人口増加は米国の最後の砦か -- このエントリーを含むはてなブックマーク

8月初旬に政府債務の上限が14兆ドル強から2兆1000億ドル引き上げられ、
今後10年間で9000億ドルの財政赤字削減を行うことが決まった。
先進国が、グローバル化による価格調整圧力に苦しむ中で
アメリカ経済はこれからの10年間、
日本が経験してきたような長期の経済停滞に陥る可能性はかなり高まった。

それでは、今日の日本経済と米国経済の一番の違いは何だろうか?
それは恐らく、人口動態の違いだろう。

1.日本と米国の人口動態

2010年現在、日本の人口は1億2千7百万人、米国の人口は3億9百万人程度だが、
2050年には、日本の人口は9千5百万人程度まで減少(総務省推計)、
米国の人口は3億9千2百万人程度まで増加(センサス局推計)する見込みである。
今後40年間、年率0.5~1%程度の割合で人口が増え続けるという予測は、
米国人が不動産や株式に投資する際の安心材料になっているのは間違いない。
それでは、米国の人口増加は本当に確実なのだろうか。

2.日米で異なるの人口変動要因

日米の人口動態はどのように違うのだろうか?

日本では、一年間に100~110万人が生まれ、120万人弱が亡くなっている。
一般・特別永住権保持者の数は、毎年2~4万人程度増加しており、
現在合計で100万人程度だ。
また、日本に帰化する人数は毎年1万3千~1万6千人前後である。
全体として人口移動の影響は無視できる程度で、
主に出生数の減少によって人口が減っていて、
しばらくの間は高齢化でその大部分が相殺される。

米国では、一年間に約400万人が生まれ、
240万人(2009年)が亡くなっている。
また、100万人が毎年永住権を取得している。
米国の人口動態には、出生・死亡による増減と移民による増加の両方が
大きな影響を及ぼしている。
下の図で分かるように、
移民の累積による人口動態への効果は極めて大きい。
US-projected _population_growth


人口動態は他の経済指標に比べ長期予測に適しているものの、
移民による影響が大きい米国の人口動態は必ずしも将来を
的確に予測できるものとも限らない。
実際、センサス局が出している人口予測の幅は結構大きいのだ(下図)。

US-Population50-Census.gif

3.米国の出生数の動向

米国内の出生数にはベビーブームや景気の影響など
様々な要因が絡み合っている(グラフは Calculated Risk より。
ソースは、National Center for Health Statistics)。
戦後のベビーブームと長期的な少子化傾向の二つで多くが
説明できる日本に比べるとやや複雑な動きに見える。
米国でもベビーブームは存在したが、出生数がより多いのは
むしろ、米国経済の全盛期ともいえる50年代~60年代前半の方である。
その後、日本の第2次ベビーブームの世代はむしろ少なく(generation X)
その後、90年以降は高い出生数と出生率が続いている。

US-Births2010.jpg


しかし、出生数は2007年の年間430万人の直近ピークから
2010年には400万人へと急減した。
グラフのシャドーがかかっている部分は不況期だが、
今回の急減は大恐慌以来であることが分かる。

今後は90年代以降の高い出生数の恩恵もあり
ある程度安定した人口増加は見込めるだろうが、
長期の不況が出生数に大きな影響を及ぼすリスクも見逃せない。


4.米国への移民の動向

それでは、米国への移民の動向はどうだろうか?
米国への移民増加が、米国の経済力の反映であるとすれば
移民の動向は経済状態に大きく左右されやすいと考えられる。

米国 Department of Homeland Security のレポートによれば、
意外にも米国への永住権取得者数に明確なトレンドの変化はなく、
戦後一貫して続く移民の増加トレンドは失われていない。

US-Immigration.jpg


移民の多くは、はじめは非移民として、
就労、留学などの理由で新たに米国に来る。
そこで、将来のトレンドを探るため、
非移民ビザの許可件数の推移を見たものが下図だ
(US Department of States のデータより筆者作成)。
ただし、一時出張者のために大量に発行されているBビザの件数は除いている。
推移を見ると、2007年をピークに流石に件数は減少しているものの
依然として150万人以上の安定した状態を保っている。

