世界中の大学ポストへの応募を考える -- このエントリーを含むはてなブックマーク

日本の大学では若手研究者の数に比べポストが少ないことが近年話題になっている。
これは大学院重点化の影響や定年延長など政策的な問題も大きいが
根本的な問題は少子化による市場規模の縮小だろう。

日本に限らず、欧米先進国は過去数十年のスパンで見れば
全般的に出生率は下がって進学率は頭打ちになっている上、
教育費のかなりの部分を担っている国家や地方自治体の財政は
苦しくなっているいるので、
次に考えるべきはエマージングマーケットしかない。

就職先を選ぶことと株を買うことの類似性はよく指摘されるが、
今や先進国の投資家は発展途上国の株を買っているわけで、
就職先としても発展途上国を考えるのはごく自然な流れであるように思う。

それではどこの国を選ぶべきだろうか?選択の際には

1)経済水準、大学教員の待遇
2)人材の需給
3)政治的・宗教的な社会制度
4)子女の教育環境
5)自然環境


といった点が重要になってくるだろう。

最初に考えるべきは、既に先進国の経済水準に並んでいる、
香港、シンガポールであろう。
これらの国では過密化から少子化は先進国よりもさらに進んでおり
出生率は1.0に近づいているが、
1)(準)英語圏としてのアドバンテージを活かして周辺地域からの流入が見込める。
2)政府の力が強く大学経営が安定している。
3)待遇が既に米国を越えている。
4)大学教員の社会的プレステージが高い。
5)日本人の英語のアクセントが問題になりにくい。
6)生活環境が日本に近く住みやすい。
といった多くのメリットがある。
両地域で多数を占める中華系には
アメリカで高等教育を受けた人材が豊富にいるので
競争は必ずしも緩くないが、教員の多様性を高めるという観点からは
日本人にはチャンスが大きいと思われる。


私が次に注目しているのは資源国だ。
天然資源の価格は今後長期間にわたって高騰が見込まれ、
多くの国で天然資源の高騰は国家にとって大きな増収となるので
公的セクターである大学は恩恵を受ける。
通常、資源国では人々は勤勉でなく、高度な人材供給は細りがちなので
欧米先進国のPhDを持っていれば外国人の入り込む余地は大きい。
例えば昨年末のこちらの記事によると
UAEのEmirati University では
assistant professor の月収は6,800ドル (*1) とされており、
住居、帰省費用、教育費などに補助が出ることや
UAEでは所得税がかからないことを考慮すれば
少なくとも名目では既に米国の給与水準を超えている可能性が高い。

中東地区の求人は、アメリカ統計学会(ASA)のウェブサイト
などでもたまにみかけることがある。
統計関係についてこの地区で需要のある分野は、
資源開発を中心としたエンジニアリング関係と
王族や国家資産運用のためのファイナンス関係なので
バイオ系一色のアメリカよりも、
日本人の得意分野との親和性が高いと思われる。

成長著しいアジアの発展途上国はどうだろうか。
W大M校にいた頃、経済学部の教授が
「次にポストを探すならアジアの発展途上国だ」
と何年か前に言っていたことがあると聞いたことがある。
方向性としては正しいのかも知れないが、私は現時点では賛成できない
東南アジアでは、海外学位の価値が高いかも知れないが
先進国との経済水準の格差が依然として大きすぎる。

また韓国、台湾のような国では、
自国民が留学して米国でPhDを取った後
帰国して就職する人の割合は年々上がっている印象を受けるが、
彼らに聞くと外国人に勧められるほどの待遇ではないと答えることが多い。
現地での生活に合わせてしまえば問題はないものの
日本との繋がりを保ったままで経済的に良い生活を送るのは
少し難しいような印象を受ける。

ちなみに、反対側からの視点であるが、
日本の大学への就職がアメリカの学生の間で
話題になっていたこともある。

日本の大学への人材供給は国内的には過剰であるが、
外国人を一定数入れることには一定の意味があるだろう。
しかし、基本的には、
1)終身雇用制による賃金カーブが理解されないこと
2)住居費が非常に高額であると認識されていること

の2点がネックとなっているため、
人気化することはなさそうだ。


(*1)1年間の給与が9ヶ月分か12ヶ月分かははっきりしないが、
別のソースでは、UAEの大学で、基本給は9ヶ月分で夏は別途手当が
充実しているとの話を読んだこともある。
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テーマ : 研究者の生活
ジャンル : 学問・文化・芸術

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サウジアラビアの大学

はじめまして。現在アメリカの大学で大学院生をしています。
世界の大学に関して一言。
サウジアラビアのKaustという大学はさらに待遇がよさそうです。
新しく出来た大学で世界中から研究者を集めていて結構有名な先生が集まっている模様。
スタンフォードのCSの教授2名も新しく着任するそうです。

まえに大学の紹介を見たんですが、設備がものすごくそろっていてうらやましいなぁと思いました。
材料系の設備になりますが、一台数億円もするTEMとかが6台もあってこれはいいなあと。

学生も資金援助がフルであるみたいですし、今後どうなるか面白そうです。

No title

travelerさん:

情報ありがとうございます。お金はいくらでもありそうですからね。バベルの塔みたいのを作るよりずっと有意義な使い方だと思います。今後が楽しみです。

No title

こんにちは。日本の大学の学部生です。

将来研究職を考えているのですが、もし海外でアカポスを得ようと思ったならば、
アメリカなどの欧米先進国のPhDは、やはり必須となるのでしょうか?

