F-1 OPTの延長 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

以前に書いたが、
アメリカにF-1ビザ等で留学すると、卒業後に労働ビザを取ることなく
そのまま1年間アメリカで働くことができる。
これをOPT (Optional practical training)と言う。

アメリカの雇用主が人を採用する際に
ビザを取るのに1年近くもかかるのでは大きな障害となる。
OPTはそうした障壁を除くことが出来、
アメリカに留学する最大のメリットのうちの一つである。

今年、私はPhDを取ったのでH-1Bビザという労働ビザを申請しようと
思っていたのだが、申請のためには卒業証書(diploma)が必要である
と知り、またこれが発行されるのは8月であるということが判明した。

仕方がないので、H-1Bの申請を半年(あるいは1年)遅らせて
OPT を延長することにした。OPTの延長は米国で人材が不足している
STEM (science, technology, engineering, mathematics) 分野に
限って17ヶ月間認められる。また、雇用主が E-Verifyという
認証システムに参加してることが条件だ。

1次ソースではないが、例えばテキサス大D校の
ホームページに説明が載っているようだ。

なお、私の仕事はH-1Bの申請が遅れることにより、
どうやらtenure審査までの期間が1年延びるらしい。
平たく言えば、1年分得をするということだ。
アメリカでは、お役所仕事のせいで労働ビザが取れず、
そのせいで労働条件が有利になる
という
摩訶不思議なことが起こってしまうようだ(*1)。


(*1) もちろん私が故意にやったわけではない。


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アメリカに留学したらお金を稼ぐべき -- このエントリーを含むはてなブックマーク

私の友人にS君という人がいる。ちなみに日本人ではない。
彼の実家は祖国ではとても裕福らしくW大M校に私費で留学してきた。
財政援助の約束なしで入学してきたほとんど全ての大学院生が
必死になってアシスタントシップの仕事を探し
見つかった後は仕事と勉強の時間のやりくりに四苦八苦する中、
彼はすべての時間を勉強に使うことができた。
そうした実家の援助によって
彼はストレスの少ない留学生活を送ることができたと思うが
彼の英語力は一向に上達しない。理系の留学生は、
日本人に限らず英語が苦手な人が多いが、
TAをやりアメリカ人の学生に文句を言われながら
少しずつ英語が話せるようになっていく。
そうしてどんなに英語が苦手な留学生も3年目ごろには
とりあえず最低限の英語が使えるようになる。
彼はそんな貴重な機会を逃してしまった。

これはS君に限った話ではないだろう。
裕福な家に育った留学経験のある日本人の政治家が
英語を話せないのを見るたびに
どんな留学生活だったのだろうと私は思いをめぐらす。


私がW大M校にいた頃、TAもRAもInstructorもやったが
どれもかなりの時間をとられ、この時間を全て勉強や研究に
使うことができたらどんなにいいだろう、と何度も思った。

もしかして、家族がいなくて経済的に余裕があれば、
いくつかの仕事を断ったかもしれない。
しかし今となって思うことは、そうしたバイトのような
仕事でも全て経験となって将来に活かされているということだ。
どんな些細なことであっても
お金を稼ぐという事は社会に貢献するということである。
未知の国でお金を稼ぐということはかけがえのない経験になる。

確かに、お金をたくさん払えば良い学校に入れる可能性は
高まるしたくさんの自由時間も手に入れられるが、
本当に貴重な経験はお金を稼いで初めて得られるものだと私は思う。
それはTAだったり、研究室の手伝いだったり、インターンだったりする。
あるいは、家庭教師のバイトのこともあるだろう。

途上国からの留学生は貴重な経験を求めて働いているわけでは決してない。
必死でやっているうちに自然に貴重な経験ができてしまうだけだ(*1)。

もちろん日本からの留学生の大半も同じようにやっている。

しかし、もしあなたが経済的に恵まれているとすれば
時間や環境をお金で買えるというメリットがある反面
お金では買えない貴重なものもあるということに注意すべきだ。


(*1)例えば友人のZはカードローンを返済するためにインターンを3ヶ月やった。


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統計学PhDの取得年齢 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

統計学のPhDの取得年齢は、純粋数学に比べると幅広いのではないかと思う。

あまり人気がある分野ではないので
ある程度数学が出来れば、学部から直接入る人も少なくない。
中国人の最優秀層は、学部卒業までに3年程度飛び級し、
直接博士課程に入って4年程度で修了することが多いので
PhD取得時の年齢は23歳程度になる。私のW大M校の友人に
限っても、こうした人を二人知っているのでそれほど珍しい
例ではないと思われる。

一般的な例は、学部卒業から直接入った場合で20代後半、
一旦就職して2~5年程度で入学する場合だと30~30代半ばになる。

従って大半の学生は20代半ばから30代半ばで博士号を取得することになる。

ちなみに、友人の同期のアメリカ人の一人は50歳前後でPhDを取ったが、
彼の場合は若い頃に純粋数学のPhDを取っている。
また、私の指導教官(中国出身)もPhDを取ったのが40歳前後だと思うが、
やはり若い頃にコンピューターサイエンスの博士号を取っている。
いずれにしても、少し年齢が上がってから入学する場合は
ある程度の数学的なトレーニングを以前に積んだことがあるか
どうかが鍵
となっているようだ。

ブログ内の関連記事:
統計学PhDの所要年数


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家族連れ留学生・研究者の旅行の仕方 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

ミシガン州の自宅から母校のW大M校までは約440マイル(720km)
ほどあるのだが、今回の博論のディフェンスは車で行ってきた。

飛行機で行っても良かったのだが、
今回は妻と娘もW州M市にいる友人に会いたがっていたので
3人で行くとなると車のほうが圧倒的に安い。

車ならガソリン代と有料道路の代金を合わせても、
往復で100ドルくらいだが、
3人分の飛行機代に加えて現地でレンタカーをするとすれば
1000~1500ドルくらいになってしまう。

確かに、飛行機ならデトロイトからW州M市へはデルタの直通便が
飛んでいて1時間半で行けるのだが、実際には空港まで1時間、
空港の待ち時間が1時間、レンタカーの手続きに30分かかると
すれば結局は4時間かかってしまうし、雪なら遅延もする。

そんなわけで私の出張は、家族で車で行って、
私がいろいろやっている間は奴と娘は好きな所に行って
観光しているというパターンが結構多い。

「仕事で忙しいんだゾー」というオーラを出して、
移動中の運転も奴に3分の2くらいしてもらう。

奴は私がいない方がのびのびできて都合が良さそうだし、
娘は旅行というのはそういうものだと最初から思っている。
私も時間だけ伝えておけば、都合の良い時間に迎えにきて
もらえるのでその方が便利だ。
家族の会話なら移動中の車の中で飽きるほどできるし、
私は観光にはあまり興味がないので、
空き時間にちょっとだけ行ければ十分だ。

