京都議定書延長なら日本は離脱すべき -- このエントリーを含むはてなブックマーク

12月10日にCOP-16 (第16回気候変動枠組条約締約国会議)が閉幕した。
日本は3日目に京都議定書延長に明確に反対し、
会議自体も低調に終わったようだ。
今回の日本政府の方針は前向きに評価できる。

1.定量的には意義の薄い京都議定書

二酸化炭素の排出は世界全体での排出量が問題であり、
その計測やインセンティブを全体的に管理することは不可能だ。
批准が各国の自由意志である以上、批准しない国はタックス・ヘイブンと
同様に経済的な恩恵を受けることができる。

実際に、削減目標に批准している国は拍子抜けするほど少ない。
EU諸国を除くと僅かに、日本、カナダ、ニュージーランド、
オーストラリア、ロシア、ウクライナの6カ国だけだ。
削減(あるいは抑制)目標に批准した国の二酸化炭素排出量は
世界全体の28%に過ぎない。
中国(22.3%)、米国(19.9%)、インド(5.5%)、韓国(1.7%)、
メキシコ(1.6%)、ブラジル(1.3%)、
など排出量の大きい多くの国は参加していない
(カッコ内は2007年時点の排出シェア。CDIAC/国連調べ)。
しかも、参加していない国の顔ぶれをみるに2010年時点では
削減に取り組む国の排出シェアは相当低下しているのは間違いない。


2.温暖化問題は重要か?

もちろん、生態系を破壊しないためには
気候の緩やかな変化が望ましい事は間違いない。
そして、水没しそうな国や美しいビーチを守るためには
程度問題とはいえ温暖化は進まないことが望ましい。

ヨーロッパ各国が90年以来、温室効果ガスの削減に
真面目に取り組んできたのは事実だ。
例えば、PPP GDP per Emissions
(CO2排出量当たりの購買力平価ベースGDP)という指標は
その値が高いほど、経済的豊かさに比して環境負荷が少ない、
すなわちエコロジカルであることを示すが、
EU連合は、2008年時点で3712(USD/ton)と
日本の3374(USD/ton)を上回っている。
産業構造が日本と比較的近いドイツの値も
3621($/ton)とやはり日本を上回っている。
以前の「日本のエネルギー効率は既に高いのでこれ以上上げられない」
というロジックは色あせて見える。

3.日本が取るべきポジション


一見、ヨーロッパに関しては京都議定書がうまくいってるように見えるが、
これはゼロサムゲームの勝者だけ見ているようなものだろう。
全体として上手くいく枠組みとは思えない。
そもそもそれで上手くいくのであれば、
ヨーロッパ諸国が他の国を熱心に勧誘する理由がない。
各地域が独自に温暖化対策を考えればいいだけだ。

このような難しい問題に対しては経済的なインセンティブを
用いて対処するのが最善の方法だ。

天然資源の価格が高騰すれば会議を開くことなしに
自動的に世界中の人々がもっとも効率の良い方法で
資源の節約≒二酸化炭素の排出抑制に取り組む。

京都議定書のようにすべてを管理する方法が長期的に
うまくいかないことは、共産圏の崩壊を見れば明らかである。
日本は、資本主義と矛盾しない合理的で実現可能な方法で
温暖効果ガスを削減することを国際社会に訴えるべきだ。

排出量が正確に計測できない以上、
天然資源の産出量をコントロールする方がまだ現実的だろう。
しかも全ての国の同意を取らなくても実行できる。

今や十分にエネルギー効率が向上したEUは相対的に恩恵を被るし、
同様に日本も世界的に見れば優位を保てる。
フリーマーケットを信奉するアメリカも強く反対しないだろうし、
資源価格の維持と資源枯渇の先延ばしが至上命題の産油国は賛成する。
賛同者を集めると同時に、相対的に不利な途上国を技術援助などの形で
懐柔しつつ、実力行使に出られるかどうかが勝負だ。


人類の息は見ることが出来ず形のないものだ。
見えざる手の方が形ある解決策を提案できるだろう。


---

補記:

こちらが私がニュースを最初に知った産経の記事

米国、New York Times もあまり会議を好意的には解釈していないように読める。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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No title

