アメリカの奨学金残高の拡大と日本社会への示唆 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

ウォールストリートジャーナルによると
アメリカの student loanいわゆる日本で言う貸与奨学金(*1)の額が
消費者ローン(主にクレジットカード・ローン)の総額を上回ったらしい。
消費者ローン残高の8265億ドルに対し
student loan の残高は8298億ドルとなったという。
金利の低いstudent loan は利用者にとって返済の優先順位が低いので
クレジット・カードローンよりも残高が膨らみやすいとのこと。
クレジットカードと異なり、高学歴層だけが抱えるローンだけに
債務者一人当たり残高はクレジット・カードよりもずっと
大きいかもしれない。

student loan の金利水準自体は低いものの、
このloanによる自己破産が認められないなど
法律的に厳しい面も持ち合わせている。
student loan は富裕層以外に高等教育のチャンスを与えるという
社会的意義も大きいが、一方では元来、国や州政府が担ってきた
教育コストを家計に負わせ貧富の格差をますます固定化させる
という負の面もある。

確かにアメリカでは、ながらく教育は投資であると考えられており、
投資額と回収期間を考えると十分にペイすると考えられてきた。
しかしながら、学費の高騰や学歴インフレによって
今後も投資としてペイするかどうかは不透明だ。


日本の状況ははどうだろうか。
少しデータが古いが6年前の文部科学省のデータによると、
日本の奨学金の規模はフローでアメリカの15分の1の規模だという。
奨学金が充実していないとも言えるし、
親が教育費を負担する文化を反映したものだともいえる。

ひょっとすると、今後
これまで親が出してきた教育費を奨学金で置き換えることが
日本の社会保障制度の最後の打出の小槌として
利用されることになるかも知れない。
団塊世代の年金と医療費負担に苦しみ、
将来の社会保障は尻すぼみになることが確実な
現在40歳以下の人々にとって
子供の教育費を将来世代に先送りできるという案は
極めて魅力的に映るのではないか。
しかも、貧困層にもある程度
学歴獲得のチャンスを開くことができる。

もちろん、最終的な帰結は決して望ましいものではない。
堅実に銀行預金や国債で蓄財に励む富裕層はほくそ笑み、
将来世代に更なる経済格差をもたらすことになるだろう。

(*1)
アメリカかぶれの日本人の中には「アメリカで奨学金といえば
給付と決まっている。大半の奨学金が貸与の日本は恥ずかしい。」と
言う人がいるが、これは単に、schalarship という単語が給付奨学金に
対応しているだけのことである。貸与奨学金については、
主に政府が補助金を出して、民間金融機関に融資させているので
student loan という名前になっているのだ。

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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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No title

こういう記事を見てるとアメリカではお金って本当に単なる目盛だと思いますね。確かアメリカ国民の平均貯蓄はマイナスで全員が借金してる計算になるそうですが、金利で銀行だけ丸儲けかというと何百ドル単位のキャッシュバックで競争してたり、消費と経済活性化といった視点では悪いことばかりでもなさそうです。元記事に書かれてる日本のデフレスパイラルのようなことは起きそうもありません。どちらが良いかといえばちょっと微妙なところですが、そちらの方が楽観はできそうなんですよね。

真の高等教育の始まりか?

Willyさん
この記事見逃してたので、助かりました。(なんか、えらそうですが)

高学歴がペイしなくなると、義務教育以後の教育環境が激変すると思います。日本の大学、アメリカのMBAまで行きながら、自分にとっては高等教育は無意味だったのではないかという思いがあります。自己負担分(親の仕送り、勤務していた会社の負担なので偉そうな事はいえませんが)そして補助金のコストを考えると気が遠くなりそうになります。

そんな個人的な葛藤もあり、アメリカと日本は、高校が義務教育がどうかの違いはありますが、基本的に義務教育以降の国としての公的資金(地方自治が確立していれば地方政府のやり方は自由)の注入はやめるべきではないかと考えています。

大きな話題の結論だけでチンプンカンプンな感じのコメントですが、私へのブログへの貴エントリーとの関連もちょっとあるので、書きたい衝動に駆られた次第です。

No title

axeさん:

アメリカの場合は冷戦崩壊以降、頭脳の輸入に成功しているので機会の平等について
あんまり気にする必要がなく、そのへんは日本と異なるのかも知れません。

YSJournalさん:

YSJさんは徹底したconservativeですね。私は、アメリカはともかく、人材の輸入が難しい日本では教育の機会平等は強い経済を作る上では必須だと思っており、どの段階にコストを投入するかどうかは別として国の強い関与は必要だと思っています。真の高等教育誕生ということですが日本も戦前まではそんな感じに近かったのではないでしょうか。ただ、それは高等教育というよりは貴族教育という側面が強かったのではないかなぁ。

通信教育でコスト削減できないでしょうか。

日本だと、大学の通信教育があり、安い値段で学位を取ることができます。
ただ、ブランドがないので、その後に国立大学で修士を取得するのが安上がりだと思ってます。
(修士の2年間は学費生活費こみで400万円くらい、単独生計が認められて学費が免除になればもっと安くなります。十分に個人で用意できる金額です。)
僕も、通信制で学士のあとに、修士を取る方向で動いています。

通信教育については、アメリカより日本の方が進んでいると聞いていますが、どうなんでしょう?

なんだか、ビル・ゲイツもこんな事を言っているようです。
多くの人が低コストで高い教育を受けられる世の中になると良いですね。


http://jp.techcrunch.com/archives/20100806bill-gates-education/
ビル・ゲイツ曰く「5年以内に最上の教育はウェブからもたらされるようになる」

No title

シモジさん:

通信教育、いいですね。ゲイツの記事にもありますが、学部教育なんかは一番ウェブに載せやすそうです。どこまでうまく行くかはネットワーク機能の充実にかかっていると思います。

そもそも論として、大学の数学科なんて4月に教科書を3冊買って一年間でみっちり自習すれば平均的な卒業生よりよっぽど学力がつくんですよ。なのにそういう形態が浸透してこなかったのは、――もちろん権威主義もあるけれど―― 人のつながりが勉強をする上で大きな役割を果たしており、本はそれを提供できなかったからだと思います。ウェブでもYoutube で授業を見れるだけは不十分で、discussion forum とか、SNS とかで常に知的な刺激が得られるような仕組みが大事だと思います。

そういえば、ビル・ゲイツが言っていますが、アメリカの教科書というのは本当に粗大ゴミですね。特に統計学!教科書がどうしようもないので教え甲斐があります。あんなクオリティのものが出回る世の中でウェブでハイクオリティのものが広まるのかどうかはよく分かりません。


No title

> これまで親が出してきた教育費を奨学金で置き換えること

これはアメリカのようなstudent loanとして置き換える、ということですか。

金利が低いのに銀行にお金を溜め込んでおく日本人が、はたしてクレカを使うような感覚で学費を払うようになるんでしょうかね。

僕自身、毎月バランスを全額払うので、借金に抵抗がある日本人な部分は変化しておりません・・・。大きな額の買い物が必要な段階になれば変わるのかもしれないのかなあ。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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