駐在員の現地体験を活用できない日本の電機メーカー -- このエントリーを含むはてなブックマーク

月曜日の米国は、レーバーデーで休日。ちょうど、キッチンのオーブンと食器洗い乾燥機の調子が悪くなっていたところに、レーバーデー・セールで家電が安くなっていたので、実店舗を少し見た後、ネットで注文した。ちなみに両方とも米国メーカー製。AV機器では日本メーカーのものが同じ値段であれば買うようにしているが、白物家電は全くと言って良いほど日本製は見当たらない。

欧米の白物家電市場における日本メーカーのプレゼンスの無さは目を覆いたくなる程だ。金融市場ではおなじみの加藤出氏が、「欧米の白物家電市場に“姿”なし 韓国勢の後塵拝す日系メーカー」 と題して、ダイヤモンドオンラインによくまとまった記事をアップしている。

米国の白物家電市場は、米国メーカーと韓国メーカーの寡占市場となっていて、ここにHaier などの中国勢が低価格攻勢で殴り込みをかけている構図である。3000ドル前後の高級冷蔵庫が飛ぶように売れる米国の白物家電市場が、儲からないマーケットであるはずがない。なぜ、日本メーカーは、不戦敗を喫しているのだろうか。

その一番の理由が、加藤氏も述べているように、マーケットリサーチの不足である。米国の白物家電は、トレンドが非常に重視されており、内容が大して変わらない製品でも、トレンディーとされている商品に大きなプレミアムがつく市場だ。冷蔵庫で言えば、何の変哲もない大型冷蔵庫は400ドルで買えてしまうが、少しだけ大きくして、観音開きにして、ドアパネルをステンレススチールに換えただけで、3000ドルになってしまう。あるいは食器洗い機では、つい1年ほど前まで、操作パネルが扉の前面にあるか上の縁にあるか、というわずかな違いだけで数百ドルの違いがあった、というような不思議な市場なのである。

韓国のサムスン電子が、現地に莫大な数のマーケティングリサーチ要員を配置し、トレンドを掴んで成功しているという話は加藤氏の記事でも触れられている通りだ。一方の日本メーカーが不戦敗を喫した理由は、まさにその裏返しであろう。

私が住んでいるデトロイトの日本人社会は、自動車や、自動車部品、自動車向け電気製品の会社の駐在員が大半を占めている。そこにいて、非常に歯がゆく感じていることは、そうした日本メーカーからの駐在員やその家族が、現地で暮らす米国人と同じ暮らしをしておらず、その結果、得られる可能性のある現地の貴重な情報を、みすみす見逃してしまっているのではないかということだ。

一番問題だと思うのは、日本メーカーの日本人社員の殆どが家賃補助を受けて借家に住んでいることである。衣食に関する関心が比較的低い米国では、マイホームの取得が人々の経済活動や生活に与える影響が非常に大きい。家の値段そのものは安くても、広い家に置く電気製品や家具、機械類、おもちゃ、車などにはかなりのお金をかけるからだ。娘の家庭教師の家では、今日から3週間かけて家族総出でキッチンのリモデルをするらしい。マネジメント的な立場の駐在員に、実際に家を買わせて、こうした現地の生活を体験させないでおくのは、将来のビジネスチャンスにわざわざフタをしているようなものである。

米国では、中古不動産の売買が頻繁であり、不動産価格と賃料の比も小さいため、4〜5年住むのであれば、自宅を買うことは経済合理性に叶うことが多い。現地を去った後も賃貸に出せば資産として活用できる。しかし、近年、日本メーカーの多くが、日本国内勤務者との公平性確保のために、駐在員が現地での不動産の購入を禁止していると聞く。これは例えるなら、「公平性確保のために部活をやっていない中学生に午後6時まで勉強することを禁止する」というルールを作るのと同じくらい馬鹿らしいものだ。

実際に、自分で家を買い家電を揃えてみなくては分からないこと、というのは、たくさんあるように思う。外を走っている自動車ならともかく、電気製品や家具は家に入ってみなければ分からない。

例えば、私は古くて狭いコンドに住んでいるので、家電を探す時にいつもサイズに苦労する。例えば、コンロの上部に設置する電子レンジの設置スペースが狭い。電子レンジが普及する以前に作られた家だからだ。うちの回りの家も全てがそうなっているはずだが、このサイズに合う電子レンジを作っているメーカーはほとんどない。結局、Haier社のものしか見つからなかったのでそれを購入した。こうしたニッチな製品は、小さいメーカーや新規参入者には良い出発点になるかも知れない。