すみません気になったので

>京都議定書のようにすべてを管理する方法
議定書はあくまで国ごとの排出量上限なので全てを管理というのは言い過ぎかと。
現にEUは排出量取引という経済的なインセンティブを用いて対処していますし。

>排出量が正確に計測できない以上
化石燃料使用量で計測できませんか? 
特に化石燃料を採掘できない日本なら輸入辿れば正確かと。
農業特に牧畜が盛んな国はメタンなどにより正確ではないですが。

>天然資源の産出量をコントロールする方
産油国は規制に反対です。またOPECのようにフリーライドも簡単かと


>日本は、資本主義と矛盾しない合理的で実現可能な方法で
温室効果ガスはどの国が削減しても一緒というフリーライド可能な時点で
経済学的な意味で合理的かつ実現可能な方法というのは現実的ではないかと。
国際炭素税と協定締約国による相殺関税くらいでしょうか。WTOに提訴されるでしょうが。

No title

全てを管理というのは誇張かも知れませんが、いずれにしても、全てを計測しなければならずそれは現実的ではないと思います。使えるのは、化石燃料の合法的な輸入量といった非常に限られた統計です。排出量が測定できるとは言えず、使用量が計測できるともいえません。排出権取引は、アイデア自体としては良いと思うのですが、排出量をより詳細に調べる必要があるという点で無理があると思います。

産油国が規制に反対なのは、使用量を減らすことが価格下落に繋がると考えるからでしょう。OPECの存在をみても、価格主体で需要をコントロールするという考えには賛成のはずです。また、OPEC非加盟国が勝手に増産しても、OPECはそれなりの効果を持っています。

炭素税は良いアイデアだと思いますが、この手のものを世界中の国に守らせるというのは難しそうですね。国内的に需要を減らすのには使えると思いますが。


>経済学的な意味で合理的かつ実現可能な方法というのは現実的ではない

これは同意です。どこまでましな方法を考えられるかという問題ですね。

No title

色々雑記します。まとまっておりませんが。

京都議定書の内容は削減義務とその計算方法、達成できなかった場合のペナルティーであり、各国がどう減らすかについては言及されてないと記憶しています。

Willyさんのおっしゃる天然資源というのが何を指すのかですが、化石資源ということですよね? 森林資源を含めると話が合わなくなりそうなので・・・

おっしゃるとおり排出量の把握は簡単ではありませんね。でも化石資源の使用量をコントロールするだけでは、日本やカナダが森林への二酸化炭素固定で得られるはずの大幅加点が全く得られません。森林の保有や林業に対する何らかのインセンティブが必要です。なるべく若い木(成長が早い=吸収が多い)を育てるインセンティブも必要です。

また、一口に化石燃料の使用といっても、例えば石油からプラスチック製品が製造された場合、製品に含まれる炭素は、大気に排出されていません。焼却したときに二酸化炭素になります。長く使用するほど大気への排出を遅らせる効果があります。単純に使用量をコントロールするのではなく、焼却処分を避けることに対するインセンティブが必要です。

森林伐採の場合は、得られた木材を建築物などに使えば、二酸化炭素は排出されません。得られた木材を最終的に焼却させない、建築物を解体したら、分別に手間がかかっても他の用途へ転用するなどへのインセンティブが必要です。
(ただし現ルールでは、木材を切り出した瞬間に二酸化炭素として排出されたことにしています。木造住宅などの多い日本やカナダは大きく損しています)

結局のところ、いろいろな二酸化炭素の流れをなるべく見える化していかないと、経済的なインセンティブによる解決も難しいでしょう。

日本はキャップアンドトレード方式でやろうとしているので、それはうまくいかないと思いますが。

日本ではこれ以上エネルギー効率上げづらいのはそれなりに真実だと思います。鉄鋼業が盛んなどの産業構造ももちろんですが、排出量の算定方法で上述のように欧州から色々な不利を受けてるのも数字が伸びない一因でしょう。

京都議定書は1990年時点の排出量が基準ですから、つまり効率の悪い東ドイツが西ドイツと一緒になった年が基準なので、ドイツは最高に有利ですね。よく言われることですが。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程にてPhD取得。現在、米国の某州立大准教授。

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