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いい加減、教員を聖職者扱いするのはやめよう -- このエントリーを含むはてなブックマーク

自民党が、公立学校の教員希望者に対して、
3〜5年程度の試用期間を経てから本免許を与える案をまとめたようだ。

結論から書けば、この案が実行されれば公立学校の新任教員の質は一気に低下するだろう。

1.雇用が不安定となり就職先としての魅力が低下

公立学校といえども教員には、教科の指導能力、マネジメント能力、対人交渉力、
とかなり幅広い能力が要求される。
もちろん公立学校に問題のある教員が多々いることも承知しているが、
それでも例えば米国などと比べて、熱意と指導力のある教員が多いのは
十分な待遇を用意しているからだ。
年収も平均で700万円台半ばとごく平均的なホワイトカラーが
就く仕事としては高いし(米国の多くの州では5万ドル台前半)
何よりも教員の雇用は多くの民間企業に比べて安定している。
業務内容の変化は緩やかであるし、一年単位で区切りのつく仕事なので、
女性には産休後に復帰しやすいというメリットもあるだろう。

そこに「当初3〜5年間は試用期間」などという案が通れば、
まともな学生の多くは公立学校教員というキャリア自体を断念するだろう。
仮に9割以上の「仮採用」者が本採用に至るにしても、
わざわざ3〜5年後に「不合格」の烙印を押されて20代半ばで
放り出されるリスクを取ってまで教員になるのは特殊な人に限られる。
「民間企業の正社員はだめだったけど、派遣社員よりは安定しているから」
という学生が、新任教員の平均像となる可能性が大きい。

2.パワーハラスメントが問題化

仮採用期間の勤務成績で本採用を決めるとなると、
学校側は新任教員に対して生殺与奪の権利を持つ事になる。

例えば米国の大学教員はテニュア制度という似た制度を持つが、
これは業績が査読付き論文や、政府系グラント、学生による教育評価など
客観的な指標で測れるということが大前提となっている。

学校現場のような業績評価を主観に頼らなければならない場で同じ制度を採用すれば、
学校や他の教員はこの権利を盾に、経験と称して様々な雑務を押し付けるという
ことになりかねない。仮に大半の教員が善意で新任教員に接したとしても、
インセンティブがある以上、必ず一部の学校ではこの問題が起るだろう。

米国では、公立学校の給与水準が低い事から小中学校の教員は事実上
ピンクカラーと呼ばれる女性が主に就く職業となっているが、
今回提案された制度の下では、試用期間中に産休を取ることに対する
ハードルが高くため、女性からの人気も落ちるだろう。

3.現職の問題教員対策にならない

教員に関する改革に関しては、他の労働問題と同様、必ずと言っていいほど、
既得権者への不利益を避けて新参者が負担を被るかたちで意見がまとまる。
免許の更新制にしても、教育系大学院にしても同様だ。

今回の案はその最たるもので、現存する問題教員の問題を全く解決しない。
平均的な教員が、35年間勤務するとすれば、排除できる問題教員の数は、
全体の35分の1しかいない新任教員の数パーセント程度ということになる
だろう。ある市に1000人の教員がいるとすれば、せいぜい年に
1〜3人程度の「教員に向かない人」を排除できるにすぎないと思われる。
しかも、わずかな問題教員は排除できても上で述べたように
人材の平均レベルは下がる可能性が極めて高い。

効果は非常に限定的であるし、明らかな問題教員を排除する目的であれば、
教育実習の評価を厳しくすることで十分に対応可能なはずだ。
民間企業の採用と異なり4週間も実地での研修が義務づけられた特殊な職種に、
わざわざ試用期間を設ける意義は正当化できない。


-----

結局のところ、どこの国のおとぎ話か分からないようなこんな不思議な案が
えらい議員先生たちから出てくるのは、
教員は特別な存在であるという誤った固定観念によるものだ。

今回の案を、一般企業、例えば業績不振に陥っているパナソニックかどこかに
置き換えれば、いかに異様な提案であるかがお分かり頂けるだろう。

「業績回復のために社員改革を実施する。問題社員の排除が目的だ。
現在の正社員に特に変更はないが、今後の新卒社員の採用に当たっては
当初3〜5年間を試用期間とし、勤務成績が良好な者のみ正社員として登用する。」

