一つの夢を追うリスク ~「将棋の子」(大崎善生)~ -- このエントリーを含むはてなブックマーク

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楽しいコミュニケーション・ツールの普及に従って、
人々が落ち着いて一つのことに集中するのはますます難しくなっている。
そんなわけで、
子供や若者が一つのことを一生懸命やると、たいがいの大人は感心するわけだが、
やっている本人は大変な肉体的・精神的負担に加えて大きなリスクを負っていることも多い。

「将棋の子」(大崎善生 著)は、
将棋の棋士を目指して北海道から母と二人で上京した
天才少年・成田英二の半生を追ったノンフィクション小説である。
将棋のプロになるためには、
奨励会と呼ばれるプロ棋士養成のための組織に入り、
26歳までに規定の成績を収めて四段に昇段しなければならない。
そのため、早い場合は小学生のうちから奨励会に入会し、
青春時代の大半を費やしてプロを目指す。
奨励会に入ること自体、非常に狭き門であり、
プロ棋士が才能を見出した少年・少女だけが入会を許されるのだが
その奨励会に入って長い修行を経ても、
規定の年齢までに四段になれるのはわずかに2割弱だ。
両親の期待を受けながらプロを目指す成田が24歳の時、
父は不幸にして急死し、母はガンで余命1年と宣告される。
年齢制限を間近にした成田は重圧に耐えられず、
ついに奨励会を退会する。
両親と将棋をいっぺんに失った成田の人生は厳しいものになる。

高い知能と強い意志を兼ね備えた成田の人生は、
どこでおかしくなったのだろうか?

チャンスを逃さないこと、
謙虚であること、
若い頃に視野を広げること、
計画性を身につけること、
良い金銭感覚を身につけること、
常識を身につけること、
人間関係を豊かにすること、
助言してくれる大人を探すこと、
といった
多くの人が程度の差こそあれ
大人になる過程で自然と身につけていく能力が
いかに大切であるかを痛感させられるドキュメンタリーだ。


新しい本ではないが、
これから進路を決める人たち、
子供がこれから人生を決める保護者の方たち
にお勧めしたい本である。

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テーマ : 夢へ向かって
ジャンル : 就職・お仕事

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No title

奨励会の子らは中学さえまともに行ってないらしいのでほとんどが中卒みたいですね。
日本ではこれは致命的ですが、アメリカではどんな感じですか?
ここから切り替えて30いくつに大学を出て、それでも大した問題にはならんのでしょうかね。

No title

axeさん:

将棋の棋士ほど極端な職業というのはあまりないですし、よく知りません。
アメリカの教育は幅広く万遍なくという感じなので、知的な分野では
そもそもそういう風に極端な感じで育つ子は少ないのかも知れません。
例えばチェス・プレイヤー(将棋で言えば指導棋士みたいな感じですが)
になりたくても、とりあえず大学くらいは行っておく、というイメージが
なんとなくあります。

日本で30歳で大学を出れば、一流企業には入れないにしても、
将棋の棋士を目指すくらいの頭脳があれば、普通に食べていけそうです。
ただ、12~25歳くらいまで目指していたものを諦めて別の道に進むこと
の方が大変そうです。

No title

willyさんの記事はたまに非常に読むのが苦しくなるときがあります。
「将棋の子」という本は非常に興味深いですが、あらすじを聞く感じ、つらくて私にはとても読めそうにありません。

他にも「ロスト・ジェネレーションが失ったもの」という記事でとてもつらくなりました。
この本を読んで「大人になる過程で自然と身につけていく能力がいかに大切であるか」という結論に達する客観的なwillyさんが、「平均的に他の世代と同じように幸せとはいえない」という主張をするために、自分の周りの少ない個別事例を出したりするところに、willyさんのつらい気持ちが見ているようでとても苦しかったのです。

なんか粘着な読み取り方かもしれないですがw

No title

折り紙さん:

将棋の本はひたすら辛い本です。もちろん、客観的にはそんなに辛いのに
なおも将棋を生きがいにする人々が感動的でもあるわけですが。
子供の頃、僕も棋士になりたかったのです。弱すぎて幸運だったかも知れません(笑)。