海外に家族連れで留学や研究に行く人は、
このパターンで旅行ができると非常に効率が良いので
そんな旅行も考えておくと良いと思う。

ブログ内の関連記事:
家族連れ大学院留学の経済事情
― 社会人の大学院留学の機会費用とリスク3(適応リスク)
留学と結婚2


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統計学PhDの所要年数 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

アメリカの統計学の博士号は、
他分野に比べると比較的早く取れる方ではないかと思う。
社会学のように自分でデータを取るために何年も使うということもないし、
哲学や文学のようになかなか出してもらえないということもない。
いわゆる「筋トレ」はある程度必要だが、純粋数学ほどではない。

レンジで示すと、W大M校の場合、4年~7年で取る人が大半だ。
私は結局6年かかったが、最後の1年は既に働いているので
実質は5年半といったところか。

おそらく今までの最短は、
知り合いのGが2年9ヶ月で取ったケース
だ。
実験やフィールドワークに時間がかかる分野ではないので、
優秀でさえあれば、理論的にはいくらでも早く取れる。
(ただし制度上、2年9ヶ月が最短だ。)

もちろん2年9ヶ月で取った人は飛び切り優秀なのだが
PhD取得までの年数はかならずしも能力だけで決まるわけではない。
私が学科で見てきて重要だと思った要素は5つある。
これは、統計学に限らず、他の理論分野にもある程度当てはまると思う。

1.研究能力

能力は当然ながら重要だ。一つの理由は、主に数学的基礎学力の到達度を測る
Qualifying Exam という試験があり、これをどれだけ早くクリアするかで、
研究を開始できる時期が決まってくることがある。
また、Qualifying Exam終了後は、英語力が比較的大きな要因になってくる。
リサーチテーマを探す上で、読解スピードやコネクションづくりが有利に
なるためであろうか。ネイティブ・イングリッシュ・スピーカーの修了
までの期間は明らかに短い。

2.ピア・プレッシャー (peer pressure)

M校の統計学科の外国人を見ると、中国人とアメリカ4~5年で卒業、
韓国人は6年で卒業する人が割と多い。これは、個々人の能力というよりも、
何年で卒業しなければいけないか、というコンセンサスが
友人関係に左右される
せいだろう。

3.指導教官

指導教官によって何年で卒業させるべきかの方針が異なる。
博士論文にどの程度の水準を求めるかにもよるし、研究分野にもよる。
傾向としては、理論分野の方が所要年数が長くばらつきも大きい。
ある応用分野の教官は、ほとんどの学生を4年~4年半で卒業させている。

4.年齢

意外に思われるかも知れないが、少なくとも私の回りでは
年齢の高い学生の方が修了までの年数が短い傾向にある。
若いうちに、ある程度のところまで行かなければならないという
プレッシャーが大きいせいだと思う。

5.景気

景気が悪くなると就職が決まらないので、博論がほぼ完成しているのに
大学院にとどまる人が増える。
不景気では学科の資金力が低下するので、
学科は早く学生を卒業させたがるが、なかなかうまく行かないようだ。
学科は結局のところ、在学生のファンディングを新入生よりも優先せざる
を得ない
からだ。

ブログ内の関連記事:
― 大学院統計学科の選考基準について
― 修士課程と博士課程、どちらに行くべきか?


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金銭では表せない留学のメリット -- このエントリーを含むはてなブックマーク

先週は久々に母校のあるウィスコンシン州マディソン市に行ってきたが
良いところだったなあ、としみじみと感じた。
大学街は夜遅くなってもたくさんの学生が行き来していて活気があり
学生以外の人達も概して、親切でリベラルである。
M市は人口わずか20万人余りの寒さが厳しい田舎町だが
私も妻もこの町が大好きだ。

一方で、私がこの町を大好きになったのは土地柄のせいだけではなく
一人の学生として人間関係を築くことができたことが大きいと思う。
いくらエステに通っても、加齢臭防止グッズを使っても
本当に若返ることはできないが、アメリカのようなリベラルな国で
大学院に入学すれば簡単にあの学生時代に戻れてしまうのだ。


もちろん、社会人の大学院留学の機会費用とリスクで述べたように
経済的なインパクトは入念に見積もる必要があるが、
これは効用関数で見ると多くの人にとって
相当に大きなプラスのインパクトがあると思う。


妻は宝くじを買うのが好きなのだが、私は
「宝くじが当たったら、論文書きながら一生学生をやるから(笑)」
と話している。
ちなみに妻は「宝くじが当たったら離婚する!」と言っている。
いずれにせよ、確率はほぼゼロなのでどうでも良い話だ。

ブログ内の関連記事:
社会人の大学院留学の機会費用とリスク1(機会費用)
社会人の大学院留学の機会費用とリスク2(日本での雇用リスク)
社会人の大学院留学の機会費用とリスク3(適応リスク)
社会人の大学院留学の機会費用とリスク4(希望的観測バイアス)
社会人の大学院留学の機会費用とリスク5(セーフティーネット)
社会人の大学院留学の機会費用とリスク6(複線的なキャリアパス)


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博論のディフェンス -- このエントリーを含むはてなブックマーク

先週のWS大は、春休みだった。
少なくとも中西部の大学には大抵3月に1週間の春休みがあり、
一息ついたり、フロリダなどの暖かい地域に旅行に行ったりする。
実際には、3月は12月~2月に比べると暖かいのだが、
長い冬を過ごしていると、3月頃には体力的、精神的に
辛くなってくるので、休むにはちょうど良い時期なのかも知れない。

私は、延ばし延ばしにしていた博論のディフェンスをやるために
水曜日から土曜日にかけてウィスコンシンに行ってきた。

日本のT大にいた時には博論には締切日があったと思うのだが、
アメリカの大学にはそういったものは特になく、
論文が書けた段階で、審査をする教授の予定を聞いてまわり
口頭試問(defense, final oral)のスケジュールを決め、
口頭試問の2~3週間前に学科や大学院に申請する。

W大M校の場合は、学科内の教授4名と学科外の教授1名の
合計5名の委員からなるcommittee を学生自身が選ぶことになっている。
もちろん、そのうち1名は指導教官である。
WS大もおおよそ似たような仕組みになっているので、
アメリカでは標準的なシステムなのだろう。

分野によっては、学科外の適当な教授を見つけることが
難しいことがあるが、私がやっている分野は統計学と計量経済学の
中間的な分野なので、特に迷うことなく経済学科の教授を招いた。

教授は忙しい人が多いので5人の予定を合わせるのは至難の技だ。
今回のケースも3月中旬から下旬まで候補日を9日ほど挙げて予定を
聞いて回ったところ、全員の予定が合ったのは3月19日の午前中のみであった。
それでも結局、メンバーの一人は重要なミーティングを
リスケして参加してくれたようだ。
人選は重要だが、なるべく時間のある人を選ぶというのも大事だろう。

