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金持ち vs 国家の時代 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

ギリシャでは債務削減のため
国際機関や債権者との交渉がいまなお続けられている。
仮にギリシャがデフォルトに陥った場合、
その形態によって金融市場に与える影響も大きいが、
富裕層にも大きなショックを与える事になるかもしれない。

過去にもデフォルトした国は多くあったが、
その多くは通貨を米ドルなどに固定し
資本移動に規制を加えていた発展途上国であり、
個人投資家の動きは概ねコントロールしやすいケースが多かった。

一方ギリシャは、資本移動が自由な先進国であるため、
債務危機発生以降、大規模は資本逃避が起こっている。
資産を国外に退避することに成功した富裕層は、
ギリシャ国債やギリシャ国内の銀行が破綻しても無傷であり、
通貨の切り下げが行われた場合には、
一国の経済が苦しむ中で、逆に現地通貨ベースでは
大きな富を手に入れることになる。

こうした状況では、富裕層に対し、
国民や国内外の債権者から大きな圧力がかかることになるだろう。
今年初めギリシャ政府はスイスと租税条約を変更して情報交換の強化を図っており、
スイスの銀行にあるギリシャ国民所有の銀行口座について
情報開示の交渉も進めているようだ。

デフォルトに伴ってギリシャ国内の銀行が債務不履行を宣言した場合、
ギリシャ政府が、国民の海外資産に対しても資産税を徴収する
ということは十分に考えられるシナリオだ。

これは、資産を保全したい資産家と押収したい国家が
激しく対立する時代の幕開けとなるかも知れない。

こうした海外資金の規制強化の流れはギリシャに限らず、
先進国に共通のものだ。

米国では、既に2003年から1万ドル以上の海外資産を持つ個人に対して
海外資産の開示を義務づけている。
この時期に作られたり、改正された法律は、
9.11の同時多発テロ後にテロ資金対策を建前にしたものが多い。
米財務省はこの情報を当初あまり真剣に扱ってこなかったようだが、
2011年分からは10万ドル以上の海外資産を持つ個人に対して、
確定申告(tax return)でも詳細な開示を求めるなど規制が強化された。

米国政府は、2009年にスイスの銀行が長年守って来た守秘義務を諦めさせ、
UBSに米国民名義の口座情報を開示させることに成功した。
同様に米国政府に追いつめられた Wegelin 銀行は、今年1月、
(顧客情報の開示を避けるため)プライベートバンク部門を
多国籍の銀行グループに売却すると発表した。


日本での9.11以降の動きは、もう少し穏やかなものであった。
強化された主なものは、海外送金の報告義務の強化と、
非居住者に対する相続・贈与税の強化などであった。
しかし2012年度からは、五千万円超の海外資産を持つ個人に
対して海外資産に対する報告義務が課される。
第一義的にはタックスヘイブンを通した脱税の取り締まりが目的だが、
債務危機対策という側面があるだろう。

対外純債権がGDPの56%(2009年)にも及ぶ日本では、
個人資産をなるべく細かく把握しておく事が
債務危機の防止には欠かせない。
日本政府にとっての望ましい危機対策は、
平時には企業や国民が海外資産を積み上げて危機に備えることであり(*1)、
危機発生時には海外送金を厳しく規制して資本流出を避けるとともに(*2)
国民の海外資産を把握して資産課税を可能にしておく、
ということだ。
ギリシャの例を見れば分かるように、
富裕層は、財政状況が悪くなり、法律が厳しくなるとともに、
より高度な資産逃避の方法を実践するようになり、
その過程で通貨安が徐々に進むだろう。

このように順を追って考えれば、
万一日本が債務危機に陥った時に
どのようなことが起こるかはおおむね想像できる。

政府債務の拡大は、対外純債務の問題を別とすれば貧富の格差の問題だ。
そして、不動産や株式市場のバブルと異なるのは、
この格差はバブルを崩壊させることによる解決ができないことだろう。
だから、私は90年代末に旧大蔵省が債務危機を煽ったときに、
本当の問題は「庶民 vs 金持ち」だと思っていた。
しかし、どうやら、一国の中で庶民と富裕層を対立させるのは、
リスクが大きすぎ、メリットが少なすぎるようだ。

かくして先進国は、静かだが激しい「金持ち vs 国家」
の争いの時代に突入した。


(*1) 債務危機の際には通貨安となるので、自国民の資産が
海外にある方が危機対策の点で本来望ましい。
(*2) 現行の外為法で既に可能である。


今日の金融で起こっていることを知るための2冊:
 


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通貨という錯覚 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

近年、通貨のバランスは大きく変わってしまった。
米ドルと英ポンドはほぼ全ての通貨に対して下落し、
その後、ユーロも欧州通貨危機によって下落する一方、
資源国の通貨は高値安定、円とスイスフランは急騰した。

そんな中、メディアで報道されるニュースは
「通貨の名前」にあまりにも依存しすぎており、
そのまま鵜呑みにすると重要な点を見逃す。
2つの例を取り上げてみよう。


1.ギリシャ国債で取引されているのは債券ではなく通貨

ギリシャの国債の利回りの急騰は、
英語のニュースでは日常的に取り上げられている。
このあたりにあるように、
先週末時点で2年物利回りが107.16%、10年物利回りが26.63%となっている。
高水準の利回りはもちろんリスクプレミアムであるが、
非常に大きな逆イールド(短期金利が長期金利より低い状態)を考えると
これをユーロ建て国債の信用リスクと解釈するのには無理があるだろう。
例えば単純な単利計算で、
10年物国債の当初2年間の利回りを107.16%と仮定すると、
残り8年間の利回りは2.07%しかないことになる。
これは、ドイツ国債の同期間の先渡し金利2.15%をも下回る。
つまり、ギリシャ国債は当初2年間さえ乗り切れば
ドイツ国債よりも安全な投資先という結論になってしまう。
この見方は正しくない。

一方、この利回りを額面100ユーロあたりの割引債の価格と考えると、
単純な単利計算で2年物は27.3ユーロ、10年物は31.8ユーロとなる。
最近のギリシャ国債価格の特徴は、
この額面あたりの価格が年限を問わず同じ水準に落ち着く事だ。
すなわち、投資家はもはやギリシャ国債の支払い通貨がユーロで
あるとはみなしておらず、ユーロ脱退を見越してドラクマ
(ギリシャの旧通貨)の取引を「ギリシャ国債を通じて」
行っているに過ぎない。これは現時点でドラクマを取引する最も
簡単で便利な方法の一つだということだろう。

統一通貨ユーロとは、欧州各国が固定相場制におしゃれな名前を付けたに過ぎない。
そして、通貨の闇レートが、国債利回りと呼ばれているにすぎないのだ。


2. 買われているのは円ではなく人民元

円ドル相場は、2007年6月の直近安値124円台から
先月末の75円台まで一気に値を上げた。
対ユーロでもほぼ同率の上昇を見せており、
対ポンドに至っては安値からの上昇率は100%を超えた。
これは、日本と欧米の金利差の縮小、更に言えば、
欧米の経済が悪化した事で日本が相対的に浮上したと解釈されること多いが、
果たして日本経済はそこまで強いのだろうか。

2011年の日本の貿易収支は31年ぶりの赤字が見込まれる一方で、
お隣中国は昨年とほぼ同水準の1700億ドルもの貿易黒字を計上する見込みだと言う。
中国は、為替レートの自由化を頑に拒んでおり人為的に安い人民元を維持しており、
今後人民元は上昇が約束されていると言って良い。

固定相場による将来の通貨下落リスク(ここでは人民元以外の通貨の下落リスク)
は最終的に誰かが負担しなければならない。
通貨取引が制限されていれば中国以外の投資家がそれを負担するし、
介入によりレートを維持していれば外貨を買った中国政府がそのリスクを負担する。
いずれにせよそれを負担する人は何らかの方法でリスクをヘッジしようとするだろう。
人民元が今後上昇するリスクをヘッジするに投資家は何をするだろうか?

