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書評:ルポ 貧困大国アメリカⅡ(堤未果) -- このエントリーを含むはてなブックマーク



日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した前作「ルポ・貧困大国アメリカ」の続編である。
筆者の堤未果氏は、昨日亡くなったジャーナリストのばばこういち氏を父に持ち、
薬害エイズ事件原告の川田龍平氏を夫に持つ。

前作同様、実地で行ったたくさんのインタビューを交えながら現代のアメリカの暗部を
見事に描き出し、読みやすい文章とインパクトのある数字を織り交ぜることで読者を引き込む。
本書で取り上げる問題は、教育制度、健康保険制度、刑務所の3つだ。

先日のエントリーでも取り上げたように、
20年以上にわたって続く高等教育の学費の暴騰
中流階級の多くの米国民にとって大きな懸念材料になっている。
本書には、学費の高騰と民営化された奨学金制度の組み合わせによって
いかに中流家庭の高等教育の機会平等が失われたかがはっきりと描かれている。
大学卒業後、多額の借り入れと高金利によって苦しむ米国民の
姿を描いたケーススタディーの数々はまた、
「ファイナンスの知識に長けたアメリカ人」
という日本での固定観念を打ち砕くのにも十分だ。
ほとんどのアメリカ人は金融機関が仕掛けた罠に簡単にはまってしまう
極めてナイーブな情報弱者だということがよく分かるだろう。


健康保険制度については、2つの章を割いて最も詳しく解説されている。
特にオバマ政権発足後に、どのようにして健康保険法案が骨抜きにされ
社会的弱者の希望を失わせたかが分かり易く書かれている。
そうした経緯を読むと、アメリカの大統領が巨大な利権を差し置いて
改革を行うことがいかに難しいか
ということがよく分かるだろう。
国による一律の公的保険制度や、公的保険と民間保険の選択制、
といった各制度について賛成派、反対派の意見を多面的に紹介して
いる点も良い。

最後の章は、前作にはない刑務所の問題に焦点を当てている。
刑務所ですらビジネスとして扱われているアメリカの現状は、
政治家と民間業者の癒着という典型的な問題のみならず
オフショアリングが進む米国経済では貧困が構造的な問題
であることを示唆するのに十分だ。

本書には物足りない点もいくつかある。

一つは、著者の堤氏は明確に左派のジャーナリストであり、
問題意識は社会主義的な視点に偏っている点だ。
アメリカを正しく理解するためには、
本書を読みながら、同時にアメリカが活力を維持している
理由も考えなければならないだろう。


現状の分析が単なる分配の問題として片付けられている点も物足りない。
建設的に将来のことを議論するためには、教育に関しても、医療に関しても、
サプライサイドの非効率を問題として扱っていく必要がある。

こうした点は本書ではなおざりにされ、
草の根レベルの啓蒙活動という方策しか示されていないのは
前作と同様少し残念である。

しかしながら、こうした点を差し引いたとしても
現代の米国の構造的な問題を丁寧に現場から取材したルポは
依然として日本語の文書としては大変貴重であり、
アメリカに住もうとする人はもちろん、
アメリカ社会を理解したい全ての日本人にお薦めの一冊である。


(前作はこちら↓)

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テーマ : 貧困問題
ジャンル : 政治・経済

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なんで左寄りにならざるをえないのか 『ルポ 貧困大国アメリカ II』

日本全国の毒男の皆さま、いかがお過ごしでしょうか。ごぶさたしております、と記事を書く度にお久しぶりな挨拶をしているような気がする、神出鬼没な毒之助でございます。突然ですが皆さん、政治や社会の話をするのはお好きでしょうか。小説や映画などで登場人物がてんや...

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No title

この本読んでる最中でした。先越されちゃったな~あはは(笑)。

Willyさんの書評どおりの感想ですね・・・。ネガティブな面が強調されすぎるのと弱者の視点から社会主義的な煽り方ばかりなのが珠にキズなんですよね、このシリーズは。

資本主義的な利権が大きくなりすぎたのと、弱者を落ちこぼれさせないようにするバランスの取り方で苦しんでいるのが、今のアメリカの姿だと思います。

書評

>ネガティブな面が強調されすぎるのと弱者の視点から
>社会主義的な煽り方ばかりなのが珠にキズ

確かにそうなんですが、それを分かった上で読めば大きな問題ではないと思います。
文章やケーススタディー自体は非常に練られていていますし。

ただ、「フォークロージャーが何秒に一回」、とか、
「ホームレス監視のための予算で何百万人のホームレス用住居が作れる」
というところは明らかに計算が合わないと感じました。
そういう意味で数字のトリックみたいなものが使われているとすれば問題です。

