職業の人気と賃金 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

資本主義が浸透し競争や失業のリスクが高まってから、
多くの国で医師や弁護士といった職業が特に人気だ。
しかし、こうした職業は賃金が高いこともあって
何かと世間の風当たりも強いのも事実だ。

例えば、日本で司法修習生の給料が廃止されたのは、
要するに教育費用が全部国民負担なのは許せないという民意だし
「医学部生は医者以外になるな」という意見も
裏を返せば同じことだろう。

賃金が大きく政策に依存するこれらの職業の賃金は
切り下げられるべきなのだろうか?

確かに、医師や弁護士という職業の専門性は非常に高いが、
賃金は必ずしも職務の困難さだけで決まるわけではない。
人気のある職業と人気のない職業というのは厳然として存在する。

下図は職業の人気と期待賃金のイメージ図である。

職業

例えばプロ野球選手の賃金は高いが、
こうした趣味的な職業の人気は非常に高く、
競争が極めて激しいので期待賃金は低いと考えられる。
「野球選手になりたい」という子供の夢に親が、
真剣に向き合わないのは才能の有無のような先見的な情報に加えて
そもそも(リスク調整後の)期待賃金が低いせいであろう。

概ね人気の高い職業ほど、期待賃金は低くなる。
芸術家から風俗関係にいたる左上から右下への対角線は
妥当な給与水準の業種である。
人間の本能的な欲求を満たす職業ほど人気が高くて期待賃金が低く
また高い名声を得られる職業ほど人気が高く期待賃金が低い。

この対角線よりも下に位置する職業は、
構造問題を抱えているか、
なんらかの利益配分の歪みが生じているケースだ。
例えば、農業やIT土方の賃金の低さは、
主に発展途上国に対する比較劣位から来ている。

一般的に言って、個別事象に直接貢献する職業の人気は、
社会全体に貢献する職業よりも人気が高い。
それは、目の前の客に料理を振舞ったり、
目の前の子供に色々教えて成長を見守ったりする事は、
ビルの一室でGDPの季節調整をするよりも
やりがいを肌で実感しやすいからだ。

医師や弁護士は、社会的地位の高さもさることながら
病気の治療や、紛争の解決という個別案件への対応という側面が強く
比較的やりがいのある、人気のある職業であると考えられるだろう。

こうしたことや
実際に弁護士や医師になりたい若者が多くいる現状を鑑みると、
政府の統制下にあるこれらの職業の待遇を切り下げることは
合理的に思える。

合理的な反論があるとすれば、産業政策として医師や
弁護士育成に力を入れる場合だろう。

例えば、医療の価格を自由化した上で高度医療の発達による
需要創出を図るとか、他国の富裕層に高度医療を提供して
サービス収支の黒字を拡大しよう、というような戦略は考えられる。
(ただし、例えばタイの医療産業に競争力がある理由は
医師の賃金を抑えているからだ。)

もっとも、国内のゼロサムゲームの解決を主たる目的とする
司法に関しては、国が産業政策として力を入れる理由は希薄だ。

要点はあくまで産業政策であって養成費用そのものではない。
例えば、医師一人の養成費用は国立の医科大学の財務諸表から
教育にかかる費用を試算すれば、おおよそ3千~4千万円程度で
あることが推測できる。これは少ない額ではないが、
例えば、東京工業大学の財務諸表を見れば、
経常費用から外部資金収益を引いた額は年間310億円にも上り
学生数を1学年で千人とすれば、理工系技術者/研究者一人の育成にも
3千万円に近い費用がかかることも分かる。
しかし、こうした費用に非難の矛先が向かわないのは、
産業政策上不可欠であると考えられているからだろう。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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No title

この図はWillyさん自作ですか?

期待賃金を公式にどうやって算出するのかを知らないので的外れかもしれませんが、スポーツ選手だとか、基本転職が前提になるような職業だとリスク調整後の生涯賃金の期待値を計算するのは結構難しそうですね。

パターンはありそうなので、例えば、相撲取り→ちゃんこ鍋屋、みたいなことを考慮した期待賃金の試算があるとキャリアプランに役立ちそうですね。

No title

>この図はWillyさん自作ですか?

そうです。バックアッププランが期待値を大きく左右しそう、という指摘は鋭いですね。
数学者みたいに失敗したほうが賃金が高くなる職種もありますしw

図が素晴らしい

この図は素晴らしいですね。高校生の時に、willyさんのブログが見たかったです。
○○関係は3大欲求を満たす産業なのに、社会的に認められていないため、
大手企業の参入がないことがいいところです。
グローバル化の影響も受けないので、日本で暮らしていくのであれば
案外有望な業界かもしれません。

スパムコメントと判定されるため、○○関係と記載してあります。

No title

東京にも外国人売○婦は結構いると思いますが、
確かに比較的グローバル化の影響を抑えられているのかもしれないですね。
人種的な壁が大きいというのもありそうです。

合法化して大手が入ってきたら、駅前立地で洗浄設備は省略、
10分で1000円、みたいなことになるんですかね。

No title

医師一人の養成費用ですが、エンジニアよりはかなり高いと思います。
おそらく医科大学の決算書には、医師が実際教育を受ける大学病院の設備関連などの費用が
含まれていないのでは。
あとは工科大学は研究に関わるコストが高いので、教育費用部分についての割合は低めかとおもいます。

医師・弁護士ですが、当然政府の影響は民間企業よりは大きいですが、むしろこれまでは免許を取るのが
難しいという意味で供給が抑制され賃金が上がってきていると思います。
例えば歯科医師など新規で始める方は相当なリスクがあるし(賃金も厳しいでしょう)、会計士などはもはや
資格があるから悠々食べていける職業ではありません。

弁護士は割と豊かにやっていける職業でしたが、日弁連の会長が反対しているように、これから供給が
増えてくれば相当厳しくなってくるのは間違いないでしょう。

待遇を切り下げるというよりは、供給を増やしてしまえばコストが下がり、かつ僻地医療のような問題も解決され
てくるのだと思います。教育コストも下がるはずですしね。その際、質にばらつきが出るとか、とんでも無い人が
医師や弁護士になってしまうというリスクは、リターンとの絡みでコストとして割り切るしかありませんけれど、
医師会や日弁連などの業界団体はそういう質問題を持ち出して抵抗していますね。

No title

Nさん:

後日、返答を兼ねて記事として取り上げさせて頂きますので少々お待ち下さい。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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