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アメリカで数学を教えるということ -- このエントリーを含むはてなブックマーク

数学はユニバーサルな分野であることは疑いがないが、
日本の高校レベル、あるいはアメリカの学部中級レベルくらいまでは、
学生が期待する教え方は大きく異なるように思う。

1.アメリカでは簡潔な説明、日本では詳しい説明

アメリカ人の学生は簡潔な説明を好み、
日本の学生は詳しい説明を好む。

はじめにおかしいなと思ったのは米国W大M校の
大学院に入ったときのTAの研修の時だ。
現役のアメリカ人のTAが出てきて例題を一題解説した。
解説がギャップだらけでとてもじゃないが聞いてられない。
板書も汚い。しかし、教授陣の評価は上々である。
翌日、今度は自分が模擬授業をさせられた。
詳細な説明や板書で臨んだところ、
「回りくどいので簡潔に。
細かい話は必要なら後からすれば良い。」
と言われてしまった。

2.アメリカの教科書は冗長、日本の教科書は簡潔

アメリカの学部入門向け教科書は異常に冗長だ。
余計なことがだらだら書いてあるだけで紙の無駄である。
ちなみに、私が予習する時も教科書はあまり読まない。
目次と要点だけ掴んで教科書は閉じ、
自分で講義ノートを作る。

一方日本の教科書は、説明が簡潔すぎて
背景が分からないことがある。


3.アメリカでは対話を大事に、日本では板書を大事に

アメリカの学生はその場で理解できないと不満に思うし、
学生に向かって反応を聞き出しながら授業をする必要がある。
逆に質問を投げた時は、結構早く反応が返ってくる。

日本は難しいことをノートに書き写して
あとでじっくり考える、というタイプが多い。
日本の予備校講師になるときに言われた事は、
「授業が終わったら生徒にはノートしか残らないんですよ」
ということだ。
日本の予備校で教えた時に、
海外で博士を取った人が数学を教えていたが、
評判が悪くてすぐにいなくなってしまった。


4.アメリカでは自信を持って淀みなく、日本では一所懸命に

日本の予備校で教えていた頃、
ベテランの先生から聞いた話が興味深かった。いわく、
「毎年同じ内容のクラスを持っていて、
少しずつだが改良も加えている。
教え方もより良くなっているはずなのに
なぜか何年も経つと評判が落ちてしまう。」

日本では、新米の先生が一所懸命に伝える
ということに対するウケが良い。

一方で、アメリカの大学の授業では全く逆だ。
全く同じスライドを使って授業をしても、
そのたびに評価は上がっていく。
細かいニーズを拾って改良したりすればなお良い。
あくまでも豊富な経験に基づいた自信に満ちた
授業が好まれる。

5.アメリカでは採点を甘く、日本では成績を甘く


以前にも少し書いたが、
アメリカ人は甘やかされて育てられるので、
間違いを指摘されるのが嫌いだ。
子供が公文式の計算ドリルをやった後で先生に誤りを指摘されると
「一生懸命やったからあっているはずだ!」
と文句を言う子供も結構いるそうである。
数学では誤答を正答にすることはできないが
試験問題が難しかったり、採点が正確であったりすると
自分の名誉が傷つけられたと感じる学生が結構いるようだ。

一方、日本の大学の成績には甘えの構造がある。
内容を理解していなくても単位が与えられ、
単位認定が厳しい教官は「鬼だ」と後ろ指を指される。
これはこれで理不尽というほかない。



そこまで違いが分かっているなら
その国に応じた教え方をすればいいのでは?
ということになるのだが、
そもそも教えるという行為は
過去に自分がやった方法を模倣させるという側面が強く

なかなか上手く割り切れないところが多い。

そして日本の数学教育は米国より優れているのだ、
という自負もそうした割り切りを難しくしている。

米国の大学で教えるということは、
語学のハンディを乗り越えるということだけではないと思う。
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テーマ : 教師のお仕事
ジャンル : 学校・教育

