アカデミックとインダストリーの狭間で -- このエントリーを含むはてなブックマーク

My Life in MIT Sloan の Lilac さんがブログを再開した。
再開を心から歓迎したい。
いつの間にかタイトルもMy Life `after' MIT Sloan に変わっている。
在学中の彼女のブログを読んで初めて
MBAプログラムの面白さを理解できたが、
卒業後のブログではどのようなトピックを扱っていくのか
今から楽しみである。

再開後はじめのエントリー(「私が人生の進路変更をした本当の理由」)は
アカデミックとインダストリー(企業部門)の間の進路選択に関して
多くの示唆を与えていると思う。

労働市場の閉鎖性をもち、
アカデミックとインダストリーの垣根が高い日本社会は
アカデミックを志す人にとっては非常にやりにくい。
Lilac さんの決断は結果として正解だったように思えるが、
不確実性のなかで決断したことに変わりはないだろう。

私が数学科の学生であった頃、
アカデミック・ポストは神格化されていると言っても過言ではなかった。
数学科における典型的なアドバイスは、
「数学に本当に興味があるなら数学者に向いているかも知れないが
数学者になりたい人は数学者には向いていない。」
とか、
「親類が大反対したくらいで諦めるなら最初から
数学なんてやらない方が良い。」
といった極端なものであった。
理想論としては正しいだろう。
しかし、ブッシュ元大統領が、
「国民の幸福を本当に望んでいるなら大統領に向いているか知れないが
大統領になりたい人は大統領に向いていない。」
と言ったら米国民はどう思うだろうか。

こうした極端なアドバイスは、
中途半端な決意の人にアカデミックの道を
諦めさせるというプラスの面がある反面、
アカデミックに残る決心をした人の人生設計を無茶苦茶にしたり、
優秀な人をアカデミックから遠ざけたりしているように思う。

僕が東大の数学科にいた頃、
天才と思えるほど数学ができる人もいた。
彼らに迷いはなかったように僕には思える。
しかし仮にそうであったとしても、そんな人は本当に一握りだ。
多くの人は、自分が本当にしたい仕事は何なのか自問し続け、
知的好奇心と安定した生活を天秤にかけて悩んでいるはずだ。

そして、それは若い頃の一時点で
結論がでるほど簡単な選択ではないように思える。
経験によっても条件は変わるし、分野が違えば適性も異なるだろう。

僕は昔から数学の研究者を夢見ていた。
修士の時に自分に数学の研究者は無理だと気づいて金融機関に就職。
その後、分野を変えて再び大学に戻ってきたが、
アカデミックが本当に向いているのかどうは今でも全く自信がない。
だめだったらもう一度別の道を選ぶことになるが、
その時はその時で18歳で大学に入学した時のように
また新しい気持ちで頑張りたいと思う。
高い給料はもらえないかも知れないが、
日本でも大学一年生は貧乏でもたいてい幸せだろう。
W大M校の私の同期(PhD)は10人ちょっとしかいないが
卒業から1~2年のうちに
一人は既にアカデミックから民間に転進し、
一人は既に民間からアカデミックに戻ってきた。
一人目はPhDを二つ持っており企業への就職は少なくとも2回目だ。
二人目は大学院に入る前にもウォール街でエンジニアの経験がある。

しかし日本は、そういう「自由な生き方」が依然として
非常に難しい場所のように思える。

博士修了者なりポスドク全員を教授にする必要は全くない。
しかし、日本は今、限られた人材資源の潜在能力を
最大限に生かせる仕組みをそれぞれの立場の人が
真剣に考えるべき時代だ。
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テーマ : 仕事
ジャンル : 就職・お仕事

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No title

産学連携関連の調査で、夏に日本の大学の先生と話しましたが、博士課程は外国人ばかり、しかも彼らには日本に残ってアカデミックや産業界で活躍する道が開かれていないので皆出身国に戻ってしまうと嘆かれていました。残念なことです。 


No title

NSさん:
日本は博士課程が経済システムの一部として機能していないですね。
企業部門が強いから今のところ大きな問題は生じていないということでしょう。

No title

縁起の悪い話で恐縮ですが、例えばWillyさんがテニュアを取れなかったとして、具体的な年齢は存じ上げませんがテニュアトラック期間の6年程度をギリギリまで引っ張らずに途中でギブアップしても30代半ばあたりになっていると思います。そこからでも民間就職は容易だ。となればこれはもう素晴らしいというか、学問をやりたい人間にとってはリスクなんて皆無としか言いようがないように思うのですが、このへんどうなんでしょうか。

No title

axeさん:

年齢が上がれば就職が不利になるということは当然あると思いますが、見つかるのではないかと私は考えています。僕の同期生には50歳前後の人もいますし。

Ph.Dはお得?

日本よりは柔軟なキャリアが得られるとはいえ、Ph.Dの価値についてはアメリカでも疑問がもたれているようですね。
http://www.economist.com/node/17723223?fsrc=scn/tw/te/mr/doctorate
まあ、日本でのんびりしてるよりは低リスクなのかもしれませんが。

No title

PhDは、基本的に学問を追及するための学位であって、ほとんどの場合5年間の自己投資としては経済的にペイしません。アメリカでももっとも経済的に合理的なのは修士です。統計でも一番「お得」なのは修士だと思います。ただエコノミストの記事のデータを見てもらうと分かりますが、それでも米国ではPhDを取ったために人生無茶苦茶になるということはありません。

OPT

はじめまして、いつもWillyさんのブログを楽しみに拝見しています。
今年中に卒業して大学か研究所で働きたいと思ってるので、
OPTについて質問をさせてください。

過去の記事を読むとWillyさんは大学の教員になった時には
まだABDだったと思うのですが、OPTはどうされたのでしょうか?
OPTを申請して働き始めたのでしょうか?
またABDの最中にOPTで働き始めた場合
労働時間の制限などはあったでしょうか?

差し支えなければお時間がある時にでも回答をお願いいたします。

No title

ABDの状態でもpost-graduation OPTは取れます。労働時間の制限はありません。

No title

あけましておめでとうございます。Willyさん。
本当、自分が思ったことをそのままやれるような自由な生き方がしたいなと感じます。
そのためにも・・・やはりスキルを毎日磨かないと駄目なんだとひしひしと感じます。

No title

Dehmelさん:

私もそう感じます。一生懸命やることというのは結局は自分の自由や幸せのためなんでしょうね。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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