数学者とグローバル化 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

数学者、特に純粋数学をやっている人は
エンジニアリングやビジネスとの接点がほとんどないし、ある意味
社会のダイナミックな変化から一番遠いところにいる
と言える。彼らの給料は、
伝統的に高等教育と国の文化予算から出ており
社会のダイナミズムからはおおよそ切り離されている。

しかし面白いのは、それにも関わらず
数学者はグローバル化の影響をもっとも早く大きく
受けたのではないかという事だ。


ソビエト連邦が崩壊して真っ先に起こったことは、
旧共産圏から大量の数学者が流出したことだった。
もちろん、他のサイエンスでもエンジニアリングでも
同様の人材流出は相当程度あったと思うが、
数学分野はインパクトの大きさと速さに関して
最大の影響を受けた一つではないかと思う。
アメリカの数学者の雇用環境が外国人に奪われて
悪化したのはもう20年近くも前の事だ。
これは、製造業の仕事を中国に奪われたり、
サービス業の仕事をインドに奪われ始めるよりも
ずっと昔の事である。
これにはいくつかの理由があるだろう。

一つは、言葉の壁が小さい事だ。
数学はそれ自体一種の言語であることから、
それを学ぶ人、研究する人の母国語を選ばない。
数学者はためらいもなく、他の国で仕事を探す事ができる。

もう一つの理由は、大規模な設備やチームが
(今のところ)あまり必要ないことだ。
エンジニアリングのように、多くの人と設備による
有機的なつながりによって初めて成り立つような
分野では、海外に移るのにコストは大きい。
身一つでどこにでも移動する事ができる理論分野では
人の動きが早い。

それに加えて、大学の研究者は元々人材の流動性が高い。
トヨタの部長がフォードに転職するよりも、
東大の教授がハーバード大に転職するほうが
壁は相当低いだろう。

日本でも頭脳流出が話題になることはたまにあるが、
幸か不幸か今のところ大きな流れにはなっていない。
しかし、日本の数学者が大量に海外に渡りはじめたら
それは日本と他国との間の人の流れが変わる大きな
シグナルになるだろう。


(そんなことは、すぐには起こらないと思うけれど。)
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ジャンル : 政治・経済

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日本の数学者

Willy さん
日本の数学者のレベルって、高いのでしょうか、低いのでしょうか?

私は、藤原正彦ですっかり、日本の数学者は、だめだというイメージが固まってしまいました。「国家の品格」では無く、ミシガン大学への留学記「若き数学者のアメリカ 」をずっと前に読んだ時からです。

一方で、フェルマーの定理の証明に貢献した谷山・志村のお二人とかいるので、本との所はどうなのだろうと思います。

これらの人は、ちょっと古いので、最新の様子を教えて頂ければ幸いです。

No title

依然として優秀な方は結構多いと思いますよ。純粋数学やってる人なんかだと日本人研究者の名前はよく出てきます。確率・統計分野も、伊藤清とか赤池弘次は、数学科の人ですが、統計学科の学生なら全員知っていると思います。近年お二人共亡くなりましたが…。

藤原正彦先生は作家ですから。本が面白いかどうかは別ですけど。

No title

エントリーには直接関係ありませんが、人材移動ということで…
教え子が留学したいと言ってます。
私の力ですと紹介先がイタリアとかポーランドとかになってしまって、いわゆる学費タダで生活費支給みたいな感じの所にねじ込めそうにありません。

留学希望者が集まるコミュニティでも話が全く通じなくて苦労してるみたいです。
例えば積極的に国際会議に出てアピールせよとか言われるみたいですが、数学じゃ無理だろうって話ですよね。論文もまあ無理です。
となると書類のみでの勝負になっちゃって、こうなると中韓の学生を相手にすると分が悪いです。GREのsubjectテストでしたっけ。あれも満点を取ってくるかはわかりませんが、たいした差はつかないでしょう。

私は応用寄りのことをやってるので、日本では肩身が狭いってのもあるのですが、そもそも研究者が少なすぎて中々情報を仕入れられず困ってます。

Willyさんの留学経験に基づくエントリー
http://wofwof.blog60.fc2.com/blog-entry-172.htmlも拝見したんですが、アイビーみたいな一流校でも入学前の段階から論文をpublishしてる学生は調べた限りではいませんでした。ですから結局は書類勝負なんでしょうかね。
W大M校は2010年のランキングでは16位で、ここに通れば万々歳だと思いますが、ここより下のWashington大の知り合いに聞いたところPhD候補は年に5名しか取らず、更に下は何人募集して審査してみたいな入試プロセスがそもそも成立してないと言ってました。


無い知恵を絞って考えましたが、サーベイでも書いてarXivに投げるか、日本の博士に進んで論文出しつつ長期戦を覚悟するぐらいしか思いつきません。

Willyさんは一発で合格されてますが、このあたりのことについてどのように感じられますか。客観的な指標を用いて差別化を図れないので全く予想がつかないし、アファーマティブアクションのようなことが日本人に適用されるかもわからないし。日本の雇用状況を考えると留学した方が良いので、止めとけとも言いにくいですし。私がメールしても学生と同じ扱いで余裕で無視されるし(笑)かなり困ってます。

No title

axe`さん:
一番、現実的かつ手っ取り早いのはどこかの学界で会った研究者と知り合いになって推薦状を書いてもらうということかも知れません。

WS大の数学科は、若手はそもそも大学院のアドミッションにタッチさせてもらえていないのでよく分かりません。WS大でやっている分野であればご相談を取り次ぐことは可能ですが、その先には私には何もする力がありません。専攻は基本的に過去の例との比較でどのくらい成功できそうかということを見て決めていると思います。過去に日本人の入学者がいて、しかもその実力を認められていると後の日本人出願者は有利になります。

統計学に関しては中国人が多すぎるので、日本人の出願は目に付きやすいということは言えます。有利かどうかは分かりませんが、GREの点が低くても取りあえず願書を見てくれる可能性は高いと思います。私はW大M校に関しては少しコネクションのある先生に推薦状をもらいましたが、他の大学からも一件オファーは来たのでいろいろと工作をしなくても可能性はあると思います。

「サーベイでも書いてarXivに投げる」というのは悪くない案かなと思います。

No title

お心遣いありがとうございます。もう退官されて名誉教授になられた学生時代の師匠に連絡して一緒に国際電話をかけてきました。
お爺ちゃんとオッサンとが交替しつつ電話をかけるのは中々シュールな光景でした。

アイビー含めていくつか連絡をしたところ、数学ではGRE math subjectで足切りをやってるみたいです。なので留学で一般的に言われてることはあまり当てはまらないみたいですね。

Willyさんも上位4%ということなので、何だかんだでここでかなり評価されたのかもしれません。これを受けるのは大学院で数学をやりたい学生ばかりですから、かなりアピールとなる材料でしょう。
中国人は意外と取れないみたいです。理由はわかりません。

とりあえず何を置いてもsubjectを必死にやれということは言っておきます。もしWillyさんが留学希望者に似たようなことを聞かれたらsubjectをやれと教えてあげてください。

No title

axeさん:

確かに、math subject test って基礎的数学力を測る上では一番意味のありそうな試験なんですよね。統計学科では、必須にしているところ以外はほとんど見ていないと思います。僕も数学科を受ければ良かったのかな。でも、数学はもうやりたくなかったし(笑)。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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