口頭試問自体は全部で2時間程度で、
事前審査10分+プレゼン35分+質問60分+事後審査15分
という感じである。

事前審査と事後審査は、学生は部屋の外に出され、
5名の教授陣だけで行われる。

事前審査は、指導教官が研究の経緯などを説明した上で、
誰が chair になるかを決める。Chair は、審査の最終判断を
する上で重要な役割を果す。
実際は大抵、指導教官が chair になるが、
二人以上の指導教官がいる場合にはその場で相談して決めることになるのだろう。
また私の学科の場合には、最終の口頭試問の1~2年前に
Preliminary Exam と呼ばれる中間発表があり、
この Prelim と Final Oral は異なる人がChairにならなければならない。
したがって Prelim では通常、指導教官以外がChair になるので
不合格が出る可能性は少し高くなる。
ただし、不合格の場合は時間を置いてやり直すことができる。

35分のプレゼンは、研究内容について話す。
大きな間違いがあれば問題だが、内容を分かりやすく説明しさえすれば
それほど大きな問題はないのが普通である。
私は前日までプレゼンが60分だと思っていたので、
大幅に超過して50分間のプレゼンになってしまい少し文句が出た。
ただ、質問の時間が圧迫された方が受ける方としては楽になるので、
わざと引き伸ばしたと思われた可能性もある。

60分の質問は、最も重要な時間だ。
それぞれのメンバーが詳細な質問をする。
例えば、使用した定理の説明や証明のガイドライン、それぞれの部分に対する
先行研究の結果、論文中で不十分な点に対する突っ込みなどが入る。

統計の中では全く異なる分野をやっていて今回初めてCommitee に加わった教授
からも相当に詳細な質問が飛んできたので、こちらが感心してしまった。
彼女はフランスで教育を受けた人なのだが、欧州人らしい細かくて数学的に
面白い部分を集中的に質問してきた。やはり、受けてきた教育環境は
その後の学問的興味に色濃く反映されるのだろう。

アメリカの教育を受けた二人の教授からは、やはり実証分析が少ないことに
関する不満が表明された。ここは、Prelimでも指摘された点で、今回最も懸念して
いた点なのだが、
1) この分野はかなり細分化が進んでおり、実証研究と理論研究が独立して進んでいること、
2) この分野の理論研究に実証を入れるとreferee から文句が出ることが多いこと、
3) 今後はこの二つを並行して研究していくつもりであること
の3点を説明し、何とか納得してもらえたようだ。

指導教官および経済学科の教授は、研究内容を既にかなり抑えていることもあり、
比較的ゆるい質問に終始した。

その後、20分ほどの事後審査を経て無事に合格。
主なコメントはやはり、
理論だけでpublishするのは難しいChapter もあるので
将来的にそこに実証を入れるように、
という想定していたものだった。

これから論文の校正をして、
大学院事務所に論文を提出することになる。
これが終われば、無事に博士課程修了になる。

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― 米国の大学のポストにつく経路を考える
― 統計学科の大学院博士課程へのアプライ
大学院統計学科の選考基準について


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家族連れ留学と出産2 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

その1では、家族連れで留学する男性の配偶者が同伴して渡米し
留学先で出産することについて考えたので、
今回は、家族連れで留学する女性が留学先で出産すること
について考えてみよう。

日本人の感覚では不可能に思えるが、
同じ学科の中国人の女性でそれをやってのけた人が一人いた。
彼女は博士課程の学生で、夫も同じ大学の博士課程の学生だった。
出産したのは Qualifying Exam が終わった後の3年目の半ばだ。
こんな細かいことを突っ込む必要もないのだが、
彼女は3年目の初めに Qualifying Exam に通ったので
時期から逆算すると試験に通ることを前提として子作りに励んでいたことになる。

ところで統計学科の博士課程の学生は生活費と授業料を得るために
TAをやらなければいけなかった。TAは毎週何時間か
演習のクラスを持たなければいけないので、
流石に出産の前後では務まらない。

そこで彼女はどうしたかというと、もう一人のTAと協力して
一学期を二つに分け、学期の前半は彼女が全てのクラスのTAをやり、
出産予定の学期後半はもう一人のTAが全てのクラスのTAをやって凌いだ。

おそらく彼女はその学期もいくつかの単位を取得した。
そして、私よりも早く4年半で博士課程を修了した。

というわけで、一見不可能に見えることも可能なこともある。

実際、海外で出産するか同加で迷う女性は多いと思うのだが、
こんなウルトラDを見てしまうと、なんでも挑戦だ、
と思えてくるのではないだろうか。

あなたの行動の行く手を阻むのは、
往々にしてあなた自身の先入観だ。



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家族連れ留学と出産1
数学と結婚
留学と結婚1
留学と結婚2




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家族連れ留学と出産1 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

留学と恋愛、留学と結婚については以前書いたので、
今回は、家族連れで留学する男性の配偶者が同伴して渡米し
留学先で出産することについて考えてみる。

若い人の中には家族連れの留学というのは稀だと思う方も多いかも知れないが、
アメリカの大きな大学に来るとそういう日本人は結構いるものである。
子連れの留学や留学先で配偶者が出産するケースを見ると、
1) 医師の研究留学、
2) 大学や企業の研究員の在外研究のための留学
3) 社会人経験の後に大学院に留学

の順に多いように思う。
日本の機関から紐付きで来る場合は1~2年のことが多く、
そうでない場合は4年以上の長期の人も多い。

出産自体は全人類に共通する営みなので
日米でそんなに大きな違いがあるはずはないが、
制度や環境が異なるという点でいくつか注意するべき点はある。

主な注意点は以下の三つだ。

・健康保険のカバレッジ
・出産後のサポート体制
・妊娠・出産時期


アメリカで健康保険のカバレッジを調べずに出産するのは、
値段を見ずに宝石を買うようなものだ。

通常、日本で購入できる海外傷害保険では出産をカバーしていないケースが大半である。
また、大学が提供する保険は大学によってまちまちで、
全ての大学でカバレッジが高いわけではない。
また研究員として留学する場合は、保険が大学側から提供されるかどうかは
個別の交渉によるので、きちんと調べておく必要がある。
私の家のケースでは、自然分娩で2日間の入院だったが、かかった総費用は
大雑把に言って8000ドル程度。検診を全て含めて約1万ドル程度だったと思う。
大学の保険のカバレッジは約9割だったので、自己負担は1000ドルちょっとだった。
もちろん、帝王切開などの手術をすれば費用は上がるだろうし、
集中治療室などを使うことになれば総費用が1000万円を超えるのは
全然不思議ではない。