日本の電機メーカーは4Kテレビの開発に熱心だが、米国の大きな家のリビングルームに行って、画面の大きさと画面からの距離の比を測ったことがあるのだろうか。それと合わせて、米国人がパソコンの画面を見る時に異常に画面に近づく癖を考慮するなら、4Kが先に必要なのは、テレビではなくパソコン画面であることはすぐに分かるだろう。

こうした細かい洞察の一つ一つを、実際に社員や調査員が米国の大多数の人が持つような家に住んでみる事なしに、経営レベルまで上げられるとはとても思えない。

日本メーカーはこれまで、技術者を比較的安い賃金で日夜働かせて素晴らしい製品を作り、それを海外にも持って行って売ろうとしてきた。しかし、多くのライバルが現れた今、現地の生活に即した商品を作らなければ太刀打ちできない。そのためには、経営的な視点を持つ駐在員なり現地採用社員なりを、より現地の生活に馴染ませ、そこからの情報をマーケティングリサーチに活かす事が、今後の成功の鍵ではないだろうか。


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-- 日本メーカーは白物家電の北米市場で成功できるか (2012/10/11)

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とても無理

Williyさんご無沙汰しています。
今回のお話、一半の真実であろうと思いますが、あと半分の問題は私が日本時代にエレクトロニクスの材料・コンポーネント屋として何十年関わり、来港以来の何十年はお客さんとして見た日本家電エレクトロニクス企業の実態にあるのではと思います。

日本の家電企業の海外(特に対アメリカ)マーケティングが成功した例はほんのわずか、多分VHSのVTR位でしょう。一般的に国内市場が十分大きかったせいでしょう、VTR以外では海外戦略を経営目標として真剣に売り上げの柱として考えたのはその昔のブラウン管TVくらい(成功しなかった)で、その後はないのではありませんか?

問題はその経営目標がどのように決まるかですが、結局日本の役員会の体質ならびにそこへ上程するための何とか企画室なり社長室なりにパイプがあるかで決まるように見えました。現地にいくら感覚の鋭いマーケの人物がいようが彼の一言二言がどんなに大声であろうが戦略になることは今でもあり得ないのではないでしょうか? またもし自由な営業情報吸い上げシステムが有効であるならほとんどすべての家電エレクトロニクス企業がこんな体たらくになることもなかったと思うのです。

現在もここでエレクトロニクス分野に関わりながら思うことは何十年相も変わらず意思決定が遅い(できない)日本企業の残念な事情ですし、それが分かっている人物にしても(だからこそ)これ以外の行動がとれない企業文化だし、それは言葉の出来不出来以上に国際化なんてとてもできない障害と思うのです。

No title

常無常人さん:

体験を踏まえたご意見ありがとうございます。日本企業の家電部門は本当に深刻ですね。米国の家電の質の低さを知っているだけに、非常に残念です。

No title

現地体験の機会があるにもかかわらず、有効に活かせてないという点では、日本政府の海外留学キャンペーンも同じような頓珍漢になってるように思います。最近の「トビダテ!JAPAN」キャンペーンは、AKBにプロモーションソングを歌わせたり、まともに海外体験もない有名人に応援の色紙を書かせるなど冗談としか思いようがありません。(より地味な国内大学への留学促進の補助金というのも、実際を見ると筋が悪い。)それもそもそも担当官庁の文科省、とりわけ旧文部省は完全にドメスティックな役所で、彼ら自身が外に出たこともないし、出ることを意識さえもしないからのように思えます。日本の省庁でも財務省や経産省であれば留学なり出向で海外に出ている方が多いだけに、日本政府全体という点では非常にもったいなく思われます。

No title

北米大学教員さん:

官庁や企業からの派遣留学生をたくさん知っていますが、いわばお客さんとして海外に来るので、米国の仕組みをどこまで体験して帰国するのか、というのはかなり微妙ではないかと思います。そうそう、派遣留学のインターン禁止も意味不明です。

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壊れず長持ち

Willyさん

家電メーカーに限らず、日系大手メーカーは現地・現物・現実を重視しているはずですけれど、商品の現地化に失敗していると言うのは不思議ですね。駐在は福利厚生プラス社内でのハクづけに過ぎず、現地情報を得るための仕事ではない、ということではないでしょうか・・・。

(耐久性が無さ過ぎる、というのが非日系メーカーの電化製品を使ってみての私の感想です。この点、日系メーカーには非常に期待しているのですけれど、暗い話題が多いですね。)

No title

kさん:

日系メーカーの製品は壊れにくい、というのはある程度正しい感じはします。しかし、車は信頼性調査を行っている民間企業がありますが、電気製品はそこまでみな気にしていないようですね。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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2.Matematical Statistics and Data Analysis
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   応用も充実。学部上級。

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