デトロイト市破綻で何が焦点となるか -- このエントリーを含むはてなブックマーク


デトロイト市がついにチャプター9、破産法申請をおこなったらしい。
米国の地方自治体の破綻としては、
ここまでで最大だったアラバマ州ジェファーソン郡の負債総額
42億ドルを大幅に上回る、180-200億ドル規模になると予想されている。

驚きを持って伝えられたのは、破綻そのものよりも
ミシガン州政府が支援に乗り出さなかった事のようだが、
デトロイト市がミシガンの人口の7%を占めるで最大の都市で
あることを考えれば「踏み倒すのなら今!」との判断が為されることは、
むしろ必然であったようにも思われる。

デトロイトと言えば米国3大自動車会社の本拠地であり、
日本の自動車メーカーの躍進とともに廃れていった都市という印象が強いが、
財政破綻の直接の原因は自動車会社の不振というより、人口流出による税収の減少と、
それに伴う市職員退職者に対する福利厚生負担の相対的増大である。

1950年に185万人を数えたデトロイト市の人口は
直近では70万人前後まで減少した。
これには、米国の自動車産業の衰退のほかにも、
強すぎる労働者の権利による米国内での相対的競争力の低下、
60年代後半の人種問題に端を発する暴動による人口流出、
高い固定資産税や所得税、と様々な側面がある。
原因は異なれど、高齢化と人口減少が進む中で
年金制度や健康保険制度に問題が生じている日本にとっても
対岸の火事とは思えない出来事だろう。

ここで、急速な人口減少が進んだ米国の地方自治体が
大きな財政問題を抱えることを理解するには、
日米の社会保障制度の違いを知る必要がある。

まず、両国の年金制度を見てもらいたい。
130719年金制度
基本的には日本の年金制度は米国にならって作られているため、制度自体は似ている。
強いていえば違いは、日本の年金の国民年金と厚生年金にあたるものが、
米国ではソーシャルセキュリティーとして一本化されており、
全ての労働者が雇用主と折半で社会保障税として
支払うようになっていることくらいである。
なお、日本の厚生年金の料率が16.766%であるのに対し、
米国の社会保障税(年金部分)は12.4%となっている。

しかし、大きく異なるのは年金の3階部分の大きさである。
例えば、デトロイト市の職員が40年間働いて退職した場合、この3階部分は
年収の最も高かった3年間の年収をベース(AFCと言われる)として、
なんと、その77%+120ドルが毎年支払われている
(出所:デトロイト市退職金制度・年次報告書2011)。
20年間勤続した職員の場合でも、AFCの34%+120ドルである。

念のため補足すると、これはソーシャルセキュリティー(厚生年金部分)
の支給額に上乗せして支払われる額である。合算すれば、現役時代より
はるかに高い年収を得られる可能性があるということだ。

健康保険に関しても、米国の自治体や企業は大きな問題を抱える。
130719保険制度
日本では多少のオプションはあるにしろ、
基本的には退職後の健康保険は国保に一本化されるため、
自治体や企業には直接的な負担は生じない。
一方で、米国では基本的に健康(医療)保険は自由市場だ。
65歳以上においては政府が提供するメディケアがあるものの
保険金支払い基準が年々厳しくなっており、
退職者もできれば元雇用主の提供するカバレッジの高い民間の保険を好む。
車でも人間でも寿命が近づくにつれてあちこちの調子が悪くなる訳で、
保険料は莫大な額になる。
そして地方自治体には、こうした保険を大盤振る舞いしているところが多い。


私は法律の専門家ではないので詳しいことは分からないが、
破産申請時のこうした年金債務や医療保険債務の返済順位は必ずしも
明らかではないようだ。
退職金(給与)を年金形式で支給される労働債権が優先されるのとは異なり、
一般債権とともに法廷で減額を争うことになるのだろう。

もしも、こうした年金債務や医療保険債務の大幅なカットが
認められるとすれば、地方自治体のレベルにおいては、
世代間の分配の不平等はリセットできることになる。
これが可能になるかどうかが、今回のデトロイトの破産に当たっての最大の焦点だ。

さきほど、デトロイト市の人口は過去62年の間に6割以上も減少したと書いた。
しかし、都市圏全体の人口はこの期間にも持続的に増加してきた。
デトロイト市のあるウェイン郡の市外の人口は59万人から109万人に、
北西に隣接するオークランド郡では40万人から120万人に、
北東に隣接するマコウム郡では18万から85万に、それぞれ増加している。
つまり実際に起ったことは人口移動であり、減少ではない。