優秀な学生は誰もパナソニックに来なくなるのは、火を見るより明らかである。
月曜日のパナソニックの株価も暴落だ。

今回の提案がパナソニックの例と違うのは、教員の人材価値は株式市場で
取引されていないので暴落が観測できないという点だ。


公立小中学校の教員はじかに子供の成長を助けるという意味でやりがいのある仕事だが、
ストレスレベルも高く、自由度が高い仕事ではない。
勤務条件を大幅に悪化させれば、
志望者が大幅に減少するか、人材のレベルが下がるかのいずれかだ。

現状の雇用制度まで無視して、ステレオタイプで不自然に厳しい制度を
作ったところで、教育は静かに崩壊に向かうだけである。


(私の教育実習を担当した先生が書いた本。)

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テーマ : 教育
ジャンル : 学校・教育

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非公開コメント

その通りだと思います。

興味深く読ませて頂きました。まったくその通りだと思います。

問題は違いますが、この案を聞いたときに頭をよぎったのは「高速道路1000円」政策です。
あれも安くしたら交通量が増えて高速道路の意味がまったくなくなるというちょっと考えればわかりそうな
事をまったく考慮しないで(したかもしれませんが人気取りのために)導入されて結局廃止されましたよね。
共通するのは2次的、3次的な影響をまったく考慮していない、長期的視野のまったくない政策という事です。

ただこれは正直、こんな政策を支持するバカな有権者の存在も大きいと思います(高速道路1000円も支持
の有権者の方が多かったと思います)。残念ながら政治家も人気商売ですから、あほな政策(とわかってい
るかどうかしりませんが)でも有権者が希望すればやらざるを得ないのかなとも思います。
まともな政治家ならそういう有権者を啓蒙するところからしてくれるのでしょうが、そこまで期待するのは
どうかとも思いますし。個人的にはもっと有権者が賢くなれば、バカな政策も減ると思いますが、
いきなりそうはならないでしょうし、現状そうなっていく希望も薄いなと思います。

あとこれは私の認識ですが「米国の大学テニュア制度」がこの試用期間制度と似て異なるのは、
業績評価が客観的だからというよりも、試用期間中の待遇が他の職種に比べてかなりよい
(仕事時間の自由度や内容)という事も(の方が?)大きいのかなと思います(分野によるでしょうが)。
今は円安なので差は縮まっていますが、少し前は博士号を取って大学教員1年目の人の給料を聞いて
日本との違いにびっくりした覚えがあります。もちろん大学教員の職を得る事自体が日本より厳しいと
思いますが。

例えばこの教員制度にしても、試用期間中の待遇を他の職種に比べてかなりよくすれば、それなりに
教員の質の確保はできると思います。そういう意味で[2]の問題は試用期間中の待遇を良くすれば
若干は解決されるのかなと思います。ただ、給料を含め、待遇をそのままに採用だけ厳しくしても質
が落ちるだけでしょうね。

教員を目指して勉強中の学生です。

興味深く記事を読ませてもらいました。

より良い先生と教育現場のためには、北欧のような教員養成課程や教育行政が必要ではないでしょうか。
つまり、とりあえず教員免許をとってとりあえず教員になれる現行のシステムではなく、本当に教員になりたい人を専門家として養成するフィンランドモデルの方が教育界の刷新につながるのでは。まぁこれも入り口の改革ですが、自民党案よりは建設的かと。

完全に教育ムラの住人で潜在的な問題教員をどうするかという問題については、性善説で考えてみたらどうでしょうか?
問題を起こした/起こすかもしれない先生は、何も教員になろうと志した学生時代や教員になったばかりの頃から既に問題があったわけではないと思います。きっと教職へのあこがれや実現したい夢があったのではないか。
しかし、残業代なしで放課後や土日の部活と駆り出されたり、本業の授業に専念できないほどの事務や会議、自己研鑽の研修にもなかなか行けないといった、理想はかけ離れた教育界の現状に疲れ果ててしまい、そこで抑圧された何かが愚行へ走らせるのではないでしょうか?新任間もない先生が問題を起こした場合はその人に適性がなかったという話で、それ以外はたいていこの性善説が当てはまるのではないでしょうか。
これを改善する簡単な方法は、1人の先生がやることを限定すること。煩雑な事務は担当の人がやる。部活の顧問は地域の方に任せたり授業後に大変でもやりたいと思える最低限の報酬を保証する。大学院生を出た専門性の高い人を、授業に専念させる。
できうる手段は様々あるので、現場ではやれるところから実践してほしい。生徒のやる気を引き出す前に、教員が頑張りたいと思える体制や環境をつくってほしい。そのためには、教育界バッシングがトレンドになっている日本という社会全体が、問題の根底に気づくことが必要だろう。