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アメリカで数学を教えるということ

アメリカで数学を教えるということ 日本人がアメリカに行って馴染んで生活するのには、ある種の才能が必要な気がする。 一番大切なのは、楽天的であることかなぁ(留学経験なしな俺の勝手な想像)。

コメントの投稿

非公開コメント

No title

教科書はアメリカ式で、授業は日本式が自分には合ってるな

No title

アルバイトとはいえ、そういう教える仕事をしているとかつて自分がやっていた方法やそれに改良を加えた方法で教えています。(これが必ずしも正しいのかは分かりません。
本当、東大出版の解析入門や高木貞治の解析概論理解するのは中々大変です。
とはいえ授業の前にそういう本を読んで、理解が深まるなと感じます。(当然逆もしかりです。
確かに生徒に板書しか残りませんが・・・、自分はその講師の話を聞くことに注意を置いて、メモも取るようにしてます!

No title

名無しさん:

理解の仕方はいろいろですからね。
アメリカ人の学生に「俺、このコースの教科書気にいってるよ!」
とか言われると逆にガックリくることがあります(笑)。

Dehmelさん:

解析概論は使ったことないですが、東大出版の解析入門はキレイに書かれていると思います。ただ、定理の引用が多すぎて時々参りましたが(笑)。あと、あれ厚過ぎですよね。大学が出す本はいろんな人が口を挟むから仕方がないかもしれませんが。

なるほど

最近アメリカの大学でFreshmen向けのTAを始めた者です。
日本でも大勢の前で教えた経験はないこともあり、今かなり苦労しているので、この記事は参考になります。特に(1)は、私もTAのディスカッションマニュアルの模範解答に穴が多いなと感じ、そのままでは学生が理解不能なのではないかと思って悶々としていたので、納得です。

なお私の分野の場合、日本の教科書はレジュメを束ねただけのような簡潔すぎるものが多く、理解が難しかったり、役に立たなかったりすることがしばしばです。

こちらの学生の中には、1000点中の1点まで必死で上げようとして来る学生が一定数いて驚きます。Premedなど、好成績をとる必要性のある学生かもしれません。

No title

留学生さん:

実際のところ、計算はできるけど理解してないケースは多いと思います。
統計の授業では計算問題をやると大体解いてきますが、簡単な○×問題を10問
出すと正答率は5割前後ですね。5割割ることもありますw

No title

非常に興味深く拝読しました.
講義をする機会はないのですが,
ふらんすの学生さんを教育する上でイチバン困るのは,
彼らが幼い頃から,「ふらんすの教育は世界で最高のモノだ」と教育をされて
育っていることです.教える内容,教え方の善し悪しまで辿り着かず,
彼らに聞く耳を持ってもらう前に心が折れますw.

この国もこうしてガラパゴッて行くんだろうなぁと思います.
愛国教育も程度もんだと思います.

No title

日本は教員が怠慢な部分があるので教育を語る次元に達してないと思うんですよね。アメリカに滞在した時に博士1年の学生(日本の学部レベルの知識もおぼつかない)が論文書いてると言っててびっくりしました。

実践主義というか、教員の負担がかなりのものになりますが学生からすればこちらの方がメリットがあると思いますね。
例えば実解析やるなら、だいたいの分野で可積分性を仮定しますし、してしまえば連続性だの何だのの出番は大してありませんから、εδで挫折させるよりは適当に進めて実践的な不等式を用いた評価法を教えた方がマシでしょう。日本だと例えばヤングやヘルダー程度が学部の知識でナッシュの不等式は教えませんが、アメリカだとεδは手抜きだけどナッシュやポアンカレの不等式も教えてるみたいですね。

No title

カメさん:

あれ、どこかで拝見したようなお名前のような。
フランスは旅行するには良さそうですが外国人が暮すのは大変そうですね。
そういえば、フランスは"よく考えて書くように"ということで小さいころから
(消ゴムを使う)鉛筆ではなくてペンを使うというのは本当でしょうか?
いま、ベトナム人の学生が二人いるのですが、宿題をペンで書いてきます。
字とかは曲がってるのに、一箇所も直してないし、1ページにきれいに
おさめてくるんです。もしかしたらフランス文化の影響なのではないかと。

