米国民はなぜトランプを選んだか?ー生活者の視点から -- このエントリーを含むはてなブックマーク

これを書き始めた時点でトランプ大統領決定の報はまだ出ていないが、もう書かずにはいられない。私は2004年に初めて米国に足を踏み入れてから今までの12年間、ウィスコンシンとミシガンにほぼ半分ずつ住んできた。そして、今回の大統領選ではこの2州での共和党の予想外の勝利が、大統領選の結果を大きく左右したと言っても過言ではない。

今回の選挙結果は米国の現実を突きつけ、私の米国に対する見方を変えた。もっとも心に刺さったのは、著名な経済学者クルーグマンの以下のツイートだ。佐々木俊尚氏の邦訳とともに引用したい。



実際のところ私が米国で過ごしたこれまでの12年間、英語が不自由で体の小さなアジア人の私に対して殆どのアメリカ人はとても友好的だった。農村部やブルーカラーの白人の怒りなど感じることなど皆無と言ってよかった。

最初に住んだウィスコンシン州のマディソン市は超リベラルな大学町で、外国人にはとても親切だし、大学内で共和党支持を公言する人など見た事がない。外国人留学生はほとんどがみな質素な生活をしていたこともあり、住民は留学生を暖かく見守る雰囲気があった。私たちが、家の中で日本語で過ごしている娘の事を案じてプリスクールに入れた際も、妻がボランティアをする代わりに授業料を大幅に安くしてくれたこともある。そんな時も、「全く英語を知らない娘が言葉を理解するようになりました」などと感謝の報告を書くと、職員は我が子のように喜んでくれたりした。

大学院を修了しデトロイトで職を得たときは少し状況が違っていたが、やはり国籍や人種のせいで差別されるような事は基本的に少なかった。デトロイトは1967年に人種問題の暴動があり人種的に複雑な街で、そのうえ土地が広いので、人種や所得、教育水準などによってかなり細かく住み分けがされている都市圏である。私は、注意深く人種構成や所得水準、教育水準などを調べいま住む街を選んだ。ここは、比較的リベラルで高収入のホワイトカラーの白人と、高学歴で移民一世のアジア人が多く住む街だ。大きな大学町ほどリベラルではないが、少なくとも外国人が嫌いな住民はあまり多くない。例えば、高収入ホワイトカラーだが外国人嫌いの白人が住む街というのはまた別にあるのである。結果として、少なくとも市の住民との間で外国人であることに起因するトラブルに巻き込まれることは基本的にない。

夏に日本に帰国した際に、かつて習っていた英語の先生と再会し差別の話をした。彼はMBA持ちの黒人ニューヨーカーで元々人種差別には敏感な方なのだが、私が「差別を感じることはほとんどない」と言うと、彼の中西部に対するステレオタイプともあいまってとても意外そうな反応をした。もう20年近くも日本に住んでいる彼に、外国人でさえオープンに受け入れる今のアメリカの状況を話すのを私は少し誇らしく感じた。

少し個人的な話になるが、働き始めて、自分のアメリカでの立ち位置に対する感覚は徐々に変わってきた。英語が不自由で米国で勉強させてもらってる外国人から、曲がりなりにも米国で必要とされている労働者になったという意識を持つようになった。確かに米国は今でも白人の知識階層が幅を利かせている国であらゆるところでリーダーシップを取っているけれども、おそらくその次に必要とされているのは、アジアや旧ソ連、東欧諸国などからくる外国人や高度移民である。いまやグーグルやマイクロソフトのCEOですらインド系だし、大学教員のかなりの割合が中国人だ。パキスタン人の医師やフィリピン人の看護師も大量に流入している。高度移民は、実際、多くの白人アメリカ人よりも高い給料を貰い、良い暮らしをしている。私の住む市では高級スーパーのホールフーズで買い物をするインド人が凄い勢いで増えているし、外国人や移民の多くが高級ドイツ車やレクサスを乗り回す。いまや市内の高級住宅の買い手のほとんどは、中華系とインド系だ。多くの子供は米国籍か少なくとも永住権を持ち、おしなべて成績優秀だ。アジア系米国人は、ハーバード大の入学選考がアジア人を差別しているとして裁判を起こしている。

私にとっては、21世紀のアメリカではそういう状況が当たり前なのだと思うようになっていた。しかし、そうではなかったのだ。

今回のミシガンの選挙は、知識階層の多く住む地域と黒人が大半のデトロイトでは引き続き大多数が民主党を支持したが、変わったのは面積で大多数を占めるそれ以外の地域だ。白人の工場労働者や農業従事者がほとんどの地域である。これらの地域では4年前の選挙に比べ、圧倒的に民主党支持が減っている。クルーグマンが指摘するように、やはり田舎に住む白人の怒りは本物なのだろう。