堤さんはかなり左派の人ですが、証券会社で働いてきちんと資本主義の
現場も見ている、ということは評価できる点だと思います。

堤未果の新刊

Willyさん
私のブログの書評へコメント頂いていたので、気の利いた事を書こうとしている間に忘れてしまいました。間延したのでコメントは断念し、堤未果の新刊を紹介しておきます。

『アメリカから自由が消える』、私もチャンスがあれば読んでみたいものです。

日本ではアメリカは流行らないそうですが、今でもしっかり商売している人がいる事を心強く思います。

No title

>日本ではアメリカは流行らないそうですが

そうなんですね。まあ、確かになんというか趣が無いし、傲慢な国ですからね。

良かったです

このブログをのぞいてみたあとでこの「貧困大国アメリカ」ⅠとⅡを本屋で買って読みました。
非常に秀逸なルポで知らなかった事も沢山入っており大変感銘を受けました。
WILLYさんの言うように、基本はリベラル派でありながら証券会社というマネーワールドで働いたキャリアは説得力があると思いました。
また、ベストセラーになった貧困大国シリーズを岩波新書で出した後で「アメリカから自由が消える」という新刊を扶桑社新書から出しているのも、自分のような政治色のない人間にとっては逆に好感が持てました。
ちなみに御指摘されていた、「ホームレス何百万人、、、」、という記述は自分も計算違いでは?と思って岩波に問い合わせたところ、印刷ミスだそうで、増刷時に訂正したとの事でした。(電話に出た方はかなり恐縮して謝っていました)

自分は著者が意図的にそのようなデータ改ざんをするとは思えません。
数字のトリック云々といったようなことは岩波では厳重にチェックを入れているようですし。


貧困大国シリーズは韓国、中国、台湾ですでに翻訳され話題になっているようですね。
アメリカ型の政+企業癒着主義はアジアでも同様に関心が高いようですね。


良書を紹介して下さってありがとうございました。

No title

二郎さん:

コメントありがとうございます。最近、本を読むのをサボり気味なのですが、また面白いものを読んだらご紹介したいと思います。

堤未果とニッポンの「貧困大国化」

1)堤女史のブログについて。特に、元木氏との対話が注目。

http://blogs.yahoo.co.jp/bunbaba530/MYBLOG/yblog.html

2)ジャパン・タイムズ記者との対話:

http://blogs.yahoo.co.jp/bunbaba530/MYBLOG/yblog.html

東京は連日のヒートウエーブで、閉口しています。貴地は?

堤未果(承前)

訂正:ジャパン・タイムズとの対話、下記をクリック:

http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/fl20100404x1.html

No title

snowbeeさん:

リンクありがとうございます。楽しく読ませていただきました(特にJapan Timesのほう)。
本を書くときの取材の方法など、なるほどと思いました。堤さんの本は素晴らしいと思いますが、本の内容を離れて政策そのものを論じさせると現実感の無い社会民主主義的な思想が出てきますね。しかし、"How can we get rid of the spiral of poverty?" など答えにくい質問に対してはうまく論点をずらすところを見ると、やはり賢い方なのだなと感じさせます。次期、社民党の党首あたりにいいんじゃないでしょうか。

こちらは日中は暑くなりますが、夜は冷房を入れるほどではありません。窓を開けておけば、涼しい風が入ってきます。

強欲資本主義と強欲社会主義

米中の狭間にある日本は、悩みは続く?

ちなみに、中国通である遊川(ゆかわ)北大・准教授の談話が面白い:

http://www.hit-charivari.com/article/data/p0316.html

No title

snowbeeさん:

日本が板ばさみになっているのは事実ですが、中国がなければ日本は米国との主従関係に永遠にstuck してしまいますからね。両国との関係を巧みに利用するしか生きる道はありません。日本の外交センスのなさからすると厳しいでしょうが。

アメリカ:移民政策と競争力確保

http://www.newsweek.com/2010/07/10/how-to-build-again.html

NW日本版の翻訳より:
(筆者=ラーナフォルーハーは、アメリカで博士号を取得した外国人全員に永住許可証を交付する案に賛成だ)。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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