日本の将来像が見えにくい一つの理由 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

城繫幸さんがブログで
「最悪期まであと2年! 次なる大恐慌」
という本を紹介している。

私はこの本を読んでいないので
本についてコメントすることはできないのだが
城氏によると内容は、
「生産年齢人口の割合が高くなっていく間(人口ボーナス期)に
工業化が進むと経済は急速に発展し、割合が減少に転じると
長期的な低迷に入るというもの」

らしい。
この意見は伝統的な生産関数によるアプローチで
一般的に考えれば妥当なものだろう。

しかし私は、こうした予測は現在の日本の状況には
当てはまらないのではないかと思う。

日本経済が20年にわたって低迷しているのは
新規産業が育っていないという構造的な問題に加え、
マクロ経済政策が適切でないこと、
すなわち財政悪化とゼロ金利を理由に
需給ギャップとデフレを放置していることが
一つの大きな理由だろう。
つまり、需要側が経済成長を阻害する大きな原因になっている。
高齢化が進んで生産年齢人口の割合が減ると
需要超過になる可能性が高いので
需給ギャップとデフレが解消し
投資も適度に活発になって
日本経済は案外うまく回るのではないかという気もする。

日本経済の需給が大きく改善する可能性が比較的高いのは
団塊世代が完全に引退する2012年の前後数年間、
そして団塊ジュニア世代が完全に引退する
2040年代前半頃の二つ
であると思う。

ここまでのストーリーはおおよそ
10年以上前から考えていたことなのだが、
最近気になっているのは
節目の2012年が近づいているにも拘わらず
その兆候があまり現れていないことだ。
理由はいくつか考えられる。

1.高齢者が消費しない

貯蓄が好きな日本人はもしかすると死ぬまで
貯金を続けるのかも知れない。そして遺産を子孫に残す。
そんなケースでは、必ずしも財・サービスの需給は改善しない。
ただ、ここ10数年の日本の家計部門の貯蓄率は順調に
低下しており、この仮説はどうもあまり当てはまらなそうだ。

2.企業部門の貯蓄率上昇

近年、日本の需要が足りないのはどちらかというと
企業部門の貯蓄率が高くなっているせいだ。
これは何が主因なのかは私には良く分からない。
単にコーポレート・ガバナンスが不完全なせいなのか、
人口構造の変化によって終身雇用制度の維持のために
バッファを積まなければいけなくなったのか、
デフレ下で負債削減のインセンティブが増したためなのか、
あるいは、また別の要因のせいなのか?

しかも、ここ20年の間には経済に色々な変化があったのに
「個人+企業」部門が依然として貯蓄超過のままというのは
何か大きな理由があるような気もする。
しかし、その原因もまた分からない。

3.逆資産効果

そもそも、これだけ日本の財政赤字が増大(=個人の債権が増大)
したのになぜインフレにならないのかというと、
不動産や株式などの価格がその分下落して逆資産効果を
生み出し、資産効果を相殺していることが大きい。
今後も、年金基金が流出超になり、人口がさらに減少すれば
需給の観点から株式も不動産もさらに下落する可能性が高い(*1)。
政府の累積債務の増加がインフレに結びつくのは
この逆資産効果のインパクトがなくなったときでは
ないかと思う。

(*1) 不動産と株を海外の投資家に買ってもらうことは
今後、ますます重要になる。

最近、ネット上では日本の将来を悲観する人が増えているが、
そうした人たちは高齢化の負の側面だけを取り上げがちで
「高齢化のメリットがどのようにして実現しないまま終わるのか」
ということに関する説明が欠けていることが多いように思う。
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テーマ : これでいいのか日本
ジャンル : 政治・経済

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企業の内部留保

直接的には、超低金利のおかげで安価に借りられたので、剰余金に手を付けずに別のモノに投資していたというのが大きいでしょう。だから、トヨタみたいに内部留保13兆、有利子負債も10兆なんておかしなBSになる。

