スポンサーサイト -- このエントリーを含むはてなブックマーク

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


1から分かるトヨタの種類株ーAA型種類株はなぜ投資家に有利なのか? -- このエントリーを含むはてなブックマーク

トヨタがAA型種類株という特殊な株式を発行出来ることが株主総会で決まった(詳しい内容はこちら)。様々なメディアが一般向けに解説をしているが、仕組みが一から分かるような説明があまりないようなので、ここで説明してみたい。

結論から言うと、この種類株は投資家にとって非常に得な条件で発行され、一方のトヨタは無駄金を使うことになる。発行価格がまだ決まっていないのにどうしてそう断言出来るのかを以下で説明する。

1.AA型に似た仕組み ー 転換社債(CB)

AA株は、5年間で年1.5%という確定利回りが保証されている一方、トヨタの普通株式に予め決められた転換できる権利がついているので、株価が大きく値上がりした場合には普通株に転換して利益を出せるようになっている。「確定利回り+転換権」という組み合わせはCBと似た仕組みである。そこで、まずCBの仕組みを復習してみよう。

CBが企業にとってメリットをもたらすのは、「普通株への転換」という通常よりも低い金利で借り入れが可能だからである。CBと普通社債(SB、固定金利での借り入れ)を比較してみよう。例えば、企業は債券発行にあたり、典型的には次のような2つの選択肢を持っている。

(SB)満期5年、利回り1%
(CB)満期5年、利回り0.5% + 株式への転換権つき。

つまり、株式への転換権という「おまけ」を付ける事によって、借り入れの金利を安くするのが企業側にとってCBを発行するメリットだ。

もちろん企業にとってのデメリットもある。例えば、株価が800円の企業が1億円のCBを発行し、一株あたり1000円で株式に転換できる権利を付けたとしよう。満期が来た時に、その企業の株価が1200円になっていたとすると、1億円のCBは、
(1億円)➗(1000円/株) = 10万株
に転換される。CBの持ち主には1200円のものを1000円で買うので得になるが、企業や既存の株主にとっては、市場より安い価格で新たな株式が発行されるので損になるというわけだ。しかし、そもそも株価が大幅に上昇するというシナリオは企業にとってはポジティブなので、そのデメリットは発行時点ではあまり問題にならない。

2.AA型の高過ぎる利回り

AA株の問題は、「株式への転換権」というおまけがついているにもかかわらず、利回りが5年で1.5%と非常に高いことだ。同時期に条件が決定された米アップル社の円建て5年債の利回りは0.35%である。アップルもトヨタも共に信用力の非常に高い企業であることを考えると、1.5%がいかにお得かが分かる。話を簡単にするため、0.35%のSBと1.5%のCBの信用度が同じ程度だとして比べてみよう。

(SB)満期5年、利回り0.35%
(CB)満期5年、利回り1.5% + 株式への転換権つき???

株式への転換価格の条件がどうなろうとも、「おまけ付きで利回りも高い」という時点でお得すぎる条件になっている。トヨタは、転換価格についてはマーケットに委ねて決定しようとしているが、8,234円(6/19現在)の普通株への転換価格が1万円になろうと2万円になろうと、「おまけ」である転換権の価値がゼロを下回ることはない。投資家に取って有利な条件にしかなり得ないのだ。

3.投資家にとっての落とし穴

上のようにAA型は投資家に有利な条件で発売されることが確定しているが、もちろん、注意点が全くないわけではない。

1つは、5年間譲渡ができないという流動性の制約である。これは、自由に低利での借り入れができない個人投資家にはデメリットであるが、余裕資金を運用する富裕層などにはあまり大きな障害にならないだろう。さらに、ファイナンスが比較的自由にできる金融機関や大企業、一部の機関投資家にとっては、大した障害にならないと言える。

もう1つは、利払いの確実性が普通社債(SB)に比べて劣るという点である。利払いについては、債券というよりも優先株(固定利回りで、普通株の配当に優先するが、社債の利払いより優先順位が落ちる金融商品)に近いと考えられる。しかし、自動車会社という業態は、電機メーカー等に比べ、短期•中期的には経営が安定していると考えられており、それほど大きなデメリットとはならないだろう。

4.トヨタにとってのメリットは?

トヨタは、この株式を安定株主の増加のための施策として位置づけているようだ。もちろん、そうした効果はある程度あるが、残念ながら今回のスキームはそのためにベストなものにはなっていない。

トヨタは、AA型種類株を普通株に1:1で転換する権利を付与し、その株数に応じた議決権を付与すると述べている。例えば、転換価格が現在の株価と同じ8234円だとして、AA株の発行価格が1万円であれば、トヨタは1万円の調達に対して1株分の議決権しか発行出来ない。しかも、上記の2.でみたように、AA株の利回り条件は非常に投資家に有利となるため、転換価格は非常に高くなる可能性が高い。例えば現在の株価の約2倍、1万6千円でAA型を発行すれば、同じ払い込み金額に対して、トヨタは半分の議決権しか発行出来ないことになる。要するに、議決権を増やすためには効率の悪い方法だと言えるのだ。

5.トヨタの株価への影響は?

結論から書けばネガティブだが、破壊的に大きな影響はないと言える。

ネガティブな点は二つある。一つは余計な金利を払う必要があるという点であり、もう一つは事実上の債券ホルダーが議決権を持つ事により、経営がより保守的になるという点である。もっとも、2つ目の点は、むしろトヨタの経営陣はポジティブな側面だと考えているようだ。これは「会社は株主の物ではなく、債権者や従業員を守るために存在する」という日本的な価値観の裏返しである。

一方で、破壊的に大きな影響が生じないのは、トヨタがAA型新株発行に合わせて、普通株を自社株買いするためだ。そのため、今回の新株発行で株式数が増えすぎて利益が希薄化するということはない。


6.「AA型種類株バーゲンセール」の原資

トヨタが余計な金利を払ってまで保守的な株主を増やせる余裕はどこから来るのだろうか?個別にトヨタという企業を見れば、発展途上国を始めたとした自動車需要の拡大、という追い風があるだろう。

しかし、もう少し大きな視点を持てば、先進国が巨額の政府債務を解消するために国債金利を人工的に低く抑え、その波及効果として、大企業が多額の資金を格安で調達できるようになったことが背景にある。米国の近年の株高も、自社株式を買い取って、低利の借り入れに置き換えることで支えられている面が大きい。トヨタの種類株発行も、その大きな流れに乗って、経営に問題が生じない程度で贅沢をした、といったところだろう。
スポンサーサイト


コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

検索フォーム
Twitter

Twitter < > Reload

お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

全記事表示

全ての記事を表示する

最近のコメント
訪問者数 (UA)
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
海外情報
29位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
北アメリカ
5位
アクセスランキングを見る>>
人気記事Top10


(はてなブックマークより)

カテゴリー
最近のトラックバック
お勧めブログ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。