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日本の英語教育を考える -- このエントリーを含むはてなブックマーク

ツイッターで高校の英語の宿題内容がバズっていたので、これを機会に日本の英語教育について考えてみたい。

1. 問題のツイートはこちら



この宿題は全く役に立たない訳ではないが、一言で言うと効率が悪過ぎる。何が問題なのか見ていこう。

(1) 無駄が多い。

知っている単語も書き写さなければならないというのは効率が悪い。我々はまっさらなコンピューターメモリーではないので、当然ながら単語集には知っている単語もあれば知らない単語もある。恐らく自分のレベルに適した単語集というのは、その中の5〜8割くらいの単語は何となく分かるというものだ。知っている単語を5回づつ書くのは時間の無駄だ。

(2) 単語を使えるようにならない。

「relate 〜を関連づける 関連する」のように英語に比較的近い日本語訳を対応させただけではいくら完璧に覚えても、自分で使えるようにならない。この覚え方は英語の本を読むということに特化した過去の英語教育の遺物である。日本人が英語でアウトプットすることが苦手なのはこれが一つの原因だ。

この単語をどのように使えば良いか、ジーニアス英和大辞典を引いてみよう。

"I relate my good grades to [with] hard work."
(私は自分の成績がよくなったのは猛勉強をしたためだと思う。)

"Cancer of skin, breast and colon are directly related to the intake of fats."
(皮膚ガン、乳ガン、結腸ガンはどれも脂肪の摂取と直接関連しています。)

最初の文章を読めば relate を使うには to や with と組み合わせなければならないケースが多いこと、二番目を文章を読めば受動態で使うには be related to というセットで覚えるのが有用な事や、directly などの形容詞が意味を補うのに便利であることが容易に想像できる。

(3) 頭を使わない。

上の2つの例文を読んで穴埋めや英訳のテストに備えるのと、単語5回と日本語訳1回を書き写して提出するのではどちらが頭を使うだろうか。間違えなく前者だろう。後者は頭を使わないので圧倒的に楽だが、時間当たりで考えれば全く身に付かない方法である。当たり前だが、勉強の時間効率を考えたら、より頭を使って大変な方をやらなければならない。

またこの宿題の方法では、確認せずに進むのでやり終えたところで何人の生徒の記憶が定着するのか疑問である。

(4) 時間がかかりすぎる。

それでもある程度の単純暗記も必要だという結論に至ったとしよう。そうだとしても、英単語を5回ずつ書くのも、日本語訳を1回書くのも時間がかかりすぎる。簡単に覚えられる単語とそうでないものがある。例えば以下の10単語はこの参考書の最初の方に出てくる単語だ。

succeed, accomplish, fulfill, attain, perform, advance, found, establish, compose, constitute

ある生徒はsucceed以外の単語は知らなかったとしよう。それでも、performは名詞形のパフォーマンスが日本語としても使われているからすぐに覚えられるだろうし、fulfillも full と fill を知っていれば覚えやすい。

更に言えば、1回書く時間で何回読めるかを考えどちらが効率が良いか考える必要もある。1回書く時間で4回読めたとして、5回書くのが良いのか、20回読むのが良いのか、2回書いて12回読むのが良いのか?同様に日本語訳はどうか。この宿題の方法は多くの生徒にとって最適解ではない。

2. 国や県、学校は何をすべきか?

意識の高い方は「どんな底辺高校の宿題なんだ」と思われたかも知れないが、この柏陽高校は入学難易度で神奈川県立の上位5校に入る、優等生が集まる高校だ。同校ホームページによると、この春、東大に4人、東工大に13人、横浜国大には28人合格している。世間の人は、卒業生には将来、立派なビジネスパーソンになって海外出張などもこなせるような人材になって欲しいと願っているだろう。それなのに高校の英語教育はどうしてこうなってしまっているのだろうか。国や県、学校は何をすべきなのだろう。

(1) 分業とスケールメリットの追求

私が日々雑務と部活に追われる高校の英語教師だったとして、上のような宿題を絶対に出さないだろうかと考えてみる。もう少しましな方法で出したいとは思うだろうが、上でダメだしした事を全て改善できるかと言えば自信がない。無駄を省くには、何か効率的なプリントなりアプリを作った方が良いだろうが手間がかかる。良い例文を集めるにも時間がかかる。効率的な記憶方法を知るのも単なる一教師にとっては簡単ではない。