日米中の3カ国を取って考えてみよう。2010年の貿易統計を参考にすると大雑把に言って
中国は、米国に年間3600億ドル輸出し、米国から900億ドル輸入している。
中国は、日本に年間1300億ドル輸出し、日本から1300億ドル輸入している。
なお日本から米国への輸出は1200億ドル、米国からの輸入は600億ドルだ。
また日本と中国の経済規模はほぼ同じで、米国は日本の約3倍の規模がある。

人民元が大幅に上昇した場合、日本は貿易面で大きなメリットを受けるが、
米国の交易条件の改善は経済規模に比して大きくない。
結果、円は人民元に合わせて上昇することが見込まれる。
仮にその上昇幅が人民元の対ドル上昇幅の3分の1と見込まれるとしよう。

米国の投資家にとって、この人民元の上昇リスクを回避する簡単な方法は、
ヘッジしたい人民元の3倍の円を予め買っておく事
だ。
他国の投資家にとっても同様で、
やはり3倍の円を買建ててドルを売り建てることになる。

円は、日本経済の安定感というよりは、
虎(人民元)の威を借る狐といった面が強い
ことも考慮しておくべきだろう。


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米国各地で起こっている反ウォールストリートの暴動に思うこと -- このエントリーを含むはてなブックマーク

先週末は、世界各地で経済格差や大手金融機関に対する抗議デモが行われた。
シカゴでは175名もの逮捕者が出たようだ。

もちろん、内情を知っていながら目先の利益(そして自らの報酬)のために
高リスクの商品を買ったり、転売することを指示した金融機関の経営者は
法の下で公正に裁かれなければならない。

しかしアメリカの経済の仕組みをある程度理解した上で考えると、
こうした大規模なデモですら非常に虚しく感じられてしまう。

アメリカは対外純債務国であり、年間のGDPの約17%に相当する
対外純債務を抱えている(2009年現在)。これより多額の対外純債務を
抱えるのは、先進国では今話題のPIGGSとオーストラリア、
ニュージーランドしかない(国別対外純債務のGDP比率)。

マスコミはXXの一つ覚えみたいに政府債務のGDPを取り上げるが、
対外純債務のGDPの方が、よほど債務履行能力との相関が高い。

こうした多額の純債務をファイナンスするための米国流の方法は
自由で活発な資本市場を整備して対外投資の絶対額をともかく大きくするとともに、
相手国を上回る投資効率を達成することによって所得収支を黒字化することだ。

そのためには、
米国による米国のための「フリーでグローバルな」資本市場が必要だし、
どの国の投資家よりも優れた超一流の人材をウォールストリートに
送り込んで資本市場をおさえる必要がある。
個人投資家に運用を任せたり政府ファンドを作って公務員が投資する程度では、
先進国の伝統的な上場株式など平易な運用を除いて
世界中の投資家に太刀打ちできるわけもない。
投資なんて誰がやっても同じと考える人は、
飛ぶ鳥を落とす勢いの経済を持つ中国(上海)の株価指数が
10年間もほとんど上がっていない、という事実に目を向けるべきだろう。

ウォール街の集金システムが自己増殖しすぎて
手に負えなくなっているのは事実だが、
そうしたシステムなしに対外債務で失った富を
米国内に還元させる有効な方法は未だに考えられていない。

勢いでウォール街を潰した途端、
国ごと沈没するといったことにもなりかねないのだ。
ウォール街の存在は米国の対外債務と切っても切り離せない関係にある。


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人口増加は米国の最後の砦か -- このエントリーを含むはてなブックマーク

8月初旬に政府債務の上限が14兆ドル強から2兆1000億ドル引き上げられ、
今後10年間で9000億ドルの財政赤字削減を行うことが決まった。
先進国が、グローバル化による価格調整圧力に苦しむ中で
アメリカ経済はこれからの10年間、
日本が経験してきたような長期の経済停滞に陥る可能性はかなり高まった。

それでは、今日の日本経済と米国経済の一番の違いは何だろうか?
それは恐らく、人口動態の違いだろう。

1.日本と米国の人口動態

2010年現在、日本の人口は1億2千7百万人、米国の人口は3億9百万人程度だが、
2050年には、日本の人口は9千5百万人程度まで減少(総務省推計)、
米国の人口は3億9千2百万人程度まで増加(センサス局推計)する見込みである。
今後40年間、年率0.5~1%程度の割合で人口が増え続けるという予測は、
米国人が不動産や株式に投資する際の安心材料になっているのは間違いない。
それでは、米国の人口増加は本当に確実なのだろうか。

2.日米で異なるの人口変動要因

日米の人口動態はどのように違うのだろうか?

日本では、一年間に100~110万人が生まれ、120万人弱が亡くなっている。
一般・特別永住権保持者の数は、毎年2~4万人程度増加しており、
現在合計で100万人程度だ。
また、日本に帰化する人数は毎年1万3千~1万6千人前後である。
全体として人口移動の影響は無視できる程度で、
主に出生数の減少によって人口が減っていて、
しばらくの間は高齢化でその大部分が相殺される。

米国では、一年間に約400万人が生まれ、
240万人(2009年)が亡くなっている。
また、100万人が毎年永住権を取得している。
米国の人口動態には、出生・死亡による増減と移民による増加の両方が
大きな影響を及ぼしている。
下の図で分かるように、
移民の累積による人口動態への効果は極めて大きい。
US-projected _population_growth


人口動態は他の経済指標に比べ長期予測に適しているものの、
移民による影響が大きい米国の人口動態は必ずしも将来を
的確に予測できるものとも限らない。
実際、センサス局が出している人口予測の幅は結構大きいのだ(下図)。

US-Population50-Census.gif

3.米国の出生数の動向

米国内の出生数にはベビーブームや景気の影響など
様々な要因が絡み合っている(グラフは Calculated Risk より。
ソースは、National Center for Health Statistics)。
戦後のベビーブームと長期的な少子化傾向の二つで多くが
説明できる日本に比べるとやや複雑な動きに見える。
米国でもベビーブームは存在したが、出生数がより多いのは
むしろ、米国経済の全盛期ともいえる50年代~60年代前半の方である。
その後、日本の第2次ベビーブームの世代はむしろ少なく(generation X)
その後、90年以降は高い出生数と出生率が続いている。

US-Births2010.jpg


しかし、出生数は2007年の年間430万人の直近ピークから
2010年には400万人へと急減した。
グラフのシャドーがかかっている部分は不況期だが、
今回の急減は大恐慌以来であることが分かる。

今後は90年代以降の高い出生数の恩恵もあり
ある程度安定した人口増加は見込めるだろうが、
長期の不況が出生数に大きな影響を及ぼすリスクも見逃せない。


4.米国への移民の動向

それでは、米国への移民の動向はどうだろうか?
米国への移民増加が、米国の経済力の反映であるとすれば
移民の動向は経済状態に大きく左右されやすいと考えられる。

米国 Department of Homeland Security のレポートによれば、
意外にも米国への永住権取得者数に明確なトレンドの変化はなく、
戦後一貫して続く移民の増加トレンドは失われていない。

US-Immigration.jpg


移民の多くは、はじめは非移民として、
就労、留学などの理由で新たに米国に来る。
そこで、将来のトレンドを探るため、
非移民ビザの許可件数の推移を見たものが下図だ
(US Department of States のデータより筆者作成)。
ただし、一時出張者のために大量に発行されているBビザの件数は除いている。
推移を見ると、2007年をピークに流石に件数は減少しているものの
依然として150万人以上の安定した状態を保っている。

US-Visa-Issued.jpg


全体としてみれば、いまのところ
米国のこれまでの厳しい移民やビザに対する規制が
結果として移民の人口動態を安定的なものにしていると言えるだろう。


5.今後米国が直面する人口問題


人数ベースで見た米国の人口動態は、
深刻な不況の割には比較的安定しているように見える。
これは、米国経済にとって最後の頼みの綱といったところだろう。

しかし、当面の問題は移民の質だ。
経済的困難の下で移民の純増を維持するためには質を下げざるを得ない。
これまで、最も優秀な移民を受け入れることができた米国だが、
今後、資源国や都市国家との人材獲得競争はますます熾烈なものとなる。
英語圏に限ってもオーストラリア、カナダ、シンガポール、香港などの
名目所得水準は数年~10数年で米国を越す可能性がある。
さらには、資源高が続けば中東諸国も米国の人材求心力を脅かすだろう。

人数だけにとらわれていては移民の質は低下し、
知識階層の米国民の流出も進む。
人材の流動性の高い米国は、今後、そうした意味で
日本より急激で困難な変化を乗り切る必要がある。

そうした変化は、米国の移民政策のみならず社会保障政策にも
大きな影響をもたらすだろう。


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日本でのドイツ車・米国車の価格は米国の2倍 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

1ドル80円というと米国で暮らしている実感からしてもかなりの円高だ。
外食のように米国の方が高かったものも同程度の物価水準まで下がり、
逆に元々アメリカの方が安いものは日本の物価の高さが際立つ。
新車の日米価格差もすごいことになっている。

