東大は秋入学に移行すべきか? -- このエントリーを含むはてなブックマーク

東京大学の懇談会が秋入学へ移行を求める中間報告をまとめたようだ。
背景には、英語圏の大学の勢いへの危機感がある。

全ての分野における研究・教育水準をまとめて客観的に比べるのは難しいが、
例えば米国の一般雑誌のUS News 社がまとめた論文一本あたりの
引用回数スコアでは、東大は既に香港大に抜かれている。
東大がアジア・ナンバーワンの座を確保しているとは言えなくなった。

しかも、教育機関としての大学の国際ランキングでは、
近年、外国人教員や外国人学生の比率が重視されており、
日本のように研究・教育水準は高くても大半が国内の教員と学生
という大学は、不利な扱いを受けるようになった。

もちろん、苦戦しているのは日本の大学だけではない。
昨年の震災後、被災した地域の研究者に対し、
海外の大学からの引き合いがきたことが話題になったが、
一番多かったのはドイツの大学からのオファーであった。
実績のある先進国の大学であっても、非英語圏の大学が人材獲得に
苦労していることは想像に難くない。

そんな中、せめて入学時期を英語圏の大学に合わせようと
検討されているのが、東大の秋入学であると言える。

私は、この案に、単なる時期の変更ならば反対、
相乗効果が期待できる他の施策とセットなら賛成である。

反対の理由は以下の通りだ。

1.高校卒業から大学入学までに5ヶ月のギャップを作るメリットが不明

仮に高校までの学校を現状のまま4月始まりとした場合、
東京大学に入学する学生には5ヶ月間の空白が生じることになる。
しかし、学生がこの期間を有効に活用できるかどうかは疑問だ。

例えば、将来的に英語圏の大学院への留学を目指すケースを考えよう。
現行制度の下では、日本の学部を3月に卒業して、
米国の大学院に9月に入学することになる。
卒業後、5ヶ月間の空白が生じるが、学生は既に専門分野の勉強・研究を
始めているので、卒業後も研究生や日本での修士課程の学生として
勉強を続けることもできるし、留学に備えて語学学校に通ったりする
こともできる。
この5ヶ月の代わりに高校を卒業してすぐに5ヶ月の空白を作っても、
学生がこの期間をそこまで有効活用できるとは思えない。
つまり、留学を視野に入れた場合ですら、デメリットの方が大きい。

東京大学はこの点に関し、新入学生に対して
十分に効果的なプランを提示する必要がある。


2.入試時期に問題が生じる

現行のスケジュールをそのまま5ヶ月間ずらした場合、
入試は7月下旬~8月中旬となるが、
そのような制度の下では他大学に入学して仮面浪人する学生が続出するだろう。
競合する大学が現行通りのスケジュールで年度を始めた場合、
授業が成り立たなくなる恐れがある。
一つの大学だけが年度を変更する事は極めて特殊であり
制度として成り立たない可能性が高い。

一方で、入試を従来と同じ2月下旬~3月上旬とした場合、
学生は、5ヶ月間、全ての義務から解放される事になる。
これもデメリットが大きい。
アドミッション・プロセスが非効率で時間のかかる米国の大学では、
事実上、高校2年生までの成績と試験スコアでアドミッションが決まるが、
高校3年生(Grade 12)の学生が勉強しなくなるという
デメリットが見られている。

3.海外からの学生は結局増えない

海外からの留学生が増えないのは、入学試験と授業が日本語で
行われているのが主因と考えるのが自然だ。
東大が4月入学だから留学生が増えない、という主張には根拠がない。
4月から始まるから日本の大学に就職したくない、
という話も聞いた事が無い。

結局のところ、年度の初めを変えても外国人留学生は集まらず、
香港などの大学に対抗する事はできないだろう。


もちろん、天下の東京大学の懇談会がこんな基本的なことを
分かっていないはずがない。
東大が秋入学に移行するということは以下の2つの施策と
セットで行われるということが前提だろう。

