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日本が英語力向上に関して取り組むべきこと -- このエントリーを含むはてなブックマーク

ここ1~2年の日本のマスコミが急に
「若者の内向き志向」だとか「若者はもっと海外に目を向けるべき」
みたいなことを盛んに言い始めて、
アメリカにいても面食らうほどだ。

たしかに「縮小する日本」ではビジネスチャンスは小さくなるし
研究リソースも少なくなるから、より多くの人や企業が
海外に出て行かないどいけないというのはある程度正しい。

一方で、
大多数の日本人にとって英語の習得が必要なのかは正直疑問だし、
実現可能であるかどうかも相当疑わしい。
個別の論点については過去に何度か論じてきたが(*1)
どうやら英語教育に関するそうした違和感は、
日本の強すぎる横並び意識から来ているのではないか、
と思うようになった。

(*1)参考:
「小学校の英語教育は必要か?」
「企業はなぜTOEICに拘るのか?」

簡単のため、英語力と専門能力をそれぞれ3レベルに分けて考えよう。
大まかな目安として、上位1%、上位10%、それ以下、
の3分類と考えて頂ければ良い。
すると国民は3×3で合計9つの層に分かれる。
どちらの能力でも上位1%に入らない人が
社会的に重要な役割を果たすとは考えられないので
どちらかの能力において上位1%に入る人の分布を考える。
日本の各年次で言えば2~3万人、労働人口で言えば
百万人前後が対象になる。

私は、英語力あるいは専門能力で上位1%に入る日本人が
例えば、中国や韓国などに負けているとは思っていない。

日本の平均的教育水準は高いし、高い所得を背景に「生の英語」
にアクセスできる機会も豊富に存在する。

しかし、問題は2つの能力の組み合わせだ。
日本人の分布を特徴を極端に言えば、下図のようになっている。
濃いグレーは比率が比較的高いグループである。
英語力-日本人

右下のセルに入る典型的な人たちは、
英語のしゃべれないプロ野球選手や研究者、大企業の経営者などであり、
左上のセルに入るのは、
英語好きの語学留学生や、海外生活の長い帰国子女などである。


一方で、米国より所得がかなり低い国の出身者の分布は
大雑把に言えば下図のようになっている。


英語力-日本人以外


そうした国の出身者にとっては
英語を身につけて米国などで活躍することは
専門知識の習得や経済的繁栄にとって必要条件であるので
優秀な人ほど高いモチベーションを持って語学を習得する。
国内に留まるのは「少し落ちる」人材であるし、
一方で「英語が好き」という理由だけで高い語学力を
身につけるだけの環境は整っていない。
例えば、普通の中国人やインド人が米国への語学留学のために
ビザをもらうことはできない。大多数の人にはお金もない。


この二つの分布を比べれば、何が違うのかは明らかだろう。
日本は専門能力と語学力を兼ね備えた人材が不足しているのだ。
そうした事実は、経営、研究、政治といった分野で
日本のプレゼンスを保つ事が難しいことを意味する。
これまでの日本は、高い技術力と経済力でそうしたマイナス面をカバーしてきたが、
こうしたアドバンテージは今後小さくなっていく可能性が高い。

そんななか、日本から出てくる英語教育関係の施策は
相変わらず下図で表されるような内容だ。


英語力-日本人が考える

政府は、小学校の英語教育のようにマスを対象とした施策を中心に考えているし、
大企業は、社員の英語力の「底上げ」を目指して管理職に
TOEICのスコアを義務づけたりしている。
こうした施策は、乱暴に言えば、
「割とどうでもいい人」を別のセルに移動させているに過ぎず予算の無駄だ。

日本が本当に考えなければいけないのは下図の矢印だろう。
矢印は細くなるので、より集中的に投資する事が出来る。

英語力-やるべき

例えば、右下段から右中段、右上段への矢印としては、
優秀な生徒を集める難関国立中学
に入学した生徒を全員1年間国費で留学させてみる。
3000人いるとしても、年100億円位あれば可能だろう。
全員が、将来高い専門能力をつけて活躍するわけではないが、
その比率を考えれば十分にペイする投資になると思われる。

