為替レートに関する考え方 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

アメリカの不動産バブルが崩壊して世界的に需要が不足し、
自国経済の回復のための通貨の切り下げ競争が本格化してきた。
そこで円や人民元の問題に関して
私が考えていることをまとめておこうと思う。


1.円相場について

最近3年の円高:

アメリカの不動産バブルの崩壊が明らかになった2007年半ば以降の
円ドルレートを見ると、124円台から81円台へとかなりの円高が
進んでいる。この原因は、
(1) ボラティリティ(変動幅)の増大と、
(2) 実質金利の逆転である。

為替変動が非常に小さい時期には、名目金利差を通じて低金利通貨から
高金利通貨へ資金が移動する。これは2000年から2007年にかけ
101円台から124円台へと円安が進んだ最大の理由である。
こうした流れが逆転するのは、通常はボラティリティの増大であって、
経済見通しのコンセンサスの変化ではない。

変動幅が大きくなると、多大なリスクをとってまで高金利通貨に
投資する投資家は減少するからだ。
実体経済指標が変化するのはそれよりもずっと後になるのが普通だ。
実体経済によって金融市場を予測する事は基本的にできない
(プラザ合意のような強力な政治的意思がある場合は別だ)。

金融危機によるボラティリティの増大で一気に円高が進んだ後に
起こったのが実質金利の逆転だ。2000年以降の長い間、少なくとも
短期金融市場においては、円の実質金利(名目金利-インフレ率)は
米ドルに比べて低い状態が続いてきた。しかし、アメリカの金利と
日本のインフレ率が大幅に低下した結果、日本の実質短期金利は
アメリカよりかなり高くなり、実質長期金利も日本の方が高くなった。
為替レートの変動幅が十分にあるときには、購買力平価への収束圧力を
通じて、実質金利が高い通貨が上昇しやすくなる。


最近15年の円安:

1995年には1ドル=79円台まで、円高が進行した。
この後、日本がデフレに苦しみ、米国で年率2~3%のインフレが
続いたことを考慮すると、当時の円高は大雑把に言って
現在の1ドル=60円前後に相当する。
実質金利が逆転するような事態になっても、現在の円相場が
そこまで円高にならない理由は何か?主な理由は二つあると思う:

(1) 個人による外貨投資の自由化:

1995年当時、個人投資家が外貨投資をすることは非常に難しかった。
銀行に外貨預金をしようとすれば個室に呼ばれて丁重に断られた
という話は日経新聞にも載ったことがある。もちろん、当時FXを
やっていた個人投資家は皆無だった。

本来であれば、民間の企業部門や個人が対外投資をして為替レートは
均衡するが、当時は少なくとも個人に関しては不当に外貨投資が制限
されていたのである。超円高が進んだ後から、突如として外貨投資、
続いてFXの取引が活発化したのは、政策的な規制緩和の結果と考える
のが妥当だろう。

(2) 国際競争力の低下:

韓国、台湾、中国など新興国・地域の台頭が、日本の国際競争力を
低下させているほか、日本における労働時間の短縮やの高齢化に伴う
社会保障費(いわゆるレガシーコスト)の増大も、日本の国際競争力
を低下させる方向に働いている。


こうして見ると、ここ3年の円高も、ここ15年の円安もそれなりの
構造的な理由があり、投機で上下しているだけといった単純なもの
ではないことが分かる。


2.人民元相場について

人民元が安すぎると批判が米国を初めとした先進国から出ている。
確かに人民元相場は輸出競争力から考えると割安だが、
だからといって中国政府に圧力をかけるという方法が最善なのかは
疑わしいし、そもそも経済的に正しい方法なのかも疑わしい。


例えば、もしあなたが量販店に行って、「パソコンが安すぎる」
と感じた時どうするだろうか。安すぎれば単に買えばよいのだ。
みんながこぞってパソコンを買っても安いままならば、
パソコンの本来の値段はそもそもその位が相場なのだ。
店の人に頼んで値段を上げてもらう必要は全くない。

人民元に関しては、各国政府が安すぎると文句を言っていながら、
その国の国民がなかなか買おうとしないという奇妙な状況にある。
したがって、一義的には米国政府は国民に向けて
「中国元は大バーゲンセール中だから全力買いして」
とアピールする必要がある。
レバレッジの高い通貨取引に関する規制緩和をしたり、
システム開発に政府が資金援助してコストを下げたり、
対外間接投資の税制上の特典を増やしたりすればよい。
金融機関に対する規制が強化される中、
個人に対する規制緩和は特に重要だろう。


現在は中国政府の資金力が大きすぎることが投資家の参入を防いでいるが
10兆ドル、20兆ドルといった巨額の資金が中国に流入した時に、
中国政府が引き続き外貨を買い支えるとは思えない。
(買う事はいくらでも可能だが、リスクが大きすぎる。)
もし、買い支えたとしても最終的に損をするのは、
高い通貨を無理に買った中国政府なのである。

人民元にとって最大の問題は中国政府の力が巨大すぎることであるので、
他の投資家層を充実させて、マーケットメカニズムを働くようにする
というのが資本主義的な解決法だろう。



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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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No title

Willyさま
仕事の必要で、統計学を勉強し直しているところで、日々楽しく記事を拝読しております。

さて、1.はおっしゃる通りだと思います(80円という相場が「円高じゃない」と言えるくらいのデフレをどうにかしてくれ、という気持ちはさておき)。

しかし、2.は少々議論が荒くないでしょうか。
中国への直接投資は非常に制限されており、また、人民元はドルにペッグされています。また、経済活動全般について、中国は市場原理の中途半端な容認、私的財産権の保証が甘い国であり、決して安心して取引ができるマーケットではありません(会社生活上も、中国との取引は気が抜けません)。
中国の一番の問題はそもそも市場原理にのってくれていないことにあり、

> 他の投資家層を充実させて、マーケットメカニズムを働くようにする
> というのが資本主義的な解決法だろう。

というのは。順番が逆だと思います。
公権力によってマーケットを整備することで、初めて投資家層は充実する、というのがむしろ自然な流れかと思いますが如何でしょうか。

No title

shumei さん:

中国の件、直接投資である必要はないような気がしますが、金融市場をきちんと整備しなければいけないという点は同意です。おっしゃるとおり問題は単純ではないですね。

ただ、最近の報道を見ていると、どうも人民元相場だけが注目されてしまっている気がしてしまうのです。必要なのはマーケットメカニズムが働く市場を整備することであって、中国が自国通貨を売っていることが問題という議論はちょっと論点がずれていると思い、エントリーしました。

そのあたりは、日本政府が、対外的に人民元問題と円の問題を切り離して論じる際にも重要になってくると思うのです。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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