寄付が好きなアメリカ人、嫌いな日本人 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

今年は東日本で大震災があり寄付をした人も多いと思うが、
一般的に言うと日本人はあまり寄付をしない。
総務省の家計調査によると、
一世帯あたりの年間平均寄付額(2009年)はわずかに2625円だという。

これに対して、米国人は寄付が好きだ。
非営利団体 Independent Sector の調査(本記事の以下のデータも同様)によれば
米国人は年収の3.2%を寄付しているという。
これは年額に直すと1600ドルを超える。
米国人は日本人の50倍もの額を寄付しているのだ。


所得がほぼ同水準の両国でどうしてここまでの違いがあるのだろうか。


仮説1: 税制の違い

よく言われるのは、
「日本の税制は寄付に対して厳しいから日本人は寄付をしない」というものだ。
しかし、両国の税制を比べるとむしろ日本の方が寄付の税制上の恩恵は大きい

まず日本だが、2011年より認定NPO法人等への寄付には、
(寄付金額 - 2000円) × 40% の所得税の税額控除が受けられるようになった。
つまり10万円寄付した場合には、3万9200円の税額控除が受けられる。
また、認定NPO法人等以外の場合でも、特定公益増進法人への寄付は、
(寄付金額 - 2000円)の所得控除が受けられる。
日本の所得税の限界税率は、5%, 10%, 20%, 23%, 33%, 40%の
6区分なので所得水準によって5-40%の減税が受けられる事になる。
また寄付を受けた非営利法人が寄付金に課税されることはないようだ。

一方の米国では、寄付は通常、所得控除(itemized deduction)
として算入されるが、そもそも一般人にとっては所得控除を積み上げる
(itemize する)こと自体が容易ではない。
例えば、夫婦合算で申告する場合、
標準控除額の11600ドルと、積み上げた場合の控除額を比べて大きい方を
申告することができるが、積み上げた方を大きくするのは容易ではない。
積み上げられる金額は主に、寄付金、支払済みの地方税や固定資産税、
支払利息、年収の7.5%を超える医療費等だが、
これが11600ドルを超すのが容易ではないことは想像に難くないだろう。
仮にこのハードルを越えても、米国の所得税の限界税率は
10,15,25,28,33,38%の6種類であり、
メリットは日本に比べて大きいとは言えない。

米国の方が勝っている点をあげれば、
日本では寄付の控除を受けるには確定申告が必要だが、
米国では寄付の有無に関わらず確定申告が必要ということくらいだろう。


仮説2: 貧富の格差の違い

米国は貧富の格差が大きいから金持ちがたくさん寄付をする、
というのもよく言われることだ。
しかし、裕福でない米国民が寄付をしていないかというとそうではないようだ。
年収25,000ドル以下の人が年収の4.2%を寄付しているのに対し、
年収75,000ドル以上の人は年収の2.7%の寄付しかしていない
(NY Times の記事)。
もちろん、退職後の裕福な低所得者層による効果を考慮する必要はあるだろうが、
裕福な退職者は往々にして多額の年金を受け取っていることも事実である。
また、アメリカの全世帯の89%が何らかの寄付を行っているとの調査結果もある。

米国では主に、お金持ちが寄付しているというのは正しくないようだ。


仮説3: 米国では寄付が名誉になる

確かに、米国では大学の施設や小学校の名称など
あらゆるところに寄付した人の名前が冠されている。
以前に訪れたオレゴン大学のビジネススクールでは、
オフィスの一部屋一部屋に寄付をした人の名前が冠してあった。

日本でも、高額の寄付をした人は施設に名前を冠することができるし、
記念碑に名前を掲載するという習慣も一般的だが、
この点に関しては米国の方がうまくやっていると言えるだろう。

しかし、仮説2のデータから判断するに、
こうした差は普通の経済水準の米国民が多くの寄付をすることの
大部分を説明することはできないように思う。



結局のところ、米国民に比べ日本国民が寄付をあまりしないのは、
文化や習慣の違いによるところが大きく、上のような合理的な
理由だけで説明することには無理がある
ように思われる。

日本人が寄付をしないのは、
「社会に不条理な不平等があまり存在しない」
と感じているせいなのかも知れないし、
「そうした不平等が存在しても政府が社会保障政策として行うべきだ」
と思っているからなのかも知れない。

最も資本主義的と思われている米国で、
寄付にせよ、宗教にせよ、社会の歪みを別のところで直そうとする国民が
多いのは必然
と言えるだろう。
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テーマ : チャリティー
ジャンル : 福祉・ボランティア

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No title

アメリカは小物でも寄付できて、中古品の値下がりが余り無いのが大きいんじゃないですか。
日本だと例えばテレビを買い換えるから古いのを寄付なんてことはまあ不可能ですし、
使い古したものの処分を「他人への施し」と繋げる価値観は持ってないでしょう。
兄のお下がりとか、むしろネガティブなイメージじゃないですかね。