試しに、同一車種、同一排気量、同一駆動形式で値段を比較してみよう。
米国は2011年モデルを用いて、類似したグレードで比較している。
1ドルは79円で換算している。

新車日米比較


表を見ていただくと分かるように、今や
ドイツ車とアメ車の日本での価格は米国での価格の2倍前後になっている。
日本車も日本の方が高いが、約3割高い程度だ。
ブランド物のバックや時計の内外価格差は縮小する一方で、
自動車は、国ごとに異なる電装品が多かったり、
ドイツ車や日本車については右ハンドル仕様に変更がなされていたりと、
差別化がなされており価格差は維持されやすい傾向にあるようだ。

これだけの価格差がありながら、相変わらず
日本ではステータスや個性のためにドイツ車を買い、
米国に住む日本人が品質を信頼して日本車を買っているのは面白い。


世界の自動車オールアルバム 2011


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リスクを適切に見積もろう -- このエントリーを含むはてなブックマーク

10日ほど前のエントリー「職場では冷房をガンガンつけましょう」
には予想外にたくさんのコメントを頂いた。
興味深かったのは地味にブログ拍手がたくさん集まる一方で、
猛烈な勢いで反論をされた方が何人かいたことである。
評判社会とは多数決ではなく、そういうことなのだろう。

私の意見は、

1.節電は、電力料金を上げる、省エネ電気製品に税制上の
  インセンティブを与えるなどの合理的な方法で行うべき。

2.単なる同調圧力による節電は効率が悪いから止めるべき。

3.それで停電するくらいならしょうがないでしょ。
  とりあえず対策しとけ。

ということなのだが
「冷房反対派」の方々の意見を読むと、
結局のところ、停電による損失を過大に見積もり過ぎている

ということなのではないかと思う。

停電による損失がそれほど大きいとは思えないし、
実際に何度か経験してみなければ、
その損失を客観的に評価することも難しい。

実は、私の住むデトロイト圏では電力設備の老朽化のせいか、
大規模な雷が落ちるたびに結構な頻度で停電が起こる。
デトロイト地区に来て2年弱だが停電は今日で3回目だ。
電力会社も「今はこんな地域で停電してまーす」
とリアルタイムで地図を更新している。
今回は、36℃近い猛暑の中で
自宅は午前11時~午後10時まで11時間停電し、
都市圏全体では71000の契約者(たぶん人口比で3%強)が
停電に見舞われたが少なくとも個人的にはそれほど大きな影響はなかった。

例として、「停電が起こるとこんなに大変」
という頂いた意見を一つ一つ検証してみよう。

>電気が完全に止まってしまい

ピーク電力を超えた分だけが停電する。
影響の小さい郊外や地方を停電させれよい。

>エアコンが使えない

これもあくまで停電した地域と時間帯だけ。

>電車も走らない

ピーク時でも鉄道向け電力を優先させることは可能。

>コンビニも開かない

計画停電であれば、停電地域を「まばら」にすれば、
停電した一部地域で「最寄の」コンビニだけが使えない程度に留まる。

>ガソリンも詰められない

常にタンクの半分程度まで入れておけば全く問題なし。

>冷たい物も飲めない

自販機は従来からピーク時の冷却を避けている。
氷がすぐに解けるわけではない。

>なまものは全て腐ってしまう。

11時間の停電で、最初5時間はほぼ放置、
その後、少し離れたスーパーで氷を買って入れたところ、
冷蔵庫は通常通りの温度、冷凍庫はドアや上部など
一部の温度が若干上がっただけ。
せいぜい、アイスが少し溶けておいしく食べられない程度。

>エアコンが使えなくて炎天下熱中症続出。

猛暑では自治体が涼しい部屋を用意して必要な人が避難する仕組み。

>信号、電車が止まり大混乱。

今回、あちこちで信号が止まったが混乱は無し。渋滞も軽微。
(ラッシュのやや後に車で帰ったが個人的には全く影響なし)。

>仕事も何も出来ない。

オフィスの多い都心は停電を避ければ良いし、
もともとそういう計画になっている。

>病院も警察もまともに活動出来ない。

病院には通常バックアップの電源があるし、
警察は普通に活動していた。

>生命維持装置も使えない。


同上

>水道も使えない。


ビルなど一部に限られる。水道は電力とは基本的に別系統。
米国では電力のバックアップとして
水道の水圧を使う装置もある。

>死者も大勢発生するでしょう。

しませんでした。


もちろん、デトロイトと東京では停電時の影響の大きさは
同じではないだろうが、現在の日本の停電防止対策は過剰だろう。

今回のデトロイト圏の停電は比較的大規模で
今でも復旧していない地域もあるが
ピーク時の電力消費が問題の日本では、
暑い日の昼間に数時間停電するにすぎない。
また、既に東京電力の7月末の供給能力見込は5730万キロワットと
平常時のピーク電力(5500万キロワット)を
超えているそうなので、一時的に若干の供給不足になっても
それほど大規模な影響が出るとも思えない。

一度か二度停電になれば
人はそれに備えて対策をするようになるので被害は小さくなるし、
リスクの大きさを正しく見積もれるようになるだろう。

リスクの大きさを大雑把にすら見積もらずに、
それを避けるために必死になるのはパニックでしかない。
どちらにせよリスクをゼロにすることはできないし、
ゼロにしようとすることはかえって効率を低下させる。


行き過ぎた節電による経済効率の低下によって失業者が増えたとしたら、
節電推進派は自分の給料を差し出して責任を取るのだろうか。


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職場では冷房をガンガンつけましょう -- このエントリーを含むはてなブックマーク

いよいよ夏本番が近づいてきた。
独立記念日のホームパーティーに呼ばれて行ってみたら、
「夫が日本に出張に行ったらエアコンがついていなくて大変だと言ってるわ」
なんて話をされた。
彼は日系の会社に勤めているから従うしかないだろうが、
きっと「日本は変な国だ」と思っているだろう。

東京電力などいくつかの電力会社は15%の節電を呼びかけているそうだが、
15%の節電を所与とするなら、経済への影響を小さくするためには
とにかく電力を生産性の高い用途に集中して使うことが大事だ。
対外的なポーズのために冷房の設定温度を上げるような企業があると聞くと、
日本って沈む時はみんな一緒に沈むんだろうなー、と心配になる。

電力供給が限られれば工業製品の生産は減少するし、
オフィスで節電をすればやはり効率の低下を通じて生産性は低下するが、
人間の労働環境を維持するための電力の優先度が高い事は火を見るより明らかだ。
以前に紹介したとおり、大雑把な試算によれば
オフィスの冷房の設定温度を上げて意味があるのは時給120円以下の人だけである。
従業員のオフィスの設定温度を上げるような企業は間接的に
高い代償を払うことになるだろう。

停電を避けるために節電は必要かもしれないが、
優先順位を正しくつけないと日本全体が停滞することは避けられない。
「がんばれ、日本」などと国民の一体感を煽ってる場合ではないだろう。


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全てを人口減少のせいにするのは無理がある -- このエントリーを含むはてなブックマーク

Chikirinさんが最近のエントリー
「日本の将来を規定する最も重要な要因は、人口構成の変化だよん」と述べている。
確かにそれは、今後50年といった超長期で見たときにはある程度正しいと思うが、
それを、例えば、失われた20年の主な理由とするのは行き過ぎであると私は考えている。


理由1:人口減少は80年代には既に分かっていた

下の人口動態の図を見ていただくと分かると思うが
少なくとも1980年代(昭和55年~平成2年)の半ばには
日本の出生数減少は明確なトレンドとして明らかになっていた。
また女性の初婚年齢は、90年代以降に急速に上がっているものの
トレンド自体は80年代から既に明確であったことが分かる。

人口動態
(出所:人口動態統計速報)


初婚


(出所:http://www.garbagenews.net/archives/1219043.html
元データは人口動態調査)

しかし、80年代を通して日本はこれからの世界をリードする
経済大国としてもてはやされていたし、株価は上昇を続けていた。
これはあくまで世界が、日本が人口規模によってではなく
高い技術力に基づいてハイテク分野や金融での地位を更に確固たるものにするだろう、
という期待に基づいてことを示唆する。


理由2:過去20年の日本の経済問題は人口減少問題と逆

人口減少の基本的な問題は労働力人口の減少と財・サービス需給の逼迫だ。
すなわち、現役世代の比率が低下することによって生産力が落ち、
財・サービスの需給が逼迫する。生産は落ち込む一方
賃金や物価は上昇して、スタグフレーションに陥る。

