米国アカデミックでの就職活動のまとめ -- このエントリーを含むはてなブックマーク

先日書いたが、
昨年末から今年前半に掛けて6カ国90件ほどの大学等の仕事に応募し、
4カ国8件のジョブマーケットインタビューを受けて、
運よく就職が決まった。

近年、日本の大学でアカデミックな仕事を得ることは、特に理系では
非常に難しくなってきている。そこで、日本人がアメリカの大学に応募
する際の参考になれば、との願いを込めて大学への応募のプロセスを
振り返ってみたい。


[1] 大学の仕事に応募する際の心得:

AMSのウェブサイトには、数学者達が書いた求職者向けの解説が
多く投稿されている。もちろん、数学以外の分野の人にとっては、
読み替えて読まなければいけない部分はあるが、多くの部分は
全ての分野にあてはまる普遍的な内容なので、参考になると思う。

特によく書かれていると思うのは、Rishel氏による
``The Academic Job Search in Mathematics''である。
応募書類の書き方から、面接の受け方、オファーの受け方まで
必要なことはほとんど全て書かれている。日本人のようなマイノリ
ティーは情報の面でも不利になるから、こうした情報を文書に
してまとめてあるのは非常にありがたい。



[2] 求人情報の探し方:

これはもう分野によって異なると言わざるをえない。
統計分野の場合には、
American Statiatical Association (ASA) JOB ウェブサイト
Institute of Mathematical Statistics (IMS) の求人サイト
Dept. of Statistcs, University of Florida の求人サイト
University of Washington の求人サイト
AMSTATNEWS(雑誌)の求人欄
などがある。
ASAは、アカデミック・企業の両方の求人が充実、IMSは主に
アカデミックの求人である。フロリダ大の情報サイトは、
ASAに近い感じで、件数は少ないものの過去の求人の一覧性
に優れる。

数学全体の場合には、
EIMS
Mathjobs.org (http://www.mathjobs.org/jobs)
などがある。

これらは、米国向けのサイトだが、アメリカ向けに求人を
掛けたい諸外国の大学を載せることも多い。しかし、基本的には
他国の詳しい情報は、各国独自のサイトを調べる必要がある。
私はそこまでは手が回らなかった。

[3] 選考過程:

(1) 応募:

翌年秋からの仕事の場合、通常10月~12月頃が出願の締め切り
になっている。カバーレター、履歴書(CV)、リサーチ・ステートメント、
ティーチング・ステートメント、teaching evaluation、主要論文、
推薦状(3-4通)を提出する。

オンラインで応募するもの、電子メールのもの、郵送のものの3通りが
あり、その組み合わせもあるので場合わけを要する。

カバーレター以外は、基本的に同じものを全ての大学に応募すればよいが、
大学によってはページ数の制限や細かい制約がある場合もある。

どうも日本と違う点は、それぞれ求職者が非常に多くの大学に応募する
ことだ。「行きたい大学」に応募するのではなく、「自分の条件に合う
大学」に全て応募するというイメージだ。

私の条件は、リサーチ大学の統計ポジションであり研究内容を自分で
選べる(特定の共同研究の義務がない)、ということだった。

(2) 書類選考:

有名大学のtenure-trackの統計ポジションには、50-100件、
数学のポジションには500-1000件くらいの応募があるらしい
(ちなみに、大抵の場合、採用は1人か2人である)。
大学の選考委員は、まずそれを書類選考で10名程度に絞る。

ちなみに、あまりにも強力な候補者が下位の大学に応募した場合、
「来そうにないから」という理由で落とされることがある。

(3) 電話インタビュー

選考委員が、電話で応募者を10-30分程度インタビューする。
選考委員は一人の場合もあるし、複数の場合もある。
通常、インタビューの時間は、事前に電話かe-mailで連絡がある。
志望動機がきちんとしたものかどうかや、志願者の英語力などを
チェックする。このステップを省く大学も多いようだ(特に数学科)。
1名の募集の場合は、この電話インタビューを通して、
通常キャンパスに呼ぶ2-7人程度の候補者を決める。