上段左から中央、右への矢印としては、
やはり日本の大学なり企業なりが、
語学のできる人材に投資して専門能力を引き上げる努力をもう少しするべきだろう。
既に人材獲得に窮して帰国生をたくさん受けいている大学はともかく、
伝統的な日本企業はこれまで多様な学生を取ろうとする意識が低かった。
ただし、これまで人を見てきた経験からすると
この右向きの矢印は上向きの矢印よりも難しいように思える。
しかしもしそうだとすれば、今の政府がやっていることは尚更
「行き場のない人を増やしている」ということに気付く。

教育の機会平等はもちろん大事だが、
戦略的に人材に投資することは
最終的に一国の平均的な豊かさを引き上げる上で重要なことだ。


-----------
追記:

> 自分は今どこにいるのか、どこを目指すのかを考えてみる。

>「俺みたいなエリート様に金を使え」と言うブログ主の汚い精神が見えてくるやらしい記事。

上の二つのはてブコメントに触発されて一言。
多分、3×3の表で言うと、自分の位置は中央か甘めに見ても中段右。
「右上に行きたかった」という気持ちがないと言えばウソになるが、もはや一生辿り付く事はなさそうだ。
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テーマ : 英語
ジャンル : 学校・教育

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No title

記事の下に小さな文字で謙遜されてますが、博士号を取った人はやはり専門性で上位1%に入るでしょうし、アメリカの大学院に入学出来るほどの英語力があれば英語でも上位1%には入ると思いますよ。

優秀な人は周りも優秀なので普通の人の能力を高く見積もりすぎてるんじゃないでしょうか(笑)。

No title

おっしゃるとおりと思います。
英語できない人を英語力が必要なポストにつけているだけかと。
非専門家を専門性が必要なポストにつけている構造もありますが。
私の町では英語より中国語が必要となることの方が多いです。

No title

Ryoさん:

もしそうだとしたら、語学力は日本人の上位1%じゃ不十分ってことだと思います。

DionysiusQさん:

中国語の重要性は増していますね。英語以外のマイナー言語は、
余計に必要な人と出来る人の重なりが少ないように思います。
基本的には日本語できる中国人を日本に呼んだ方が早そうですが、
きっかけづくりとしてちょっと話せることが重要という話を聞きます。

No title

日本の一般的なエリートは日本社会で完結できる生き方を具現している人のことを指すと思うので、わざわざ海外流出を促すようなことを自らできるだろうかという点は疑問です。一般人の間では外資系に就職という道が「勝ち組」(死語)などとしてもう語られているところをみても、そんな歪みの部分から徐々に勝手に変化していくのではないかな、とも思います。施策は後追いになって・・・

一方若者は海外へ行けという論調は、戦前のように、国内では賄いきれないから自主的に南米や他の国に出て行ってください、という解釈もありかなと思ってます。そんな意味なら政府がマスに英語教育を躍起になって施すのも間違いではないような。英語でなくてもいいんですが、他の言語はどうも汎用性に欠けます。

No title

毒之助さん:

国内で賄いきれないから海外へ行ってくれ、というのは実際本音でしょうね。
これは必ずしもネガティブな面ばかりではないと思います。
アカデミックな研究は日本国内のリソースだけで大量の人材を育てることは無理なので
日本人研究者をたくさん育成しようと思えば、海外に行けと言うしかありません。
ビジネスの分野に関しても、日本人が色んな国に行ってネットワークを広げておけば、
日本にとっては商売がやりやすくなるメリットがあると思います。

No title

お久しぶりです。

右下段から右上段へシフトするほうが、左下段から左上段へシフトするのより短時間でできそうですね。
日本人のいう満足できる英語力(所謂、英語ペラペラ)って、周りに日本人がいない英語圏でガチで一年生活すれば手に入るでしょう。専門性の分野にもよりますが、数学を専門とする場合、小さい頃からの継続的思考訓練なしには手に入らないと思います。

