海外就労者は国民年金に任意加入した方が得か? -- このエントリーを含むはてなブックマーク

駐在員を除く海外就労者の場合、年金は在住国の制度に入るのが基本となっているため、
引退後は日本にいた頃の年金と海外で働いて得た年金を納付額に応じて受け取ることになる。

一方で海外在住であっても、日本の国民年金に任意加入して保険料を納めることもできる。あくまで任意加入なので、ある程度の経済的余裕のある人にとっては、保険料を納めるかどうかは純粋な投資判断となる。この投資判断をガチで検討してみようと思う。

1.国民年金は加入者に不利になりにくい仕組み

こんにちの日本人が持つステレオタイプからすれば、少子高齢化が進み政府の財政も悪化している日本で保険料を納めるのはバカ、ということになるのだろうが、実はこの投資判断はそんなに簡単ではない。

橘玲氏の著書 「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」 にもあるように、国民年金は厚生年金とは異なり強制的に納付させることが難しいため、投資商品として著しく不利なものにすることは制度設計上難しいのである。国民年金が2分の1を国庫負担として運営しているのも、元をたどればこうした背景があるからだ。

一方で誤解なきように付け加えておくと、強制徴収が可能な厚生年金が将来的に大きく払い損になることは巷で語られているように、かなり確度は高い。



2.いくつかのオプションの考慮

さらに国民年金には付加年金という任意の制度があるが、これはさらに投資商品としての魅力がないと成り立たない。そこで政府は付加年金をたった2年間受給すれば名目ベースでトントンになるという制度を設けている。仮に20年受給できれば、掛け金の10倍が返ってくる計算になる。したがって、もし保険料を納めるのであればこの付加年金にも加入するのが当然得だ。

次に、年金の繰り下げ受給について考えてみよう。つまり年金開始年齢を遅らせれば支給が増えるという仕組みのことだ。これが得かどうかはもちろん受給者が何歳まで生きるかによるが、基本的には繰り下げた方がメリットが大きい。より遅い時点から多くの金額をもらった方が「長生きする経済的リスク」に備えられるからである。

念のため、65歳からと70歳からの受給額を具体的に計算してみよう。現在、国民年金を5年繰り下げた場合の受給額は42%割り増しになる。平成22年生命表によると、20〜60歳のうちもっとも期待寿命が短い20歳男性のケースで平均80.1歳まで生きられる。この場合、65歳からなら10.1年、70歳からなら15.1年、年金を受け取れることになる。受給期間の比は1.50(=15.1/10.1)となるので、実は65歳から受け取ると想定した方が若干有利だ。
一方、期待寿命がもっとも長い60歳女性のケースでは、平均88.4歳まで生きられるので、受給期間の比は1.37となり70歳から受給の方が若干有利となる。しかもこれらの数字は、平成22年に亡くなった人から計算した値であり、将来の平均寿命はより長くなることが想定される。

現在の簡単な生命表は厚生労働省のサイトで見ることができる。いくつか他のケースを示しておくと、40歳男性では平均80.8歳、40歳女性なら平均87.2歳まで生きられる。 

3.現在の受給額を元にした試算

そこで以下では、付加年金に加入して70歳から受給というケースを考える。

現在の年金保険料は月額16260円。これに付加保険料の400円を加えると、16660円となる。
受け取る保険金は納付期間に比例するので満額の場合を計算すれば十分である。

40年間納付した場合の保険料を現在の価格で計算すると、
16660 (円/月) × 480 (月) = 7,996,800 (円)

一方、受け取り保険金は年額780,100円を42%割増で受給するため、
780,100 (円/年) × 1.42 = 1,107,742 (円/年)

となる。この比は13.85%となるので、納めた保険料総額の13.85%を70歳以降、
毎年受け取ることになる。年金は物価にスライドするのでこれは実質ベースの数字だ。
米100キロの保険料を納めると、毎年米13.85キロ分の年金を受け取れるという具合だ。

平均余命をもとに、70歳以降で何年間年金を受給できるかの期待値は上で示した通りで、20歳男性で10.1年 → 受け取りが納付の1.40倍
40歳男性で10.8年 → 受け取りが納付の1.50倍
40歳女性で17.2年 → 受け取りが納付の2.38倍
60歳女性で18.1年 → 受け取りが納付の2.51倍
となる。

