日本人研究者の海外進出が進まない理由 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

先週末に、大学生の頃の友達数人と会った。
アカデミアに残っている友人もいるが、
日本の研究者取り巻く環境はかなり厳しいようだ。
各種報道や調査から分かるように若手はかなり優秀な研究者でも
先の見えない任期付きポジションで食いつなぐ事を強いられている。

それでも日本人研究者がそれほど海外に出て行かないのにはいくつかあるが
ことに理系に関して言えば、どうやら一番大きな障害は言葉の壁ではないようだ。
主な問題だと感じたのは以下の3点である。

(1)男女関係などを含む人間関係の問題
(2)米国の大学とのコネクションの問題
(3)日本の大学への再就職問題


(1)と(2)は基本的には個人的な問題でありながら
日本人のアメリカ社会でのプレゼンスが低いことのデメリット
を感じずにはいられない。
確かに、日本企業の米国進出に伴って日本人の数自体は増えているが、
それは主にアメリカに「日本企業村」を作ったということであって
アメリカ社会でのプレゼンスが高いわけではないのだ。
これはアカデミアでも企業部門でも言えることだろう。

もちろん、既存の人間関係を維持するという観点からは
日本から出る自体がそれなりのマイナスだが、
少なくとも日本人がアメリカにもっと増えれば、
有意義な人間のつながりも増えるだろうし、
新たな日本人と知り合う可能性は上がっていく。
アメリカはコネ社会なので、小さな民族グループに
所属していることは基本的に不利だ。

このブログを書いている動機の一つは
アメリカに来る日本人を増やしたいということだが、
何故増えて欲しいかといえば、アメリカで日本人の
プレゼンスが高くなった方がいろいろな点で都合が良いからだ。

(3)に関しては、やはり文部科学省の無策・無責任ぶり
非難せずにはいられない。

現状、博士修了後の若手研究者が何とか食べていくことができているのは、
国がそれなりの数の任期付きポジションを提供しているからだ。
しかし、十年後、二十年後ににこれがどのような状況になるのかは全く分からない。
子供の数が減り、国の財政が逼迫する中では、
教育・研究予算は削減されるだろう。
今の文科省は将来の予算にコミットしたくないから、
取り合えず任期つきのポジションだけを増やして
その場しのぎの政策でまわしている。
しかし、文科省が場当たり的に対応する限り、
各研究者は数少ないポストを目指して延々と競争せざるを得ない。

別に博士を取った人全員を教授にしろ、と言いたいのではない。
そもそも、そんなことは不可能だろう。
しかし、もし政府が各研究者にコミットする形で
何らかの長期的なビジョンを示すことさえできれば、
国内で見込みがないと悟った研究者は、
若くて柔軟性の高いうちに早めに海外に流出するなり、
他の分野に進むといった進路を選択することができる。

このまま場当たり的に若手研究者を使い倒して、
10~20年後に40代、50代になった研究者に
「もうポストはありません」では、
自殺者が多発する状況になりかねないだろう。

こうした高学歴層はマイノリティーであり政治的には非常に弱い。
政府は、短期的に痛みを伴っても責任ある計画を立てて遂行すべきだ。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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No title

学部卒で実務の世界に入ったもののやっかみかもしれませんが、なんとなく院に入ってる人って結構多い気がするのですが。特にT大とかで親が金持ちの大人しい女の子とか社会に出るよりお勉強しているほうが楽なので学問的な野心もないまま院進学みたいな例をよくみます。国に頼る前にもっとキャリアパスを意識しながら進学してほしいという気がしますがどうでしょうか。なお、できればシーリング枠内で頑張ってやりくりしてきた文科省ではなく膨張する社会保障費をファイナンスできないため科学・教育費を削る財務省を呪ってください。

No title

dさん:

典型的な世論に近い参考になるご意見です。基本的に高学歴で雇用に不安がある層が政治的に弱いということがdさんのコメントからも良く分かります。

別に高学歴の人を優遇する必要はないです。国が博士課程の教育リソースと人材をどう使いたいかという問題です。今のように、博士課程出ても職がない、将来も全く不透明、という状態にして、その結果、キャリアパスを意識しない人がたくさん入学してくるような大学院ばかりの日本がベストなんでしょうか。