「ロスト・ジェネレーションが失ったもの」は統計の数字だけでは
分からない苦しみを他の世代の方に伝えたい、というのが趣旨でした。
お読みになるとお分かりのように、現在6人中5人は一応正社員として
働いていて、後の1人も多分パートタイムで働いている。
失業率は0%で、正規雇用率は83%なわけです。
そう書くと大したことないように思うわけですが、
そうではないのだ、ということを具体例で伝えたかったのです。

No title

『泣き虫しょったんの奇跡』を読んだことがあるのですが、
奨励会の年齢制限で将棋を辞めるシーンが一番キツかったです。
30前になって将棋しか出来ない(しかもプロにはなれない)となると、
いわゆる普通の進路に戻るのは、かなり大変な状況になってしまいますね。

「~なおも将棋を生きがいにする人々が感動的でもあるわけですが」
私は将棋については駒の動かし方が解るぐらいですが、心底同意します。
フィギュアスケート等のプロスポーツもそうなんじゃないですかね。
例えは卑近ですが『博士課程に行く』ことも、
結構リスクテイクになるのではないかと思いましたw

夏場は暑いので阿呆が湧いてくることがあるかと思いますが、
これからも更新を楽しみにしています。

No title

りょうさん:

なんだか僕の見方は、りょうさん含めエントリーを読んだ方とは少し違うような気もしてきました。文章表現って難しいですね。奨励会で段をとるような人は、やる気さえあれば能力的には例えばプログラマーとして生きていったりすることはできると思います。でも、一つのことを一生懸命やりすぎると、複線的に人生を考える事ができなくなってしまいがちです。そのあたりが、一番のリスクなのだろう、と思います。

それは将棋だけでなく、数学、自然科学、哲学、文学、音楽、その他の芸術、スポーツなどにも同様に当てはまりそうです。もっと言えば、職種を絶対に変えたくないと思っている人はみな同類かもしれません。

No title

確かに客観視出来る力がないと人生傾いてしまうのは凄く分かります。
一度読んでみたいと思います。それからまた自分の進路を本当にどうするか考えてみます。

No title

Dehmelさん:

>確かに客観視出来る力がないと人生傾いてしまうのは凄く分かります。

私自身、比較的そういうタイプの人間なので、
この本は琴線に触れたというのもあるかもしれません。

No title

棋界のような特殊な世界では一途でないと競争するところまで達せないということも言えるのではないでしょうか。もうそういう世界に入り込むこと自体、見方によっては全てが無駄になる、といったリスクを承知でするべきことなのでしょう。

夢破れてという点は自分の目標とするところまで達することができなかった人間は誰でも対峙することです。そのために注ぎ込んだリソースの量で精神的な重みが違うのは当然ですけど、もし自分の心の切り換えがうまくいかないというのであれば、それは個人の性格的な問題であって、他のことをやっていても結局同じような生き方をしてしまうかもしれないですし。

僕が引っかかるのは、やはり30手前で人生の方向転換を強いられるこういう人々のことを不憫だとか、お先真っ暗だとか決めつけてしまう日本人の社会的圧力ですね。必要に迫られ、二十七歳で新しい道を探るのことの、一体何がおかしいというのでしょうか。

No title

毒之助さん:

相変わらず鋭いコメントです。
確かに一つのことに集中するのは性格的な面が大きいでしょうね。
いずれにせよ、10年間も将棋だけやった精神力と知力と経験があれば、
かなりいろいろな可能性があるわけで、
そういう方たち自身も、社会の方も、前向きに受け止めて欲しいものです。
(確かに労働市場の特殊性は、一朝一夕には変えられないですが。)

No title

日本では、一つのこと(のみ)を極めた職人・専門家に対する
評価が非常に高い気がします。

プロ棋士に挫折したからといって、他の道でやっていくのは
それほど難しいことではないかとも思うのですが、
それを挫折だとみなす空気があり、それが本人の気持ちの切り替えを
難しくしているのでは、と思うのですが、いかがでしょうか?

No title

田村一等兵さん:

私が感じていることはむしろ逆です。

切り替えが難しいのは周りの「空気」のせいだとは思えません。
一つのことを極めるひとは周りをあまり気にしないですし。
一方で、新卒一括採用のような特殊な雇用環境が再チャレンジを阻んでいます。

また日本では、一つのこと(のみ)を極めた職人・専門家に
対する評価は経済的な面では低いと思います。
一方で、「職業に貴賎なし」という言葉に表れているように
職業差別の意識は諸外国との対比では割と弱いかも知れません。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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