No title

はじめまして、こんにちは。
夫がカナダの州立大でテニヤに就いています。最近ポジションを募集したところ、最終的に残った3人中、2人が臨月で、面接が2ヶ月も延期されました。。選考結果は、とりあえず白人男子は、<男>というだけで即却下。ママさん2人から銭につながる研究をしている人に決まりました。アファニティアクションがうむ最悪の結果です。採用の優勢順位は、1.女性 2.マイノリティー(女) 3.マイノリティー(男) 4.白人男です。教授職に就きたかったら、白人は一度メキシコに行って国籍を変えて来いという冗談もあるほど。夫(白人)や友人たちは、若かったら絶対に教授にはならないと断言しているくらいです。9ヶ月雇用で20年以上勤めている人も多いし、収入面の差も激しいですよね。大学によって違うこともありますが、アカデミックの裏をどっぷり見たり聞いているので、初めはショックでした。企業より厳しいサバイバル力が必要だし。頑張って下さい!

No title

Yasuさん:

アメリカでアカポスを目指す場合、必須とは言えませんが欧米先進国でPhDを
取った方が良いと思います。日本から直接、tenure-trackやtenuredのアカポス
についたという例は、シニアのポジションを除けばほとんど聞きません。
(不可能なわけではないのですが、実際にはあまりいないということです。)
日本でPhD取得後、アメリカでポスドクを数年やってからそのまま任期なしの
ポジションを狙うという手もありますが、初めからその気ならば学位を
アメリカで取ってしまった方が早いです。

りんごさん:
分野にもよりますが、アファーマティブ・アクションはあまり良い結果を
生んでいないことも多いようですね。アメリカでは、アジア系男性は
モデル・マイノリティ(マジョリティーより成功しているマイノリティー)
とみなされますので優遇されることはありません。これは最近のことでは
なくかなり昔からそうです。今は、モデル・マイノリティーを更に細かく
分類して差を設けるかどうか、という段階にあると思います。
カナダが白人とそれ以外というくくりでAAを行っているとしたら、
アメリカとはかなり事情が異なりますね。

カナダの大学教員の待遇はこれまではあまり良くなかったようですが、
カナダは資源国なので、今後は相対的に有望だろうと思います。

>企業より厳しいサバイバル力が必要だし

まあ、これは世界的に常識でしょう。

No title

素粒子は半分以上が海外でPDをして、現地で日本よりは良い待遇が得られるので帰ってこなくなるのが常態化してると聞きますが、この記事に書かれているようなことがもっと周知されて欲しいですね。

そういえば東大の河東先生が海外に出る学生が少なすぎる。とおっしゃってましたが、日本の就職事情を考えると、入学時のガイダンスで海外留学の話をしてしまうと優秀な人がほとんど流出してしまいそうで怖いです。

No title

axeさん:

詳しく知りませんが、素粒子みたいな分野がきっと日本が強いということですよね。そうすると少なくとも途中までは日本にいた方が良いということになるわけで、大学院から留学するのが良いのか、博士まで取ってからポスドクで海外に行くのが良いのか僕にはよく分かりません。仮に大学院から留学が最適解だとしても、理系の学生のホームバイアスはかなり強いので国内に残る人はいそうです。

河東先生の話はもっともだと思います。個々人について海外に出る必要は全然ないと思いますが、数学科などでは全体として行く人が少なすぎるのは事実でしょう。

No title

トップあたりで研究をしたい場合、紙と鉛筆系でない場合はある程度研究の環境が整っていることが大前提ですが、そうなるとやはり一線を越えた場所は限られてしまいます。

研究はおいといて教育に重点を置いても良い場合でも、どのレベルの学生を教えたいかにもよるかな、と。アメリカ大学の学部レベルだったら正直修士レベルを終えれば教えられるだろうし、俺はPh.D.まで取ってこんなことしているのかと思ってしまうのはどうかな~などと、まあ、そんな選り好みできる立場でない人間はさっさと別の仕事を探せ、ってことですが(笑)。

個人的には自由がなく政情のあまり安定していない国には行きたくないですね。

No title


毒之助さん:

研究環境って紙と鉛筆系以外だと主に設備っていうことですよね。
そうすると今すぐは難しくても、将来的にはやはり財政に余裕が
ある国が伸びると思います。
自由や政情をどのくらい勘案するかは人によて違いそうです。

どんな学生を教えたいかというのは確かにあるでしょう。
ポテンシャルのレベルと、専門性のレベルという二つの方向性がありますね。
ポテンシャルのレベルという意味では日本なら灘や筑駒で教えるのが一番でしょうし、
アメリカなら研究大学でなくても名門リベラル・アーツでも良いですね。
専門性という意味では研究大学ということになりそうです。

WS大なんかは感覚としては日本の塾講に近いです。
でもまあ、たまに大学院向けの科目もあるし研究指導っぽいものもあるので
まあ、自分の能力的にそのくらいでちょうどいいのかな、と私は思っています。
研究と教育は一緒ではないですしね(これも分野に依存しそうですが)。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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