しかし、過去の20年間に日本に起こったことは正反対だ。
失業率はむしろ上昇し、名目賃金は90年代のピークに
くらべ10%以上減少している。
円は実効レートでは下落しているにもかかわらず、
物価も賃金とほぼ同じペースで下落している。

これらの事実は、日本経済の不振がむしろ、
人口構造の変化ではなく、
新興国の追い上げによる産業競争力の低下によって
引き起こされていることを示唆している。

逆に金融政策がそれほど緩和的でないのに、
大方の経済学者の予想を裏切って
デフレスパイラルに陥らないのも、物価が趨勢的には国内的な要因よりも、
中国産製品の輸入などによる外部的な要因を
大きく受けていることを示唆している。

多くの人々は10年前、団塊世代が引退すれば
労働人口の減少問題が顕在化して相当なインフレが起こるだろう、と予測した。
その速度が一番強まるのは2012年前後だが、
1年前になってもその兆候が全く見られないことを考えると、
人口要因は現時点ではまだ主要な問題とは言えないことを示唆する。


理由3:冷戦崩壊との奇妙な一致

私がどうしても偶然とは思えない出来事の一つが、
日本のバブル崩壊と冷戦終結がほぼ同一時期だったことだ。
日本の株価のピークと冷戦終結が決まったマルタ会談は両方とも89年12月である。

もちろん日本のバブルの直接の原因は、一般的には
プラザ合意後の円高克服と消費税導入のための極端な金融緩和であり、
その後の極端な金融引き締めと不動産の総量規制だったと考えられている。
見たところ、二つが一致しているのは偶然という側面が強い。

しかし、なぜその後資産価格は永久に回復しなかったのか?、
なぜ米国政府は日本の重大な金融危機に大して介入しなかったのか?
といったことを考え合わせるとやはり偶然だとは思えないのだ。


1997年まで人々は、日本はいつかまた昇るのだ、と信じていた。
1997年に金融危機が起こって人々は、
日本の問題は深刻で構造的なものだと気付いた。
2007年以降、アメリカの不動産バブルの崩壊、団塊世代の引退、
若者の就職難、デフレの継続を通して、人々が気付きつつあるのは、
日本にとっては人口問題よりもグローバル化による影響が実は途轍もなく大きかったのだ
ということではないだろうか。


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数学者とグローバル化 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

数学者、特に純粋数学をやっている人は
エンジニアリングやビジネスとの接点がほとんどないし、ある意味
社会のダイナミックな変化から一番遠いところにいる
と言える。彼らの給料は、
伝統的に高等教育と国の文化予算から出ており
社会のダイナミズムからはおおよそ切り離されている。

しかし面白いのは、それにも関わらず
数学者はグローバル化の影響をもっとも早く大きく
受けたのではないかという事だ。


ソビエト連邦が崩壊して真っ先に起こったことは、
旧共産圏から大量の数学者が流出したことだった。
もちろん、他のサイエンスでもエンジニアリングでも
同様の人材流出は相当程度あったと思うが、
数学分野はインパクトの大きさと速さに関して
最大の影響を受けた一つではないかと思う。
アメリカの数学者の雇用環境が外国人に奪われて
悪化したのはもう20年近くも前の事だ。
これは、製造業の仕事を中国に奪われたり、
サービス業の仕事をインドに奪われ始めるよりも
ずっと昔の事である。
これにはいくつかの理由があるだろう。

一つは、言葉の壁が小さい事だ。
数学はそれ自体一種の言語であることから、
それを学ぶ人、研究する人の母国語を選ばない。
数学者はためらいもなく、他の国で仕事を探す事ができる。

もう一つの理由は、大規模な設備やチームが
(今のところ)あまり必要ないことだ。
エンジニアリングのように、多くの人と設備による
有機的なつながりによって初めて成り立つような
分野では、海外に移るのにコストは大きい。
身一つでどこにでも移動する事ができる理論分野では
人の動きが早い。

それに加えて、大学の研究者は元々人材の流動性が高い。
トヨタの部長がフォードに転職するよりも、
東大の教授がハーバード大に転職するほうが
壁は相当低いだろう。

日本でも頭脳流出が話題になることはたまにあるが、
幸か不幸か今のところ大きな流れにはなっていない。
しかし、日本の数学者が大量に海外に渡りはじめたら
それは日本と他国との間の人の流れが変わる大きな
シグナルになるだろう。


(そんなことは、すぐには起こらないと思うけれど。)


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節電:株式市場の取引開始を午後4時にする案 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

震災による被害の影響で、東北と関東では
この夏は節電に大変な苦労を伴うことになりそうだ。
消費電力量はそれ自体、経済状態を計測する重要な統計指標にもなっているくらいなので、
経済活動水準を落とさずに電力消費を抑えるということは極めて難しい。

例えば米国は夏時間(*1)を導入しているが、
インディアナ州での調査によれば夏時間を導入することによって
むしろ消費電力は増えるという。
オフィスで残業する人がいる反面、家に帰ってエアコンを
つける人が増えるのが理由だそうだ。

(*1) 日本語ではサマータイムだが、米国では
daylight-saving time と言わないと通じない。

ピーク時の消費電力を大幅に減らしたいなら何かもっと大胆な施策が必要だ。
例えば、株式市場の取引開始を7時間ずらして午後4時にしてはどうだろうか。

前場を午後4時から6時まで。
夕食休憩を挟んで後場を午後7時半から午後10時までにする。
証券会社の店舗も営業時間を午後4時から10時半くらいにする。
日本人は夜型人間が多いのだから十分可能なように思える。
そもそもIT企業や出版関係なんかでは昼頃から働いている人が多い。

そうすればサラリーマンが仕事帰りに証券会社に寄ることもできるし、
家に帰ってからリアルタイムで取引することもできる。
テレビでニュースでも見ながら、株を売買などというのも一興だろう。
どうしても、昼に取引したい人はネット証券会社が時間外取引を
提供すればいい。ネット証券も取引が増えればむしろ歓迎だろう。

社員が帰るのは午後11時半くらいになるかも知れないが
都会では特に問題がないし、田舎でもマイクロバスなりで
若干の政策対応をすればいい。
飲み会はやめて、やりたい人はランチ会にすれば
飲食業の時間別稼働率も安定してプラスだろう。
一部の忙しい部署だけは昼間もオフィスを開ければいい。

よく考えると、時間をずらした方が良いのは証券会社に限らない。
消費者金融は平日の昼間に店舗を開けても
来るのは定期的な収入のない人達ばかりだ。
営業時間を午後4時から深夜までにした方が
よっぽどビジネスとして良さそうだ。

銀行窓口の営業時間も、
平日の午前9時から午後3時までなどというのは笑えないジョークだ。
9時-5時で働いている人が全く使えないサービスとは何を考えているのだろう。
とりあえず店舗の半分は即座に閉鎖し、
残りの店舗は午後4時から10時まで開ければOKだろう。

金融業以外にも営業時間が適切でないサービス業はたくさんある。

例えば、私の実家の最寄り駅の外にある立ち食いそば屋は
営業時間が午前9時から午後9時だった。
サラリーマンの残業帰り客の多い深夜や、
ファーストフードの空いていない早朝が一番の書き入れ時なのだから
むしろ、営業時間は午後9時から午前9時までにした方が良い。

夜型人間の私でも太陽の光を浴びるのは好きだが、
28度以上のオフィスで働かなくてはならないよりは
夜に働く方がマシなのではないか。




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国債格付けはママゴト~因果関係を勘違いした人達 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

4月18日にS&P社が、米国債の長期格付け見通しをネガティブに引き下げた。
4月18日のマーケットは、株価は下落、米国債は逆に上昇という結果になった。
いずれにしても、初めてのイベントにしてはインパクトは大してなかったと言ってよい。

私はこういうニュースを聞くと、
格付け会社は相変わらずくだらない作業をしているのだな
と思ってしまう。

流動性の高い金融市場では、
世界中のあらゆる情報がリアルタイムで価格に反映される。

米国債の信用リスクは、米国債価格、外国為替レート、CDS価格
といったものに、人間が知りうる限り100%反映されていると考える他ない。
少なくとも民間の一企業である格付け会社の社員が鉛筆なめながら
書いたレポートの内容は全て価格に反映済みで
発表するまでもないことなのだ。