米世帯年収別、チャリティ寄付総額

2005年のデータ(Table 9)ですが、 米の寄付総額は$252Bnです。 http://bit.ly/sTV0BB そのうち、米世帯数の9割を占める10万ドル以下の世帯の貢献額は$90Bn(貢献度36%)にすぎません。10-20万ドル世帯(全体の7%)は$20Bn(貢献度8%)、20万ドル-100万ドル世帯(全体の2.1%)は$91Bn(貢献度36%)、100万ドル以上世帯(全体の0.2%)は$51Bn(貢献度20%)。世帯数の2.3%に過ぎない年収20万ドル以上世帯が、寄付総額の56%を牽引していることになります(10万ドル以上世帯を含めると9.3%世帯が64%の貢献)。

よって、日本の金持ちの巨額の寄付が少なすぎるのではないかという仮説を僕は立ててます。Willyさんの意見は?

No title

あと、総寄付額の252Bnうち$101Bnが宗教への寄付なので、この辺は日本と比較の上で差っ引く必要があるでしょうね。特に、10万ドル以下世帯の場合寄付総額$90Bnのうち$60Bn(約66%)が宗教への寄付ですよ。

No title

axeさん:

確かに米国は中古品の値下がりが小さいですが、売る事もできるわけで
寄付が多いのはむしろ、そうした商品へのニーズの存在(=超貧困層の存在)
というのが大きい気がします。ただ、どうも一部に寄付に対する税制上の
抜け穴が存在している(=物品の寄付を過剰に所得控除として計上できる)
という問題はありそうです。

Genさん:

頂いたリンクのデータを元に米国の人口3億人(2006年時点)、
年収10万ドル以下の人の割合(84%)を使って計算すると、
この層の一人当たりの年間寄付額は約360ドルとなりますね。
これは現在の名目為替レートを使って換算しても日本の金持ちを
含めた一人当たりの10倍を超えます。
従って、日本の寄付はあらゆる階層において少ない、と言うのが
正しいのかな、と思います。

宗教の分の寄付を除くというのは、少なくとも米国に関しては意味をなさないでしょう。
米国の慈善活動の多くは教会を通じて行われています。
そしてそうした慈善活動の多くは、信者に向けたものではありません。
信仰心が(教会向けのものだけでなく)寄付の総額に影響を与えている
可能性がある点は興味深いです。
こういうデータをもって、信心深いアメリカ人なら
「それみろ。信仰心が弱い人は道徳観も弱いんだ。」
と思うかもしれません。

No title

>結局のところ、米国民に比べ日本国民が寄付をあまりしないのは、文化や習慣の違いによるところが大きく、上のような合理的な理由だけで説明することには無理があるように思われる。


私も合理的な理由だけでは説明がつかないと思います。どちらかというと、両国における寄付への価値観の相違には、日本人とアメリカ人での宗教に対する関わり方の違いに関係があると思います。国全体では犯罪率等が高いアメリカですが、個人レベルでみるとより良い人間になりたいと真剣に考え行動するアメリカ人は多いのは毎週教会等にいくかは別にして、子供の頃通った宗教の教えがアメリカ人行動に影響していると思います。例えば、ユダヤ教では所得に大きさに関係なく所得の10%を寄付せよとの教えがあるそうですが、より良い人間になりたいと真剣に考え行動するアメリカ人の例かと思います。また、ボランティアへの関心が高いのも同じ理由かと思います。

一方、日本では、宗教はそれほど大きな意味を持たない人が多いですし、これは個人的な見方ですが、日本は社会に対して少し冷めた見方をする傾向にあるような気がします。


No title

ブルースさん:

そうですね。
日米では、宗教および国家に対する考え方が違うのだと私は考えています。
日本人は資本主義による所得の不均衡は国が再分配すべきと考えているのに対して、
米国人キリスト教徒は教会によってそうした問題を解決しようとします。
日本では「お上」が大事、米国では「神」が大事と言ったところでしょうか。

そうした考え方のバランスが宗教のみならず、
寄付やボランティアに対する考え方自体を異なるものにしていると私は感じます。

No title

アメリカのエリート(民主党支持が多い)は寄付をうまく使って死亡税(遺産税)を逃れているのでは?
(それがアメリカの超富裕層の寄付の動機ではないでしょうか)

No title

sawakazeさん:

もしかするとそのような動機もあるかも知れませんね。ただ、資産家が遺産税を免れるにはトラストを利用するのが一般的で、必ずしも寄付が必要だとは思いません。また記事にあるように、寄付の大部分が資産家からのものであるという傾向もそれほど顕著ではありません。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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