次に問題なのは出産後のサポート体制だろう。
日本では、実家や親戚、近所の親しい人など様々な人の援助を受けやすい。
しかし、アメリカではそうもいかないので、
できれば出産する人の親や姉妹などが来てくれるのが望ましい。
手伝いに来てくれる人がいるとして、難しいのはいつ渡米してもらうかである。
出産予定日はあるものの、標準偏差はかなり大きいし、
アメリカの出産予定日の決め方はかなりいい加減らしい。
予定日の2~3週間前に来てもらうとか、
生まれそうになったら急いできてもらうとか、
作戦を練っておく必要があるだろう。
手伝いに来てくれる人には、
基本的に身の回りの世話をしてもらうことになるので、
英語が出きなくても、車が運転できなくても、
決定的な問題にはならない。
ただ、夫の実家から人を呼ぶ場合はやや注意が必要だろう。
本当に手伝う気で来る場合は良いのだが、
海外旅行気分で来られて、何もしていないので
ものすごく大変だったという話を聞いたこともある。
やはり出産のような一大事ともなると血の繋がりは大事なのだ。

割と見落としがちなのが出産時期だ。
アメリカは結構遠いので日本で妊娠してから渡米する場合は
安定期に入るまで飛行機に乗るのは難しいと考えた方がよさそうだ。
また、アメリカで妊娠する場合は、帰国までに生まれた乳児が飛行機に
乗れる必要がある。

ジャンボジェット機は、細かい気圧の調整ができるので比較的小さい乳児でも
乗ることができるようだが、小さい飛行機に乗らなければいけない
場所などでは注意が必要のようだ。

こうした注意点をクリアした上でも、
日米それぞれのメリット・デメリットはたくさんある。
それぞれ挙げてみると次のようなものだ。

メリット:
・配偶者が留学期間を有効に使うことができる。
・配偶者が退屈しなくて済む。
・子供がアメリカ国籍を取得出来る。
・アメリカは車社会なので、乳児との移動が楽。
・子育てに関するプレッシャーが日本より少ない。
・社会が子育てしている人に優しい。


デメリット:
・病院でのやりとりが英語になる場合もある。
 ただし通訳を頼むことは可能だし、いなくても電話通訳を頼めることも多い。
・医療は病院次第だが、日本に比べれば質は劣るだろう。
・出産後はアメリカで旅行やレストランに行きにくくなる。
・出産後、ちょっとした用事等で実家などの援助を受けにくい。
・祖父母が生まれた子供のあまり会いに来れない。

もしあなたが周りにアメリカでの出産にアドバイスを求めても、
賛成の人はメリットばかり強調するだろうし
反対の人はデメリットばかり強調するだろう。
3つの注意点さえ解消しているならば、あとは結局本人たち次第だと思う。

個人的な意見を言わせてもらえば、
上に挙げるようなデメリットは気にならなかったし、
メリットは結構大きいと感じたので、まさに

「案ずるよりも産むが易し」

という奴ではないかと思うが、出産したい女性には、

「留学中の夫は家にいても宿題で忙しかったりするので
あまり子育てに参加できなくても恨まないように」

とアドバイスしておきたい(笑&反省だけなら猿ry)。
夫は日本で働いている時と同じように忙しいのだ、
ということを想定して出産することをお勧めする。

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修士課程と博士課程、どちらに行くべきか? -- このエントリーを含むはてなブックマーク

日本の大学院では、修士課程と博士課程というのは同じ建物の1階と2階
みたいな感じで、レベルには違いがあるけど趣にはあまり違いがない。

一方、アメリカは実務家養成のための修士課程と専門家養成のための
博士課程という風に分かれているし、入り口自体も別になっている。
家具屋に入ること(修士)と日曜大工の店に入ること(博士)
くらいの違いがある。

アカデミックに残りたい人は、博士課程に行く以外に道はないので
置いておくとして、産業界に行きたい場合はどちらに行ったら良いだろうか?

もちろん、それぞれにメリット・デメリットはあるし、分野によっても
大きく違うだろうが一番のポイントは、
「その分野の勉強を楽しむことができるか」
ということであると思う。

修士課程のプログラムは、将来つきたい職業なりがあって、そのために必要
なことを効率良く学ぶ、ということに主眼が置かれている。従って、
目標さえあれば、学問的な興味が無かったとしても頑張って終えることが
できると思う。1~2年という期間は精神的にも経済的にも現実的な選択肢だ。

翻って博士課程のほうは、元々研究者養成のために作られたプログラムということ
もあるし、企業が採用する際も、特定の問題を深く掘り下げられるという
能力を求めている。そのため、ともかくその分野が趣味と言えるくらい
好きでないと、終えるのは難しいのではないかと思う。

まとめると、
「将来のキャリアのためなら修士課程へ、
研究の過程を楽しめるなら博士課程へ」
ということになる。

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大学院の推薦状について
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日本人留学生はもっと助けあっても良いと思う -- このエントリーを含むはてなブックマーク

Perfumeののっちさん似の恋人を探している毒の助さんのブログ(*1)に
ハウスシェア、ルームシェアの話が載ったので、
それに関連して思っていることを少し。

ずっと前のエントリーに書いた通り、
アメリカ人の学生は意外と友達と一緒に
和気あいあいと暮らすのが好きだ。
アメリカの子供は非常に過保護に育てられるから、
学部の新入生は典型的には寮生活をして両親と離れ離れの生活に慣れ、
その後、2年生や3年生になってから、知り合いや掲示板で見つけた人などと
アパートを借りてシェアすることが多い。
少なくとも、ウィスコンシ*ン大マディソ*ン校はそうだったと思う。
(もっとも、今在籍しているWS大は大都市にあるので
自宅から通学している学生も多く少し趣は異なる。)
大学院生でもルームシェアをしている人は多いし、
社会人でもシェアしている人はいる。

一方、日本人留学生はルームシェアをしている人の
割合が最も低い人種なのではないか
という印象を私は持っている。
大学院生の男性に限ると、おそらく1~2割しかいないという感じで
女性に関してもせいぜいその2倍くらいではないかと思う。
中国、インド、東南アジアからの留学生は結構シェアをしているし、
割と国民性の近い韓国からの留学生もシェアをしている人の比率は
日本人より高いという実感がある。

理由はいくつか考えられる。

一つは、日本人が他人との干渉を嫌う国民だということだ。
日本人のステレオタイプでは、アメリカや西欧の方がプライバシーを
大事にしているように捉えられることが多いが、実際には逆だろう。

2点目は1点目と関連するが、日本にルームシェアの習慣がないことだ。
思うに、日本のアパートは2DK程度の間取りでも面積が狭すぎて
他人と一緒に暮らすには本能的に厳しい面があると思う。