1.入学試験、授業を英語で行う

入学試験を英語または、英語・日本語の両方で行う。
また、全ての授業を英語で履修できるようにする。
この結果、年度に一度しか開講されない科目は全て英語の講義となる。
ギャップに関わる非効率は解消されないが、多くの留学生や教員の
受け入れにつながるためメリット面は大きくなる。

日本は世界に誇る科学技術立国であるので、
全ての研究大学で英語の授業しか受けられなくなることには私は反対だが、
いくつもの研究大学がある中、そんな大学が一つくらいはあった方が
多様性の観点から望ましいだろう。

2.全ての学校の年度を変更する

大学のみならず、全ての学校の年度を9月開始にする。
必要に応じて、学年の区切りや小学校入学年齢を調整する。
これにより、ギャップに関わる非効率は解消される。

あるいは、全ての学校の年度を変更することが難しければ、
大量に飛び級を認めるという案もある。
入学時期を5ヶ月遅らせるのであれば、
少なくとも半分程度の学生を高校3年途中からの飛び級として受け入れる。
これによって全ての問題が解決するわけではないが、
ギャップが生じる事に対する非効率や仮面浪人といった問題は
部分的に解決される。


どちらも大掛かりなものではあるが、
こうした施策と合わせて秋入学が実施されれば、
一定の効果を見込む事ができるだろう。


この報告が提起していることは、単に
入学式に満開の桜が見られなくなる、
といった小さな問題ではないことは確かだ。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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[教育] 「東大秋入学」のニュースを聞いて 雑感 秋入学に移行したくらいで東大に留学生が集まるのでしょうか?  

東大、秋入学移行へ 懇談会が積極検討を提言 入学時期の在り方を検討している東大(浜田純一学長)の懇談会が、学部の春入学の廃止と秋入学への全面移行を積極的に検討すべきだとの中間報告をまとめた。 このニュースを見ての私の最初の感想は、 学生の就職内定率を心配し

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No title

Willyさん、こんにちは。
個人的には、秋入学の案は悪くないと思います。大学受験から解放されて、半年間ぐらいだらだらできる期間があった方がむしろ良いように思います。

現在の4月入学だと、入試が終わって休む間もなく大学が始まり、いきなりスタートから息切れするような感じになってしまう感じしますから。

Willyのように大学受験を経験したことの人には分からないかもしれませんがね。

No title

国際教養大学という大学は日本の大学の中でも珍しく授業をすべて英語で行っているようです。
http://www.aiu.ac.jp/japanese/
秋入学はしていないようですが、いいサンプルになるかもしれません。

No title

謎の数学者さん:

これはその人の性格次第でしょうね。半年くらいギャップがあるのは別に悪くないと思いますが、現状通りに、高校は卒業、大学からはなんの連絡もなしでは、有効に時間を使えない人が多くなってしまうのではないでしょうか。留学するとか、コンピューター言語を習っておくとか、働いてみるとかいろんな時間の使い道はあると思うので、やり方次第でしょう。

fさん:

知り合いが2人ほど働いています。良い教員を集めている分野もあるのでしょうが、あの大学が研究大学と呼べるかどうかは微妙でしょう。東大、阪大、名大のような総合的な研究大学で、授業が全て英語という所が1つくらいあっても良いというのが私が考えたことです。

No title

世界での位置を懸念するならもっと他にやることあると思うんですけどね。

例えばアメリカのように50分授業を週に3回やって、毎回宿題を大量に出し添削し、質問受けのTAを常駐させる。
そして演習問題は毎年違うものを作り使いまわさない。

実験系の学生ならば授業料を払わせているのに実験助手のような扱いをすることをやめるとか。

数学なら論文のネタになり、かつ教育的な意味もあるような問題をストックしといて修士レベルから雑誌に投稿できるような教育をするとか。

「俺たちの手間が増えるのは嫌だけど」という本音が見え隠れ、というか全く隠れてなくて、あまり歓迎できませんね。

春入学

記事を興味深く拝読させていただきました。
けれども最後の一行には賛同できません。
四月入学というのは小さい問題ではないと考えます。

桜の季節に全てが始動するという日本の文化を軽重に扱うべきではないと思います。

祝日を連休主体で切り刻み、もう何の日だか全く意味を成さなくし、君が代 国旗掲揚を起立もしない国民にしてしまったツケは 数字にすることができなくとも 日本という国家を堕落させるのに十分すぎるほどに効きました。
たかが歌で たかが旗でしょうか。