格付け会社による格付けが有用なのは、
適性な価格が付かないほど流動性が低かったり、
その金融商品自体が現存していない場合に限られる。

最近はどうしようもないことに、格付け会社によるレーティングが
正式にリスク管理指標として使われてしまっているため、
一定のテクニカルなインパクトが生じてしまうが、
そうした金融システムの制度的な欠陥を除けば
格付けの存在は一片の塵(ちり)未満の価値しかない。
塵の動きは予測できないなので金融市場に影響を与えないとも言えないが、
格付け会社の発表は既存の情報を書き直したものにすぎないからだ。

格付け会社を含め、金融市場を取り巻くいくばくかの人たちは、
どうも因果関係の必然性を勘違いしている。

流動性の高い金融商品の価格は全ての情報を反映しており、
その時点で利用可能な他の変数で将来を予測する事は原理的に不可能だ。
例えば、株価が将来のGDP、物価、失業率といったものを
予測できる可能性はあっても、その逆はありえない。
稀に予測できるという結果がでるのは、
事後的に説明変数を選べることによるバイアスか、
事前にそのモデルを知り得なかったからである。

国債の格付けをしている格付け会社、
為替予測や株価予測を行うエコノミストやアナリスト、
財政破綻を騒ぎ立てるブロガー、
ギリシャは絶対にデフォルトしないと言い張る政治家などが、
自分の言ってることを本当に信じているとしたら、それは
Dカップのブラジャーをプレゼントすれば女性はみんな巨乳になる
と思っているのと同程度の誇大妄想狂と言ってよいだろう。


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政府は震災を機に京都議定書の再交渉を -- このエントリーを含むはてなブックマーク

福島第一原発はいまもなお緊張状態が続いているが
今後、問題になるのは
原発の停止で失われた発電能力をどう取り戻すか
ということだ。

事故が起こった日本では、
世論を考えると原発の新設はおろか、
既存の原子力発電所の再稼動すら危ぶまれている状況である。
電気事業連合会によれば、2008年時点での日本の発電量は
石炭・石油・天然ガスを用いた火力発電が約66%、
原子力が24%、水力その他が10%となっている。
早期の能力回復と安定供給を考えれば、
火力発電を増やさざるを得ない状況だ。

火力発電の問題のひとつは
今後の発電コストが天然資源の価格により影響されやすいことだが、
もう一つの問題はCO2の排出量が増加して
京都議定書によって拘束されたCO2排出削減目標が危ぶまれる
ことだ。

発電方法の変更によるCO2排出量の違いは極めて大きい。
環境問題研究会の論文によれば、
2009年時点の現状の原発を維持したケースでは
発電によるCO2排出量は1990年対比で8.8%増加するが、
2020年までに8基の原発を作り63基とし
稼働率を既往ピークをやや上回る88%まで上げるという想定の下では
発電によるCO2排出量は現状対比で年約1億トン減少し、
1990年対比では0.7%減となる。
(更に全ての火力発電を原子力に置き換えた場合は同25.2%減となる。)

裏を返せば、原発の新規計画の中止だけでも
CO2排出量は年間1億トン前後増えることになり、
これを全て排出権取引で賄えば2,000億円の負担増になる。

温暖化は進まないに越した事はないが、
以前に述べたとおり、京都議定書は世界の
二酸化炭素排出量削減に意味のある効果があるとは考えられず、
いわば政治的に仕組まれたゼロサム・ゲームによってお金が
動いているに過ぎない。つまり、
日本政府は、今回の原発事故でこのゲームの参加費用に
少なく見積もっても2000億円支払うことになる。
馬鹿馬鹿しいというほかない。

幸い、京都議定書を主導する欧州諸国でも
今回の原発事故を機に原発の見直しが進んでおり、
この条約を厳格に守るメリットは少なくなっている。

これを機に日本は、脱退も視野に入れつつ、
条約の枠組み変更の提案を含めた交渉を進めるべきだ。
日本での具体的な報道はまだなされていないようだが、
海外では震災直後からこうした可能性は話題になっている。

事故が解決していない現在は
関係者も多忙を極めていることは理解できるが、
政府は震災の印象が強く残っているいまだからこそ、
先を見据えて戦略的に動くべきだ。


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アメリカ各地のデモの本当の原因 -- このエントリーを含むはてなブックマーク


アメリカが州の財政の問題で揺れている。

事の発端となったウィスコンシン州マディソン市
(私はこの町に5年間住み、娘はそこで生まれた。)
では、州知事が州職員の団体交渉権をほぼなくす法案を
提出した事から、労組などが反発し2週間にわたるデモが起こっている。
(参考:保守系の記事(WSJ日本語版)、リベラルの記事(CNN日本語版))


州政府職員に団体交渉権が認められている方が望ましいのかどうかは私には分からないが、
経済的に考えると州財政に関する現在の議論はまだ本質的な部分に達していない。

問題の本質は、連邦政府と各州からなる財政のシステムが
大きな景気変動や構造変化に対応できるものとは言い難いことだ。
問題は以下の3点の組み合わせに集約される。


1.地方政府の固定費用は大きい

地方財政は公共財の中でも、
初等教育、警察・消防、除雪といった
基本的なものを担っており固定費用が大きい。
医療保険に関しても一部は地方政府が担っている。
連邦政府はお金がなければ、火星に行くのを諦めたり、
イランや北朝鮮に攻め込むのを諦めたりすることができるが、
義務教育を3年間短縮したり、警察・消防費用を半減したり
することは非常に困難だ。

2.地方政府の歳入は景気に大きく依存する

地方財政は固定費が大きいにも関わらず、
歳入は大きく景気に依存する。
州に入る法人税は景気に大きく依存するし、
市の歳入の大部分は地価税であり、
地価の下落の影響を大きく受ける。
所得税や売上税のような安定した収益源のない
市政府などは特に影響が深刻だ。

3.地方政府の財政は均衡を強いられる

事実上、総務省を経由して日本政府が
債務保証している日本の地方政府の財政と異なり、
アメリカの州の財政や市の財政は独立している。
各州や各市の規模は連邦政府に比べて圧倒的に小さく
特定の産業に依存しているケースが多いため
信用力や安定性の面では連邦政府に比べ大きく見劣りする。
そのため地方政府のファイナンス能力は限られ、
より小さい自治体(例えば市町村)ほど財政は均衡している必要がある。

上記の1~3は大きな景気ショックがあった時には並存しえない。
地方財政の問題を解決するには、
上記のうち少なくとも一つ以上を変えなくてはいけない。

1.歳出の削減

まず考えられるのは、今まで過剰だった職員数や
給与・福利厚生水準を切り下げることだ。
長い目で見ればこれは当然必要なことである。
しかし、不況時の政府の役割としては適切でないだろう。
不況時には、失業関係の事務コストも増えるし、
失業に伴って犯罪の数や学校に行く人の割合も増えるのだ。
歳出を削減すれば、雇用や所得も落ち込み
負のスパイラルに入る危険性が高くなる。

連邦政府がなかなか有効な景気対策を打ち出せないのは、
本当にお金が必要なところを州政府が担っているのが
主な原因の一つだ。


2.歳入の安定化

法人税や地価税の計算方法を変更することにより
歳入を安定化させることも考えられる。
しかし、法人税の歳入安定化は景気の不安定化に繋がるし、
地価税を硬直的にすれば、不動産価格はより不安定化する。
例えば、40万ドルの家が20万ドルに下落した時、
地価税が年1万ドルのままだったら誰が住むだろうか?
そういった不動産は極端な価格下落に見舞われるのが常だ。

3.連邦政府からの債務保証

連邦政府は、経済状態を安定化させるために
地方政府への債務保証や所得移転を通じて景気対策を打つことができる。
景気変動や構造変化のショックをならすために連邦政府と州政府の間に
よりよい仕組みを作るべきだ。


米国の州政府の問題は構造的なもので、州政府だけで解決するのは困難である。
デモに参加している米国民は、より良い社会を目指したいならば
州議会ではなくむしろ連邦政府に批判の矛先を向けなければならない。


テーマ : アメリカ合衆国
ジャンル : 政治・経済

「移民受け入れに賛成」とはどういうことか? -- このエントリーを含むはてなブックマーク

しばらく円高が続いており、移民問題を再考しても良い時期に
きているかもしれない。しかし、社会には政策的に操作可能な
変数とそうでない変数がある
、という認識は大事だ。

とある友人が、
「グローバル化に反対、という人がいるが
グローバル化というのは状態のことなので、それに反対というのは
"冬が寒いのに反対"と言っているのと同じで意味をなさない。」

と言っているのを聞いて、なるほどな、と思ったものである。

「グローバル化に反対」の正反対とも思える移民受け入れ賛成論だが、
日本に移民が増えないという「状態」に反対しているという意味で
それの持つ意味は曖昧だ。

具体的に「移民受け入れに賛成」とはどういうことなのだろうか?