3点目は、経済力だ。やはり日本の留学生は平均すればそこそこの
お金を持っており、発展途上国の学生に比べて
住居にお金をかけられるのは確かだろう(*1)。

もちろん、文化には違いがあるし、お金に困っていないなら、
一人でアパートを借りるのもいいと思う(*2)。

ただ少し気掛かりなのはルームシェアに限らず日本人留学生が、
同じ国の出身者と集まったり助け合ったりすることが少ない点だ(*3)。
実際、他国の学生は同じ国の出身者でルームシェアをすることが比較的
多いが、日本人ではこれがかなり少ない(*4)。

これにはもう一つの理由があると思う。
すなわち、途上国の学生が豊かさという明確な目的を持って
アメリカに来ているので自国の出身者で集まるのに抵抗がないのに対し、
既に豊かな日本から来た学生は、傾向として
アメリカという「場所」に来たことに意味を見出したがる。
「せっかくアメリカにいるのだから日本人とつるむのはやめよう」
という風に、自国の学生との交流をネガティブなものとして
捉えるきらいがある。

しかし、私が思うにこれはあまり良い考え方ではない。
もちろん、常に同じ国の学生同士でつるむのは良くないが、
機会を設けて日本人だけで集まって話をすることは
別に他の国の人たちとの交流を妨げないし、
むしろネットワークを強化するだろう。
そしてほとんどの場合、語学力向上の障害にもならないと思う。


基本的にアカデミックの大学院留学というのは孤独だ。
もう少し、日本人同士の距離を縮めた方が、
留学に対する心理的な敷居も低くなって、
日本人留学生全体にとってプラスなのではないかと思う。

まあ、結局そんなのは個人の勝手なわけだけど。


(*1) もっとも、台湾、韓国からの留学生は
日本人留学生よりお金持ちそうだけど。

(*2) 大学院留学を全てアシスタントシップで賄う場合は
これは少し大変だろう。

(*3) もしかして自分がハブられただけ?

(*4) もちろん日本人留学生が少ないことも一つの理由ではある。

ブログ内の関連記事:
案外寂しがりな米国人大学生のアパート選び (上述)
大学院 と Financial Aid


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恋人 vs 留学 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

留学と結婚について2度に渡って書いた(その1その2)が、
特にアカデミックを目指す大学院留学の場合、
むしろ独身であることの方が圧倒的に多いだろう。

実は、WS大に来たとき、博士課程をもうすぐ終えるという同年代の日本人留学生(男)
の何人かと会ったのだが、私が結婚していると言ったら、とても驚いた人もいた。
家に帰って「僕は既婚者には見えないらしいよ~♪」と奴に言ったら、
返って来た答えは「何でもプラスに捉えられるっていいね~♪」であった。

というわけで、今日は恋人と留学の関係について書きたい。
ただし、結婚を考えるくらい本気で付き合っているケースのみを考える。
なお「恋人と留学」だとラブラブで二人で留学するみたいで誤解を招くので
題名は「恋人 vs 留学」とした。つまり、日本に恋人がいる中での留学、
究極的には「恋人と留学どっちを取るの?」ということだ。

よく「二兎を追う者は一兎をも得ず」と言うが、
逃げるのが兎じゃなくて亀ならば
一匹捕まえた後でもう一匹捕まえることも余裕だし、
亀と兎一匹ずつならば兎を先に追えば良い。
自分の足が早ければ二兎でも問題なく仕留められるだろう。


ありうる3つのパターンは次の3つだ。

1.留学をとって、恋人とは別れる。
2.恋人をとって、留学は諦める。
3.留学はするが、恋人とも関係を続ける。


留学と恋愛、両方に失敗するのは、
時間的な前後によって1あるいは2のサブケースと考えられる。

相手に留学を拒否された場合、選べる選択肢は1か2だ。
無意識にでもあなたの優先順位が固まっているなら
1か2のどちらかを予め考慮対象から外しているだろう。
そうでない場合、問題は、恋愛と留学、
どちらが兎でどちらが亀かということだ。
留学がキャリアにとって絶対必要で、年齢や経歴的に今後の
チャンスが少ないなら留学を選ぶべきだろう。
逆に、自分があまりモテないので今の恋人は奇跡だと思っているとか
これ以上の恋人は現れないと確信している場合には
恋人を選ぶべきだろう。
個人的にはどちらも立派な判断だと思う。

その際に重要なのは、恋人と留学、
それぞれの価値をきちっと把握しておくことだ。
特に注意しなければいけないのは留学の価値の方だ。

それは何故か?
恋愛というのは、あなたの祖先が人類になる前から営んできたことだ。
そしてあなたの祖先が恋愛で勝利し続けてきたからこそ今のあなたがある。
あなたには、本能的に恋愛に関するノウハウが詰まっている
(私には欠けているが、これは恐らく染色体異常だ)。
一方、キャリアのために留学して遠距離恋愛なんていう選択肢は
近代もしくは現代になって可能になったことだ。
そういう分野で直感を活かすのは危険なので、
きちんと筋道を立てて効用を測るべきだ。

簡単ではないが、取りあえず冷めた目で
「こんな相手とくっついても長い目で見たら価値ないよね」
「留学なんてしても長い目で見たら価値ないよね」

という二つの命題がどの程度妥当であるか比較検討した方が良い。

運良く、3を選ぶことができた場合はまず相手に感謝しなければいけない。
その上で、3つの選択肢がある。

3a) 結婚せずに遠距離恋愛を続ける
3b) 結婚するが単身で留学する
3c) 結婚して夫婦で留学する (*1)


ab か c かは、主に留学しない側のキャリア次第だろう。
次に、こんなことを書いてしまうとニベもないのだが、
3a) より 3b) が望ましいのは基本的に相手が自分のところに
戻ってくるかが確実でない場合だけだ。そうでなければ、
わざわざ結婚というサンクコストを払う価値がない。
(これは留学する側、される側の双方にとって正しい。)
しかし、恋人と別れずに単身で留学する側は相手に対して
相当なわがままを通してもらっているわけなので、
人道的には相手から希望があればそれに同意すると言うのが
バランスのとれた判断であると私は思う。


書いていて冷徹な感じを与えるかも知れないと思ったので
書き添えるが、これは様々なケースを実際に見てきたことの総括だ。
何事も筋書き通りに行かないことは確かだが、
単なる机上の空論ではないことは記しておきたい。

(*1) 夫婦でないと同伴ビザは下りない。

ブログ内の関連記事:
留学と結婚 (上述)
留学と結婚(その2) (上述)
数学と結婚
統計学に興味を持った理由


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労働市場で複数の選択肢を持つ優位性~TA/RAの経験から -- このエントリーを含むはてなブックマーク

