リゾート会員権の購入には注意が必要 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

アメリカで人気のタイムシェア・コンドミニアムでいろいろと問題が起きているようだ。

タイムシェアとは日本で言うところのリゾート会員権のようなもので、
主に、100平米前後のコンドミニアム(マンションのような造りのホテル)を
1週間単位で分譲して、利用者が区分所有するものだ。
利用者でもあるオーナーは、毎年管理費を払うかわりに、
毎年一週間、そこに追加費用無しで宿泊することができる。
ARDA International Foundation によれば、
2006年時点で米国には、1,604 のタイムシェア・リゾートがあり154,439の部屋があるという。
各部屋を50人で区分所有するのであるから、オーナーは相当な数に上る。
米国人の世帯の6%弱がなんらかのタイムシェアを所有しているという。
しかも、その数は増加傾向にあるということだ。
それほど人気があるのは、区分所有だと高い価格での分譲が可能である
というデベロッパーにとってのうまみに加え、
オーナーにとっては「所有する」という満足感があるためだ。

下の写真は昨年私が泊まった、ハワイ州カウアイ島のリゾート地にある
Point at Poipu というコンドミニアムだ。
波打ち際を模したプールや、それに隣接するバー、段々になった池、
バーベキュー用グリルなどが庭にあり、なかなか良いコンドミニアムだ。
各ユニットは、主に2ベッドルームで150平米くらいある。

PointAtPoipu.jpg

私は1週間借りただけなのだが、
仮にこのコンドミニアムの1週間を区分所有する権利を
中古会員権市場で買うと、いくらくらいだと思われるだろうか?
日本の感覚で言えば、数百万円程度ということになるのではないだろうか。

しかし驚く事なかれ、現在の価格はゼロである。
掲示板には「会員権を無料で差し上げます」という書き込みが多く見られるほか、
Ebayには、数ドル程度の値段で売り手が会員権を売りにだしている。

価格を決める際にまず参考になるのは、
年間の管理費と、同等の部屋の宿泊費用との差だ。
まず、このコンドミニアムの管理費は一部屋一週間あたりで年間1350ドルにも上る。
実際に利用する・しないにかかわらず、この費用は毎年払わなければならない。
一方、このコンドミニアムは一般客が予約する事もでき、
その費用は、春休みシーズンで一週間1550ドルほどだ。
名目上は年間200ドルの価値があるということになるから、
キャッシュフローベースで考えて、投資利回りを5%とすれば
4000ドル程度の価値がある事になるが、
実際には利用の有無にかかわらず管理費の支払い義務が
あることを考えると、メリットは大きくない。
他のリゾートと1週間単位で交換を希望することもできるが、
手続きの煩雑さや手数料を考えれば、200ドル程度のメリットは吹き飛ぶ。

それに追い打ちをかけるように、
このコンドミニアムの管理組合は、昨年10月に
「敷地内の地下が浸水している症状を解決するため、
一週間分の区分所有につき5900ドルの一時費用(special assessment)を徴収する」
とオーナー達に通知した。

これに驚いた多くのオーナーは会員権を放棄しようと考えたが、
事はそう簡単ではない。
一時費用は通知時点でオーナーの債務となる一方、
会員権の譲渡には管理組合の承認が必要であり、
一方的に返却、放棄、譲渡することは認められていない。
支払いを拒否すれば、それはオーナーの債務不履行となり、
オーナーのクレジットに傷がつく上、
強制的にオーナーの金融資産を差し押さえられる可能性もある。
多くのオーナーは泣く泣く言いなりになって費用を支払うしかないだろう。

Point At Poipu は、一流のリゾート地に立地し、
建物も築17年と比較的新しい部類に入る。
どうして、こんな悲惨な事態になってしまったのだろうか?