まず、現在の日本のビザのポリシーでは、
単純労働者の受け入れを原則として認めていないので
「要件を緩和して単純労働者の受け入れを」
ということであれば理解できる。
例えば経団連などが「移民受け入れ賛成」という場合の
文脈は本質的にそういうことなのだろう。
(その是非はここでは議論しない。)

より解釈が難しいのは、例えば Lilac さんがブログで繰り返し述べているような
「高機能移民を呼び込むことに賛成」という意見だ。
しかも、そうした意見は実際、単純労働者の受け入れよりも国民ウケがよい。
有象無象の外国人が大挙して押し寄せて、日本国内の職と治安を奪う、
というイメージのある単純労働者の受け入れよりも安全に思えるからだろう。

しかし、既に日本は、
「外交。公用。教授。芸術。宗教。報道。投資・経営。法律・会計業務。
医療。研究。教育。技術。人文知識・国際業務。企業内転勤。興行。技能。
文化活動。短期滞在。留学。就学。研修。家族滞在。特定活動。」
に関しては既に外国人に労働ビザを発給している。
(また、この他に配偶者や永住権による滞在許可もある。)
こうした仕組みがありながら、高機能移民が増えない「状態」の下で
移民受け入れに賛成するとは何をすることなのだろうか。

考えられる事はいくつかある。

1.ビザ、永住権手続きの簡素化


雇用主にとっては、外国人にビザが認められるにしても
その手続き期間や費用などのコストが大きすぎれば雇用の障害となる。
労働ビザのために数ヶ月かかるとも言われる手続きが本当に必要なのかは
疑問だし、永住権を取るために原則10年以上日本に在留していなければ
ならない、という要件も厳しすぎるように思える。

2.ビザの要件緩和


例えば、投資・経営ビザは起業や貿易を促して経済を活性化するために
重要であるが、一方で矛盾に満ちている。通常、投資ビザを取るためには、
日本国内で投資活動を行っていなければならず、現実的にはビザ申請前に
日本で企業活動をしている必要があるからだ。
これはアメリカでも同様のことが起こっている。
投資金額などの簡素化した基準で投資ビザを発行するなどの案が考えられる。

就労ビザでは、単純労働の一律の受け入れは認めないにしても、
なり手が少ない農業や漁業、建設現場などの労働者を受け入れることの
デメリットは少ない。一方で、機械工学専攻の外国人学生を無理に
「高機能移民」として新卒採用したとしてもところでその効果は疑問だ。
技術ビザというカテゴリーがあるが、
「技術」の意味を国益に見合った形で再考する必要がありそうだ。

3.新たな外国人受け入れ形態の導入


移民の受け入れと充実した社会保障は並存できない。
社会保険料が高ければ移民は来ないし、いずれ年を取る移民に
良い福祉を提供するのは元からの国民の利益に反するからだ。

そういう意味では、ビザと永住権の間に中間的な「定期居住権」
あっても良いだろう。はじめは5年程度の審査期間をおき、
問題がなければ65歳になるまで居住することができるようにする。
あるいは永住はできるが65歳以降は国内の政府による
健康・介護保険の対象外としても良い。
定期居住権を持つ間は自由に職業を選んだり、出入国をしたり、
失業保険や公共サービスに関して永住者と同等の権利を保障する。

良いとこ取りのようだが、退職後祖国に帰って日本の年金を受け取り
ながらより安い物価水準で生活できれば、十分なメリットがある人も
多いだろう。

4.日本語教育環境に投資

もう一歩議論を進めて、初期コストを政府が負担することで
移民を受け入れを促進しようということも考えられる。

英語圏の多くの国が移民受け入れに成功していることを考えると
言語的・文化的な壁を取り除くという事は第一に考えられる
べきだろう。一方で、政治家個人が途上国とのパイプを作る
ために国費をばら撒くという状況にもなりかねず、慎重に進める
必要がありそうだ。



いずれにしても、若年者の失業問題、高齢者の雇用問題、女性の
雇用問題と、むしろ労働者の供給過剰問題が山積する中で
移民受け入れは一部論者が主張するほどメリットは大きくない。
不必要な摩擦や規制を取り除くという観点から問題を
とらえることが有益である。


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ジャンル : 政治・経済

「若者の内向き志向」に感じる論点のズレ -- このエントリーを含むはてなブックマーク

日本では「若者の内向き志向」が話題になっているようだ。

留学する人が減っているとか、
海外赴任を嫌がる人が多いとか、
海外で日本人のプレゼンスが低下している、
というのが主な理由として語られている。

いろいろな記事を読んでいると
個々の根拠については怪しい点がたくさんある。

留学生の数は、若年人口の減少や
90年代半ば以降の円安の影響、
国内の大学入試の競争緩和などを考慮したうえで
有意に減っているのかどうかは疑わしい。

海外赴任の希望者が減少しているのは、
年功序列・終身雇用の不確実性の増加、
海外勤務者の待遇の悪化、途上国勤務の増加、
といった要因を考慮する必要がある。

海外での日本人のプレゼンスが低下したのは
他国からの人材流入が増えたことが主因だろう。

しかし事実関係について反論するのは、
どうも論点がずれているような気がしてならない。


問題の本質は「今の若者が内向き志向かどうか」ではなく
「今の若者に外を向かせる必要がある」ということだろう。


その理由は以下の通りだ。


1.グローバリゼーションの進展

90年以降、発展途上国や旧共産圏から
米国などに急速に人材が流入している。
そうした中、英語圏の国々が人材集中を背景に
研究・開発面でアドバンテージを強めており、
そこに遅れを取らないために日本人も積極的に
海外に出る必要が強まってきた。

なお日本人のプレゼンスが米国で低下しているのは、
日本人が減っているからというよりも、
他の外国人が圧倒的に増えた影響が大きい。
例えば、トップスクールのMBAなら、
昔はアジアを理解するために喜んで日本人を取ったが
今は優秀なアジア人がたくさん応募してくるので
日本人を取る必要性が低下している。
競争に敗れれば結果として日本人は減少することになる。

つまり「若者の内向き志向」というのは
日本人の若者が昔に比べ大きく変わったのではなく、
世界の若者が積極的に海外に出て行くようになったのに
日本人は昔のまま変わっていない、

ということだ。


2.日本経済の規模縮小


バブル崩壊後に高成長した日本企業のほとんどは
外需を取り込んだ「国際優良企業」だ。
20年経ってそれは誰の目にも明らかな事実となった。
日本経済が今後縮小する中、
海外のマーケットを取りにいかざるを得ない。

つまり「若者の内向き志向」というのは
今までは内向きで上手くいってたけど
これからは内向きのままではうまくいかない、

ということなのだ。


3.内向きなおじさんの穴埋め


これまで内需に焦点を絞ってガラパゴってきた
おじさんたちが、急に国際派にはなれるわけではない。
歳を取れば、新しい環境に適応する力は落ちるのだ。

一方で、日本にはおじさんたちが作ってきた
立派な組織や技術がたくさんあり、
豊かな日本を支えるためにはそれを
海外に売り込んでいかなければならない。
そのためには、おじさんたちと同じような
若者ばかりでは役に立たない。

つまり「若者の内向き志向」というのは、
おじさんが内向きなのに若者も内向きだったら
キャラかぶっちゃうでしょ!