>頑張ってやりくりしてきた

これは場当たり的と一緒ですよ。予算がないなら、適正規模で維持可能なシステムを立案するのが文科省の仕事です。頑張る方向が間違ってるわけです。

No title

就職無理学部なんて言われてしまうのには本当あきれてしまいますよね。
キャリアパスを考えないで大学院へ進学したいなって言ってる人は周りにもいます。(大学受験のやり直しと勘違いしてるっていうんですかね?
いっくら優秀でも修士号までしか取らずに企業に就職する人って多いと思います。
なんせ博士号まで取ると、就職がない!なんて言うのはよく聞きますし。
その為安全策(?)で敢えて取らない人が結構居ますよね。
人をうまく配置して、社会に貢献させる仕組みがうまく機能してないですよね。
これはLeaderless Japanなんて言われるのを象徴してる1つの現象なのかもしれませんね。

No title

Dehmelさん:

全くその通りだと思います。博士課程から産業界への就職にしても、国として大学院をどうしたいかというビジョンがないと産業界から重宝されるような人材は育たないです。そういう方向で行きたいなら、事業化可能な研究に研究費を重点配分するとかいくらでもできることはあると思うんですが。

No title

待遇差の周知が全くされてないのが気になりますね。
例えば最近ノーベル賞を受賞された南部氏や下村氏関して
頭脳流出という新聞記事はあっても、何故海外へ行ったのか?
どの程度の差があるのか?等に言及しているものはありませんでした。

もう少し一般的な例にすれば、Willyさんが以前記事に書かれた
『博士号をとった場合、アメリカでは8万ドル~10万ドル程度で雇用される』
こういった感じの具体的な話をしてるのはブロガーぐらいのもので
周知されているとは到底言えませんし、学部生ではよっぽど問題意識がないと到達しません。博士を取った後では遅いです。

逆に学部の1,2年、下手すれば高校生でもこういった事が常識。となると
恐らく海外に出る人はたくさんいると思います。
海外勤務や定期的なクビ切りが行われる外資系金融が人気になったように、優秀な層は文理関係無しに意外とあっさり流れると思いますね。

なのでWillyさんをはじめとして海外で活躍されている研究者の方には
アカデミアや民間を問わずに待遇差をどんどん晒していっていただきたいですね。

No title

axeさん:

アカデミックに関して言えば日本は企業と同様に年功序列制ですから、現在は生涯賃金で見れば平均的にはそれなりに高い賃金を払っていると思います。例えば、アメリカでもうちの州立大くらいのレベルの数学科だと教授で役職がついても12万ドル(9ヶ月契約)とかですから、そこだけ見れば日本の方がやや高いと思います。しかし、今後の日本はそんなにたくさんポストは確保できないはずで若い頃だけ安い賃金で働かされて使い捨てられる研究者が増えるでしょう。その点で、アカデミックも企業と同じ問題に直面しているともいえます。

そういえば中国人の同級生がタケダに就職しましたが、現在アメリカの製薬業界は初年度の年俸が12万ドルくらいですから、当然、タケダも同等の額を払っているはずです。日本企業もアメリカでは払ってるということですね。更に言えば、アメリカ企業では専門職の人はそれほど長時間働いてないです。


No title

まあ、研究場所を海外に移すべきでしょうね。
ポスドクの椅子取りあらそいは半永久的に続くでしょうから。

No title

huhukikiqさん:

そうですね。もちろん、みんながこぞって海外に行く必要は全然ないわけですが、
ある程度そうしたほうが、国内の雇用も改善するでしょうし。

No title

> 10~20年後に40代、50代になった研究者に
「もうポストはありません」

残念ながら普通に考えるとこうなる確立がかなり高いわけですね。

それでどうするべきかなのですが、「何らかの長期的なビジョン」の「何らか」というのを彼らは示せないわけですよ。使えると思っていれば既に使っているはずなのに、博士を雇った中小企業に数百万円だかお金を出して雇用促進、とかいったセンスのないことをしています。

