米国に住む日本人小学生の生活 -- このエントリーを含むはてなブックマーク


日本の小学校でも外国語活動が必修科されるなど英語学習熱が高まっている。日本人にとって言葉の構造や音が大きく違う英語の学習はなかなか難しい一方で、英語圏からの帰国子女は、英会話がうまかったり、海外の一流の大学や大学院に合格しやすかったりと、羨望の眼差しで見られることも多い。しかしながら、日本語と英語の両方を習得するためにはそれなりの労力がかかっていることもまた事実だ。そこで、米国在住の日本人小学生として、おそらくごく標準的な生活を送っている、小学2年生の娘の普段のスケジュールを紹介したいと思う。

現地の小学校は月曜日から金曜日までで、午前9時から午後4時までの授業だ。娘の場合は、月曜から木曜までは、その後5時半頃までいわゆる学童保育で友達と遊ぶ。日によっては、学校で催されるお絵書き教室やサイエンス教室などの課外授業などがある日もある。宿題は、今はまだ年度初めのため、ごく簡単な計算プリントを1日1枚、それに加えて、週1回二十くらいの単語を使った英作文と書き取りが出ている程度だ。今後は、1日20分の読書とか、「冷蔵庫にあるものを書き出そう」といった簡単な課題が加わることになるだろう。宿題は、主に月曜から木曜日に出るため、週末にやるものはほとんどない。ちなみに、娘の小学校は少なくとも4割がバイリンガルだが、少なくとも読み書きの能力において、バイリンガルの生徒の学力は、英語のみの子よりも平均すると少し高いように思う。

平日の夜は、夏なら私と散歩に出かけたり、それ以外の季節であれば、家でボードゲームをしたり、日本語や英語の本を読んだりして過ごす。英語の本を読む時間を除けば、生活は全て日本語だ。娘が英語で話しかけた時は日本語に直させる。先日、娘が「でも、ここはアメリカでしょ。」と言うので、「家の中は日本だ。よく覚えておけ。」と言っておいた。妻の実家にSlingboxを設置してもらい、録画した日本のテレビも見れるようにしてあるが、操作性の問題や、回りに日本のテレビを見る人がいないせいで、なかなか気が向かないようだ。

そのほか、金曜日はピアノを習いに日本人のピアノの先生のところへ行っている。米国の小学校では音楽の授業で楽譜を読ませないことも理由の一つだ。毎日少しずつ練習するという習慣も大事だろう。また、学童保育に行く日数が少ない学期は、水泳教室に週1回行っていたこともあった。

土曜日は、車で40分ほどの距離にある日本語補習校に通う。授業は午前8時55分から午後3時15分までだ。国語が3時間に算数が2時間、それに音楽や課外活動が1時間という構成のようだ。あいにく家から離れているので、私は娘を車で送ると、近くの喫茶店や図書館で仕事をして時間をつぶし、そのまま娘を迎えに行く。放課後に、図書室で日本の本とマンガを借りる。海外で日本の本を入手するのはコストが嵩むので、これはありがたい。娘にとって家族以外の日本人の子と触れ合えるのは補習校だけなので、その後は、なるべく友達と遊ばせるようにしている。ついつい私も子供と一緒に遊びたくなるが、子供に社会性をつけさせるためと思い、最近は他の子のご両親などと話すようにしている。娘も友達もなかなか楽しいようで、午後5時近くまで遊んでいることも多い。それでも中々帰りたがらないのが常だ。家に着くと午後5半頃になる。

日曜日は、補習校の宿題をやる日だ。国語と算数だけとはいえ、1週間分を1日で学習する上に、普段も日本語に触れる機会は少ないので時間がかかる。休憩時間を除いて3〜4時間くらいはかかっているだろう。算数はすぐに終わるが、熟語や作文などは、やはり時間がかかる。作文は親の助けもそれなりに必要である。日曜に予定がある週は、土曜の夜や月曜にも宿題を割り振る。

なお、日本語補習校は、他言語の補習校に比べ時間が長いことが多いようだ。中国語、韓国語などの補習校は土曜日に半日で終わるというケースが多い。というのも他言語の補習校が、米国への永住者を対象にしたヘリテージ教育の側面が強いのに対し、日本語補習校では、将来日本へ帰国することを前提としたカリキュラムが組まれていることが多いためだ。