そもそも国立であるにも関わらず 文科省を飛び超えて一大学が こんなことを独自に勝手に出来る国があるんですか?ここがまず間違っていませんか? このような事の積み重ねが 日本をここまで駄目にしてきたと思います。

私はこの秋入学は 日本人のために考えられた案でないことを直感していました。
今、日本の国で一番差別されているのは日本人なのです。その直線上にこれがあります。
日本の大学生には無償の奨学金と援助が一切ありません。シナ朝鮮人には飛行機代まで出します
これらは全て国民の血税をばら撒いています。私は秋入学になぜかTPPの臭いを感じています。

単に季節だとか利便だとかの問題ではありません。一つには伝統と文化をぶち壊す仕掛けがあり、
もう一つには 表に見えていない伏線が張られています

No title

東京大学の中間報告を実際に読んだわけではありませんが、外国人教員や外国人学生の比率をあげるために秋入学時期に移行するというロジックにびっくりしました。Willyさんが仰るように、日本の高校の卒業式が3月である以上、秋入学時期への移行はかなり大掛かりなことかと思いますが、それによって目指されているような効果があがるとは私にも思えません。

逆に私が日本から米国の大学院に留学したときのことを振り返ると、秋入学までの時間の無駄やTOEFLの勉強、留学後の英語のハンディはありましたが、留学したいという気持ちが大きかったので、それほど大きな問題ではなかったと思います。それは外国からの留学生も同じかと思います。

日本の大学が考えなければいけないのは入学時期の変更等の表面的なことよりも、日本の大学で勉強をするメリット(在学中や卒業後)を外国の学生に明確に示すことかと思います。

No title

axeさん:

良い悪いを別として米国の大学の方がかちっと授業をするとは言えますね。
教えるコースの数という意味ではあまり負担は大きくないのですが、
毎週宿題出したり、小テストをやったり、一学期に3~4回もテストやったり、
という意味では手間がかかります。

日米では大学の仕組みが違いすぎるので、別に9月入学にしたところで
そういう差はもちろん埋まらないでしょう。

No title

yaegakiさん:

スルーするべきか迷いましたが、お答えします。
日米両方の大学を出た者としては、
米国が9月入学なのは冬の寒さが厳しいから、
日本が4月入学なのは桜の咲く季節だから、
ということは日本在住者以上によく分かっています。
海外に住むと親戚などから一番よく届く写真は春の満開の桜の写真です。

もし日本が鎖国していて、今から年度始めを決められるとしたら迷わず4月を選びます。
私は9月入学はそんな桜よりも更に重要な問題なのだ、
ということを強調したかったのです。

No title

ブルースさん:

>日本の大学が考えなければいけないのは入学時期の変更等の表面的なことよりも、
>日本の大学で勉強をするメリット(在学中や卒業後)
>を外国の学生に明確に示すことかと思います。

全くおっしゃる通りです。特に、卒業後のキャリアパスが大事です。
卒業後にいい仕事が日本にあるなら留学生は勝手に来ます。

No title

アメリカでは、9月入学、4月卒業で5-8月は夏休みですから、毎年がギャップイヤーの様なものですよ。日本ではどうするのでしょうか。アメリカに合わせて夏休みを長くすると、学力は低下します。卒業を7月にすれば、今度は「卒業時期が国際標準じゃない」と言い出すでしょう。小学校から9月入学にして、アメリカに合わせて夏休みを長くすると、死ぬほど学力は下がるでしょうね。
授業を英語でですか。なんか終戦後の「漢字をやめてローマ字で日本語を書こう」とか「日本語を廃止して、公用語をフランス語にしよう」という運動を笑えませんね。「競争」の意味が実感できていないのでしょうね。英語でアメリカ人と競争して、勝てると思いますか。授業を英語でするなんて、わざわざ戦略的に不利な状況を自分で作っているようなものです。日本の問題は戦略的な考え方が不在で、常に不利な状況で戦うから負けるということを理解しないことですよ。