No title

ですよね。さん:

大学にきちんと良い人材が集まるのは、おっしゃる通り仕事の自由度が高いからです。
ただしそうした職業の場合でも、業績評価基準はきちんとしていないとトラブルは
多発すると思います。
待遇は、准教授や教授とあまり変わらないという意味では高いですが、学歴を
考慮すると実はあまり高くありません。いわゆる教育と研究を兼ねるポジションの場合、
9ヶ月分の給料が出るのが普通ですが、これを3分の4倍して12ヶ月分に
引き直しても民間の新卒PhDの初任給には届かないのが普通です。

教員の待遇を改善するのは財政へのインパクトの観点から結構難しいと思います。
地方レベルでは全予算の18%は公教育に当てられていますので。
考えられるとすれば(おそらくそのうち実現する)週休2日制の廃止に合わせて
給料15%増しで土曜も出勤、という風にするのはどうかと思っています。
無理に土曜日用に別の教員を確保するよりも費用対効果が高そうです。
まあ、昨今の公務員バッシングの中では通らないでしょうけど。

No title

>教員を目指して勉強中の学生さん

ご提案の種々の政策はカネがないとできないですよ。カネが出せれば良質な教育ができるのは当たり前です。

No title

匿名さん:

まさにおっしゃる通りで、いま教育現場でやるべきことは分業を進める事です。
部活動、総務、授業、クラス担任、という仕事を切り離して適材適所で人材を
配置した上で、各業務に相応の給料を支払う。業務によっては外部に委託する。
分業を進めれば、同じ賃金総額でも必ず質は向上します。

小学校も3年生以上は教科担任制にすればいいし、中学だったら同じ科目内でも
英語がしゃべれない英語教師は文法や読解に専念させて、会話は会話力の高い
先生に担当させればいい。

「高い賃金払うから根性で何でもやれ」という現状の制度は誰も得をしない制度です。
例えば、小学校の全教員に英語を教えさせるなんて全く無駄な労力です。

No title

2つ目のコメントをした
者です。

dさん:
>ご提案の種々の政策はカネがないとできないですよ。カネが出せれば良質な教育ができるのは当たり前です。
本当にその通りだと思います。
最近の調査によれば、2009年度対GDP比の社会保障費は21.07%、教育費(公的支出)は3.6%。少子高齢化社会とはいえ、高齢者に対して子どもの7倍近くもお金を使っている。OECDの中でも、教育費はほぼ最下位。人材を適切に配置するなどして与えられた状況や予算でベストを尽くすことはもちろん重要。同時に、妥当とはいえない現在の予算配分も見直していただきたいですよね。
現行の政治制度ではほぼ不可能だと思いますが、教育予算見直しの声は国会には届かないものですかね?


参考サイト
•国立社会保障・人口問題研究所 社会保障費用統計(平成22年度)
 http://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/fsss-h22/1/1.html
•OECD 図表でみる統計
 http://www.oecd.org/education/EAG2012%20-%20Country%20note%20-%20Japan%20(JPN).pdf

先祖がえりもあり?

分業について元企業人が思うことです。日本(人)にとって有効な分業が絶望的なことは、本筋をついた自由な論議ができないこと、資質として、だから共同体としてできない、ということだと思います。それができれば日本の製造業がほぼ全滅することなどなかったと思います。
私が20年前に日本を出てきてしまったのもそのような理由でした。できる個人に集中する、制度を直しても(日本人同士でさえ)コミュニケートできない。これが「国際化」がいつまでもお題目であり続ける理由でもあります。
相互監視の眼の中で助け合う村落共同体型社会に戻るのか(必ずしも悪いことではない)、或いはできもしない資本主義的自由競争に行くのかの今が最後の境目だと思います。

No title

常無常人さん:

ごもっともです。企業の専門職で日本(企業)から出る人は
主にそれが理由でしょうね。

日本の組織に属する優秀な人は、例え多少評価が下がっても
自分から「これ以外の業務はやらないよ」という意思表示を
することも時には必要だと思います。

村落共同体社会・・・。それじゃあ一億二千万人も食っていけ
ないでしょうね。

No title

なるほど、

参考になります。

m(__)m

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プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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