あとは終身雇用へのバッファでしょうね。大手メーカーは00年前後の割り増し退職金で一千億円単位の特別費用を計上して、あれでもう正社員を採るのに懲りましたから。

No title

家族の役割が大き過ぎることが一因かなと思います。

子の教育や親の介護に備えて貯蓄し、自身の長生きも考えなくてはいけない。
公的サービスが充実していれば、それらを心配せずに貯蓄が消費に回るはずです。

しかし、日本の現状では高齢者の貯蓄はかなりの部分が現役世代に移転されて、
高齢者自身の消費となっていないはず。この点は欧米と比べて特異ではないかと。




貯蓄しない日本人

日本はむしろ家族が疎遠と思いますけどね。
欧州やアメリカや韓国や中国人の方々に、
「私はおじいちゃんの名前知らないよ」といったら、驚かれる。

今の日本の貯蓄率は先進国最低レベルです。


貯蓄

城さん:

ご本人がいらっしゃるとは思いませんでした!コメントありがとうございます。同意です。とりあえず、大企業のバランスシートはだいぶおかしなことになっているので、そのあたりを何とかしないといけないですね。案はいくつかあるのですが書くと長くなるので省略します。

isseiさん:
教育に対する考え方や社会保障政策が、貯蓄率を過剰にしている感はありますね。

つめけんデリックさん:
日本は家族が疎遠だけど経済的な結びつきだけは結構強いという感じがします(笑)。

人口減少とデフレ

いつも楽しくブログを拝見させて頂いています。人口減少とデフレについて少しコメントさせて頂きます。

>>高齢化が進んで生産年齢人口の割合が減ると
>>需要超過になる可能性が高いので
>>需給ギャップとデフレが解消し

人口減少は利子率に影響を与えます。例えば、Overlapping Generation Model などを考えると、人口が減少していくと利子率も低下していくことが分かります。すると、「自然利子率」と呼ばれる財市場と金融市場を均衡させるための潜在的な利子率がマイナスになってしまう可能性があります。

「自然利子率」がマイナスになり、かつ、現在の日本のように「ゼロ金利制約」という状況に直面してしまうと、デフレを解消しようにもそれ以上に利子を下げることはできず、いわゆる「デフレスパイラル」に陥ってしまう可能性が大きくなります。

以上、人口減少が需要サイドに与える負の影響について、私の勉強した範囲での理解を述べさせて頂きました。

若者が少ないと…

20代後半はまだ若者と仮定して、私としての意見ですが、若者が少なくなっていくと寂しいですね。
なんだか仲間がいなくなったような気がして。
実感があるわけじゃないですが、そういう若者が少ないと言う話を聞くだけで、結構気力が減ります(笑)

個人的に周りを見ても、消費している人はやっぱりお金を持っている層=ご高齢の方が多いように思います。値段にもあまり厳しいようには感じませんし、彼らに消費を引っ張っていってもらうしかないでしょうね。最近特に感じます。

世代

grasppmacro2008さん:

コメントありがとうございます。

>Overlapping Generation Model などを考えると、
>人口が減少していくと利子率も低下していくことが分かります。

よく分からないのですが、これはModelの前提から各世代が合理的に行動した結果、
過剰貯蓄が導かれるということですか?
もしそうであれば、日本では家計部門の貯蓄率は既にかなり下がっているので
実証的にどうなのかな、とも思います。

あるいは、最適な投資水準が下がってしまうこと等を考慮しているのでしょうか。

日本経済をこの手のモデルで考えるのであれば、
高齢者世代から下の世代に対する所得移転をどう決めるか
(or 推定するか)が鍵になりそうですね。

高齢者

松本さん:

これからの日本は政治的にも経済的にも高齢者が主役ですね。
まあ、そういう世の中が良いかどうかは別として、
商売も高齢者にターゲットを絞るのがよさそうです。

OLGについて

>>高齢者世代から下の世代に対する所得移転をどう決めるか
>>(or 推定するか)が鍵

Willyさんのおっしゃる通りです。

私の学んだ Overlapping Generation Model は、同じ効用関数を持った2世代間での消費・貯蓄行動を分析するという、最も単純なものでした。よって、それをそのまま現在の日本にあてはめることはできないかと思われます。

最近では、異なる効用関数を持った、2世代よりも大規模な世代重複での分析を、コンピューター・シュミレーションによって行なっていると聞きました。そこでは、実証分析も進みつつあるのかと思います。