以上のことをまとめると、米国に住む日本人の小学生は、英語で週5日、日本語で週2日勉強し、足りない分は本を読んでなんとか補うという感じだろうか。大雑把に言って、2つの言語を完全に習得するには2倍の学習時間が必要だ。ただし数学や科学的な知識をはじめいわばメタレベルで理解する内容については、一つの言語で学習すれば内容を他言語にも転移させることができるので、それぞれ本来の7割くらいの時間で、なんとか両方身につけるというイメージだろう。それでも、小学4年生にもなれば、完全に両方とも学年相応のレベルでついていくのは相当大変になるようだ。

英語圏の大都市に住む日本人の子どもは、他言語教育の環境に恵まれている。言語ごとに完全に別の環境を作って学ぶことができるからだ。しかし、だからといって、二言語を学ぶ労力が小さいというわけではないという事は、米国で育った日本人や帰国子女と接する全ての日本人に理解して欲しいと思う。

あとがき

実は、この記事を書こうかどうかしばらく迷った。というのは、在米日本人の方や英語圏で子育て経験がある日本人の方にとって当たり前のことしか書けないからだ。それでも、やはり、そうではない全ての方に事情を知って頂きたいと思い、書かせて頂いた次第である。
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テーマ : 海外の子育て
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バイリンガル

香港在住、娘はインターでした。
>>でも、ここはアメリカでしょ。
これは私も言われました。私は、「友達を見て御覧なさい、家では広東語を話してるでしょ?」で、娘の回答は「そっか~ だったらしょうがないね。」 千野栄一先生の第一回講義で、「子供に人はそれぞれ違う言葉を喋るんだ」、と思わせるのが、バイリンガルを作る早道と言われたのを思い出します。単に親が英語を話さずに済むので楽なんですけど。

No title

issacさん:

なるほど、それはそうですね。日本語が母国語の人は日本語で、英語が母国語の人は英語で、話しかけることが、結局はバイリンガルを育てるのに一番良いのでしょう。

言語の獲得以上に

私も補習校を「日本語を教えてくれる所」と捕らえていましたが、子供たちへ言語獲得以上のものを与えていただいたように感じています。補習校でのお友達はいずれ世界中にバラバラに散ってしまうことになりますが、やはり同じような環境で頑張っているお友達とつながっていることは後々大きな財産になるようです。
補習校を最後まで続けた卒業生、本当に有名大学へ進学される優秀な子供ばかりなのですよ。

No title

鉄火のマキさん:

続けるのは年々大変になりそうですが、続ける価値はありそうですね。

No title

補習校のハードな一端を始めて知りました。おそらく一つの専門を幾つかの言語でこなす必要が生じた時に強い味方になるでしょう。一つの専門を一つの言語でこなすことは当たり前にできないといけませんが複数言語でというのは容易くありませんからね。

今の子供たちが大人になるころは普通の企業内のジェネラルな部分さえ複数言語で切り抜ける時代になることでしょう。

No title

常無常人さん:

数学の場合は言語に依存して考える部分が少ないと感じます。

日本企業の文書や約束事も、多言語に対応する前に、
言葉に頼らずに論理的に説明することが第一なのではないかと思います。

初めまして

アメリカのミズーリ州セントルイス市に住んでいる者です。本当にブログ主様の仰る通りで、バイリンガル(特に右脳言語と左脳言語を習得する為には)は本当に大変な思いをして勉強をしています。日本ではハーフ、帰国子女がまるでなんの苦労もなくバイリンガルのように見られ、たまに口惜しい思いをします。みんな必死の思いで勉強をして、多言語取得者となるのですが・・モノリンガルには分かってもらえないことが多いですよね。私の周りではBi-ethnicityの子達がいますが、かなりの子供達が英語はきちんと読み書きできるが、もう一つの言語はさっぱりということが多いです。将来的に自分のアイデンティティに混乱しているケースを良くみます。言語は文化ですからね。娘さんもこのまま頑張っていっていて欲しいと思います。乱文失礼いたしました。

No title

Yuimaさん:

私も娘が生まれるまでは、「帰国子女って英語話せていいな」くらいにしか思ってませんでしたし、娘の祖父母などでさえも、日本に住んでいるのでなかなか実態を理解してもらうのは難しいのかな、と感じます。

モノリンガルとバイリンガルの、言葉に対する意識はずいぶん違うのでしょうね。在米日本人で立派なお医者さんになった人が「日本語も英語も苦手だ」と言っている例を取り上げて、あたかも日英バイリンガル教育には弊害が大きいかのように主張する意見を先日読みました。しかし、そうした主張自体、「モノリンガルの母語は完全である」という固定観念に基づいたものです。

No title

大変ですね~。でもやってる子どもが偉いです!

