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高騰する米国の教科書価格 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

8月下旬になり米国の大学では新年度を控えて、授業準備をする時期だ。今学期担当する授業は2コースとも自分で教科書を選んだのだが、教科書の値段があまりにも高騰していて驚いている。

大学院向けの教科書の値段は、一昔前まで一冊100ドル程度であることが多かった。しかし、今学期使う教科書は、4年前に自分で購入した時には174ドル、現在は270ドルだ。たった4年間で実に50%以上の値上がりである。これはアマゾンでの割引価格で、定価は342ドルだそうだ。

学部初級向けの教科書の値段も高騰している。私が現在の大学に就職した6年前、教科書の値段は150ドル強のものが多かった。米国の学部初級の教科書と言えば、簡単な内容に回りくどい説明をつけて1000ページ位に膨らませたような代物なので、それでも馬鹿らしいほど高いと感じていたが、今年選んだ教科書の販売価格は272ドルである。

私が特別高い教科書を選んだというわけでもないらしい。アマゾンで一番売れている学部向けの微積分の教科書、J.Stewartの"Calculus: Early Transcendentals"も273ドルだ。この本はかなり分厚いし内容もまともだが、あくまで標準的な微積分の内容で特に凝った本ではない。ちなみに、日本のアマゾンで一番売れていると思われる微積の入門書である杉浦光夫の解析入門 (1)は、私のが学生時代とほとんど変わらず3000円程度なので、いつの間にか日米の教科書価格は10倍も開いてしまった。

<なぜ米国の教科書価格はこんなにも上がってしまったのか?>

(1)大学教育への需要の強さ

単純な理由として、米国の大学教育に対する需要が強いという事があるだろう。若年人口の増加、留学生の増加、州政府等からの補助金削減によって、米国の州立大学の学費は9つの州で過去7年間のうちに50%以上上昇した。http://money.cnn.com/2015/05/13/pf/college/public-university-tuition-increase/ 過去30年を遡れば、ほとんどの州で学費は数倍に達している。これは、大学教育の需要の強さを裏付けている。学費の上昇に歩調を合わせるように、教科書も値上げされているというわけだ。

(2)米国の教科書はウドの大木

もう一つの単純な理由として、米国の教科書のページ数が多過ぎるということが挙げられる。例えば、東大出版の統計学入門 (基礎統計学)のページ数は300ページほどだが、今学期私が使う教科書は950ページもあって1ページの大きさも2倍だし、カラーのページも多い。内容は東大出版の教科書よりも少ないと思うが、ともかく量が多過ぎるのだ。紙の値段は電子化すれば解決できるが、著者の手間は量に比例して大きくなる。どうでもいいことまで延々と書いてしまうのが、多民族国家である米国の文化のだめなところである。

(3)教科書を選ぶのは学生ではない

こうした単純な理由以外にも、いくつかの構造的な要因も考えられる。私がある同僚に「最近の教科書は高過ぎて、(デトロイトにある)うちの大学の貧しい学生には買えなくなってしまうのでは?」と聞いた時の答えは「そんなことはない。うちの学生は高いiPhoneを持っているだろう?」という頓珍漢なものであった。携帯電話は学生にはもはや必需品であるし、一度買えば2〜3年はもつ。一科目の教科書の値段と比べられるようなものではない。だが「学生に買わせるものの値段など知ったことではない」という事なのだろう。ちなみに教員がどうやって教科書を入手しているかというと、出版社に電話やメールをして送ってもらうか、それができなければ、前学期に教えた教員から必死になって掻き集めるという具合である。

(4)貪欲な教科書会社

教科書会社があの手この手を使って、教科書の値段を上げようと画策していることも大きな原因の一つだ。例えば、発売されて年数が経つと教科書は中古が多く出回って値崩れする。そのため出版社は、内容が変わってなくても、数学の教科書であれば、練習問題の数字や問題番号を差し替えて使えなくしてしまう。今学期、私が使う272ドルの教科書は、第5版が今年出たばかりだが、第4版の中古であればわずか17ドルで手に入る。それならばと第4版を使う手もあるが、1、2年後にも新たな学生が中古を入手できるかどうか確実でないし、問題の解答などを作り直す手間を考えると最新版を使わないのはなかなか難しいものだ。

近年では、教科書会社は、教科書本体以外に補助教材をオンラインで提供している事が多い。これを期限付きのライセンス制にすれば、学生が中古の教科書を買うのを防ぐ事ができる。例えば、練習問題を穴埋め式にして自動で採点できるようなシステムを教員側に売り込めば、学生は高値のライセンスを買わざるを得ない。ちなみに、私の今学期の授業の教科書では、出版社が大学の書籍部に対し、ライセンス付きでなければ教科書を売らないと通告したようだ。

<教科書をもっと安くすることはできないのだろうか?>

簡単ではないが、いくつかの可能性はあるように思う。

(1) 大学の中で書いてしまう

現在の教科書価格を前提とすれば、大きな大学では自前で教科書を作った方が全体として利益が大きいだろう。例えば、州主導で州立大を協力させて教科書を作らせ無料で配布する。その代わりに、その半分を教科書作成費として学費に上乗せを認めれば良い。社会問題になっている大学の学費高騰を、ささやかではあるが、実質的に抑える効果があるはずだ。

(2) IT業界への期待

電子書籍の普及は、競争を激化させて、教科書価格を下げる事ができるかも知れない。動画配信分野では、日本のGyaoや米国のネットフリックスが既に独自で番組を作成しているのを考えると、AppleやAmazonなどのIT大手が未だに教科書作成に参入していないというのは、やや遅きに失している感すらある。大学教員としては、こうした大企業には、授業中に学生の集中力を削ぐIT機器を開発する前に、教育の質向上のためのコンテンツの開発に力を入れて欲しいところである。
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No title

高いですね~~~。学費が上がっていたのは有名だから知っていましたが、便乗値上げのように教科書まで値上げですか。

しかも中古が使えないようにしてるなんて、ズルイ。。。



No title

微積だったら例えばRudinのprinciple~みたいな定評のある古い本使うと学生が問題の答えをネットあたり見つけてしまうから駄目なのでしょうか?そもそも教員が自分で課題の問題作ること少ないんですか?日本だとまだ参考文献に解析概論が上がることもあったりやたら古い本使うこと多い気もするんですが対照的なんですねアメリカと。

No title

かきつばたさん

教科書会社はかなりの利益を上げているのでしょうね。大学教員に対する売込みも激しくなっているとも聞きます。

匿名さん

米国だと毎週のように課題を出しますから、全部自分で問題と解答を作って…、とやっているとすごい手間になってしまいます。試験問題くらいは自分で作っていますが。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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