まず、学校は英語教師に英語教育に専念させるべきだし、国や県は良いカリキュラムを開発しそれを広く全ての学校で使えるように仕組みを整えるべきである。スケールメリットを活かせば、全部の学校にネイティブスピーカーを配置したり、全英語教員の英語レベルを実用レベルまで引上げるより圧倒的に安いコストでできるはずだ。

(2)教育リソースの傾斜配分

はっきり言ってしまおう。底辺高校で英語教育をする価値はほぼない。将来、英語が必要になるのは、他国の労働者と関わることになるような知識階層だけである。グローバル化で英語が必要な人の数は増えるだろうが、イメージとしてはせいぜい全人口の2割とか3割とかそういうレベルではないかと思う。全員に十分な英語環境を用意できるのは理想的だが、上のツイートからも分かるようにそれは現実的ではない。

従って、生徒の学習意欲が低いような高校では全国規模で開発するオンライン教材などに大部分を依存し、英語力や指導力の高い教員は学習意欲が高い子が多い高校に重点的に配分すべきである。これには大きなメリットがある。例えば、上に挙げた英語の例文を使って、冬休みに英作文のテストをしたとしよう。例文そのままの解答なら採点は簡単だが、生徒が異なる構文を使って答えを書いたときに、それが正しいかどうか採点するにはかなりの英語力が必要である。そのため、そういった試験は日本の高校ではあまり行われない。これは、日本人の英語アウトプット能力の低い大きな原因の一つである。

また、そうした高校では教員が各教科の教育に専念できる体制を敷く代わりに、カリキュラム開発などの面でより重責を担わせるべきだ。


3. 生徒は何をすべきか?

英語を身につけたい中高生へのアドバイスは「最初から高みを目指して」ということだ。学校の宿題であっても、受験のためであっても、本当に大事でないことに多くの時間を使うのは無駄だ。

私は、中学の時も高校の時も英語が大の苦手だった。中学の時は担任が数学の先生だったので私はとても優秀な生徒だと思われていたらしく、英語教員から成績表を受け取った時は「Willy君の成績は間違ってませんか?」と問い合わせたそうだ。高校では進級に必要な点は100点満点の50点だったが、しょっちゅう50点や51点を取った。一歩間違えれば留年していたかも知れない。

そんな私が、24歳で働き始めてから英語の勉強を始め、米国の大学で働くまでになったのを見て、どんな秘密があるのだろうと興味を持つ知人もいた。実のところ、今でも私は英語が苦手だ。しかし私にとって幸運だったことは「英語で全ての生活を送れるようにする」という高い目標があったことと、それを達成するための手段に何の制約もなかったことだ。TOEFLという中間目標はあったが、それとて最終目標ではなかったので、全方位で英語を勉強することをいっとき楽しめたのだと思う。
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No title

いつも興味深く拝読しています。

これからは、子供の未来は理数系の適性があるかどうかによって決まると思いますよ。
英語とか国語は後からでも、それこそ成人してからでも何ともなりますが、
理数系は子供の頃から鍛えておかないとどうしようもないし
特殊能力もない文系だと、それなりの対人能力が備わっていない限り暗い未来が待っています。
それこそAIのしもべみたいな存在に成り下がるんじゃないでしょうか。

Willyさんにはぜひ、「理数系が得意な子供を育てるにはどうすればいいか」というお話を書いていただければと。
個人的には、生得的なところでかなり決まるんじゃないかと思っていますが、
だとしたら、駄目な子供はやっぱり駄目なわけで、なかなか難しいですね。。。

No title

>leftyさん

娘は算数が少し苦手なのですが、算数や数学に関しては生まれつきが大きいと感じます。
1) 早く解けるようにスピードを上げること、
2) 間違いを減らすために集中力と注意力をつけること、
3) ある程度能力のある子には能動的に考えさせたり、論理的に記述する訓練をさせること、
は大事だと思いますが、具体的にどう改善するのかは難しいです。