私が労働や雇用問題に興味を持ったのにはいくつかのきっかけがあるが、
日本とアメリカの両方で働いた経験が問題意識を高めているのは間違いない。

日本の正社員というのは、労働者の権利の保護という点に関しては、
アメリカに比べると大変有利な状況に置かれている。
しかし、日本ではいわゆるブラックと言われている企業で
たくさんの正社員が劣悪な労働環境に耐えているのは、
仕事を辞めた時に、次の仕事を探すのが大変難しいからだ。
労働市場の流動化というと、企業の利益ばかり考えている
というようなイメージが左派の間では浸透しているが、
労働市場が流動化して仕事の選択が自由になれば
労働者が感じるストレスも今よりずっと小さくるだろう。

私が、それを初めて実体験したのは
数年前にW大M校の大学院生として
アシスタントシップの仕事をした時だった。

ティーチング・アシスタント(TA)を何ヶ月かやった後、
ある冬休みにRAの急募が出た。ちょうど今くらいの時期だったと思う。
RAの方が給料は大分高かったし、
経験にもなるだろうと思ったので応募することにした。
冬休みに大学に残っていた人は少なく、
他に希望者もいなかったので、運良くすんなりと採用が決まった。
この時、私は、TAに戻るのは難しくないという
学科の言質をとることにも成功した。

RAの仕事内容は医学部での統計解析であったが、
やってみると思ったよりもずっと大変で割の合わないものであった。
繁閑の差が激しい仕事であったが、一番忙しい時は
週40時間近く分析をしたこともある。
この学科のMBA持ちのアドミニストレーターがまた困った人で、
そんなに負担の重い仕事であるにも関わらず、
私は週12時間のオフィスアワーを持たされていた。

そんなわけでその学期は散々であったのだが、
TAに戻るオプションを持ってる私は、
あまり大きなストレスを感じずに済んだ。
翌学期には、強気に交渉して、
私が辞めると困る人達の同意を取り付け
オフィス・アワーを週5時間に減らした。

同じ学科が雇う他の統計屋の労働時間を増やしたときには
ふとしたきっかけで私のアポイントレベル(要するに給料)
の見直しを検討するということを知ってしまったのだが、
現在のレベルより下げるのであれば辞める、
と伝えたら監督者が慌てて交渉してくれて
難なく維持することができた。

こういった交渉は、代替的な選択肢が少ない
日本の労働者にはなかなか難しいところがある。

ブルーカラーや派遣労働者の待遇が劣悪のまま維持されるのは、
代わりになる働き手が雇用主にとっていくらでもいるからである。
逆に労働者にとって、労働環境を改善するのにもっとも良い手段は、
代替的な勤務先を持って雇用主を競合させることだ。


日本で労働市場の流動化を進めれば、
大企業の中年以上の正社員は不利益を被るだろうが、
それ以外で平均以上の質の労働者には確実にプラスになるだろう。

ブログ内の関連記事:
優秀な人が失業する仕組みを
日本の失業率はなぜ下がるのか?


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留学準備は留学時期から逆算する -- このエントリーを含むはてなブックマーク

昨日、トラックバックさせて頂いた松本さんの記事のタイトルが、
「起業は「起業したい!」と思った時が起業すべき時」
であったので、それの留学バージョンも考えてみたい。

まず、言葉を置き換えて、
「大学院は「入学したい!」と思った時が入学すべき時」
とするならほぼそのまま正しいように思える。
しかし、これを留学に置き換えて
「留学は「留学したい!」と思った時が留学すべき時」
とするなら事情はちょっと違ってくる。


特に語学の壁がある場合、
正規の学生として留学するにはかなりの準備期間が必要だ。
時間のない社会人ならこれはなおさらだろう。
このことは周りに留学経験者がいない人だと
きちんと認識できていない事が多い。

通常、米国の大学院であれば9月に入学するのが望ましい。
そのための願書出願は通常、前年の年末頃だ。
従って、秋頃には願書やエッセイなどを書き始なければならない。
MBAなどのプログラムで選考を有利に進めたいと思えば
もっと早く出願すべきこともある。

先日「社会人の英語勉強法」に書いたが、
私がTOEFLを受けていたのは、ゴールデンウィークを跨いだ数カ月、
期間で言えば2月~6月くらいなので、留学時期の1年半前だ。
余裕があるようだが、その後はGREを受けたりとか、
自分の書いた文章を英訳したりするのに結構時間も必要だ。

TOEFLを受ける時期の前には少し留学予備校にも行き、
英語超ダメダメ人間の私の場合は、それよりずっと以前から
基礎的な英語力を付けたりするための勉強はしていた。

上のスケジュールに従えば、今の時期だったら
2011年秋から留学したい人は既に本格的に準備を始めているか、
すぐにでも始なければならない。
2012年秋から留学する人で英語が苦手な場合は、
早めに基礎学力を上げておいた方がいいだろう。

留学準備には早すぎるということは滅多にない。


ブログ内の関連記事:
大学院の推薦状について 
学際的な分野の大学院の選び方





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キャリアチェンジは今までのキャリアを捨てることではない -- このエントリーを含むはてなブックマーク

松本孝行さんという人材サービス業を自営されている方がいる。
彼は、大学を卒業して既卒からサラリーマンになり、
1年半働いてから現在の事業を立ち上げて1年半になるそうだ。
氏がブログの最新記事で起業とこれまでのキャリアの関連を述べている。

もちろん、サラリーマンをやってから大学院に行った私とは経歴が違うのだが、
一度サラリーマンをやってからキャリアチェンジをしたという点では共通している。
そこで、「起業」を「留学」に置き換えるとどうなるかという視点から
キャリアについて考えてみたい。

氏は起業について次の様に述べている:

> もしも私が3年サラリーマンを続けていたとした場合、
> そのノウハウやスキル・能力などは格段に違っていたのか?
> と考えると、そうでもないように思うのです。

私は起業のことは知らないが、感覚としては納得できる。
一度、正社員になって企業社会の仕組みをきちんと理解する
ということは起業にも大いに役立つのは間違いないだろうが、
何年も正社員をやっていたからといって、
限界的な理解の深化が逓減していくことは容易に想像できるからだ。

一方、留学の場合はどうか?