つまり今回、ミシガン州が大きな支援無しにデトロイトを破産させることが出来れば、
今後は、年金や高齢者向け医療保険などの多額のレガシーコストを背負う自治体が
容赦なく現役世代から捨てられる社会になるということになるだろう。
損失を被るのは投資家で、市職員だった退職者は絵に描いた餅を見せられたということになる。

この問題が、日本に対して示唆することは何だろうか。
日本の現役世代に大規模な移住先がない以上、
日本における世代間の社会保障の不平等は、
盤石な状態で維持される可能性が高いということになるだろう。


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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

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No title

あたりまえと言えばあたりまえですが、人口が減れば税収も減るわけで、世代間扶助方式の社会福祉が破綻するのも仕方がない話なんですね。

私が今住んでいるカナダの都市は、高機能移民の誘致を攻撃的なまでに行っていて、年率1%程度の人口増加トレンドを長期間続けています。世界的な不況下でも順調な経済ですし、何より様々な人種の若い人がいっぱいいるので、街に活気があふれています。

ここにある病院を訪れると政策立案者の意図が垣間見えるのですが、お年寄りの患者は殆どが白人で、面倒を見ている医者や看護師が移民であることが目立ちます。病院の受付ですらカタコトの英語です。カナダでも白人だけを見れば日本と同様の少子高齢化が進んでいるのですが、上手な移民政策を取ってきたお陰で、社会福祉政策としては希な成功例だと思います。

日本での移民政策は国民が認めないでしょうから、最終的にはデトロイト型の破綻でしょうか。規模がまるで違いますが…

No title

Chizさん:

カナダは移民が幅を利かせている感じがありますね。
人口増加率で言うと、米国よりも若干高い程度ですが。

日本も今後60年数年間に、低位推計だと6割近く人口が減少します。
日本はデトロイトほどの年金は約束していませんが、
あとは高齢者の良識に期待するしかありませんね。
まあ、日本人は健康で長寿なのでみんなに
75歳くらいまで働いてもらうしかないでしょう。

No title

Willyさま

そうですね。ただし、どういう訳か、カナダの出生率はアメリカよりも低く、人口に対する移民の割合は、カナダの方が高目になります。いずれにせよ、70年で人口が倍増する速度ですから、日本から見たら羨ましい人口ボーナスです。

生涯現役は、日本だからこそ使える裏技ですね。個人的には、年金を貰ってぼーっと過ごす老後なんて想像出来ません。健康であれば死ぬ直前まで働いていたいですが、日本人以外には理解して貰えませんね。

No title

確かに人口問題は深刻なんでしょうが、より大きなことは産業構造の転換でしょうね。また香港のことですが製造業は大陸に出て全く空洞化、バックヤードの仕事しか香港に残っていません。しかし幸運なことにある程度以上の能力がある人は大陸で仕事という選択もありました。地理、言葉の問題が少ないからです。(中国経済の行方次第なので今後は分かりません。)
単純サービス業など効率の悪い(労働単価の安い)仕事を新興国に開放することは必要ですが能力がある人が空いた時間でどこで何をするかが本当の難しさだと思います。

日本の地方の人口減少もつまるところ同じところに行きつくと思います。先にお書きになった住宅リスクの話も含めて一所懸命の意識が強い日本では何が選択できるのかでしょう。国際化は言葉だけではないことでもありますし。


No title

>単純サービス業など効率の悪い(労働単価の安い)仕事を新興国に開放することは必要ですが

アメリカやカナダ、オーストラリアの移民政策を見る限りでは、むしろ逆ですね。単純労働者は殆ど受け入れていない状況です。アメリカの場合は、多様性を保持するためとかで、抽選による永住権枠もありますが、高機能移民に求められる能力はかなりの水準です。「学部を卒業してシステム開発を5年間してました」程度では、かなり厳しいでしょう。そもそも、移民手続きまでしてくれる雇い主をまず自力で探さないといけないですし。

No title

Chizさん:

僕は、生涯働きたくはないですねー。
別に楽しみや時間を潰す方法なんていくらでもありますし。
でも、いつやめてもいいんだと思ってしまえば、
逆にストレスから解放されて働きたいと思うのかもしれません。

米国は単純労働者をもっと受け入れるべきではないかと思います。
基本的なサービスの値段が高過ぎます。
その場合、貧富の格差は更に広がるでしょうが。

常無常人さん:

香港くらいの人口規模なら、サービス業だけでも食いつなげそうですが、
日本は大きいから大変ですね。韓国と同レベルまで為替を徐々に切り下げながら、
製造部門を徐々に縮小して、研究開発などに特化していくイメージかな。

日本は物価が高い分、オフショアリングが可能な分野の単純労働者の実質賃金は
新興国よりも低くなる可能性すらありますね。プログラマーになるくらいなら、
床屋になった方がずっといいでしょう。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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