正直僕も具体的にシステム上何ができるのか思いつかないですが、国が何かしてくれるまで待っているだけでは自分の人生が終わってしまうと思います。

No title

毒之助さん:

まあ、もっと大胆に予算を配分しないとだめですね。例えば研究費の配分を企業に審査させるとか。純粋な理論系なんてあんなに増やしたら、どう頑張っても日本じゃ吸収不可能ですし。

No title

私もアメリカのアカデミアに日本人が増えることを望む者の一人ですが、どういう訳か、日本人は「日本向けキャラ」と「海外向けキャラ」に極端に分かれていて、「日本向けキャラ」の場合、どんなに優秀でも(つまりどこでポジションをとることが可能でも)、そして、アメリカでの待遇が日本でのそれより格段に良いことをはっきりと認識していても、日本に帰っちゃうように思います。なんでなんでしょうか?

それゆえ、「頭脳流出」といっても、所詮、「アメリカのバスタブからみずがちょろちょろ出て行く程度」(確かに出て行っているが、とりあえず風呂には入れる)なので、日本政府もあまり躍起にならないのではないかと。

それでも優秀な人材を、低待遇ですり減らしていっては、近い将来日本は人材流出どころか、人材の存在しない国になってしまうかも知れません。事業仕分けとかで科学研究費を削っている場合ではないでしょう(科学研究は子供と同じで、「今すぐには役に立たないかもしれないけど、今のうちから育てないと30年後に国が崩壊」という種類のものだと思います。少子化対策しつつ(効き目の有無は知りませんが)、研究費を削っていては、なんのことやら、です。)

No title

oriさん:

日本からなかなか出ようとしない人が多いのは、ホームバイアスという奴でしょうね。確かに、日本ほどGDPが高水準で、文化的・人種的にアメリカとの乖離が大きい国だとそれは致し方ないのかもしれません。例えば、台湾のように名目GDPが半分程度の地域でも、最近はホームバイアスが強くなって留学する人が減っていると聞きます。

アジアから西洋ということに関して言うと、私の大雑把な感覚では名目GDPの比が3倍以上でないと、頭脳流出はそんなに激しくはならないという印象を持っています。

今回、日本に帰ってアカデミックに限らずいろんな知り合いと話をしましたが、これだけ就労環境の厳しさが叫ばれる中で、重要な業務を担える人材は圧倒的に不足している感じがします。特に就職氷河期世代以降ですね。確かに外資のコンサルとかに優秀な人が流れてる影響はあるんでしょうが、ほんとにバブル崩壊後の日本の人材への投資は不十分だと思います。

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No title

小梅さん:

日本では大学の仕事というのは本当に減っているので海外に出るのは悪くないアイデアだと思います。日本では博士課程への進学というのは企業への就職という選択肢も考慮すると割の悪いギャンブルのように思えてしまいます。

ご返信有り難うございました

Willy様 ご返信大変に有り難うございました。海外への挑戦、しっかり費用対効果を考えた上で、実行しようと思いました。今後もブログ拝見させていただきます!

No title

私も似た境遇で,興味深く拝読させて頂いています。

私が知っている日本の学生が海外に出たがらない理由は,リスクを踏みたくない,苦労をしたくない,です。

又,日本のアカデミックでの就職が難しいのは,日本のシステム(特に,雑用と休暇)に馴染めずに失敗した採用例が過去に多く,余程の大物以外は敢えて採らない,というのが理由だと聞きます。

私は日本に研究集会などで訪ねるのは楽しいですが,就職はしたくないですね。
アメリカの働きやすさと3ヶ月の夏休みは捨て難いです。

No title

>リスクを踏みたくない,苦労をしたくない

そうなんですかね。本当のところは、日本の方がリスクが小さくて苦労が少ないとはとても思えないのですが(笑)。

日本のシステムに馴染めないというのは、高校卒業くらいまで日本にいた人にとってはあんまり関係ないような気がします。失敗例が多いとか、大物しか採らないというのは、繋がりが薄いので人物を判断しかねるという実情があるのではないかと思います。といいつつ、日本の大学事情をあまり知らないので何とも言えないところもありますが。確かにアメリカの夏休みは異常に長いですね。うちは5月初旬から8月末まで休みです。

プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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