確かに、就労経験の一部は役に立ち、一部は役に立たない、
という意味では似ているが、役に立つ部分はかなり異なる。
就労経験の中で一番役に立つのは、実際にどんな仕事をしてきたかだ。
もちろん就労年数が長くなったときの限界的な効用が逓減することは
ある程度避けられないが、経験した仕事が多様であるほど、そして
深ければ深いほど、留学後の経験とシナジーを発揮しやすい。

忘れてはいけないのは、大学院に留学する場合には、
あなたが働いていた間もずっとその分野を勉強してきた
強力な競争相手が多数存在するという点だ(*1)。
そういう人に、単にアカデミックな専門能力だけで勝つのは難しい。
もちろん、個人差や専門分野による違いはあるだろうが、
少なくともこれは意識しておかなければいけない点だ。
そのためにも、社会人からの留学を志す人は、
自分のそれまでのキャリアを何らかの形でアドバンテージ
にしなければならない。
以前のエントリーの繰り返しになるが、
キャリア形成で必要なのは競争ではなく差別化だ。

(*1) MBAのように職務経験が本質的に必要な分野は別だ。

やや抽象的になってしまったので、ここで私の例を出そう。
私が統計学を専攻しようと思ったのは、
仕事でデータを扱ったり、きちんとした理論的背景は
知らないにしてもいろんな統計モデルを使ったりしたのが理由だ。
それでも、当初は大学院に留学したら統計学の中では全く違う分野を
専攻しようと意気込んでいたのだが、
結局は経験を活かせる分野に進むことになった。

もちろん、個々人の置かれた状況次第で、
これまでの経験をどれだけ活かせるかは変わってくるだろう。
しかし、意識の問題として、
「キャリアチェンジは今までのキャリアを捨てることではなく
これまでのキャリアを活かすことだ」
と言う事は心に留めておくべきだ。

この指針は、専門職のようないわゆる目的意識のはっきりした知識階層の
留学に限らず「自分探しの留学」のような場合にも当てはまる。

日本で、ごく普通の学生生活を過ごし、ごく普通の会社員になって
自分の生きがいを見失っているとしよう。今までの人生をリセットして
留学すると自分の生き甲斐が見つかるだろうか?ごく普通の留学生と
なって宿題に明け暮れ、自分の生き甲斐を再び見失うだけではだろうか。

例えばあなたが、プログラマーとして下請け会社で典型的なIT土方
として昼夜を問わず働いているとしよう。もうコードなど見たくもない。
そもそも、いくらでも替えがきく仕事で自分がやる必要なんてない。
徹夜でデバッグなんてするくらいなら、本当の土方になって土手に
サンドバッグでも積んでいる方がまだましだと思えてくる。
どこか遠くへ行きたい。海外なんてどうだろう?

しかしそんなあなたが、人生をリセットのための留学先は、
またもやコードを見ながらデバッグを続けなければいけない
コンピューター・サイエンス専攻でなければならない。
そして、卒業後は運良く日本企業の業務を知っていることが
どこかの会社の目に止まり、シリコンバレーで毎日定時に
帰れる仕事に高待遇で就けるかも知れない。
あなたは、もはやアイデンティティクライシスには悩まない。

「でも、先の事ばっかり考えたってつまらないじゃない!」
肉食系女子の25歳OLは叫ぶかも知れない。
しかし、彼女が何もかも捨てて留学したいと思うとすれば、
それは人生に悩みすぎているからだ。
朝から何も食べずに、お腹が空きすぎた時に
レストランに入るとつい重い物を頼みすぎてしまうものだ。
食べきれない量の肉。あとで後悔しても、代金は返ってこない。

心配しなくても、海外に渡るだけでも十分な開放感があるし、
仕事を辞めて学生に戻るだけでも最高に楽しいはずだ。
全てをリセットする必要はない。

キャリアチェンジは今までのキャリアを捨てることではない。
そして、それは留学の場合も例外ではない。

ブログ内の参考記事:
日本で資格は取るな
アメリカでは資格を取れ
大学院留学の機会費用とリスク1




テーマ : アメリカ留学
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海外を目指す人は英文科だけは避けるべき -- このエントリーを含むはてなブックマーク

このブログを20歳以下の人がどのくらい読んでいるのかはかなり疑問だが、
せっかく冬休みなので、

チョーウケる!このオヤジ・・・
JKに興味シンシンなことが発覚っぽいよネ(笑)
ってか、そーゆーの、いい年してマジやばいよ、激キモイよ?
でも実ゎ、アメ生活★にゃちょい興味ありまぁす☆ ←


みたいな人が読んでることを期待して記事を書いてみたい(妄想終)。

私は特に深い理由も無く「海外に住みたい」「アメリカに住みたい」
と考える日本人がたくさんいることを知っている。
それが悪いということではなくて、今日は、
そこが出発点の人にとってどういうキャリアパスが最適なのか
という点について考えたい。

もちろん、1~2ヶ月であれば学生時代の夏休みを使って
短期留学すれば良いので話は簡単だ。家が裕福であれば、
何年間か留学させてもらうこともできるだろう。
しかし、もしそれ以上の期間、滞在したいと本気で考えるなら
アメリカ社会に自分が何を出来るかを考える必要がある。


その際、圧倒的に有力な選択肢は
理学・工学・農学といった理工系に進むことだ。
これは、日本人に比較優位があるということの他に、
語学や人脈の壁が低い点、アメリカ社会に不足している点
という非常に大きなアドバンテージがある。
先日、私の出身大学のOBでミシガ*ン州に来ている人は
理工系が多いという話を書いたが、
それはメーカーの海外駐在だけでなく、
起業家のような人ですらそうなのだ。
「積分記号がミミズより気持ち悪い」人とか、
そもそも「」内の意味が分からない人でも、
何とか頑張って、まずは理工系を考えるべきだ。
全ての分野に数学や物理のような理論的知識が
必要なわけではないし、努力次第でなんとかできることも多い。

もちろん、理工系は唯一の選択肢ではない。
18歳にして最初から米国公認会計士(CPA)を目指して
留学してきた人も知っているし、
こちらで弁護士免許を取って開業している人もいる。
きちんとした知識を持っ他人にはそれなりの需要があるし、
日本人向け業務などのニッチを見つければ
成功するチャンスは結構あると思う。
(参考:アメリカでは資格を取れ

そんな中、もっともキャリアに結びつけにくい分野の一つが英文学専攻だろう。
確かに、英語学・英文学専攻からアメリカに来ている人はいるが、
それがキャリアに結びついたという話を今のところ聞いたことがない。

機械いじりが好きだから機械学科に進むのは良い選択だろう。
数学が好きだから、数学科に進むのも悪くはない。
海外が好きだから、英文科に進むのは最悪の選択だ。



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社会人の大学院留学の機会費用とリスク6(複線的なキャリアパス) -- このエントリーを含むはてなブックマーク

お題が、「機会費用とリスク」なのでネガティブな話題ばかり
書いてしまったが、最後に少し明るい話題も書いておきたい。

それは、留学することによって下がるリスクもあるということだ。

例えば、最も一般的にアメリカに留学した場合、卒業後の進路は少なくとも
日本、アメリカ、更には英語圏である、イギリス、シンガポール、香港、
オーストラリア、ニュージーランド、カナダと多くの選択肢から選ぶことが
できる。また、日本においてはアメリカの学位取得者は(MBAを除けば)
まだまだ少ないので個人の能力次第でいろいろなところに拾ってもらえる
可能性がある。

このことから大学院留学は、例えば会社を辞めて日本の大学院に進学する、
というキャリア選択に比べるとリスクが小さい可能性が高い。
特に年功序列制度が抱える日本の労働市場のリスクを丸抱えしなくても良い、
という点は大変大きな利点だ。