No title

axeさん:

アメリカの数学の教科書とか見ると、日本で細かいところに拘ったのは
なんだったんだと思ったりすることもあります。僕はむしろε-δとか
好きでしたが、形式的なことに拘りすぎてたんじゃないかと今は思います。
(ただし、今は数学はやってません)。

博士1年はアメリカでは普通は論文書いてないと思います。
コースワークの宿題に忙殺される日々でしょう。
日本の方が論文書いていると思います。

No title

とりあえず俺と踊ろうさん:

楽天的というか、いろんな事態を想定しておくということでしょうね。例えば、入国審査の時なんて間違えられると大変なので、審査官以上に目を光らせています。2箇所の間違いをビシッと指摘された審査官は逆切れ気味でしたが。

アメリカ人は大体楽天的なのかなと以前は思っていたのですが、何年か住んでみるとそうでもないかな、という気もしてきます。外国人の立場だと細かい事情が見えないのでそういう気がするんじゃないかと思います。

No title

>> "よく考えて書くように"ということで小さいころから
>> (消ゴムを使う)鉛筆ではなくてペンを使う

そういう話をMoroccanから聞いたことがあります.

ふらんすに着いた頃にはそういう文化にも興味があって,
あれやこれやと訊いていたのですが,
なにせコミュニケーションに難があるのと,
ふらんす人への興味が薄れたため,
残念ながらふらんすの事情についてはよく分かりません(苦笑.

同感!

現在Big10のうちの一校でAssistant Professorしてます。2年目です。

全く同感ですね…
日本で教えてもそれなりに苦労はあるわけですが、クレームの多さや解答の粗雑さなど自分の育った教育カルチャーとのギャップにうんざりする毎日です。

ついつい、70点平均点で60点以上取れれば合格かな、50点だったらちょっとレポートでも再提出させて・・・という感じのデザインにしてしまうので、90点取れないと真っ青になってOffice Hourに駆け込んでくるアメリカ人学生となかなか折り合いがつきません。
試験易しくしても、採点はつい厳しくしてしまうし。

難しいですね。

お互い頑張りましょうー。

No title

Mさん:
はじめまして。Big10というと中西部ですね。
アメリカはどこの大学でもそうでしょうね。
「ググレカス」という言葉が日本にはありますが、
米国の学部生には「シラバス嫁」と言いたいところです。
80点でAとか書いてるのに。
数学で平均点70点以上のテストを作ろうとすると、
宿題と全く同じ問題で数字だけ変更するくらいでないとダメなので
やりたくありません(笑)。

統計学!

レモンさんのところから来たHanaです。
Willyさんは統計学のPhDですか~!
さすがにUCSDのデータ収集がすばやかった訳ですね。
これからブログ読ませてください。
それからプロフィールのところに写っている白い子は、猫ちゃんですか?

No title

Hanaさん:
閲覧ありがとうございます。

>白い子は、猫ちゃんですか?

ぬ、ぬいぐるみの犬です。
ブログタイトルだって、犬の鳴き声になってるじゃないですか。

No title

初めまして。TwitterのRT経由で来ました。僕もアメリカでPhD取って、デトロイト圏の州立大学で教えてるので、共感するところがたくさあんあります。特に「語学のハンディを乗り越えるということだけではない」というのは、僕も大学院生として教えてたときから思ったことです。もちろん英語がうまいにこしたことはないですし、「こいつのアクセントのせいでわからない」という言い訳を聞かなくていいだけましですけど、英語が下手でもWillyさんが書かれたことに留意すれば、よい授業が出来ると僕も信じています。

No title

TOさん:

お互い頑張りましょう。ミシガンの人は、英語の発音もきれいですし大人しい人が多いので、
外国人が教えるには良い場所だと思っています。西海岸はなかなか難しいようですね。ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州では、結構な文句が出るようです。

こんにちは。楽しく読ませてもらいました。このブログを今後も参考にさせてもらいます。ありがとうございました。

No title

アメリカの高校の数学のレベルってどうなんでしょうか?
SAT見ると結構簡単で日本に比べてかなり低いというか
進度が遅い気がしますがどうなんですかね?

