クレジット・スコア~もう一つの格付け利権 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

アメリカの消費者向け信用市場では、
消費者それぞれに与えられるクレジット・スコアと
呼ばれる指標が重要な役割を果たす。

FICO社(旧 Fair Isaac社)が開発した FICO スコアと呼ばれるモデルが
業界標準となっており、この手法を元にクレジット・ビューローと呼ばれる
Experian, TransUnion, Equifax 3社(営利企業)が
寡占的に情報の収集と提供を行っている。

渡米したばかりの日本人が、初めにアメリカでクレジットカードを作るのが
困難なのは、クレジット・スコアの元となるクレジット・ヒストリーが
存在しないためだ。

このスコアは、クレジット・カード、自動車ローン、住宅ローン、
公共料金の支払い遅延といった個人に関するあらゆる信用情報を
ソーシャル・セキュリティー番号(SSN)などを使って紐付けて
信用力を算出したものだ。ただし、職業や年収は考慮されずせず、
純粋に支払いの履歴、ローンの多様性といった情報だけによって
統計的に算出されている。
元FICO社員によると、このスコアに人種、職業、年収を反映
することは法律で禁止されているようだ(*1)。

(*1) ただし、クレジットカード会社は、カードの申し込み用紙で
年収や職業を聞くことがあるので、果たしてどれほど効果が
あるのかは定かではない。

このスコアの問題は、
スコアリングを行う企業が顧客である金融機関の意向を反映し易いこと、
そして消費者を合法的に脅して商売することが出来る点だ。

FICOスコアは300点から850点のスケールで表され、
アメリカ人の最大の関心事である住宅ローンを
最も低い金利で借りるためには 780点程度必要であると言われている。
しかし、このスコアは、カードや公共料金の支払いを期限通りに行って
いるだけでは達成することが難しい。
たくさんのカードを作って総与信枠を上げたり、
自動車ローンを組んでローンの多様性を高める必要がある。

「車を買った時、全額現金で払えたけど敢えてローンを使った。
金利を100ドルほど払ったけど、これでスコアが15ポイント
上がるなら払う価値があるよ。」
(CNN Money, Sep 2010)
というような話になるのである。

800点以上のスコア(全人口の18%しかいない)を目指す人々は
クレジット・カードの総与信枠の10%以下しか使わないように
努めていることが多いようだ(同じく CNN Money, Sep 2010)。
つまり、毎月3000ドルをカード決済(*1)していれば、
決済までの時差を考えれば、少なくとも4~5万ドル程度の
与信枠が必要になる。これはカード会社にとっては大きな
宣伝効果になる。

スコアが高い層は滅多に支払いに遅れないので、一件の支払い遅延
(30日以上)が100ポイント近くスコアを下げることも珍しくない。
長期出張で数ヶ月、家を開けた時に病院の支払いが
あったら…。郵便事故で請求書が届かなかったら…。といった
ことを考えると、事故のリスクは結構高い。データの入力ミスで
下がってしまうことも多くあるようだ。
そこで、万全を期すため、完璧主義者はクレジット・ビューローに
毎月10~15ドル程度の手数料を払って、クレジット・ヒストリー
をモニタリングしている。

このようにクレジット・スコア自体が一つの利益の源泉と化しているのだ。

ある銀行は、クレジットスコアが800点以上の人々のカードの申し込みを
「借金をあまりせず利益にならない層だから」という理由で却下したことが
あり、裁判で訴えられている。こうした事例は「クレジット・スコア業界」の
根幹を揺るがすので、原告の支持者が簡単に集まる事は容易に想像がつく。

消費者不在の、こうした事実上の独占的なスコアリング・システムが
長期的に望ましい結果を産むとは思えない。
企業や自治体の格付けを行う某M社の格付けは
最早ジョークとしか言いようがないが、
クレジット・スコアがその二の舞になる可能性も高いだろう。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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信用情報が銀行取引に欠かせないのは明らかですが、寡占企業が恣意的な売買の対象にするのは問題大ありですね。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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