US-Visa-Issued.jpg


全体としてみれば、いまのところ
米国のこれまでの厳しい移民やビザに対する規制が
結果として移民の人口動態を安定的なものにしていると言えるだろう。


5.今後米国が直面する人口問題


人数ベースで見た米国の人口動態は、
深刻な不況の割には比較的安定しているように見える。
これは、米国経済にとって最後の頼みの綱といったところだろう。

しかし、当面の問題は移民の質だ。
経済的困難の下で移民の純増を維持するためには質を下げざるを得ない。
これまで、最も優秀な移民を受け入れることができた米国だが、
今後、資源国や都市国家との人材獲得競争はますます熾烈なものとなる。
英語圏に限ってもオーストラリア、カナダ、シンガポール、香港などの
名目所得水準は数年~10数年で米国を越す可能性がある。
さらには、資源高が続けば中東諸国も米国の人材求心力を脅かすだろう。

人数だけにとらわれていては移民の質は低下し、
知識階層の米国民の流出も進む。
人材の流動性の高い米国は、今後、そうした意味で
日本より急激で困難な変化を乗り切る必要がある。

そうした変化は、米国の移民政策のみならず社会保障政策にも
大きな影響をもたらすだろう。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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No title

そんなにまずいんですか?柔軟性があるので2,3年で落ち着きそうな気がしますけども。
とバブル崩壊の時も言って手ひどい目にあいましたわ。。。

No title

axeさん:

結構まずいように感じます。英語圏は人材の流動性が高いので、米国にとっての選択肢は日本より少ないように思います。医師が米国に流出したイギリスの医療崩壊を見ると良く分かりますね。日本では世代間不公平が問題になっていますが、逆に言えば不公平でも成り立つ社会ともいえます。日本では医療危機が叫ばれても医師は国外に大量に流出していません。

確かに、米国の社会制度にはある程度の柔軟性があります。例えば、401kなどの確定拠出年金が普及しているので、株式投資のリターンが今後も毎年7%だと信じていてそれを前提に65歳で引退しようと思っている人は、利回り低下に直面して自動的に70歳位まで働かざるを得なくなるでしょう。

統計を見る限り、人口規模を維持するだけであれば米国にはまだ十分な国力があると思いますが、知識階層の人材流入を維持するためには、低福祉、低負担の国にして競争力を維持する以外の選択肢はあまりないと思います。

No title

なるほど、ということはどうなるんでしょうか。知識階層の流入を死活問題と捉えているならば
科学技術の予算は余り減らなくて大学院留学する難易度は今が底で、これ以上悪くならない感じなんでしょうか。
確かリーマンショック直後でも他に比べて大きなカットはありませんでしたよね。
教え子が何人か留学したがっているのですが、まあアイビーなんてのは無理でしょうから中堅大になりそうでこのあたりが不安ですね。

No title

axeさん:

基本的には、教育より移民受け入れの方がコストが安いという考え方でしょうから、
政府から教育機関への補助金が増えるという状況ではないように思います。

先日、ツイッターでみかけたのですが、
授業料高騰により大学院生の雇用コストが高くなったので、
院生を減らして非常勤講師やポスドクに振り替えているという大学もあるようです。

ただ、全体の傾向としてどうなっているのかはよく分かりません。
面白い情報があったら、またお伝えします。

No title

ちょっときなくさいですね。面白い情報があればぜひお願いします。

No title

日本は医療産業が成長産業だ!みたいに言っていますが現行の制度だと
医療従事者はむしろ待遇は悪くなりそうですね。
想像ですが年収は変わらずor減るで仕事は増えると
もちろん皆保険の枠組みを廃止して自由競争化すれば別ですが
まぁ無理でしょう。

No title

名無しさん:

同意します。日本の医療産業は限られたパイを奪い合うだけ、
ということになる可能性が高いですからね。例えば、医師は
立派な職業だと思いますが、待遇が良いから、という理由で
なるのはこれから全くお勧めできないと思います。

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プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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