個人的には、中高の多くの数学の問題で、きちんと論理を組み立てることなしに満点が取れてしまうということに違和感を感じています。例えば、プログラミング教育を組み入れて論理的にきちんとしていないと全く点が取れないようにするとか、初等幾何や初等数論の証明を多少強化するとか、そういう方向がこれからの時代には必要なのかなと思います。ただ、その場合、大多数を合格点に引上げるのは無理だと思います。

No title

しばらくでした。
`60代有数の東大進学校で育ちました。その後の経験から申し上げると、英文法は時制より何より前置詞(全くのスパルタ、詰込み)、書く英語には全文暗記試験は大変役にたちました。(文型を覚えることができます。)文献の読み書きプレゼンには後では絶対に間に合いません。

書く英語は立派でしたが全く喋れない日本人何人かとこの地で仕事をしたこともあります。
日本人が外国語を喋るのはまずある種のチャレンジ精神、はっきり言えば図々しくないとだめでしょう。次に、喋るのはわりと簡単、だって心の中で何を言うか準備できますから、でも聞き取りが難しい。英語と言っても一筋縄にはゆきませんし基本の発想が違うことがしばしばです。さてそれからです、要は場数と図々しさ。中国語の話ですが工場で女工にあなた幾つ?って聞いたら幾つだと思う?と返されて返事ができなかった友人の話があります。こうゆうやりとりが難しい。基本的に専門の話は易しいしそういう場では聞いてくれますから。
もちろん買い物英語なら大人になってからで十分、客はこちら、いやなら買わなければいい。

理数といっても純粋数学や量子科学、医学の世界は良くわかりませんが物理や工学寄りは子供のうちのセンスや行動が重要、これも後では間に合いませんね。
一般に理数系や物理・工学屋はあとで文系や営業・接客業ができる人がいますが文系は絶対にあとでは理数系の仕事はできないと言ってよいですから理数の勉強も簡単に論ずることは難しいですね。

No title

常無常人さん

確かに全文暗記の方が単語より役に立つでしょうね。

聞き取りは相変わらず苦戦しています。今学期、5年振りに教えた一番下のクラスの何人かの学生の言うことが聞き取れない。自分の英語の聞き取り能力の問題、元来(日本語や、言語以外の音も含め)自分の聴覚力が弱い問題、学生の質問の仕方が論理だっていない問題に加えて、最近の子は教室で質問したり答えたりする時には大きな声で言わなければ聞こえない、という事もどうも理解していないようなのです。非常に参りました。学部上級以上のクラスでは、全く問題はないのですが。

一年前、白井恭弘という方の本(「外国語学習の科学」、「英語はもっと科学的に学習しよう」、「外国語学習に成功する人、しない人」)を読みました。「英語教師のための第二言語習得論入門」は読みそびれたかもしれません。(いずれの本も内容が似通っていたと思いますので入手しやすいもので事足りるかと思います。)

No title

専門性があって初めて生きるのが英語です。
willy氏は、英語は、知識労働者または、専門職以外必要ないと書かれていますが、底辺層の観光業なら中学英語程度で口語表現ができれば、相当、外国人がお金を落としてくれるのですが・・・

それと英英辞典、英語の国語辞典をフル活用する教育も必要でしょう。一対一の対訳教育では、語学が嫌になります。

No title

>zさん

本の紹介ありがとうございます。

>ゴーディアン&クリントさん

>底辺層の観光業なら中学英語程度で口語表現ができれば、
>相当、外国人がお金を落としてくれるのですが・・・

興味がある子が英語を勉強できるような仕組みはあった方が良いでしょうね。
あとは、国際的企業などで働くための教育と、観光客や外国人労働者と最低限の
コミュニケーションを取るための教育を分ける必要があるでしょう。

>それと英英辞典、英語の国語辞典をフル活用する教育も必要でしょう。

ある程度進んだレベルでは、抽象的な単語、適切な訳がない動詞
などではそういうこともありますね。そうは言っても、具体的な
文章に接したり、グーグルで用例を調べた方が役に立つケースが
大半だとは思いますが。

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Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程にてPhD取得。現在、米国の某州立大准教授。

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1.ルベーグ積分30講
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2.Matematical Statistics and Data Analysis
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