No title

yumiさん:

>周りに日本人がいない英語圏でガチで一年生活すれば手に入るでしょう。

これは耳の良さや社交性、語学のセンスによるし、
留学した年齢にもよると思うんですよ。僕には無理だなあ。

また、日本人が若年期に訓練が数学とか物理などをやる場合、
キャパシティーの大きい人じゃないと
専門能力と語学能力にトレードオフが発生してしまうと思います。

yumi さんは、右上に入れる可能性の高い数少ない日本人ですよ。

No title

いつも更新楽しみにしております。
ひとつどーでも良い質問なのですが、

>大まかな目安として、上位1%、上位10%、それ以下、
>の3分類と考えて頂ければ良い。
>すると国民は3×3で合計9つの層に分かれる。

ここでパーセンテージをもって分類しているので、記事中の図のひとつひとつのマスの大きさは人数を現していますよね?
濃淡(文中では「比率が高い」)は何を現しているんでしょうか?

濃淡は何を表すか

>マスの大きさは人数を現していますよね?
>濃淡(文中では「比率が高い」)は何を

僕の想像:
面積は、2つの能力に相関がないと仮定した場合の人数比。
濃淡は、その仮定を採用しない、現実の人数比。

No title

>面積は、2つの能力に相関がないと仮定した場合の人数比。
>濃淡は、その仮定を採用しない、現実の人数比。

論理的にきちんと表現すればそういうことになります。

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No title

アメリカは民主主義とは言っても実は1%の天才が動かしている国だという印象を持っているので、この才能集約型の教育案はとてもアメリカ的だなと思いました。
こうしてピンポイントで投資するか、広く浅く投資するかが日米の教育の大きな違いですね。

この、グラフ?図?、はとても分かり易いです。
教科書や新聞も、こういう風に説明して欲しいものです。

No title

わかりやすい説明ですね~ いつもこんなにわかりやすく学生さんたちもご指導されてるのですか?(私も習いたい)

上部と右側の引き上げを図れば、自然に真ん中のマスの部分も底上げされるのでは、と思います。 目に見える形でメリットがわかれば、ある時点でマスの層が一斉により実践的な英語力!と動き出すような。 今は頭ではわかっていても、実感わかない人が多い。 

ご報告遅れましたが、ツイッターで記事をご紹介させていただきました。

No title

Hanaさん:

まあ日本はトップ1%がなんだかなぁって感じがありますからね。
確かに、日本の新聞、マスコミは分かりにくい。
書いてる人も分かってないのかも知れないですが。
池上彰さんが売れっ子になって、彼のごく当たり前の説明に
みんなが「分かり易い!」と言い始めた時
「あ、みんなニュース分かってなかったんだ」と思いました。

NSさん:
>いつもこんなにわかりやすく学生さんたちもご指導されてるのですか?

まあ僕が教えてるのは単なる数学ですからね…。
統計は、なるべく面白くて分かり易い例を使うように
してますがなかなか難しいところです。

No title

やっぱり学校行っているうちに英語はやっいた方がいいね。
正直普通にサラリーマンやってたりする人は英語いらないもんねぇ。。

No title

ライダーさん:

英語はできれば早いうちにやった方がいいですね。
でも、必要になるのはサラリーマンになってからですよ。
僕はサラリーマンになってから英語の勉強始めたくらいですから(笑)。

で、サラリーマンになってからも英語が必要にならない人は
最初からやらなくていいだろ、と、そういうことです。

No title

グラフの濃淡について、回答ありがとうございました。良くわかりました。

No title

英語教育だけに限らず、アメリカはトップ1%の育て方が半端でないですよね。
小学生でSAT満点のような子供たちを囲い込み、ミツバチがある一匹にローヤルゼリーを与えて女王蜂にするような支援体制があります。
日本は上位1%に入るような子がいても、逆に周囲から叩かれたりして、自覚も無いままに育ってしまうのではないでしょうか。
この辺りを国策として変えていく必要は確かにあると思います。
何か・・・トピックスからずれましたね。