電話インタビューの段階では、1年間に何コース教える必要があるか
とか、テニュア(終身ポスト)を得るためのやリサーチの要件などを
聞くことができる。

ここではあくまでも、自分が応募するポジションに合っていることを
説明する必要がある。ティーチングカレッジのインタビューで
研究のことをあまり細かく話すと、往々にして落とされることが多い。


(4) キャンパス訪問(フライアウト)

多くの場合2泊3日程度の日程でキャンパスを訪問する。選考委員
の教授が、空港まで迎えに来ることが多い。
キャンパスに着くと、10人程度の教授と約30分ずつ面接をし、
30-60分程度のプレゼンテーションを行う。
また、学部長や学長との面談も組まれる。ランチは学科の教授陣と
一緒にとり、ディナーは選考委員長や学科長と共にする。また空き時間
には選考委員が、キャンパスや町を案内してくれることが多い。

自由時間は、朝、学科に着くまでと、ディナーが終わってホテルに
帰った後の午後8~9時以降だけなので、非常にハードな日程である。

なお、交通費、ホテル代、食事代などは、全て学科が負担する。

キャンパス訪問の段階で、学科長などに年俸などの条件面について
聞くとおおよその額を教えてくれる。また、大抵、他に選考中の大学が
あるかどうかを聞かれる。これは正直に答えるべきだが、「うちに来る
気はどのくらいあるか?」と聞かれたときは、ともかくポジティブな
答えを返して置けばよい。いずれにしても、契約書にサインするまで
は行く義務は生じないので、断る理由はあとから考えればよい。

逆に、選考プロセスについてこちらから質問することもできるが、
ほとんど当てにならないと考えた方が良い。それでも、何も情報が
ないよりはいいので、いろいろと探りを入れてみると良い。

(5) オファー

まずは、非公式な内定の知らせが来て、まだ興味があるかどうかを
尋ねられる。その後、興味があると答えれば、学部長や学長の承認を
受けて、オファーレターが来る。その後、1週間程度の間に、オファー
レターにサインをして送り返すと正式に契約終了となる。

(6) オファーのプロセス

ともかく、このプロセスは信じられないくらい長く、レターが届く
までに2週間かかることもある。一つのオファーを出すのに2週間、
猶予期間が1週間あるとすると、一人のつき3週間かかることになる。

学科が5人面接して1番と2番の候補者が辞退した場合、3番目の
人にオファーが来るのは、面接終了の6週間後である。2番目の人が
引き延ばしを図った場合、もっと長くなることも考えられる。

そんなわけで、例えばキャンパス訪問のときに、「オファーは3月
上旬頃」と言われたとしても、それは「2月中には来ませんよ」と
いうことを言っているに過ぎない。

私の場合は、なかなかオファーがもらえず8件ものフライアウトに
行った挙げ句、3月末から4月初めにかけて1週間のうちに4件の
オファーが立て続けに来た。

これはどういうことか?よく考えれば、なんてことはない。初めに
もっとも優秀な候補者層がたくさんのオファーを取って行き先を決め、
その後、次に優秀な層がオファーをもらって決める、自分に対する評価
がほぼ一定であるとすれば、どの大学からもほぼ同時にオファーが来る
ということなのだ。


[4] むすびに代えて

出願から就職先決定まで全部含めると
6ヶ月もの期間を就職活動に費やしたことになる。
かなりの気力、体力を使ったし、大変であったのは間違いないが、
一方で日本での就職活動に比べると非常に合理的であるとも感じた。
アメリカの大学産業の巨大さのおかげで、
分野を絞っても大量に応募することができるし、
応募一件あたりの手間は非常に小さい。
アメリカでもコネで決まるポジションはあるが、
その比率は日本より低い印象があるし、
応募のコストが小さいのであまり気にならない。
オファーがもらえるかどうかは最後まで分からなかったが、
大量に出しただけにこれで駄目だったら他の道を考えようと思えた。
日本だったら、何年もかけて仕事を探すというのは当たり前に
あることだ。

うまく行かなくても、すぐに見切りをつけることが出来る。
そして、別の分野で何度でも挑戦できる。
それがアメリカの良いところなのだろうと思う。
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ジャンル : 学問・文化・芸術

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プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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