大統領選で選挙区ごとの投票結果を見ると、いつも面積では圧倒的に共和党が勝利する。支持者の数ではほぼ半々だが、民主党は大都市という「点」、共和党はそれ以外の「面」を支配する。私が見て来たアメリカは所詮、数々の「点」とせいぜいそれを結ぶ「線」でしかなかったのだ。

米国中西部というのは広大な土地があるので田舎に住む人口が思いのほか多い。例えば、ウィスコンシン州の人口は580万人ほどだが、周辺部まで含めても最大都市圏のミルウォーキーに150万人(市内は60万)、州都のマディソン都市圏に50万人(市内24万)ほどである。それ以外は、かなり小さい都市や農村に住んでいる。おそらく、両海岸の大都市に住む米国人でさえ、ウィスコンシンの中でもド田舎に400万人近く住んでいるということは想像しがたいのではないか。

私も、「面」としてのアメリカに立ち寄ることが全くない訳ではない。旅行で州内の小さな観光地を訪れたり、別の都市を訪れる際に小さな町に休憩で立ち寄ることがある。そこには普段見ない人達が生活している。いや「おそらく生活しているはずだ」という言うべきかも知れない。街は閑散としていて、あまり人気(ひとけ)はない。1960年以前に建ったと思われる痛んだ家や古いアメ車、街の中心部にある昔ながらの地元の小さな商店街が目に入る。貧しい生活しか想像できない。東京からの旅行者が、国内の貧しい過疎地域の住宅地とか中国や東南アジアの田舎の風景を見たときの感覚に近いと思う。車を降りることはなるべく避けるが、あるとすれば、ガソリンスタンドか昼食に困ったときに入るSUBWAYのフランチャイズ店だ。店員は逆に親切だったりすることも多い。それが米国の田舎流のホスピタリティだし、普段外国人と直接の利害対立を感じないせいもあるだろう。しかし、グローバル化や一向に改善しない暮らしに対して不満を持っていないかといま改めて考えれば、そうではないのだろう。

ともかく、1年のうちに数回しか体験しない「面」としてのアメリカを自分はあまりに軽く見過ぎていたと思う。

幸い、トランプ氏はアジア系を中心とする高度移民の問題をそれほど先鋭化させているわけではない。しかし投票結果を見るに、白人低所得者層の怒りとその影響力は世論に敏感であるはずのマスコミや政治家でさえも想像できなかったほど大きく、その一部は確実に私たちにも向けられている。その現実を重く受け止めてこれからの4年間を過ごしたい。

それでも4年後に2016年の選挙はグローバル化の中の一時的な揺り戻しだったのだと振り返られることを願っている。
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No title

基本的に相手を頭ごなしにネトウヨだ!と上から目線で言っている人のように
ポリコレポリコレ!と叩き続けたらこんな風に大きなうねりになっちゃいましたねぇ
日本のこと語ってらっしゃいましたが、アメリカの方がよっぽど危ない状況だったんですね

No title

>日本のこと語ってらっしゃいましたが、アメリカの方がよっぽど危ない状況だったんですね

「日本を取り戻す」 (=Make Japan Great Again?)と言ってる人が首相になった日本に
米国も追いついてしまったということだと思います。

No title

追い付いてしまった、というのが正に適切な表現だと思います。
日本の話ですが、いわゆる田舎な地元の友人は自民党支持者がほとんど、というよりそもそも政治的関心が皆極めて薄く、逆に東京で知り合った大学時代の友人は最低でも政治に関する時事情報を把握する程度の関心は持っていました。あくまで私の抱いた漠然としたイメージですが、前者から見た政治は社会的な正しさや政策を比較して選択することではなく、自身が社会に対して抱いているフラストレーションの発散を代行してくれそうな者を選ぶ場になっているのだと思います。

No title

外からみた視点ですが、
今回の選挙において、アメリカの知識階層の人たちには正直がっかりしました。
まず、多くの知識階層の人たちが、新聞やメディアの偏向報道を真に受けて、
それをさも自分で考えた意見のように語っていた、ということです。
その結果、地方の白人たちの怒りになど気付いてもおらず、
トランプや支持者をこき下ろすようなことばかり続けた、と。
この結果を受けて、メディアが作り出したトランプ像が
本当に正しいかどうか検証した方がいいと思わないんでしょうか。

さらに最悪なのが、この期に及んでその怒りに気付かない知識階層の人たちです。
トランプ不支持はいいんですが、
ただ怒りに配慮しない態度を続けるというのは別問題ですし、
それを続けるというのは、本当にやばいんじゃないでしょうか。