グローバル人材の育成

最終目的は、東大生を含めて、日本人のグローバル人材を育成することではないのか?
語学の勉強法は、下記のロールモデルのように、かなりハードだ。また、ディベートのスキルも、ジュニア時代から育成する要あり。

http://president.jp/articles/-/1011

入学とか卒業の問題ではないような

はじめましてwillyさん。
私も日本とアメリカの大学を経験しました。アメリカは基本的に卒業に必要な単位を取れば高校も大学も卒業できるので、いつ入学していつ卒業するかなんて問題ではない感じでした。
日本人はみんなと一緒が好きなので、こういう議論になるんだとおもいます。ただ単に義務教育も含めて、卒業単位が揃えば学位をあげるって事にする方がよほど意味があると思うのですが、、、

No title

匿名さん:

夏休みが長くなるのは私も問題だと思います。特に小学校~高校はそうですね。
米国の大学は一応夏も授業はあるのですが、クラスの数が少なすぎる。
個人的にはむしろ季節の良い夏に教えたいのですが。

記事を読んで頂いたなら分かると思いますが、全ての大学で授業を英語で
やる必要は無く、そんな大学が一つくらいあっても良いのではということです。
留学にしても全ての人がする必要は無く、する人数が少なすぎることが問題です。
「英語でアメリカ人と競争して、勝てると思いますか」と書かれていますが、
それは発想が30年古いです。記事中の東大が香港大に抜かれたのは、香港に
アメリカ人が来たのが理由だと思いますか?

No title

snowbeeさん:
日本は人口も減少して、外需に活路を求めないと難しいので
国外で活躍できる人を育てることは大事ですね。
確かに日本の学校はもうちょっとディスカッションの訓練をしても
良いと思います。米国は逆にやりすぎなんでしょうが。

coxさん:
確かにそれはそうです。9月からの方が海外からくる留学生には
多少便利だという程度の問題でしょう。

No title

アメリカのようにTAとかつけて少人数で復習するクラスをするとか
教育面でもっと改善をという要求をする人がいますが、アメリカの大学の
授業料の高さを知っていて言っているのでしょうか?
日本でも例えば国立大学の授業料をせめて今の4倍くらいにすればそういう事も可能かもしれませんが。

9月入学については、正直唐突感が否めず、また東大が主張するメリットにもあまり説得力を感じません。
もう少し説得力のある具体的なメリットがあれば別に反対ではありませんが、
現状ではやる意味がよくわからないですね。

優秀な学生や研究者を集めたいと思うのであれば、学期の始まる時期をずらすより、
待遇をよくする方がよほど効果的だと思います。海外の伸びている大学というのは、
むしろこちらの方向で人を集めていると思います。日本だとよくも悪くも能力にかかわらず
待遇は横一列なのでこういうところを変えるのは難しいのかとも思いますが。

あと最後に、日本人として留学した経験から言うと、3月に卒業して9月まで英語の勉強に集中できたのは
よかったので、留学しようとする日本人にとっては現行の制度の方がよいのではと思います。

No title

>記事面白かったですさん:

おっしゃる通り東大秋入学は唐突で、裏に別のことがあると考えるのが自然でしょうね。

米国の某就活掲示板(研究者用)では、「日本の大学は雇用契約すら交わさないらしい」
ということなことが話題になったりします。待遇面でも、福利厚生込みの生涯賃金なら日本の大学も分野によってはそんなに悪くないと思いますが、英語圏の求職者を採りたいなら、「授業は英語で可」に加えて初任給(額面)で勝負する必要があるでしょう。また、新卒PhDを採りたいなら、実績ではなくて論文の内容から潜在能力を測る必要があります。そのためのリソースが足りない大学なら、他の大学から評価できる人を呼ぶ必要がありますね。

お金をもっと出すことが必要な面もあると思いますが、国際化のためには、まず仕組みを世界標準にある程度合わせる必要があると思います。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程にてPhD取得。現在、米国の某州立大准教授。

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