慢性的な財政問題を抱える米国の地方自治体 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

ミシガン州では、2〜3月は固定資産税のための不動産評価の季節だ。
2月に市政府から固定資産税のための不動産評価額が送られてきて、
不満がある人は3月にアピールを行う。

米国で住民が負担する税金には大まかにいって
連邦税、州税、地方自治体の税(以下、市民税)と3種類があるが、
連邦税が主に所得税、州税は所得税と売上税、という比較的安定した
財源であるのに対して、市税などの地方自治体の税は主に
不動産価格の動向に大きく作用される固定資産税で賄われる。
これは法人に関しても同様で、法人が払う固定資産税が
市の主な収入となる。

地方自治体は歳入が不安定な上に、常に財政の均衡を強く求められる。
連邦政府は国債を発行することによって財政赤字を補填することも難しくないが、
地方自治体の債務には、日本と異なり実質的な連邦政府の保証がないため、
通貨発行権限がない地方政府が自力で資金を借り入れることが
難しいからである。

私の住むT市では、固定資産税のための不動産評価額は基本的に
過去2年間の売買情報を元に計算される。
そのため、1〜2年の遅れはあるものの、
地価の変動が税収にかなりダイレクトに反映されることになる。
現在住んでいる不動産の過去の固定資産税額を調べて見ると、
不動産バブル直後の2007年頃には税額が年3300ドル程度だったのが
昨年は年2000ドル程度まで下がっている。

市政府は激減した歳入から、公立学校の運営や消防、警察といった
生活の根本的な部分を担わなければいけないという状況になっている。
その結果、公立学校では1クラスの人数を増やしたり、
授業日数を減らして人件費を削ったり、
小中高の授業時間をずらして通学バスの台数を減らしたり、
といろいろな施策を打っている。
高校では授業開始が早くなりすぎて、寝不足になる生徒も多いという。
(なお高校の授業開始を一番早くしたのは午後にアルバイトを
しやすいというのが一つの理由のようだ。)
図書館や公共施設は閉鎖になったり時間を短縮したりしている。

良いニュースは昨年あたりから米国の不動産市況が
回復してきたことだが、問題の解決はそう簡単ではない。
例えば私が住んでいる家の固定資産評価額は今年8%上がるが、
税額の上昇率はわずかに約2%ほどである。
これは「継続して居住している住民の税額は物価上昇率を
超えないようにする」という法律があるためだ。
つまり市況が回復しても、新たに住宅を購入した人の数が
増えなければ、実質的な税収は増えない。
しかも、需給逼迫で住宅の流動性は低下している。
当面の間、歳入が低い水準にロックインされてしまったということだ。

なぜ、このようないびつな税制にになってしまっているのだろうか?
結局の所、その理由は不動産神話にある。
先日、学科の年配の同僚と話した際に彼は
「地方政府の財政は連邦政府とか州に比べれば安定してるんだけど、
最近は不動産が下がっちゃったから大変だよね。」
と言った。

「あれ?」というのが私の最初の感覚だった。
不動産価格が不安定なものという意識が米国人にはなかったようなのだ。
皆が不動産価格は物価を上回って上昇すると固く信じていた。
そうした仮定の下では、一番生活に直結する地方自治体の財政が
固定資産税で賄われるという税制は理にかなっていた。

不動産バブルが崩壊して、そうした前提は
あまり機能しなくなったように思える。
近年、将来の買い手である米国の若者は親に依存する傾向が
強まっており、なかなか一人暮らしをはじめない。
また、若者の借金に対する姿勢が慎重になっている
という調査結果も出ている。
人口増加率もここ数十年の最低水準で推移している。
こうした状況は、将来の不動産価格の上昇が
必ずしも約束されているわけではないことを示している。

先週、米国の平均株価は史上最高値を更新したが、
財政の構造的な問題の解決にはほど遠いというのが現状である。
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テーマ : アメリカ生活
ジャンル : 海外情報

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プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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