ということに過ぎない。
おじさんが既に組織にいる以上、
キャラが被らないようにするのは双方にとって
メリットがある。


もちろん、若者が内向きになった事を裏付ける
データを故意に探してくる事はいくらでもできるし、
どこかの週刊誌のように、逸話をいくつか並べて
もっともらしい社会現象に仕立てることもできるだろう。

しかし、社会にとっての利益は
若者に状況を正しく認識させることだろう。

本当の論点を隠したままキャンペーンのように
若者を叩く方法は建設的でない。


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京都議定書延長なら日本は離脱すべき -- このエントリーを含むはてなブックマーク

12月10日にCOP-16 (第16回気候変動枠組条約締約国会議)が閉幕した。
日本は3日目に京都議定書延長に明確に反対し、
会議自体も低調に終わったようだ。
今回の日本政府の方針は前向きに評価できる。

1.定量的には意義の薄い京都議定書

二酸化炭素の排出は世界全体での排出量が問題であり、
その計測やインセンティブを全体的に管理することは不可能だ。
批准が各国の自由意志である以上、批准しない国はタックス・ヘイブンと
同様に経済的な恩恵を受けることができる。

実際に、削減目標に批准している国は拍子抜けするほど少ない。
EU諸国を除くと僅かに、日本、カナダ、ニュージーランド、
オーストラリア、ロシア、ウクライナの6カ国だけだ。
削減(あるいは抑制)目標に批准した国の二酸化炭素排出量は
世界全体の28%に過ぎない。
中国(22.3%)、米国(19.9%)、インド(5.5%)、韓国(1.7%)、
メキシコ(1.6%)、ブラジル(1.3%)、
など排出量の大きい多くの国は参加していない
(カッコ内は2007年時点の排出シェア。CDIAC/国連調べ)。
しかも、参加していない国の顔ぶれをみるに2010年時点では
削減に取り組む国の排出シェアは相当低下しているのは間違いない。


2.温暖化問題は重要か?

もちろん、生態系を破壊しないためには
気候の緩やかな変化が望ましい事は間違いない。
そして、水没しそうな国や美しいビーチを守るためには
程度問題とはいえ温暖化は進まないことが望ましい。

ヨーロッパ各国が90年以来、温室効果ガスの削減に
真面目に取り組んできたのは事実だ。
例えば、PPP GDP per Emissions
(CO2排出量当たりの購買力平価ベースGDP)という指標は
その値が高いほど、経済的豊かさに比して環境負荷が少ない、
すなわちエコロジカルであることを示すが、
EU連合は、2008年時点で3712(USD/ton)と
日本の3374(USD/ton)を上回っている。
産業構造が日本と比較的近いドイツの値も
3621($/ton)とやはり日本を上回っている。
以前の「日本のエネルギー効率は既に高いのでこれ以上上げられない」
というロジックは色あせて見える。

3.日本が取るべきポジション


一見、ヨーロッパに関しては京都議定書がうまくいってるように見えるが、
これはゼロサムゲームの勝者だけ見ているようなものだろう。
全体として上手くいく枠組みとは思えない。
そもそもそれで上手くいくのであれば、
ヨーロッパ諸国が他の国を熱心に勧誘する理由がない。
各地域が独自に温暖化対策を考えればいいだけだ。

このような難しい問題に対しては経済的なインセンティブを
用いて対処するのが最善の方法だ。

天然資源の価格が高騰すれば会議を開くことなしに
自動的に世界中の人々がもっとも効率の良い方法で
資源の節約≒二酸化炭素の排出抑制に取り組む。

京都議定書のようにすべてを管理する方法が長期的に
うまくいかないことは、共産圏の崩壊を見れば明らかである。
日本は、資本主義と矛盾しない合理的で実現可能な方法で
温暖効果ガスを削減することを国際社会に訴えるべきだ。

排出量が正確に計測できない以上、
天然資源の産出量をコントロールする方がまだ現実的だろう。
しかも全ての国の同意を取らなくても実行できる。

今や十分にエネルギー効率が向上したEUは相対的に恩恵を被るし、
同様に日本も世界的に見れば優位を保てる。
フリーマーケットを信奉するアメリカも強く反対しないだろうし、
資源価格の維持と資源枯渇の先延ばしが至上命題の産油国は賛成する。
賛同者を集めると同時に、相対的に不利な途上国を技術援助などの形で
懐柔しつつ、実力行使に出られるかどうかが勝負だ。


人類の息は見ることが出来ず形のないものだ。
見えざる手の方が形ある解決策を提案できるだろう。


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テーマ : 政治・経済・時事問題
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為替レートに関する考え方 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

アメリカの不動産バブルが崩壊して世界的に需要が不足し、
自国経済の回復のための通貨の切り下げ競争が本格化してきた。
そこで円や人民元の問題に関して
私が考えていることをまとめておこうと思う。


1.円相場について

最近3年の円高:

アメリカの不動産バブルの崩壊が明らかになった2007年半ば以降の
円ドルレートを見ると、124円台から81円台へとかなりの円高が
進んでいる。この原因は、
(1) ボラティリティ(変動幅)の増大と、
(2) 実質金利の逆転である。

為替変動が非常に小さい時期には、名目金利差を通じて低金利通貨から
高金利通貨へ資金が移動する。これは2000年から2007年にかけ
101円台から124円台へと円安が進んだ最大の理由である。
こうした流れが逆転するのは、通常はボラティリティの増大であって、
経済見通しのコンセンサスの変化ではない。

変動幅が大きくなると、多大なリスクをとってまで高金利通貨に
投資する投資家は減少するからだ。
実体経済指標が変化するのはそれよりもずっと後になるのが普通だ。
実体経済によって金融市場を予測する事は基本的にできない
(プラザ合意のような強力な政治的意思がある場合は別だ)。

金融危機によるボラティリティの増大で一気に円高が進んだ後に
起こったのが実質金利の逆転だ。2000年以降の長い間、少なくとも
短期金融市場においては、円の実質金利(名目金利-インフレ率)は
米ドルに比べて低い状態が続いてきた。しかし、アメリカの金利と
日本のインフレ率が大幅に低下した結果、日本の実質短期金利は
アメリカよりかなり高くなり、実質長期金利も日本の方が高くなった。
為替レートの変動幅が十分にあるときには、購買力平価への収束圧力を
通じて、実質金利が高い通貨が上昇しやすくなる。


最近15年の円安:

1995年には1ドル=79円台まで、円高が進行した。
この後、日本がデフレに苦しみ、米国で年率2~3%のインフレが
続いたことを考慮すると、当時の円高は大雑把に言って
現在の1ドル=60円前後に相当する。
実質金利が逆転するような事態になっても、現在の円相場が
そこまで円高にならない理由は何か?主な理由は二つあると思う:

(1) 個人による外貨投資の自由化:

1995年当時、個人投資家が外貨投資をすることは非常に難しかった。
銀行に外貨預金をしようとすれば個室に呼ばれて丁重に断られた
という話は日経新聞にも載ったことがある。もちろん、当時FXを
やっていた個人投資家は皆無だった。

本来であれば、民間の企業部門や個人が対外投資をして為替レートは
均衡するが、当時は少なくとも個人に関しては不当に外貨投資が制限
されていたのである。超円高が進んだ後から、突如として外貨投資、
続いてFXの取引が活発化したのは、政策的な規制緩和の結果と考える
のが妥当だろう。

(2) 国際競争力の低下:

韓国、台湾、中国など新興国・地域の台頭が、日本の国際競争力を
低下させているほか、日本における労働時間の短縮やの高齢化に伴う
社会保障費(いわゆるレガシーコスト)の増大も、日本の国際競争力
を低下させる方向に働いている。


こうして見ると、ここ3年の円高も、ここ15年の円安もそれなりの
構造的な理由があり、投機で上下しているだけといった単純なもの
ではないことが分かる。


2.人民元相場について

人民元が安すぎると批判が米国を初めとした先進国から出ている。
確かに人民元相場は輸出競争力から考えると割安だが、
だからといって中国政府に圧力をかけるという方法が最善なのかは
疑わしいし、そもそも経済的に正しい方法なのかも疑わしい。


例えば、もしあなたが量販店に行って、「パソコンが安すぎる」
と感じた時どうするだろうか。安すぎれば単に買えばよいのだ。
みんながこぞってパソコンを買っても安いままならば、
パソコンの本来の値段はそもそもその位が相場なのだ。
店の人に頼んで値段を上げてもらう必要は全くない。

人民元に関しては、各国政府が安すぎると文句を言っていながら、
その国の国民がなかなか買おうとしないという奇妙な状況にある。
したがって、一義的には米国政府は国民に向けて
「中国元は大バーゲンセール中だから全力買いして」
とアピールする必要がある。
レバレッジの高い通貨取引に関する規制緩和をしたり、
システム開発に政府が資金援助してコストを下げたり、
対外間接投資の税制上の特典を増やしたりすればよい。
金融機関に対する規制が強化される中、
個人に対する規制緩和は特に重要だろう。


現在は中国政府の資金力が大きすぎることが投資家の参入を防いでいるが
10兆ドル、20兆ドルといった巨額の資金が中国に流入した時に、
中国政府が引き続き外貨を買い支えるとは思えない。
(買う事はいくらでも可能だが、リスクが大きすぎる。)
もし、買い支えたとしても最終的に損をするのは、
高い通貨を無理に買った中国政府なのである。

