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グラントの申請 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

毎年11月7日は、NSF (National Science Foundation)の統計分野における
グラントの締切日で今週の月曜日まで、その作業に追われていた。
アメリカ人は easygoing な国民性だが事務手続きが煩雑なのは
日本のとさして変わらない。

グラントというと、高い実験設備を買ったり、動物実験をしたり、
というイメージがあるかも知れないが、数学の場合には設備は
ほとんど要らないので、グラントとは要するに人件費である。
実際には、応用分野でも最も高いのは人件費だろう。
これは、アカデミック以外の人も知っておくべきことだ。
スーパー・コンピューターは世界2位でも良いかも知れないが、
科学技術予算を削るのは将来の人材への投資をやめるということだ。
別にやめても良いが、それが重大な意思決定であるということは
認識しておくべきだろう。
(もちろん、闇雲に不要な分野の人材を養成する必要はないが。)

NSFのグラント申請はオンラインで行われる。
Fastlane.org と grant.gov という二つの Website があり、
NSFに関しては、Fastlane.org が使われることが多いようだ。
grant.gov の方が包括的で入力事項も多く複雑だ。
実際に応募するには、予め所属機関経由で発行する
パスワードを取る必要がある。
また、提出前に学科長や学部長など何人かのサインが必要になるなど
実際には締切日の大分前に仕上がっていないといけない。

グラントの提出書類はこんな感じだ:

Summary: プロジェクトの分野における意義、社会的な意義。1ページ以内。
Description: プロジェクトの概要。15ページ以内。
Reference: Description で使われた参考文献リスト。
Budget: 予算の一覧。
Budget Justification: 予算の算出根拠。
Biographial Sketch: 研究者の略歴。2ページ以内。簡素な履歴書(CV)。
Facilities, Equipment: 研究する場所や設備などの概要。
Current & Pending Support: 現在、受けているグラントの一覧。

そのほかに、プロジェクトの基本情報など、
online にアクセスして入力した基本情報からいくつかの
ファイルが作られる。

グラント申請の性質上、予算は特に重要な項目だ。

アメリカで理論分野の学科の大学教員の多くは
9月から5月までの年間で9ヶ月の雇用契約になっており
残りの3ヶ月のうち、2ヶ月をNSFなどの政府系のグラントから
もらっても良いことになっている。
つまり、grantを持つ教員の給料は持たない教員に比べ
22%ほど高いということだ。
(ちなみに統計分野では一流大学の教員がグラントを取っても
普通に民間企業に就職した場合の給料に及ばない。)
その他、ポスドクや院生、アルバイトなどの人件費を申請する
こともできる。また、申請は複数人で行うこともあるので
その場合は PI(Principal Investigator)が複数になり、
予算の規模も大きくなる。

設備などが不要の場合、基本的にはこれら給料の額を元に
その他の必要経費を所属機関のルールに基づき加えていく。
例えば、一人のプロジェクトで人件費(salary)が1万ドルとしよう。
すると、総額とその内訳は例えば以下のようになる。
なお、NSFのグラントがつくプロジェクトは通常1~3年程度なので
3年間であれば予算額は約3倍になる。

Salary: $10,000
Fringe Benefit: $1,000
Indirect Cost: $5,000
-------------------------
Total: $16,000

Fringe Benefit とは、雇用主負担の社会保険料などであり、
Indirect Cost とは所属する大学や学科が受け取る事務経費である。
別に、教員がグラントをとっても実際にかかる大学側の経費は
変わらないが、いわば優秀な研究者を輩出した報奨金として
大学が経済的なメリットを受けることができるというわけだ。

したがって、大学が人を雇う際にも、グラントを取れる研究者か
どうかというのは重要な項目となる。

審査は、NSFの専任の学者(著名な研究者が大学から出向/転職する)が
外部の審査員に依頼して、おおよそ6ヶ月以内に行われる。
この審査のまとめ役は、統計学の場合は現在3人いる。
審査結果は、基本的にはプロジェクトの出来次第だが、
審査員やその選び方にも大きく依存してくるので
彼ら専任職員のパワーは絶大である。

数学の場合、プロジェクトの計画だけで予算配分が決まる
というのは疑問も多いが、こうした予算配分によって、
志向するリサーチの方向性を国が主導することができるし、
研究者も外部にアピールすることで自分の目的意識を明確にできる。

ジャーナルに論文を投稿するのはどの国の研究者も同じだが
こうした予算配分のシステムは国によってかなり異なる。
これは、各国の大学の特徴づけている最も重要な事項の一つだろう。

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テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

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No title

はじめまして

 今年の9月よりアメリカ東海岸でPhDコースを始めた者です。日本で学部を終え、修士課程の途中で申請、事実上修士を退学する形でこちらに来ました。骨太なコアコースに追い立てられながらも、新しい場所で楽しく生活しています。

 最近Willyさんのブログを見つけました。楽しく読ませて頂いています。海外でのアカデミックキャリアも考えているので、いつかその辺についてお訪ねするかもしれません。その際はご助言頂ければと思います。

No title

Akiraさん:

どうもはじめまして。よろしくお願い致します。私に答えられることであれば何でもお答えします。

No title

この大学に払うオーバーヘッドの比率は大体こんなものなのでしょうか。僕のアドバイザーが、グラント取っても半額を大学にふんだくられるとブツブツ言っていたのを聞いて、比率の大きさにビックリしたことがあります。それがアドバイザーが学生に対してケチで、ランチもおごってくれない理由なのかな、と自分を納得させましたが・・・大学によっても変わるものなんでしょうかね。

No title

比率は大体、実際の申請と同じです。ただしこれは夏季の給料で、academic year 中の給料を置き換える場合には frindge benefit が27%になるので、自分で受け取る率は限りなく5割に近くなりますね。アメリカって、本質的でない部分のコストが高すぎです。Indirect cost なんて実際には全くかからないですよ。あとは、あくまで給料の折衝で解決ということなのかも知れませんね。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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