ニュースの読み方:関越道バス事故 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

世の中には二つの利害が対立していることが多く、
そのせいで、良い悪いは別として世の中の仕組みはなかなか変わらない。
ただしこうした綱引きにはいくつか例外がある。
一つのパターンが、何かをきっかけに一方のサイドの立場が弱くなる場合だ。
そうした時には、雪崩を打ったように一気に世の中の仕組みが変わる。

今回の関越道バス事故はその一つとなるだろう。
ご存知の通り、ゴールデンウィークに入って間もなく、
関越道でバスの事故があり7人の方が亡くなった。
この事故が悲しい出来事であることには変わりないものの、
日本では年約4800人(2010年警察庁調べ)、
つまり毎日約13人の方が交通事故で亡くなっている。
新幹線や鉄道の事故は滅多に起こらないため、
その大半が自動車やバイクの事故によるものであることは
暗黙のうちに誰もが知っているはずだ。
今回の死者は毎年亡くなる人数の0.1%に過ぎない。

バスの運転手はスケジュール的に厳しい勤務であったようだが、
運輸業従事者の勤務実態として常軌を逸していたかどうかの判断は難しい。
しかし、その判断がどうなったとしても
今回の事故を各関係者なりに総括すると次のようになるだろう。

鉄道・航空会社:
(これを機に長距離バスを規制強化して鉄道・飛行機の需要を拡大したい)
→ 「過酷勤務だ!勤務条件を改善しろ!」

バス運転手:
(これを機に労働条件を改善して欲しい。)
→ 「過酷勤務だ!勤務条件を改善しろ!」

官僚:
(もう一度似たような事故があれば責任問題になる)
→ 「過酷勤務だ!勤務条件を改善しろ!」

一般市民:
(もし自分が乗っていたらと思うと心配だ)
→ 「過酷勤務だ!勤務条件を改善しろ!」

マスコミ:
(市民も官僚も規制強化賛成なら便乗しない手はない)
→ 「過酷勤務だ!勤務条件を改善しろ!」

バス会社:
(今は逆風。大人しくしているしかない)
→ 「分かりました。改善します。」


通常時であれば、安い利用料金を享受している一般市民と
バス会社が規制強化反対の声を上げるだろうが、
これだけ大々的に犠牲者が出ている中で声を上げるのは難しいだろう。

労働条件改善派が世論を見方につけたければ、泣いている遺族の映像でも流して
「規制強化反対論者は、強欲なバス会社のために尊い命が犠牲になっても良いのか!」
とでも言えば、9割の人は「そうだそうだ」と賛成してくれるだろう。

乗り合いバス市場は2002年に運賃許認可などの点で規制緩和され、
高速ツアーバス連絡協議会によると、データのある2005-2009年の
4年間だけで20倍に増えたという。
各関係者の思惑を考えると、こうした流れが
ここで逆流をし始める可能性はかなり高いと言えるだろう。

一人の運転手の一瞬の居眠りが世の中を変え、
5年後には新幹線並みの値段の高速バスが走っているかも知れない。
社会とは本当に予測不能で儚いものだ。


今回事故があったのは、高速(路線)バスではなく高速ツアーバスのようだ。
高速ツアーバスは、勤務条件等の点で高速路線バスより更に規制が少ない。
その点、お詫びして訂正させて頂きたい。
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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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No title

Nice !!
まるで蜂の巣をつついたように格安高速ツアーバスが悪者にされている報道に、おおいに違和感を感じていたのは私だけではなかった。

なぜ、今回の事故原因は河野容疑者の個人的な過失致死事件で済まされないのだろうか?
まだすべてが報道されてはいないが、おそらく勤務実態も各種規制やガイドラインに沿った範囲内だったことだろう。毎日全国で何百台もの長距離ツアーバスが、同じような勤務実態の下で(結果的に)安全に運行されているのに、たまたま今回、一人のドライバーが不幸な事故を起こしてしまったと、なぜ考えられないのだろう?

世の中に100%の安全なんて保証されることはないと思う。たとえドライバーの乗務時間と距離の規制を現在の半分まで厳しくしたところで、居眠り運転の危険が100%なくなるということはあり得ない。論理的な根拠に基づかずにやみくもに規制強化に走って、コストや利便性に大きな代償を払わされることには断固反対したい。

No title

やすださん:

コメントありがとうございます。リスクをゼロにすることはできないということ、客観的には人の命の値段は無限大ではないということが日本人には中々納得できないようで、そこを突かれると日本の世論は操作されやすいですね。

No title

そんなに安全が欲しいなら、事故発生確率の低い飛行機や新幹線に乗ればいいじゃないかっていう話になりますよね。安全はもはや無料とは言えないと思います。
主に日本のニュースだと事故の犠牲者の葬式にカメラを向けて、参列者にインタビューし、「犯人が許せない」っていうコメントを放送して、あたかもその業界全体が悪いという風な印象を残してるのが納得出来ません。

No title

Dehmelさん:

JR各社や航空業界はニンマリでしょうね。政治家も、「県民の安全のため全国に新幹線を!」なんて言い出しかねません。採算の合わないところは「絆」(=地方交付金など国からの補助金)で解決と。田中角栄の時代に逆戻りかするのかな。

No title

大変不幸な事故でしたが、これ以降、ネットのニュース欄にやたらバス事故の報道が増えている様に感じ(まあ、統計を取った訳ではないのですが…)、少し “検索” してみたところ、ここにもたどり着きました。

バス事故自体は、毎年数百件の発生している様で、近年増加傾向を示している訳では無い事から、最近の報道はマスコミが選択的に取り上げているのだと思います。

ですから、規制緩和によって高速バスツアーの利用者が20倍になったことが、問題の本質では無いことは明らかです。

一方で、安全に対するコストについては、それが決して安いものではない点を、利用者も認識する必要があるのではないかと思います。 仰るとおり、どんなに対策を打ってもリスクをゼロにすることは出来ません。
だた、今回のツアー料金は3500円だったと言いますから、45名の参加で売り上げは15万円。
高速料金、燃料代、運転手の宿泊代で最低でも4~5万円掛かりますので、残り10万円で運転手の人件費、車両の維持・償却費更にバス会社と旅行会社の利益を出さなければならない…

利用者も、立場を変えればなんらかの生産者でありサービス提供者である訳で、規制の有無とは係わり無しに、何に対して対価を支払うのか? という認識は必要なのではないかと思います。

No title

IBM_userさん:

同意です。高品質なサービスがなくなってしまうと不便ですが、現時点では選択肢が豊富にあるのですから、規制を強化するメリットは基本的にないように思います。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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