No title

匿名さん:
そうですね。今回は選挙戦は政策を全くと言って良いほど問題にしておらず異常だと思いました。トランプが選ばれたからではなく、こういう選挙が行われること自体が民主主義の危機なのではないかと思います。

牛角さん:
本来は固定観念に基づいたアファーマティブアクションを廃止すべき時期なのだと思います。人種や性別ではなく、それぞれの環境やニーズに合わせた社会的支援が行われるべきなのにリベラルがAAを既得権益化させてしまった根は深い。再分配政策に関しては民主党の戦略不足、宣伝不足も大きいでしょう。

投票結果を見ると貧しい白人の反乱というより特にラストベルトの白人中間層の不満
マイノリティの現政権への不満がトランプ氏を勝たせと思います。
安倍総理トランプ氏、自民党と共和党を重ねるのは間違いかと

No title

>穴から さん

そうかなあ。
日本でも農業従事者が多い田舎で自民党支持が多いし、
低賃金労働者などの恵まれない層が右傾化してるので
似たようなものかと。
各種前提が違うので全く同じとは言いませんが。

まず低賃金労働者が右傾化の根拠がありません。今回も低賃金労働者というより
中高年白人男性がトランプ支持者の主流ですし
地方でのが支持率が高いというのは
そうですね。

No title

>穴からさん

確かに日本の場合、選挙権のあるマイノリティーがまだ非常に少ないので、
類似点をどう考えるのかは難しいところですね。

No title

知り合いの方の住む98パーセントが白人の町で、ヒラリーのポスターを張ってるうちが4軒トランプの家が0軒と聞いて、トランプが勝つんじゃないかと思っていました。農村部じゃなく、まあまあな都市部の白人が誰にも内緒で支持してたんじゃないかなと思ってたのですが、、ちがいますか??
自分の家族の余った分を周りにあげていたつもりが、自分の分が減ってしまっているのに気付いたということかなと、差別など口にしないよく教育された人たちが支持したのかと。

No title

ゴハソさん

お久しぶりです。今回の選挙は本当に人種間の分断が大きかったですね。
白人は、貧しい人も裕福な人も、男も女も、そろってトランプに入れたところがあります。
2004年も共和党が勝ちましたが、深刻さが全く違うように思います。

No title

『怒り』で白人たちがトランプに投票したと分析するなら、これ自体が大きな間違いだったのでは。これ以上白人差別をするなという「恐怖」からの支持じゃないかな。
白人の本音はこの米国ではなかなか聞けないですよ。怖くて言えないですからね。
メラニア夫人は高級コールガールっぽいと言ったら笑いが起きるけど、ミシェル夫人って豪遊好きの不細工だよねなんて口が裂けても言えませんからね。

白人=キリスト教=バカ、っていうハリウッドを含むリベラルの逆差別に疲れたサイレントマジョリティーが実際に存在していただけかな、たぶん。

No title

ムーンさん

日本人は会話に裏表がありますが、米国人は表しかないですね。
その意味は、いつも本音というわけでは決してなく、いつも建前ということです。
しかし、いつも建前を言っていればそれが徐々に正しくなる、というのが米国の歴史でした。
(もちろん、「黒人は奴隷でいるべき」と考える人が今でもいないわけではないでしょうが。)

米国にいる以上、それを前提として暮らすのがルールですが、
そのルールをひっくり返したのがトランプだということです。

No title

willy氏の貴重な在米体験記、楽しく読みました。

日本のメディアでは、プアホワイト、経済格差、人種間対立と今回の選挙に関して偏向報道がされていたような気がします。

こういうジャーナリスティクな記事もときたま書いてください。

白人は怒っているわけではない

Willy さんご無沙汰しております。

さて、トランプへの投票総数はロムニーを上回っていないので、彼の当選の根拠を白人に向けるのは強引すぎると思います。

オバマ政権の不甲斐なさと、ヒラリーの魅力不足が要因だと思います。

根拠としては、2010年中間選挙以来、地方議会選挙を含めると民主党は1000議席を失っており、左から右への戻りの中でトランプの当選を考える方がすっきりすると思います。

アメリカのリベラルは、オバマ就任以来狂ってきております。共和党に中道はいますが、民主党は左極に思いっきり行ってしまいました。

トランプ政権下で、民主党の年寄り首脳陣がいなくなって民主党の巻き返しが始まりそうです。

「白人の怒り」の本質は、逆差別するなに尽きると思います。公平な基準を皆が求めているのだと思います。
プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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