はじめてのコメントでしたのに、「この野郎、ケンカ売ってんのか」みたいな印象を与えてしまったかも知れません。しかし、そのような気は全くないので、今後もよろしくお願いいたします (^_^;)。

OLG

grasppmacro2008さん:

再度のコメントありがとうございます。

>、「この野郎、ケンカ売ってんのか」みたいな印象

そんなことはありません。こちらこそ今後もよろしくお願いいたします。

うーん

willyさんの考える高齢化のメリットとはなんでしょうか。
個人的にはイマイチ想像しづらいです。
加えて >需給ギャップとデフレを放置していることが一つの大きな理由
と書かれていますが潜在成長率が1%にも満たないのに
短期的なGDPギャップをマクロ政策で埋めるとなると
手っ取り早く赤字国債発行になりがちです。
これ以上だらしない財政が続くと国債は発散してしまう。

そもそもGDPギャップがそんなに沢山あるようにも思えません。
短期間的で大雑把なマクロ政策を十数年続けた結果が今では?

No title

alphaさん;

需給がバランスした世の中って今より住みやすいような気がするのですけどね。
お客様を神様のように崇める必要もないし、新卒じゃなくても普通の仕事が
見つかるようになるでしょう。

需給ギャップが埋まった世の中で、財政赤字など日本の経済問題が
どの程度解決するかは分かりませんし到底全部解決するとも思いませんが、
解決しないうちからそれが瑣末な問題だと結論できる人の感覚には
ちょっと違和感を覚えるということが言いたかっただけです。

日本の将来像

ウチの会社の近くに特養老人ホームがあるんですが、会社が傾いたら、そこでヘルパーでもしようか、と思ってます。その後はそのまま特養老人ホームにお世話になりそうですな。(笑)
今後の標準的な日本人の人生は大学卒業→派遣会社就職→40代で派遣先が介護業務しか無くなる→60代で被介護者へ→お終い、になりそうですね。救いのない話しです。

介護

野田一丁目さん:

介護はスケールメリットと機械化で将来的にはある程度効率化できそうです。
家族で祖父を少しの間自宅介護したことがありますが、自分で立てないレベルの
人を自宅で介護するようなことは、暇な人が世間に溢れている時だけしか
できないでしょう。

次は本丸

ちきりんさん、城さんときたので、次のターゲットは池田信夫氏でお願いします。
経済のことで論戦を挑めば、大いに盛り上げることが確実です。
老舗ブロガー対新進気鋭ブロガーの対決。
大いに楽しみです。

マクロ経済のお勧めブログ

池田氏は博識ですね。知識を鵜呑みにするタイプのようなので
結構無茶苦茶なことも言っていますが、
わざと言っているような気もします。
いちいち突っ込むのもきりがなさそうですので
以前に以下のエントリーにまとめて終わりにしました。
池田信夫氏らの政治姿勢:
http://wofwof.blog60.fc2.com/blog-entry-242.html

経済関係のネタって専門じゃないので、
僕が書くのもどうなのかっていう気もするんですよね。
今回のようにたまに書いてしまうこともあるんですが素人の感想程度のものです。
himaginaryさんの日記(http://d.hatena.ne.jp/himaginary/
とかを読んだ方が正しい知識がつくのではないかと思います。
著名なエコノミストの発言の紹介などが多いですが
マクロ経済関係ではあのブログの質の高さは随一だと思います。
きっとご本人も名の通ったエコノミストなのではないかと私は踏んでいます。
そして、himaginaryさんが池田氏のブログをよく読んでいることもまた興味深いw

需給バランスと総需要は別

人口が減少する段階では、高齢化は単なる需要の縮小を意味するだけです。
総需要が縮小していくのだから、投資も当然増えるわけが無い。
労働需給の改善効果よりも、投資の縮小のインパクトのほうが大きくて、経済は縮小するしかない。
これはメリットを生かす生かさないの問題ではなく、メリットが存在しないということです。
団塊世代が退職すれば、企業の負担が減って若者の雇用を増加させる余地はあるかもしれません。
しかし、閉鎖経済ではないので、雇用も生産も海外に流出して国内総生産はさらに縮小する可能性が高い。
というか、現状が既にそうなっているのではないですか?