No title

>アメリカの高校の数学のレベルってどうなんでしょうか?

私が高校生だった頃に比べれば2年遅れ、高校のAPコースを全部取れば同じくらいではないかと思います。ただ、アメリカの教科書って雑な感じがしますけどね。

最近、ミシガンの高校生対象の数学コンテストの問題と得点結果を見たんですが、問題は易しいのに、ちゃんと得点出来てる人が数えるほどしかいない。上位層も相当薄くなっているのでは、という印象を受けました。

No title

2年遅れですか
結構遅いですね。飛び級する学生とかは日本の学生より数学でも優秀だったりするんですかね?

No title

>飛び級する学生とかは日本の学生より数学でも優秀だったりするんですかね?

能力のばらつきは米国の方が大きいのは間違いないと思いますが、近年は
飛び級する人ってそんなに多くないですね。ミシガン大の入学者で2%くらいです。

No title

よくアメリカの大学生は入学時のレベルは低いけど中で高度な事を勉強するから凄い
日本人は入学時はアメリカ人より上だけど卒業時は下になってるなんて聞きますが
これは本当なんでしょうか?

No title

アメリカの小学校でエイドの仕事をしていて、算数のクラスをサポートする仕事が結構あるのですが、その教え方にかなりイライラしてしまいます。

日本の教え方の方が上だ、アメリカはオカシイ!

と思っている自分がいるのだと思います。

が、とにかくアメリカ式に教えるしかないんですよね、補助ですから。

小学校だととくに高学年で気がついたのが先生の数学レベルの低さ、というか、年中間違えるんです。「誰でも間違える」と先生本人がいいますし、そりゃー人間だから、と思いますが、ちょっとそれは準備不足?理解不足では?なんていう場面もしばしば。。。

この先生に教えられるんだから、生徒はたまったもんじゃないですよね。

5年生になるとすでに「わたしはもう大学には行かないからできなくてもいい。」なんてあきらめている子もいて、ああ、もっと日本みたいに教えたら、もう少し底辺のレベルを上げられるんじゃないか、なんてことも思いますが、日本だって上から下までの差は激しいですからね。

こちらのブログでExtraMathというのを教えていただいてよかったです。公文も通わせたのですが、お金もかかるし、うちの下の子の場合、あのサイトでかなりしっかり基本的計算ができるようになったと思います。

5年生でも九九を覚えていない子がざらにいるアメリカで、うちの娘の算数的センスというか、そういうものはものすごく低いと思いますが、おかげさまでAがとれるのは、九九は日本語で丸暗記させ、ほかの計算も3~4年生くらいまでですがしつこくやらせたてよかったです。

なんとかなんないんですかねえ~。1~2年生の算数のクラスを手伝っていても、はらはらです。

No title

かきつばたさん

日本の学校の算数の教科書は非常によくできていますね。子供に算数を教えるとして、あれ以上の教材を思いつきません。編集者の方が優秀で、おそらく現場からのフィードバックもうまく活かしているのでしょう。公文の算数は計算練習にはある程度役立つかも知れませんが、あくまで補助的な教材ですね。

Extra Mathのようなサイトも、米国だと結局のところ、真面目にやる子とやらない子の格差が開く方向に働いてしまっているように思います。娘やその友達も小1、小2の頃は一生懸命やっていましたが、小3になるともうやっていません。でも、まだ出来てない子もいるはず。。

米国の教育はプレッシャーが足りないですね。60年代とかにもう少しうまくいっていたのは、冷戦のプレッシャーがあったからだと思います。次に米国が真面目に初等教育やるとすれば、中国に侵略されそうになった時ですかね。

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プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程にてPhD取得。現在、米国の某州立大准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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