うちは長男はわりとなんでも脳に落ち着くのがラクな方で、反抗期まではポピーという教材を使って、自分でバイリンガル化していました。5歳くらいから、朝起きると置いてあるページを勉強してから遊ぶ、というふうに。5年生までは夏休みもしっかり勉強してくれました。ただ、漢字は読めても書けない、というふうになっていきましたが。

幼稚園から3年生までは毎年日本に帰り、4年生はとんで、5年生のとき「もう嫌だ」といいつつも、算数のテストは簡単だとしても、社会・理科も、わりとマシな点を取ってきて親がびっくり。あら、バイリンガルって簡単じゃない?って思ったのですが、甘かった。

娘は知識が脳を通過してしまうタイプなのです。同じように教えたはずなのですが、同じ教材を与えても、自分でできないし、教えても、どうも上手くいかない。これはヤバイ、と新しくマディソンにできた日本語補習校に2年・3年と通わせましたが、彼女の脳の許容量を完璧に超えていたようで、アップアップ状態になりました。さらに親も疲れ果て、3年生の終了式を最後に補習校はやめてしまいました。

息子は反抗期に突入し、音読拒否をし始め、日本語の自主的な勉強もしなくなりました。ただ、彼は漫画なら読むので、今は漫画をたくさん買い与えています。

一方娘は漫画さえも理解不能。。。ひらがながあっても、カタカナがもうあやしくなり、補習校で漢字も書けたあの2年間は一体なんだったのか???という状況です。しばらく放置していたのですが、このままじゃいけない!と、少しだけですが日本語を教えはじめています。

上手く書けませんが、わたしのやり方はよくなかったと思います。わたしの努力が足りなかったと思います。大変ですよね、ずっとやり続ける、ということは。でも、ま、将来、息子も娘も大学で日本語のクラスを取ってくれたらいいなあと思っています。話すほうは問題ないので、あとは読み書きをしっかり習ってもらえたらと。

大変ですよね、子どもたちも。親も。

No title

かきつばたさん:

英語と日本語を両方やるのは大変ですよね。子供も大変だし、親も大変。

どちらか一方だけ習う子のやることが100あるとすれば、
バイリンガルの子がやることは150くらいありますね。
でもいつも100点満点を取らなきゃいけないプレッシャーを感じる環境よりも、
努力と能力次第で150点まで取れる環境の方が、私は望ましいと思います。

来年は娘のためにも日本でまた体験入学させたいと思ってます。

No title

>先日、娘が「でも、ここはアメリカでしょ。」と言う
文革の時の漢詩(?)を思い出した。
我是中国人
何必学外文
不学ABC
照様干革命

訓読(汗)してみれば
我、中国人なり
何ぞ必ず外の文を学ぶか
ABC学ばずにして
様に照らして革命を干(おか)す
(私は中国人なのにどうして外国語をまな)

あは、言語獲得(SLA)は難しいね。
「Hackers and painters」を読むとき、アメリカ人は外国語のお勉強にあまり熱心でないことがわかった。お子様もこのような風潮に影響されやすいでしょう。

No title

バイリンガル(トリリンガル)はたしかにいいですね。外国語がわからないと知らないものも知れるようになれるから。でもすべての言語が一様に発達するとは限りません。たとえば、ほとんどのシンガポール人はバイリンガル(第1公用語が英語)ですが、英語をネイティブスピーカーのように自由自在に操れるわけではありません。第1公用語が英語なため、彼らの母語である中国語の学力は高いわけではないそうです。(香港と違い、シンガポール出身の中国語作家がいないみたい)
私は第n言語を獲得したいですが、母語がシンガポール的になるのは望みません。
まあ、私の場合、やっぱり物事を深〜く考えるときは中国語を使わなければなりませんね。日常生活のことを考えるときや日本語の本を読むときは日本語で考えるのもありえますけど。

No title

yx_whさん:

アカデミックで用いる主要言語と母語が違う状態というのは、確かに心配ですね。娘の母語は日本語なので、私はやはり日本語で勉強をしっかりやって欲しいという意識があります。

シンガポールの状況は興味深いですね。またシンガポールの初等中等教育は、中国語、マレー語、ヒンディのいずれか一カ国語が外国語として必修になっていると思いますが、この仕組みは多数派の3民族以外の子供には著しく不利で、シンガポールの国際化を妨げている面があると思います。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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