>企業の内部留保
トヨタですら、現預金と有価証券・投資有価証券は総資産の20%程度で、後は売掛・自動車ローン債権と生産設備です。本業外の何かに投資しているわけでは無いと思います。
企業が貯蓄超過に陥る原因は単純で、需要の縮小により業績が黒字から継続的な赤字に転じた企業のC/F計算書をしばらく眺めていれば、一発でわかると思います。小泉政権下の公共事業関係の企業とか典型ですね。
需要の縮小の見通しが企業にも自覚されている状況で、売上が縮小に転じると、当然に仕入と設備投資も減少します。売上債権の回収は過去の売上の反映である一方、仕込みや設備投資はかなり将来までの見通しを反映して先に縮小するので、逆に手元のキャッシュは増加します。そこで企業が取る行動は、投資せず現預金を溜め込み借入れを返済するという行動です。
日本の企業が貯蓄部門になったのは、単にこれが日本全体で薄められた形で長期間にわたって継続しているからに過ぎません。

経済全体の整合的なモデルを考えるより、個々の企業行動がどうなるかを考えたほうが、今の日本の状況に対して正確な理解ができるのでは、と思っています。

No title

Xさん:
>というか、現状が既にそうなっているのではないですか?

理路整然とした説明ありがとうございます。ここまでの部分は全て同意です。
この記事は、
「需給の改善効果もあるので
その結果、デフレや政府債務問題くらいは少し解決するかも知れない。」
ということを述べたに過ぎません。
おっしゃるとおり総需要も投資も減少すると思います。
なお、雇用や生産はある程度海外流出すると思いますが
それがどの程度の速度で進むのかはよく分かりません。
これまでの海外流出は、どちらかというと発展途上国の供給側の
要因が大きかったように思います。

>企業の内部留保

この部分は同意しかねる部分があります。
個別企業についてXさんの説明が当てはまるケースは当然ありますが、
グローバルに展開していて今後の売り上げが増加する見込みの企業でも
自己資本比率の増加という形で貯蓄率が上昇しているケースが多いのです。
過剰貯蓄と投資先は関係ありません。
自己資本比率が不必要に上がっていること自体が過剰貯蓄なのです。
その理由は何でしょうか?
過去20年のトヨタの生産設備と地域別売上を見てもらうと分かりますが、
国内需要が縮小する中、輸出を増やすことで国内生産を維持しています。
これは、簡単には削減できない国内生産設備と国内雇用を有効活用
するためでしょう(政治的な配慮もあります)。そして、
将来それを解消できるように資本を蓄積していると解釈するほうが
妥当なように思います。

No title

閉鎖経済なら高齢化=需給ギャップの縮小になるかと思いますが、法人税が下げれなかったりで、企業が海外移転して外需が取り込めなくなったらどつぼな感じがしますけどね。

No title

delmaさん:
>どつぼな感じがしますけどね。

おっしゃるとおりです。かなり危うい感じですね。

企業の貯蓄率上昇

初めまして。
文中にある企業の貯蓄率上昇に関してちょっと書いてみます。
恐らくこういう現象が起きる原因はバブル崩壊のトラウマが大きいのではないかと思います。90年代に日本企業は過剰債務、過剰設備、脆弱な財務体質を散々叩かれたので、その反省が効きすぎているのではないかと。
ついでに付け加えると、今後も企業の「過剰貯蓄体質」は変わらないと個人的に踏んでいます。何故かと言えばリーマンショックの時に世界的な流動性不足が起きて、企業の資金繰りが極度に悪化した事があったから。そういう「cash is king」な当時の状況下で日本企業の経営者達は「ああ、うちは内部留保を溜め込んでいてよかった・・」と思ったはず。この時の経験はさらに内部留保を増やす動機づけになると思います。

金融

bonzokuxさん:

そういう要素は影響していそうですね。
そもそも、企業も個人も、日本のファイナンスが未成熟なために
過剰貯蓄にならざるをえないという感じもします。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程にてPhD取得。現在、米国の某州立大准教授。

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