
んですが、きちんと書いてあるものがありません。一文字が3mmとか
言っても、どの文字のどの長さが3mmなのか?
はっきりしてほしいものです。

No title

おめでとうございます。

今後の研究のご発展を祈ります。

No title

お疲れさまです!
うちのdepartmentではphdをやりながら子供を三人を生んで、取得まで12年かかった人がいましたw。もちろんほとんどの人は政府機関で働きながらdissertationを書き終えます。

>「一ミリを巡る攻防」
フォーマットに関しては、LaTeXのテンプレートを置いてくれるとありがたいんですけどね、department直々。

No title

おめでとうございます。どうしただろうと話していたところでした。
また近々食事でも!

ディフェンス

>LaTeXのテンプレート

確かにそうですねー。しかし、コンピュータ音痴の私は
スタイルファイルが見つからなくて余計時間がかかったりとかしそうです(汗)。

>また近々食事でも!

あ、はい。よろしくです。マディソンでは、
割と評判の良い中華料理屋で14人分おごりました。

No title

足立さん:

お久しぶりです。ありがとうございます。

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

おめでとうございます

Defence突破、おめでとうございます。
毒之助さんの言うようにまだ面倒な調整は色々あると思いますが、精神的な山場は越えましたよね。
これでまたWillyさんの毒舌ぶりが復活されるのを一ファンとして期待してます(笑)

最近はLatexも便利になってコードを知らなくてもWordみたいに書けるようになってきてるんですね。

No title

おめでとうございます!!私は日本で学位取ったので
アメリカのような達成感がいまいちよくわからないのが悔しいところです…。

Latex 博論

Lilacさん:
>最近はLatexも便利になってコードを知らなくても
>Wordみたいに書けるようになってきてるんですね。

Scientific Word のような WYSIWYG エディタのことでしょうか?
一時使っていましたが、普通にテキストで打った方が使い易いですよ。
最近は、Latex からWordに変換するソフトもあるようですね。
私の場合は何にしてもコーディングそのものは好きなんですが、
システムのことになると非常に困難を覚えます。

axeさん:
ありがとうございます。締め切りがある分、日本の方が達成感は
強いと思います。

参考になりました

はじめまして。Lilacさんのところから、リンクをたどって参りました。私も博士課程におりますので、大変興味を持って読ませていただき、参考になりました。文系と理系の違いに加え、イギリスとアメリカの違いも随分大きいんだなと幾つか驚きました。

私のところでは、論文の審査官は、人数は少なくて、MAでも(MAは読むだけです)Ph.Dでも、1名は学内の、スーパーバイザー以外の人、もう1名か2名は学外者だと思います。スーパーバイザーは審査会場に入ることも、普通は出来なかったと思います。従って、評価に加わることは出来ません。学生が先生達の都合の良い時間とか専門とか考えて、依頼するというのには驚きました。こちらではインフォーマルに希望くらい伝えることは可能かと思いますが、基本的に口出しできません。

それから書き直し無しのパスは約1割程度と少なく、3人に1人くらいは、半年とか1年かけて、大幅書き直しを命じられるようで、学生も先生も書き直しは当たり前、という意識ですね。ただ、Vivaまで行く場合には、完全に落とされることは滅多にないようですが。博士課程半分くらい終わったところで、辞めなさいとか、M. Philしか出せません、といわれるケースはあるみたいです。 Yoshi

英米

Yoshiさん:

学外から呼ぶというのは良いアイデアですね。しかしアメリカは広いので
モンタナ大やサウスダコタ大などでは審査員を飛行機で呼ばざるを得ず
ちょっと大掛かりになってしまいそうです。

アメリカは、どちらかというとコースワークやQualifier など基礎学力の面で
ふるいにかけ、論文審査は甘めである気がします。その点、リサーチのプログラム
としてはイギリス式の方が優れている気もします。
逆にアメリカで基礎学力の審査が厳しいのは、見込みのない人は早めに
諦めてもらって別の道に進んでもらうという親心のようです。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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