No title

日本人トップ1%の英語力が低いというのは、その通りだと思うのですが、これの改善方法として、私は違う意見を持っています。

欧米の大学にいる中国人やインド人のエリートは非常に優秀ですし、英語の問題も殆どないように見えます。その一方で、そこまで優秀でない中国人やインド人も、都市部の大学にはいっぱいいます。研究室で言えば、ポスドクやテクニシャン、学生としとして、あらゆる層に進出しています。もちろん学外にもいっぱいいます。つまり、中国やインドから来る留学生や移民は、語学留学と言う形ではなくても、十分に大きなピラミッドの底辺を形成しているのです。

スポーツでもそうですが、トップの国際競争力を根本的に上げるためには、ピラミッド底辺から拡張するしかありません。日本人エリートの英語力の低さは、小手先の技術でなんとかなるレベルではありません。既に大人になった人達の英語力を上げるのはコストパフォーマンスが悪いので、将来を担う子供達の外国語能力を徹底して向上させる事が肝要だと思います。

No title

Chizさん:

子供の頃から外国語をやるということはある程度必要でしょうね。
ただ、そのために政策的に「底上げ」を図るべきかどうかはかなり疑問です。
日本では一生英語が必要ない人が依然として大半を占めているからです。
ある程度以上のレベルに達した人を優遇して育成する事で
そこに入りたい人が自主的に努力し、そうした競争によって人材の厚みが形成される
というのがあるべき姿でしょう。

戦後の日本が高い教育水準を達成できたのも
大学ブランドによる優遇というインセンティブによってみんなが必死に勉強したからです。

No title

Willyさんのおっしゃるとおり、英語教育を全員にする必要は無いと私も思っています。ただ、海外に来て子供の英語習得の速度を見ていますと、(希望者には)5歳くらいから語学教育を始めるのが、コストパフォーマンスの観点からは望ましいと考えています。これを実現するためには新しい政策が必要になります。

私の住んでいる地域では、公立のイマージョン・スクールが沢山あって相当な人気です。成果もそれなりに出ているようです。外国語による義務教育を日本で行うためにはクリアすべき規制が沢山ありますが、規制緩和さえできれば競争原理が働き、語学教育を含めた質の高いサービスを低コストで提供出来るでしょう。

現在の日本人の大半が外国語を必要としていないのは事実ですが、逆に外国語が堪能になれば海外に飛び出す日本人が増えることも予想されます。その中には、それぞれの分野で超一流になる人も出てくるでしょう。どの子供がどの分野で超一流になるかは誰も予想できないので、ある程度広く教育することは必要だと思います。

No title

外国語を小さい頃からということに異論はありません。

自分の知人を見る限り日本人で一番うまくいってるのは
小学生時代のある程度の期間を海外で過ごし、
その後日本に帰ってきて高等教育を受け、
その後に再び海外へというケースです。
これは親が海外駐在員、外務官僚、在外研究者などだったため
たまたまそうなったというケースが多いと思うのですが、
こうした環境を(国内であっても)全国民に
提供できるほどの教育リソースはないと思います。
イギリスの植民地だった香港ですら英語教育は
あまり上手くいかなかったと私は認識しています。

もし小学生に外国語教育をするのなら、まずは日本語能力で選抜を行い、
年齢相当よりも言語能力が高い子に限定して英語を教えるという手もありますね。

イマージョン・スクールは欧州言語間では成果が出ているようですが、
根本的に言語構造が異なる二言語間で効果的かどうかは不透明です。
ただ、いろいろな事をやってみることには価値があると思いますし、
規制緩和でそんな学校がいくつかできると面白いと思います。
多少の学費負担があったとしても希望する保護者は多そうですね。

No title

ご議論下さいまして、ありがとうございました。Willyさんの鋭い切り口の考察をいつも楽しみにしています。これからもがんばって下さい。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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