もちろん、留学を目指す人はある程度明確な将来像を持っていることが
多いと思うが、あらゆる可能性を考慮して、自分自身を「国際分散投資」
してリスクを抑えつつ期待値を最大化するができるのは大きなメリットだろう。


(結びに代えて)

遠い昔、「昭和的な価値観」では「仕事を辞めて留学」など
「もってのほか」の選択であったのだろうと思う。
もちろん一部の人達は、この価値観に反発してきた。
そこには合理性を超えた何かがあったと想像する。

しかし、これだけ情報がふんだんに手に入る時代になって、
もはや「昭和的な価値観」に反発するだけでは最善手とは言えない。
たくさんの情報を元に「昭和的な価値観」を選択するかどうかを
合理的に判断することが大事な時代になっていると思う。

拙ブログでは、今年もその判断材料になる情報を今後も提供できれば、と思っている。



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ジャンル : 海外情報

社会人の大学院留学の機会費用とリスク5(セーフティーネット) -- このエントリーを含むはてなブックマーク

日本で、いかに安定した職業についていようと
一旦勤務先を辞めてしまえば、後ろ盾は何もない。
大学院留学というのは、前方にお花畑を見ながら、
後方は断崖絶壁という状態で勉強するようなものだ。
前途洋々でもあり、絶望の淵も見える。

そんな時に、どれだけセーフティーネットがあるか
というのは精神的にも物質的にも非常に重要な点だ。
日本人の美学では、何かに挑戦する人がこういう他力に
頼るということはよしとされないが、
日本がセーフティーネットの不十分な社会である以上、
自分で考えておく必要がある。

少し絶望の淵を見てみよう。

(例):
留学後はアメリカで就職するつもりだったが
不況で求人が激減、ビザの発給も難しくなり帰国。
日本に帰国したが、再就職しようにも
業務に直結するようなスキルに欠けており
つきたい仕事が見つからない。

そんな時に、薄給でも取りあえずほぼ確実に仕事に
つけるようなスキルがあるかどうか?
当面の間、恥を偲んで家族や親類に頼る覚悟があるかどうか?
就職先を相談出来るような人脈があるかどうか?
そうしたことを想像できないのであれば、
留学のリスクはかなり大きいと言わざるをえない。

例えば私の留学中に両親が留学の事実を隣人に伝えたところ、
「息子さんの就職先が見つからなかったら、
●●というコンサルティング会社の人事を紹介しましょう」
と言ってくれたそうだ。
その隣人には、私が実家に住んでいた時代にたまに雑談をして
気に入ってもらっていた程度なので、大した安心材料にはならない。
しかし、そうした小さな話は精神的には有り難かった。
そういった小さな社会とのつながりの積み重ねが
リスクを軽減していくのだと思う。


また私には一人だけ娘がいるが、
彼女が留学の初期に生まれ既に4歳であるのも全くの偶然ではない。
留学の最大のリスクは卒業時の失業リスクであり、
その際に子供がある程度大きくなっていれば
妻も働くことが容易になるのでリスクを軽減できると考えた。

大学院留学というのはどうしても不確実性が大きくなる。
日本に戻ることになった時のセーフティーネットを
考えておくことはとても重要だ。
しかし、日本でのセーフティーネットは
個人的な事情に大きく依存するのでなかなか話題に上らない。
自分の頭で考えることが大切だ。





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ジャンル : 就職・お仕事

社会人の大学院留学の機会費用とリスク4(希望的観測バイアス) -- このエントリーを含むはてなブックマーク

人は、不確実性が高くなると希望的観測に頼るバイアスがあると思う。
しかし自分の専門的能力、語学力、留学先の卒業生の平均的な就職先と
いった点を踏まえれば、自分の将来の期待値をある程度、
客観的に捉えることは可能なはず
だ。

アメリカの大学院の各学部・学科(department/school)には、
ドロップアウト率や、過去の卒業生の進路のような貴重な情報が
たくさんある。学科や在校生、教官を当たったり、
学科のニュースレターを入手したりすることで、なるべく多くの
情報を集めて、留学の判断材料に使うべきだ。

大学院留学では、
「情報が少ないのをいいことに期待値の計算をあきらめて理想論だけで来てしまう」
ということは極力避けるべきである。


以前に「日本で資格はとるな」でも述べたが、あくまで、
情報をしっかり集めて勝算のある勝負だけをする、
ということが大事である。



テーマ : アメリカ留学
ジャンル : 海外情報

社会人の大学院留学の機会費用とリスク2(日本での雇用リスク) -- このエントリーを含むはてなブックマーク

ここでは主に二つのリスクについて考えてみたい。

1)既卒リスク

大学院留学の機会費用が非常に大きくなってしまうのは、
日本の労働市場が年功序列制であり流動的でないことがひとつの原因であるが、
裏を返せば、日本においてはある程度の規模の企業での勤務経験が
労働市場では非常に大きなスキルになる
とも言える。したがって、
留学によりこれが中断されるのが大きな機会費用だと捉えることもできる。

私は、日本の労働市場でもっとも人的資本が蓄えられるのは、
新卒で入社してからの2~3年間
だと思っている。
これが、新卒で一定規模の企業に就職しなかった人が
転職市場でも不利な立場に立たされる理由とも言えるだろう。

この機会を逸失するデメリットは、
実は一度も就職せずに日本の大学から直接留学する人にとって一番大きい。

しかし、この手の人達はデメリット自体を知らなかったり
明確に将来のキャリアを絞っていることが多いので
意識されることが少ないだけだ。
同様に、新卒で就職しても1年以内に退職するような
ケースにもリスクが伴う
ことには留意すべきだろう。


2)35歳限界説

日本の大企業では年功序列賃金を採用しており、賃金構造が硬直的なので
インサイダーになってしまえば歳をとってから大きなメリットを享受できるが、
アウトサイダーが年齢が上がってから採用してもらうには大きなリスクになる。
これが少し前まで盛んに言われた35歳限界説だ。

これは、社会人が留学を目指す場合に、大きな判断材料になるとおもう。
例えば、大卒後の勤務経験4年、26歳で博士課程に留学した場合、
終了するのは30~32歳前後になる。
何らかの理由でキャリアチェンジに失敗したとしても、留学期間分の
キャリアを捨てれば、比較的すくない経済的損失で済む。

それに比べて、31歳で博士課程に進んだ場合、卒業後は35-37歳程度
になり、キャリアチェンジに失敗した場合の失業リスクは相当大きくなる。

この2点を合わせて考えると、社会人が会社を辞めて留学する場合の
最適な年齢は、勤務経験2年以上で、留学終了時に35歳を超えない、
という極めて月並みな結論が出る。もちろん、これは平均的に「最適な」
年齢であって、個別の事情にも大きく依存するだろう。




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プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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