行き着くところは、ガバナンスの問題である。
コンドミニアムの管理組合は、
オーナーの代表としてオーナーの利益の最大化に務めるのが本来の姿だ。
しかし、タイムシェア・リゾートでは、所有者は遠隔地に住む一般人であり、
コンドミニアムの経営に携わるような時間的な余裕も十分な知識も無い。
結果として、管理組合が管理会社の言いなりになってしまうことが多いのだ。

例えば、このコンドミニアムの管理費用は、
オーナー1人当たりでは1350ドル程度だが、
一部屋を年間で50人で区分所有しているのであるから、
一部屋あたりだと年間6万5千ドルにも上る。
Point At Poipu の決算書類をインターネット上で見つけることができるが、
収入の22%程度が純粋な手数料として管理会社に「上納」されている。
金額にすると、手数料は年間350万ドルにもなる。
管理会社は物件を所有しているわけでもなく、
実際にかかる人件費や修繕費用などは全て管理組合から支出される。
ほぼリスクの無い経営に、そこまでの手数料を払う仕組みは疑問だ。

浸水解決のための費用がまた凄い。
5900ドルというと大したことがないように思えるが、
1部屋につき50人の所有者がいるので、
費用は一部屋あたりで30万ドルに達する。
このコンドには220部屋程度あるので、修繕の総予算は6500万ドルであるという。
この金額は、同規模の高級リゾートをゼロから建設する費用とほぼ等しい。

こうした経営は、どう考えてもオーナーの総意とは
かけ離れたところにあると言わざるを得ないだろう。

昨年、米国の別のタイムシェア・リゾート
「Raintree Vacation Club and Club Regina」では、
やはり「インターネットなどの設備更新のため」に
各オーナーから約1200ドルの一時金を集めることを通知した。
1部屋あたりだと費用は6万ドルとなり、
各ユニットを全面改装することができるほどの費用だ。
これは、オーナー11人が原告となって集団訴訟になり、昨年11月、
権利を放棄して費用の支払いを拒否した人のクレジットヒストリーを回復する一方、
費用を払ったオーナーには追加の宿泊権を与えるなどの内容で和解した様だ。

しかし、他のタイムシェア・リゾートで同様の問題が再び起こっても、
訴訟に持ち込まない限りオーナーは権利を放棄できない上、
同様の和解や判決に至る保証も無い。

タイムシェアのオーナーは、一時のわずかな利益と満足感のために、
未来永劫、毎年千数百ドルの支払い義務を課せられるリスクを
背負ってしまっているのだ。
しかも、長い目で見るとそうしたリスクの実現可能性はかなり高い。

こうした問題に抜本的な対策をすることは難しい。
一つ考えられるのは、LLC (有限責任会社)を設立して
区分所有権をLLC名義にする事かもしれない。
そうすれば、少なくともLLCを債務不履行にさせて支払い義務から逃れることができる。
米国では、LLCは150ドル程度で設立でき、年間の維持費用も50ドル程度だという。
しかし、管理会社がそのような所有形態を許すかどうかは裁量に委ねられているし、
仮にそれが可能になったとしても、リゾートの所有者と利用者が一致しない事による
利用手数料が課せられる可能性があるという問題も残る。

一部には、不要になった区分所有権を買い取る業者もでてきているが、
そのスキームがどうなっているのかは不明だ。
おそらくは、何らかの手口でLLC名義とするか、
既に債務超過に陥っている第三者や
米国のクレジットヒストリーと無縁な他国の第三者に
名義を付け替えるのだろう。

日本でも、裕福な団塊世代などを中心にリゾート会員権が人気だが、
法的な枠組み自体は米国とさして変わらない。
同様の問題が、将来起こることも十分に想定される。
譲渡に制限がある所有権は、価値がマイナスになりうる、
ということには十分に注意が必要だろう。


おまけ:

Point at Poipu は中々良いコンドミニアムだ。
車で数分の場所に、2010年1月頃に Kukuiula Village が開業され、
質の高いレストランなども豊富になった。
今回の混乱で、当面はお買い得価格で予約がとり易くなるだろうから、
時間とお金に余裕がある人は行ってみるのも悪くないかも知れない。

 
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テーマ : アメリカ生活
ジャンル : 海外情報

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とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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