人民元にとって最大の問題は中国政府の力が巨大すぎることであるので、
他の投資家層を充実させて、マーケットメカニズムを働くようにする
というのが資本主義的な解決法だろう。




テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

たくさん稼いでもカツカツなアメリカ人 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

オバマ政権は年収25万ドル以上の世帯の所得税を
引き上げようとしているが、富裕層からあからさまな反対の
声がたびたびメディアで取り上げられている。その内容はおおよそ
「年収25万ドル超だが生活はカツカツだ」というものである。

以下は、シカゴ大学法学部教授のTodd Henderson氏の主張を
Himaginaryさんの日記経由で引用したものだ。
ちなみに、この教授の世帯所得40万ドル超と推定されている。

オバマ政権は、ブッシュ減税廃止により、25万ドル超の収入を得ている家計の
税金を引き上げようとしている。自分は法学教授であり、妻も医者として働いて
いるので、その25万超のカテゴリに入ってしまう(ただし、大幅に超えている訳ではない)。
だが、家計内容は火の車に近く、増税を賄う余地は無い。

家計の最大支出項目は税金で、連邦税と州税を合わせて10 万ドル近くに達する。
2番目の支出項目は不動産関連。また、固定資産税に1万5000ドル、
子供の私立学校の学費、奨学金ローン(妻は25万ドル、自分はそれよりは少ない)
を支出している。おまけに愛国的行為として株式市場に投資しているが、
そこでの損失もある。


日本で世帯収入2500万円超の人が出てきてメディアで
同じ事を言う状況はちょっと考えられない。
何か日米で状況が違うのだろうか?

どうやら、アメリカ人の経済的な柔軟性は所得水準調整後で
日本よりも大幅に低い
のではないかと思われる。

主な理由は
アメリカ人はかなり多くのものを消費ではなく投資と捉えているからだ

典型的なのは医学部への進学費用だ。
アメリカ医大協会(AAMC)によれば、2009年にアメリカの医学部を卒業した
学生のうち58%は15万ドル以上の貸与奨学金残高を抱えている。
金利に関して政府の補助が出る Stafford loanの上限は65,500ドルであり、
多くの学生が民間の高利のローンを利用していることが分かる。
こうした莫大な額を借りるのは、医師になったあとに費用を
回収できるという計算があるからだ。
60代まで奨学金の返済に追われるのも医師の間では珍しくない。

不動産にしても、これまで安定的に不動産価格が上がっていたアメリカでは、
多くの一般人が、将来的にも同程度の値上がりを仮定して多額のローンを組んだ。
不動産の下落が大きかった州では、自宅保有者のうち50%以上が水面下、
すなわち、ローン残高が持ち家の価値を上回っている状態にある(Calculated Riskの記事)。

アメリカ人の硬直的な経済状況は、米国経済の大きな制約となっている。

例えば、含み損を抱えた持ち家所有者の引越しは困難を抱えるため、
失業した際の職探しが大きな障害となることは想像に難くない。
例えば、水面下の自宅保有者の割合が最高のネバダ州の失業率は
14.4%と一年前に比べて1.8%も上昇している。
これは、不動産業界ではなく実需の影響を強く受けたミシガンの
失業率が足元で低下していることとは対照的である。

医師が持つ多額のローン残高は、医師の報酬水準を通して
医療費の抑制を難しくしている。

もちろん、個別事例を見ていけば、
経済的に問題を抱える世帯の多くは経済的な意思決定に
問題があるケースが大半だろう。
例えば、夫婦で恐らく30~40万ドルもの奨学金を抱えながら、
60万ドル(*1)もする家をローンで買ったり、
「愛国的に」株式市場に投資したりするのが妥当な判断だろうか?
しかし、そんな個人の判断ミスを攻めても仕方がない。
それは教授よりも一枚上の金融機関や不動産業者が
教授世帯から利益を奪うといういわば自然の摂理だ。

(*1) アメリカの固定資産税の実効税率を2.5%程度と仮定

投資はそれに見合うリターンがあれば結果としては望ましい。
しかし個人の場合、投資は大抵負債によってファイナンスされる一方で、
リターンの方は不確実である。

これまでの判断の良し悪しにかかわらず、投資に失敗して
負債だけが残ってしまった人が増えれば
そうした人の経済的な柔軟性の低下を通して
アメリカの国としての柔軟性も低下してしまう。

アメリカの長期的な経済見通しは比較的明るいが、
こうした柔軟性の低さには注意する必要がありそうだ。


テーマ : アメリカ合衆国
ジャンル : 海外情報

ペイオフのリスクを回避する方法 -- このエントリーを含むはてなブックマーク

先週末、日本振興銀行が破綻し日本で初めてのペイオフが行われることが確実となった。
金融界の信用状態の落ち着きや、振興銀の規模や業務の特殊性を考えると、
金融庁としてはパイロットケースとしてペイオフを行いたかったということなのだろう。
ニュースの大きさの割に取り上げ方は小さかったように思うが、
海外のメディアでの扱いも同様に小さかった。

預金先を分散してリスクを低減することは大事だが、
ペイオフのリスクを減らすには他に以下のような方法がある。

1.決済性普通預金を用いる。
― 預金保険により全額保護される。ただし金利は付かない。

2.とりあえず安全そうな大きな銀行に預金する。
― ただし相対的に安心であるに過ぎない。

3.投資信託や国債の保護預かりを利用する。
― 販売会社、運用会社、信託銀行のいずれが潰れても損失が出る事はない。
  ただし投資する証券の価格変動リスクは避けられない。

アメリカでも経営不安が大きい銀行では、
FDIC(預金保険機構に相当)の保証を盾に
高金利で預金を集める作戦は一般的だ。
FDICの保証上限は一人当たり25万ドルだが、
これより多額の預金を効率的に集めるため、さらに
CDARS (Certificate of Deposit Account Registry Service)
と呼ばれるシステムが存在する。
このシステムは、数百万ドル単位の預金も
自動的に多数の金融機関に振り分けて
FDICの保証が適用されるようにしてくれる。

日本でもペイオフが解禁されたので、
同じようなサービスが可能であればビジネスチャンスかもしれない。


テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

日本における医師の養成費用について -- このエントリーを含むはてなブックマーク

職業の人気と賃金で取り上げた、日本における医師の養成費用について
コメントも頂いたので補っておく。

例えば浜松医科大学の損益計算書における平成21年度の大学部門の経費を見ると、
教育経費317百万円、研究経費863百万円、教育研究支援経費85百万円、人件費3153万円、
一般管理費319百万円、その他2百万円となっており委託研究(費用と収益がほぼ等しい)
を除く総経費は4739百万円である。これを単純に医学科の定員の115名で割ると
医師一人の養成に4,121万円かかることになる。
これは教育・研究に関わる総経費である。
(自然科学系において教育のみを取り出して経費を計算
することは机上の空論と言えるだろう。)
ただし、この大学には看護学科および大学院もあることから、
実際のコストはこれよりはやや低い
と考えるのが妥当だろう。

一方で、付属病院の施設は研修にも使われているのであるから、
実際の総経費はもっと高いという意見もある。

そこで、大学の経常費用から付属病院と委託研究の収益を差し引いた全ての費用が
教育・研究に使われているとみなした場合はどうだろうか。
(この方法は妥当ではないだろうが費用の上限を見積もるには有用だろう。)
経常費用の20,993百万円から
付属病院収益12,906百万円、受託研究収益771百万円を除くと7,316百万円となり、
同じく単純に医学科の115人で割ると6,362万円となる。

念のために書いておくと、コストは安いに越した事はないが、個人的には
高度な専門職の養成費用がこの程度かかるというのは概ね妥当な結果であると思う。
日本社会は寛容性が低下しているので、殊に世論やマスコミはこの手の話題に敏感だが、
一般的に言って人的資源にどんどん投資しなければ日本の未来はない。


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プロフィール

Willy

Author:Willy
日本の某大数学科で修士課程修了。
金融機関勤務を経て、米国の統計学科博士課程に留学。
2009年、某州立大数学科専任講師。2010年、助教。2016年、准教授。

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お勧めの本
1.ルベーグ積分30講
―― 統計学を学ぶために。
   小説のように読める本。
   学部向け。


2.Matematical Statistics and Data Analysis
―― WS大指定教科書。
   応用も充実。学部上級。

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