4.将来の年金財政悪化を織り込む

日本では年金が破綻するという噂に事欠かないが、各種の資料を使えばそれなりにまともな試算を出すことは可能であるように思える。人口構成や生産性上昇率に合わせて、年金額を減らすマクロ経済スライドというものだ。現在の年金財政の問題は、このマクロ経済スライドが様々な政治的な力によってフルに反映されない仕組みになっていることである。例えば、物価も賃金も上がらない年には、年金の減額を抑制するというような仕組みが取られている。

そこで、将来にわたってこのマクロスライドがフルに適用されるケースを考えよう。財政の悪化に忠実に合わせて年金が減額されると想定するということだ。マクロスライドにも各種の前提があるので、必ずしも最悪のケースを想定することにはならないが概ね悲観的な推計だと言えるだろう。現在、マクロスライド率(年金を減額すべき率)は年0.9%などと報道されているが、団塊ジュニア世代が引退する頃には労働力人口の減少が顕著になるので、このスライド率は年2.0%に達する(下図)。これが掛け算で効いて年金額はどんどん減額されることになる。

マクロスライド

現在40歳の人が75歳の時に受け取れる年金をこの方式で試算してみると、年金は現在の58.3%に留まると試算される。すると、実質的な受給額は、男性なら納付の0.87倍、女性なら納付の1.39倍まで減る事になる。

年率換算すると、男性の場合は実質的な受給額の価値が年約0.4%のマイナス成長、女性の場合は年約0.95%のプラス成長となる。

現在、年齢が既にいっている人ならばマクロスライドが効いてくる前に逃げ切れるのでもっと貰えると言えるし、もっと若い人なら更に減らされる可能性が高いと言える。

5. 払った方が得か損か?

判断は資産運用の代替手段をどう見積もるかによるので、一概に結論を出すことはできない。

例えば将来にわたって年1%のインフレを想定した場合、円で金利ゼロの預金に寝かせておけばその実質的な価値は年に1%減ずることになるので、男女どちらのケースでも年金保険料を払った方が得になる。

年1%の国債で運用するなら、実質の運用利回りは0%なので、年金を払うのは男性なら損で女性なら得ということになる。

仮に株式投資で年3%で運用できるなら、男女とも自分で運用した方が得ということになる。

結局のところ投資商品としての国民年金は、運用でどの程度のリスクを取れるかに大きく依存してしまう程度の、非常に微妙なレベルの利回りだということだ。少子高齢化が進む日本では、国庫負担が2分の1だから払った方が絶対得という巷のフィナンシャルプランナーのアドバイスは必ずしも鵜呑みにすべきではないと言えるだろう。
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健康寿命を考慮すべき

twitterではお世話になっています。
その試算は、死ぬまで家計が存続することを前提にしたものですが、要介護老人は生活保護に移行しても良いと考えると、家計存続に必要な条件は緩くなると思われます。

平均寿命と健康寿命の差は、男性で10年、女性で12年くらいありますので、だいたい11年くらい、家計存続期間を短く設定すべきです。

No title

>INOUEさん

Twitterではお世話になっています。
生活保護を考えてしてしまうと、年金は納めずに使ってしまい年取ったら生活保護にした方が得という結論になってしまわないでしょうか。要介護でないと出ないということではないと思いますし。持ち家の制約などを考慮したということでしょうか。

要介護老人は積極的に生活保護を受けるべき

>年金は納めずに使ってしまい年取ったら生活保護にした方が得

それは要介護老人に限った話です。

健常者の場合、生活保護は受給しない方がいい。
失うものが多いからです。
具体的には、以下。
1.高等教育は受けられない
2.自動車は保有できない
3.転居の自由がない(人生の選択における決定的な不自由)

No title

>INOUEさん

生活上の制約を考慮してということでしたか。
本来、政府は国民年金と高齢者の生活保護の制度を
一本化した方が合理的なのでしょうけど。
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Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程にてPhD取得。現在、米国の某州立大准教授。

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